孤独な支配者   作:栗の原
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孤独の果てに

「ふざけるな!!ここは皆で作り上げたナザリック地下大墳墓だろ!どうしてそんなに簡単に捨てれるんだ!」

モモンガの悲痛な叫びは骨の拳とともにテーブルに叩きつけられた。

 

そして、自分以外誰もいなくなった部屋でモモンガは肩を落とした。

「いや…簡単に捨てたわけじゃない。」

モモンガは椅子から立ち上がり、ギルド武器スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に取った。

 

杖から苦悶の表情を浮かべるエファクトが浮かび上がり、モモンガは苦笑する。

「…作り込みこだわり過ぎ。」

 

皆で作り上げたギルド武器。

わざわざ手に取らなくとも、これを製作していた当時のことは直ぐに思い出せた。

 

『死の支配者に相応しい、誰もが畏怖し、頭を垂れるような禍々しい武器にしましょう!』

『タブラさん、良いこと言うな!あーそうなると、データクリスタルをもっと集めないといけないな。どっかギルド潰すか?』

『弐式さん。それなら、作戦は任せて下さい。幾つか候補はあるので。』

『ぷにっとさん流石!じゃあ、盾役も必要ですね!ねーちゃんの予定聞いときます!』

 

 

閉じていた目を開き、呟く。

「楽しかったな…本当に。」

手に持ったスタッフを眺め、モモンガは笑う。

 

ユグドラシル サービス終了。

なんてことはない。数あるゲームの内の一つが終わるだけだ。そう、たったそれだけのことだ。

 

モモンガは暗い空気を振り払うかのように顔を上げた。

「行こうか、我がギルド武器よ。」

最後の日だからこそ、悪のギルドの長らしく玉座の間で最後を迎えたかった。

 

 

 

 

セバスやプレアデスを伴い、玉座に腰を下ろしたモモンガは美しい笑みを浮かべるアルベドを見る。

プレアデスや一般メイドも美しかったが、アルベドもかなりの美人だ。作り手のこだわりが細部まで反映されているのが、一目でわかった。

 

「長っ!?」

アルベドの設定を見ていたモモンガはどこまであるんだよ とツッコミをいれた。

そして『ちなみにビッチである』という文字を消し、『モモンガを愛している』と打ち込んだ。

 

恥ずかしそうに顔を覆っていたモモンガだったが、しばらくするとそんな気持ちも消えてしまった。

モモンガの羞恥心を塗りつぶしたのは 悲しみと孤独。

 

玉座の間に並ぶ、ギルドメンバー四十一人の旗を眺める。

皆、ここを去った。

脱退はしていないものの、少しづつイン率が減り、最後に残ったのはモモンガただ一人だ。

 

誰も来ない墳墓でひたすら仲間を待つ日々―

苦痛だった。悲しかった。

理解できなかった。

何故、来ない。

何故、捨てれる。

何故、何故、何故。

 

 

「はははっ。」

モモンガの乾いた叫びが玉座の間に響く。

「たった一人の、孤独な王か―」

そんな童話があったとメンバーの誰かが話していた気がする。

いや、もはやどうでも良い。

あと数分の後に消えてしまう物に思いを馳せたところで何になるのか。

 

「捨てられたのは俺も同じだな。」

モモンガは小さく呟いた。誰の返答も期待していない、ただの呟き。

その言葉に跪いていたアルベドの肩がピクリと跳ねたような気がしたが、AI行動の一つか、気のせいだろうとモモンガは結論着けた。

 

モモンガは首を振ると、空間から一つのアイテムを取り出した。

『流れ星の指輪』夏のボーナスをつぎ込みようやく手に入れたアイテムだ。

「I WISH―」

発動の言葉と同時に円形の魔方陣がモモンガの周囲に浮かび上がった。

コンソールに十の願いごとが表示されたが、モモンガはそれを無視する。

 

もし―ゲームの効果ではなく、本当に願いが叶うなら―

「俺を―」

もし、ギルド長がモモンガではなかったなら。

このギルドはどうなっていただろうか。

例え、遊ぶメンバーは減ったとしても、モモンガ一人になるようなことは無かったのではないだろうか。

「ギルド長から降ろせ。」

 

展開されていた魔方陣が、割れたガラスのように砕けてモモンガの脳内に声が響く。

 

『残念ながら、制限時間内に願いを選択することが出来ませんでした。効果は打ち消されます。』

 

「糞運営…。」

モモンガは吐き捨てるように言う。

そんな願いが聞き遂げられないのはわかっていたことだ。

超位魔法を使ってギルドマスターを変更するなんて願いが表示されるわけがない。

溝に金を捨てるような行為だ。

それに、たとえ、その願いがコンソールに浮かんだとして、モモンガ以外―誰もナザリックにいないのに誰がギルド長となれるのか。

 

モモンガは『流れ星の指輪』を見る。

三つある星は一つ欠けていた。願いを叶えていないのに一度使用したこととなるらしい。

「糞運営め…。」

時間を確認すると、サービス終了まであと三分を切った。

 

最後だから、普段なら勿体無いからと使うことは絶対にないが、あと数分で全て消えてしまうのだ。

全て使い切ってしまおう。

 

 

23:57:48―

時計の針は終了の時が近づいているのを告げる。

ギルド長を降りることは出来なかった。

それなら―

 

「I WISH―」

モモンガは指輪がはまった手を高く持ち上げる。

もし、鈴木悟が―モモンガとしてではなく

このギルドに相応しい死の支配者であったなら。

捨てていったギルドメンバーではなく、NPC達だけを愛し、守る存在であったなら。

ここまで傷つくことは無かっただろう。

 

「俺…モモンガを消して―」

このギルドの名を冠する長

アインズ・ウール・ゴウンであったなら。

何もいらない。ナザリック以外どうでもいい。

モモンガをナザリックを捨てたアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーなど どうでもいい。

 

一人きりなのだ。一人で守ってきた。

モモンガがアインズ・ウール・ゴウンだ。

 

 

 

モモンガに迷いは無かった。

「モモンガという存在を消し、アインズ・ウール・ゴウンとして。ナザリックだけを愛する主人―支配者アインズ・ウール・ゴウンとして生まれ変わらせろ!」

 

言い終わったモモンガは、伸ばしていた手を下ろし、表示された時計を見る。

23:59:57…58―

秒針が一片の慈悲すら感じさせず進む。

 

終わったのだ。何もかも。

ナザリックも、友人も、楽しかった全てが。

わざわざアイテムにも願わずとも、モモンガは終わる。

 

先程と同じように、魔方陣が砕け散りアナウンスが鳴るだろう。

いや、それより先にゲームそのものが無くなる。

モモンガは疲れたように玉座に背を預け、瞳を閉じた。

このまま寝落ちしたら、明日の仕事に差し支える。

そんなことはわかっているが、瞼は開きそうにない。

体も重い。

 

魔方陣はそのままモモンガの周囲に展開し、輝きを増した。

 

 

そしてモモンガは、頭の中が白く濁っていく感覚に襲われた。

薄い膜が張っていくかのような多幸感にも包まれる。

頭の中の何かが消され、その隙間を補うように書き加えられていくような感覚。

それは危険な兆候だと人間の本能が知らせるが、モモンガは敢えて無視した。

たとえ死んだとしても構わない。

鈴木悟にはユグドラシルしか、ナザリックしかなかったのだ。全てを失うなら、このまま命すらも失えばいい。

悲しむ人も、残す人もいない。

モモンガはそのまま抵抗することなく―全ての思考を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあー!ねーちゃんが早くしないから時間ギリギリじゃん!」

「黙れ弟!仕事だから仕方ないだろ!」

玉座の間へと続く廊下にバードマンとスライムの足音が響き渡る。

それに追従するのは、ナザリック最強の二人だ。

「たっちさん、こんな時間にインしてて大丈夫ですか?何なら帰っていただいても結構ですよ?」

「あなたの売る喧嘩なら高値で買ってあげますが、今は時間がありません。命拾いしましたね。」

 

肩をぶつけ合いながら進む悪魔と聖騎士がぶくぶく茶釜とペロロンチーノを追う。

 

「モモンガさん、待ってるよなー。てか、俺、ユグドラシル終わるの知らなかった。」

「私もメール来て初めて知った。モモンガさんそういうとこマメだよね。」

グネグネと触手を動かし、ぶくぶく茶釜が答える。

それに答えたのはウルベルトだ。

「確かに、流石はモモンガさん。どっかの誰かさんとは違うな。」

「軽口はいい加減に。このペースだと間に合いませんよ。」

たっち・みーが急かすように言うと、全員の速度が増した。

 

 

『ユグドラシルがサービス終了となりました。リアルが忙しいとは思いますが、久し振りにアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーで集まりませんか?円卓でお待ちしてます。 鬼畜ギルド長 モモンガより。』

 

そのようなメールがギルドメンバー全員に送られていた。

最後くらい、迷惑をかけたモモンガに会って一言詫びて思い出に浸ろう。

そう思ってログインしたのだ。

 

ログインすることは無くなったが、ナザリックはギルドメンバーの夢を詰め込んだ理想。

忘れた訳では無かった、だが、夢は完成してしまったのだ。

極めれば後は終わるのみ。

終わりを見たくないと、リアルの忙しさを言い訳(理由)に目を逸らしてきた。

 

「でも、ナザリックがそのまま残っているなんて思ってなかったわ。」

ズリズリという効果音がなりそうな粘体で器用に進みながらぶくぶく茶釜が言う。

その言葉に返す者は誰もいなかった。

皆、そう思っていたからだ。

 

アインズ・ウール・ゴウンは悪名高いギルドだった。

異業種を狩るプレイヤーを狩っていたら、いつの間にか悪のギルドとして名を馳せていた。

正義のヒーロー気取りで、ナザリックへと攻め入るプレイヤーも少なくない。

罠やNPCの復活費用で、ナザリックは少なからず衰退しているものと思い込んでいたのだ。

 

円卓の間から玉座までの道のりだけしか見ていないが、あの頃と全く変わっていない。

自分達がインしなくなってどれぐらいの時間が経っただろうか。モモンガはその間、ずっとナザリックを維持し、守り続けてくれていたのだ。

 

「なんで、モモンガさん玉座の間に行ったんだよぅ。」

ペロロンチーノの呟きが耳を打つ。

モモンガがそのまま円卓の間に居てくれたのなら、直ぐにでもモモンガに会えただろう。

 

「ペロロンチーノさん、今更言ったところで仕方ないでしょう?さあ、さっさとモモンガさんのところに行きましょう!」

たっち・みーがそう言うと、ペロロンチーノもぶくぶく茶釜もウルベルトも無言で頷いた。

 

 

玉座の間の前に着くと時計は23:58:52を示していた。

「ヤバイって!終わっちゃうって!」

「弟!いいから落ち着け!!」

急かすペロロンチーノを横目にたっち・みーが玉座の間に続く扉の前に立つ。

そして扉を開こうとした瞬間、その場にいた全員を違和感が襲った。

扉の向こうから突き刺すような空気が流れてくる。

 

人では無い何か、化け物を相手にしたかのような、尋常ではない禍々しいオーラと殺気が溢れ出してきた。

全員が反射的に身構えたが、何事も無かったかのように違和感は消え去った。

 

「何…今の?」

ぶくぶく茶釜にたっち・みーが続く。

「…わかりません。」

長い髭を扱きながらウルベルトが口を開いた。

「魔法発動のソレに近い波動だったと思いますがね。」

「…玉座の間に、そんなトラップは無かったと思いますがね。」

たっち・みーが言うとウルベルトは即座に返す。

「モモンガさんが新しく作ったのかもしれませんよ?」

「それでも、ギルドメンバーには反応しないでしょ、普通は。」

ぶくぶく茶釜が首らしき場所を傾げる。

「まあ、それもそうでしょうが…。あの糞運営のことですし、最後の最後にやらかしても不思議じゃないと思いますが…。」

「あー確かに。」

ウルベルトとぶくぶく茶釜は頷き合う。

神経回路がぶっ壊れたあの糞運営ならば、最後の最後でフレンドリーファイア解禁なんてことも やりかねない。

そう思うぐらい、そっち方向の信頼はあった。

 

「ああー!」

ペロロンチーノが叫び声を上げ、煩わしそうにぶくぶく茶釜が一喝する。

「うるさいぞ、愚弟が!」

「いや、時間が。もう二十四時回ってるでしょ…。」

「あっ、そういえば…」

ぶくぶく茶釜が呟く。それに答えるようにたっち・みーが口を開いた。

「サーバーダウンが延期になったということなのか…。」

 

ペロロンチーノがぶくぶく茶釜とたっち・みーを見回していると、ウルベルトの冷ややかな声がかかった。

「まあ、何にせよ…。これでモモンガさんに挨拶出来るじゃないですか。糞運営にしたら、珍しくいい仕事したんじゃないですか?」

「そうだ、モモンガさんは!?」

たっち・みーが扉を抉じ開けると玉座に腰かけるモモンガの姿が目に入った。

近くにはセバスとプレアデスが。それと玉座の間に配置されているアルベドが跪いているのが目に入った。

 

友人に会えて、安堵の息を吐くたっち・みーだったが、一歩足を踏み出したところで動きを止めた。

ペロロンチーノが「たっちさん?」と声をかけてきたがそれに答える余裕など無かった。

 

(…様子がおかしい。何かあったのか?)

ぐったりとした様子で力無く玉座に身を預けるモモンガは全く動こうとしない。

急いで駆け寄り、身を揺するが反応は無かった。

「運営に連絡を!モモンガさんの様子がおかしい!早く!!」

「っ!」

一斉に駆け寄り声をかける。ぶくぶく茶釜が運営に連絡を取ろうと試みて悲痛な声を上げた。

「連絡が取れない!なんで!?」

「ヤバイよ!モモンガさん、全然反応しない!強制排出になるんじゃないの!?」

「モモンガさん!声が聞こえますか?モモンガさん!」

 

たっち・みーやウルベルトの言葉にモモンガは何の反応も示さない。

ペロロンチーノとぶくぶく茶釜はどうにか運営に連絡を取ろうとしていた。

 

すると―

「偉大なる御方、支配者であられるアインズ様に触らないで頂けますか?」

後ろから唐突に声がかかり、ペロロンチーノが振り返る。

そこには悪魔らしい美しくもどこか歪んだような笑みを浮かべたアルベドが立っていた。

 








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