【大相撲】貴景勝、初V 部屋は消滅しても貴乃花イズム継承2018年11月26日 紙面から
◇九州場所<千秋楽>(25日・福岡国際センター) 小結貴景勝(22)=千賀ノ浦=が初優勝を果たした。平幕の錦木を下して13勝目を挙げ、2敗で並んでいた大関高安が関脇御嶽海のすくい投げに敗れた。小結の優勝は2000年夏場所の魁皇以来9例目。今場所は師匠だった貴乃花親方(元横綱)の日本相撲協会退職に伴い、千賀ノ浦部屋に移籍して最初の場所だった。22歳3カ月での初制覇は、年6場所制となった1958年以降初土俵で6番目に若く、初土俵から26場所は年6場所制で4番目(幕下付け出しを除く)のスピード。 結びの一番が始まると貴景勝は支度部屋のテレビに背を向けた。優勝決定戦に向けて集中力を高めていく。優勝したと気づいたのは、支度部屋にいた部屋の力士から波のように歓声が湧き起こったから。「優勝?」と貴景勝がつぶやくと、飛んできた貴ノ岩から祝福のハグを受けた。 「うれしいです」。第一声でそう言うと目頭が熱くなったようにも見えた。だが涙はない。「弱い自分が昨日の夜から何度も出てきました。その中で自分とどう向き合うかということが何よりも大事だと思った」。笑顔もない。移籍直後の場所で「何よりも結果を出さなくてはいけない」と心に決め、初優勝という最高の結果だったのにあまりにも淡々としていた。だが、これこそが先代師匠の元貴乃花親方から受け継いだ精神だった。 先代には「おかげさまで優勝できました」と伝えたいと話した。多くを学ばせてもらった先代へ感謝しかない。「すごく覚えてることがある」という。相撲を始めたばかりの小4で参加した元貴乃花部屋のキッズクラブで、「武蔵丸とか曙と戦う時、どういう気持ちで戦ってるのか」と質問した。その答えは「四股を淡々と踏めば勝てる」だった。 「はぁ? 何ゆうてんの? と小学生ながらに思った。絶対に負けない気持ちで、とか言うのかと思った」 だが、「今なら少し分かる気がする。変な気持ちを持つ必要がないというか、相手じゃなくて自分とどう向き合うか」と自分なりに解釈する。 貴景勝の父・一哉さん(57)もこう話す。「感情を出さないというのは、育てていただいた貴乃花親方の思想を受け継いでいるのでは。侍、武士は感情を出さない」と。支度部屋で賜杯を抱いて万歳をした。隣の父は満面の笑み。貴景勝はニコリともしなかった。「笑う必要ないでしょ」と、パレードのオープンカーでファンの声援を浴びるまで笑顔は封印した。 本名である佐藤貴信の「貴信」の貴は貴乃花から、信は織田信長からとった。父が「最強の男になるように」と願いを込めた。先代は貴景勝の幕内昇進を機に、好きだった上杉謙信の後継者となった上杉景勝からしこ名をとった。秋場所後に元貴乃花親方が突然の退職。その余韻冷めやらぬ九州場所で、先代の遺志を受け継いだ貴景勝が初優勝するまるでドラマのようなストーリー。天下を取るために生まれてきた男が、その第一歩を踏み出した。(岸本隆) ▽貴景勝の師匠、千賀ノ浦親方(元小結隆三杉)「テレビで見ながら声にならない声が出た。久々にドキドキしてうるっときた。師匠として幸せ」 ◆大関昇進、慎重に日本相撲協会の阿武松審判部長(元関脇益荒雄)は九州場所千秋楽の25日、初優勝した小結貴景勝が来年1月の初場所に大関昇進が懸かるかの可能性について慎重な姿勢を示した。「相撲内容と白星を見ながら判断する。内容が良ければ盛り上がる。(可能性は)ゼロではない」と述べた。 大関昇進の目安は、三役で直近3場所の合計が33勝前後とされる。貴景勝は小結の先場所で9勝、今場所は13勝を挙げた。八角理事長(元横綱北勝海)も「横綱がそろって、来場所を見てみたい」と話した。 ◆18年ぶりの初V3人ことしは初場所で平幕優勝した栃ノ心に始まり、名古屋場所では関脇御嶽海が平成生まれの日本出身力士として初めて賜杯を抱いた。そして今場所の小結貴景勝と、初優勝者が3人誕生。これは2000年の武双山、貴闘力、魁皇以来18年ぶり。年3場所以上で関脇以下が優勝したのは、年6場所制となった1958年以降、4度目となった。
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