「口が動いて…NPCが喋ってる…。」
ペロロンチーノの口がパクパクと開閉する。
指を指されたアルベドは変わらず笑みを浮かべたままだ。
「もう一度言います。支配者アインズ様から離れて頂けますか?」
アルベドは淡々と言い放つ。
その眼差しはどこまでも冷たく、感情を感じさせないものだった。
何が起こったのか理解できないペロロンチーノの代わりに口を開いたのは先程まで跪いていたセバスだった。
「アルベド、御戻りになられた至高の方々に対するその態度…いかに守護者統括とて、見過ごすことはできません。」
立ち上がるセバスからは殺気にも似たオーラが吹き出す。
それでもアルベドは態度を変えようとはしなかった。
「セバス待て!」
今にも攻撃しようと拳を握り絞めていたセバスを止めたのは、創造主たっち・みーだった。
セバスは即座に拳を解き、深々と一礼した。
グルグルと脳内が回るような安定しない思考の中、たっち・みーは冷静になろうと努める。
だが、それでも思考は定まらず、迷走するばかりだった。
「セバス…だったな?」
言葉を続けたのはウルベルトだ。
「はい。執事のセバス・チャンでございます。ウルベルト・アレイン・オードル様。」
「そうか…。」
ウルベルトは少し考えるような仕草をするとアルベドを見据えてからセバスへと視線を移した。
「モモンガさんの様子がおかしいんだが、お前らは何か知らないか?」
モモンガという言葉にアルベドの肩が少しだけ跳ねた。
ウルベルトはアルベドの仕草を捉えていたが、それを無視する。
セバスと―只のプログラムの固まりである NPCと会話が出来る理由が思い浮かばないが、会話が出来るというのは正直助かる。
今のところ、敵意は持っていないようだし、情報を集めれるなら理由など どうでも良かった。
「はっ。私にも分かりかねるのですが…。モモンガ様はアイテムをご使用になられたようで…様子が変わられたのはその後でございます。」
「アイテム?」
ぶくぶく茶釜はモモンガの周囲を見回すが、それらしき物は見当たらない。
「ねーちゃん、指輪が付いてる!」
ペロロンチーノが指を指す先に視線が集中する。
モモンガの左手の薬指。普段なら何も装備されていない指にあったのは『流れ星の指輪』だ。
「コレを使ったってこと?」
ぶくぶく茶釜がモモンガの手を取る。
三つ描かれているはずの星は二つ消されていた。
「でも、コレって…願いを叶えるって言ったって、表示されたものを選ぶだけでしょ?それでモモンガさんがこうなるって おかしくない?」
ぶくぶく茶釜はセバスを見るが、嘘を言っている様子は見られなかった。
「とにかく、私はモモンガさんを部屋に連れて行きます!」
たっち・みーはモモンガを抱え上げる。
「ならば、私もお供いたします。」
アルベドが頭を垂れる。
そんなアルベドを冷たく見据え、ウルベルトが口を開いた。
「いや、いい。アルベド、お前はガルガンチュアとヴィクティムを除く階層守護者を一時間後、第六階層に集めろ。モモンガさんには俺がつく。」
アルベドは何か言いたげな表情を浮かべたが、あえて何も言わず、一礼すると玉座の間を後にした。
それを見送ってから、ウルベルトはセバスにも命令を飛ばす。
「セバス、お前はプレアデスを率いてナザリックの地上付近を捜索しろ。細かい命令は後でするから、地上に出てから〈伝言/メッセージ〉を俺に送れ。」
「はっ。」
即座に行動を開始したセバスを見送り、ウルベルトは息を吐き出した。
「ったく、意味が分からない。」
ガリガリと頭を掻き毟るウルベルトにペロロンチーノが声をかける。
「ウルベルトさん、大丈夫?」
「いや、大丈夫ですよ。それより情報収集をしないと。俺とたっちさんでモモンガさんを部屋に運ぶ。それまで茶釜さんは運営に連絡を試し続けて下さい。お願いします。」
ウルベルトは一呼吸分の間を空ける。
「絶対に一人で行動しないように。それと、アルベドが命令を無視してここに戻ってきたら、直ぐに連絡を…。ああ、その確認もしなきゃな…。」
ウルベルトはコンソールを開こうとし、何の反応も示さないことに舌打ちを打ち、次の一手を打つ。
「<伝言/メッセージ>」
ピクリとぶくぶく茶釜が反応する。
「一応…繋がったみたいですね。」
「まあ、この距離じゃあまり関係ないですけどね。」
声が脳内で反響するような感覚がするが、話し方は携帯端末を使うときのやりかたに近いようだ。
「どれくらいの距離まで使えるか分かりませんが、何かあれば〈伝言/メッセージ〉を。」
ウルベルトはそう言い残し、たっち・みーと転移した。
二人を見送った後、ペロロンチーノはぶくぶく茶釜の顔を見た。
「どうなってんのコレ?」
「知らん。NPCがプログラムされていない動作をした、なんて話聞いたことが無いし。それに口が動かないのがユグドラシルだったろ?」
「確かに…。」
ペロロンチーノは自分の腕を取り、脈を測る。
定期的に伝わる振動が掴んでいる手に伝わってきた。
「うわっ!」
ペロロンチーノは飛び退くように後退し、手を払う。
自分の腕の熱が妙にリアルで、気持ちが悪かった。
チラリとぶくぶく茶釜の方を見ると、どうにかして運営に連絡を取れないかと試しているようだった。
「やっぱり、コンソールすら開けない…どうなってんのコレ?」
スライムの腕は何度も空を切る。腕から粘着質の液体が落ち弾けた。
ぶくぶく茶釜はペロロンチーノを見上げる。
「…どうなっていると思う?」
普段の姉らしくない、気弱な声にペロロンチーノの胸が痛んだ。
「心配することないって!ほら、あの糞運営のことだから…例えば、そう!ドッキリの可能性だってあるし!」
「これだけの金と労力をかけて?何の為に?」
答えられないペロロンチーノを見て、ぶくぶく茶釜の頭と思われる部位が垂れ下がる。
「ここは本当にユグドラシルなのかな…。」
「大丈夫だって!ほら、俺もいるし、たっちさんやウルベルトさんも…モモンガさんだっているし。なんとかなるって!」
バサバサと羽根を広げて、姉を励まそうとする弟に、ぶくぶく茶釜は表情には出ないが、笑みを溢した。
「まあ、お前は全く期待出来んがな!」
「ヒデェ!!」
二人は顔を見合わせて笑った。
笑い声が玉座の間に響く。高らかに、それでいて楽しそうに。
「よし!とりあえず、私たちは出来ることをしよう!」
ぶくぶく茶釜は触手を器用に動かしガッツポーズらしきものをとる。
スライムの体だと関節が無い為、どこでどう曲がっているのか分からなかったが、一応、それらしきポーズになっている。
「とにかく、今、私たちがどういう状況なのか調べないとな。」
「…確かに。」
ペロロンチーノはある方面にだけ偏った脳をフル回転させる。
そして、一番可笑しくて、一番あり得ないと思われた可能性を上げた。
「ゲームの世界に入りこんだのかもよ?」
ペロロンチーノはそう言って戯けてみせる。
そのような話題の作品は数多く存在する。たったそれだけの。たいした理由も無い冗談。
「…ゲームの世界に入りこんだ?」
『そんなことあるわけないだろ!愚弟が!』
そうツッコミが入るのを期待していたペロロンチーノだったが、ぶくぶく茶釜は顎のあたりに触手をあてて、黙り込んでしまった。
「……有り得るな。」
「ええっ!?」
ようやく口を開いたと思ったら、まさかの肯定の返事。
驚きを隠せないペロロンチーノにぶくぶく茶釜は口を開いた。
「その答えが一番しっくりとくる。弟 一応、誉めてやる。」
「いやいやいやいや!」
ペロロンチーノは慌てて詰め寄る。
「ここは有り得ないって馬鹿にするところじゃん!」
ペロロンチーノはぶくぶく茶釜に否定して欲しかった。
ペロロンチーノの内心など知らず、ぶくぶく茶釜は続ける。
「じゃあ、それ以外に今の状況を説明出来るか?」
「それは…。」
ペロロンチーノは返答することが出来なかった。
いくら考えても何も浮かばない。
仮想現実で遊んでいたら、ゲームの世界に入り込んでしまいました――なんて、笑えない。
「まあ、それを証明する方法なんてないんだけどね。」
肩を窄めたぶくぶく茶釜にペロロンチーノは苦笑いを浮かべる。
その一つの方法を閃いてしまったからだ。
他の手段として 外に出て、情報を集めるのが一番早いのだが、それは躊躇われた。
もしペロロンチーノが仮定したようにゲームの中に入り込んだとしたら、ゲームでの死がリアルでの死に直結する可能性があるからだ。
現時点でそこまでの行動は起こせない。
コレしか無いのだ。
ペロロンチーノは覚悟を決める。
「………俺、一つだけ思い付いた。」
聞こえないように敢えて小さい声で言ってみたのだが、ぶくぶく茶釜は難なく拾ってみせた。
「えっ?本当!?」
「………………うん。」
聞こえなかったら良かったのに、と心の中で呟きつつ、コクりと小さく頷く。
「よし、じゃあ直ぐにやれ!」
凄むぶくぶく茶釜を片手で押し止め、ペロロンチーノは深く息を吸い、そして吐いた。
言わなきゃ良かったと後悔しても最早 遅い。
ペロロンチーノは心の中で血涙を流しながら、ぶくぶく茶釜に指示を飛ばす。
「じゃあ、ねーちゃんは後ろを向いて両手を上げて。」
「うん?私もやるの?」
「というか…一番重要なポジションだから。」
言っている意味が分からなかったが、ぶくぶく茶釜はとりあえず指示通りに従う。
背中と思われる部位を向け、両手を上げるぶくぶく茶釜をペロロンチーノは観察する。
しっかりと観察してみると、うっすらとだが、くびれらしきものが見える。
腰がココ。両手があれだとすると、肩はあの位置だ。
そしてアレもあそこにあるはずだ。たぶん。
ペロロンチーノはこみ上げてくる吐き気を抑え、ぶくぶく茶釜へと近づき―
必死に脳内で可愛い女の子を想像しながら。
後ろからぶくぶく茶釜の胸を揉み拉いた。
「きゃあああああああ!」
「ああああああああ!ヌチャヌチャして気持ち悪りぃぃぃ!!生暖かいぃぃぃ!!! 」
二人の叫びが玉座の間に反響する。
「きゃあああああああ!」
ぶくぶく茶釜に振り払われ、ペロロンチーノは「うげっ」と間抜けた声を上げ、壁に激突した。
息を荒げつつ、身を守るように自分の体を抱き締めると、ぶくぶく茶釜は背中を抑えるペロロンチーノを絶対零度の眼差しで睨み付けた。
「この餓鬼!死ぬ覚悟は出来てるんだろうなあ!?」
怒りを露にするぶくぶく茶釜に構わず、ペロロンチーノは膝を抱え、シクシクと泣き始めた。
肉体的ダメージではなく、精神的ダメージで。
「泣きたいのはこっちだ馬鹿野郎!」
ぶくぶく茶釜は触手を怒りのまま振り下ろした。
「さあ、早くモモンガさんを休ませましょう。」
「たっちさん、待って下さい。」
ウルベルトに止められ、たっち・みーは顔を歪める。
モモンガの状態は素人目に見ても異常だ。
何か出来るわけではないが、少しでも楽な体勢を取らせたほうが良いだろう。
少しの時間も惜しいとウルベルトを睨みつけた。
「ここからなら、俺の部屋が一番近いです。俺の部屋に。」
有無を言わせる隙を与えず、ウルベルトは自室へと向かう。
たっち・みーは無言でウルベルトに続いた。
ウルベルトに通された部屋に入ると、たっち・みーはヘルムの下の顔を更に歪めた。
ウルベルトの自室。
赤を基調とした部屋は一言で言えば豪華だ。金の装飾で飾られた家具も主張し過ぎることなく部屋と調和している。
どこぞの王族が住んでいるかのような派手さだった。
だが、たっち・みーからすれば落ち着かない。正直に言えば嫌いな部類に入る部屋だ。
「どうかしました?」
「いえ…何も。早く案内して下さい。」
首を傾げるウルベルトに案内され、たっち・みーはモモンガをベットへと下ろした。
そして椅子をベットの脇に運び、腰かける。
一先ず、安堵の息を吐いたたっち・みーだったが、モモンガのバットステータスを調べる為に幾つもの魔法をかけるウルベルトへと視線を向けた。
「何一つとしてバットステータスはついていない!HPにも何の変動もない。MPも…。なら、何故モモンガさんは目覚めない。」
ウルベルトは出来ることは無いと判断したのか、壁に背を預けて、苛立ちを吐き出すように溜め息を吐いた。
「…どう思いますか?」
「それは一体、何についての疑問ですか?」
ウルベルトは嫌みったらしく笑う。
「モモンガさんの事?突然話し始めたNPCについて?それとも我々の状況についてでしょうか?」
「……全てですよ。」
たっち・みーはモモンガへと視線を戻す。
「はっきり言って、今の状況は異常です。運営には繋がらない。データの固まりでしかないNPCが話し、自由に動き、そして―」
「生きている。」
ウルベルトがたっち・みーの言葉を続ける。
「脈があり、どんな問いにも答え、行動に移す。まるで生きているかのように。ユグドラシルは自由度の高いゲームでしたが、これは異常ですね。色々と調べる必要がありそうです。」
ウルベルトの視線が漂い、中空で固定される。
「セバスをナザリックの外に出るよう命令したのも、その一つでしょう?」
「ええ。」
ウルベルトは指を一つ立てた。
「まず一つはセバス達がこの階層から出られるか、そしてナザリックの外にも出られるのか…。」
指がもう一つ上がる。
「そして、今、ナザリックの外はどんな状況なのか。ポップするモンスターがそのままだとは限りませんし、プレアデスのレベルでも対処出来るかどうかの確認も必要ですしね。」
「なっ!?」
たっち・みーは立ち上がり、意を示す。心中にあったのは不快感だ。
「命令を聞くかの確認かと思いましたが…。」
「それもあります。どう思っているかまでは流石に分かりませんが…。とりあえずは私達に忠誠を払っているようで安心しましたよ。」
ウルベルトはそう言って鼻を鳴らすが、目は笑っていなかった。
たっち・みーはウルベルトが何を考えて行動したのか分かった気がした。
ウルベルトに悪気は無い。そうするのが最善だったからそうしたまでのことだ。
頭では理解出来る。
だが、それでも、納得は出来なかった。
彼らは生きている。
そう考えるならば、痛みも、感情だってあるのだ。
たっち・みーは自嘲する。
ゲームであったなら、ヴィクティムを使うことに何の抵抗も無かった。
ただのゲームだと割りきれたし、彼らはただの人形だった。
ウルベルトも内心穏やかではないはずだ。
気に入らない男だが、ウルベルトのナザリックに対する情熱は目を見張るものがあった。
心血を注ぎ作り上げたNPC達を使い捨てれるような非情な男ではないはずだ。
セバスとプレアデスを全員で地表に向かわせたのも、彼らが傷つくことがないように配慮したのだろう。
悪だのなんだのいいながら、身内にはとことん甘い男なのだ。ウルベルトという男は。
「アルベドはどうでしょうね…。」
たっち・みーの言葉にウルベルトは頷く。
一瞬とはいえ、アルベドから発せられた殺気は明確なものだった。
だが、アルベド一人を見て、全てのNPCが敵意を持っているということにはならない。
それと同じように、セバス一人を見て全てのNPCが忠誠を示すと考えるほど愚かでも無い。
「何故、アルベドはモモンガさんのことをアインズと呼んだのでしょう?」
「さあ、それは知りません。可能性なら幾らでも上げれますが、今はどうでも良いと思いますよ。」
ウルベルトは指を更に立てる。
「守護者達を六階層に集めたのも、アルベドが命令を聞くかどうかの確認と、何かあった時の逃げ道を作っておく為です。今、何が起こっているのかは分かりませんが、指輪を使った転移は問題無く出来るようですし。」
「何か問題が起これば、第一階層に転移して撤退するということですね。」
「ええ。普通なら、このメンバーでPVNしても負ける気はしませんが―」
ウルベルトは自分の装備を眺め、ため息を吐いた。
「流石に…この装備で勝てるというほど愚かではないので。」
「確かに。」
たっち・みーも苦笑する。
愛用の武器は全て、モモンガに譲渡してしまっていた。
その装備は全て金貨に変わってしまっているだろう。
今更、装備品のレベルに苦悩するとは思ってもなかったが考えても仕方ない。
現在の装備で、100LVのNPCを相手に戦う。出来れば考えたくはない。
「とにかく、今は―」
ウルベルトは言いかけた言葉を飲み込み、こめかみを抑える。
たっち・みーにも、なんとなくだが、〈伝言/メッセージ〉だと分かった。
「―ええ、分かりました。今は俺の部屋にいます。指輪での転移は出来るようなので、直ぐに来て下さい。……ええ、気をつけて下さい。」
話が終わったのを確認するとたっち・みーが口を開いた。
「茶釜さんからですか?」
「ええ、重要な情報が手に入ったので、会って話すと言われました。」
「重要な情報?」
「それが何かは分かりませんが、茶釜さんの声がどことなく疲れているように感じました。信憑性はありそうですね。」
「無茶をしてなければいいんですが…。」
「まあ、ここで言っても仕方ないですし、今は待ちましょう。」
たっち・みーもウルベルトも未だ目覚めぬモモンガへと視線を動かした。
アルベドは歩を進める。
至高の御方からの御命令を遂行すべく。
―――否。
そんな考えはアルベドの中に微塵も無かった。
アルベドの思考を支配するのは怒り。
何故、あんな者達の命令を聞かねばならない。
今更ノコノコと戻って来て、この私に命令するだと!?
何が至高の御方だ。
至高であるのは唯一 モモンガのみ。
ナザリックを捨てていった者達に忠誠を示せだと?
ふざけるな!!!
あのような者達がモモンガの清く美しい御体に触れる度、腸を掻きむしられるような怖気がアルベドを襲った。
アイツらが触れる箇所が、尊い御体が―汚されていくようで耐えられなかった。
直ぐにも殺気は抑えたが、気付かれただろう。
憎らしくも、実力でいえば奴等はアルベドよりも強いのだ。
正攻法で勝てるとは思わない。
ならば、どれだけ時間がかかっても良い。
このナザリックをモモンガにだけ捧げられるように。
「いや…アインズ様にだったわね。」
アルベドの口角が上がる。
これほどの幸福を感じたことは未だかつて無い。
あの御方は自ら、アルベドがモモンガをアインズを愛する許可を与えて下さったのだ。
更には、ナザリックの主人として。
アインズ・ウール・ゴウンとして永遠を約束して下さった。
もはや、仕えるべき主人を失う恐怖に苛むことは無くなるのだ。
「御可哀想なアインズ様。奴等はアインズ様の御心を踏みにじり、捨て去った。そのような者の為に苦しまれておられたとは…。」
アインズは言った。
『捨てられた』と。
セバスにもプレアデスにも届かない。
ただ、アルベドだけに伝えられた愛おしい御方の嘆き。
だが、アインズは自らの手で、奴等に対する思いを捨てたのだ。
これほど喜ばしいことはない。
ただ、セバスがあの場で、アインズが何を願ったのかを言わなかった理由は分からない。
後で言うつもりなのかもしれないし、特定の人物にだけ伝える気なのかもしれない。
だが、伝えたからどうだというのか。
セバスはアインズの心意を理解していないのだから。
伝わる情報に限界はある。
「ああ、その時が楽しみだわ…。」
油断しきった憎き裏切り者達の体に幾百もの刃を突き立て、こう言うのだ。
『アインズ様の御望みなのだと』
輝かしい未来の為。
それを手にする為ならなんだってしてやろう。
汚物を吐き出す口から発せられる命令も聞いてやる。
そして間抜け面を晒しているがいい。
その身が滅ぶ―その瞬間まで。
「ああ、アインズ様。このアルベドは貴方様だけを愛し、仕えるシモベです。」
愛する支配者へと思いを馳せるアルベドの表情は恋をした少女のような可憐な美しさがあった。
ただ―
その金の瞳の奥に 決して見通すことの出来ない深い闇を覗かせて。