和牛精液あわや国外へ 出国検査甘さ露呈 申告制、告発わずか 貴重な資源流出は打撃
2018年11月26日
輸出禁止の和牛精液が日本国外へ不正に持ち出されていたことが、農水省への取材で分かった。中国入国時に見つかり中国国内への流出は水際で止められたが、日本の検査はすり抜けており、検査体制の甘さが浮き彫りになった。畜産関係団体は「和牛精液が流出し、他国で生産が広がれば和牛の輸出先を失う。畜産農家は大打撃だ」と危惧する。(金子祥也)
持ち出したのは、自称大阪府在住の男性。今年、冷凍した和牛精液の入ったストロー数百本を、液体窒素を充填(じゅうてん)した保存容器「ドライシッパー」に入れて国外に運んだ。農水省動物検疫所の聞き取りでは「知人に頼まれた。違法なものとは知らなかった」と話したという。
日本から動物やその一部を他国へ持ち出す場合、家畜伝染病予防法では家畜防疫官の検査を受けるよう定めている。ただ、持ち出す人が申し出なければ、同所は把握できず「今の仕組みだと、悪意があれば容易に持ち出せる」(危機管理課)と実態を明かす。
航空会社の手荷物検査でも発見は難しい。「ドライシッパー」を開けるには知識が必要な上、取り出した内容物は温度が急上昇して劣化することもある。持ち出し禁止でない医療用の試薬などを運ぶことも多いため、国交省航空局も「どの航空会社も、通常は中身まで確認しない」(運行安全課)。X線には通すが、中身は判別できないという。
畜産業界からは心配する声が上がる。法規制の前にオーストラリアに遺伝資源が流出したことにより、オーストラリア産「WAGYU」が日本の和牛と競合し、輸出に影響が出ているためだ。日本畜産物輸出促進協議会は「国も牛肉輸出には力を入れている。遺伝資源の流出は大きな問題だと受け止めてほしい」と訴える。
違反者への対応にも疑問の声が上がる。同法は違反すると、懲役刑が付くこともあるが、罪に問うには動物検疫所の刑事告発が必要。今回、同所は厳重注意だけでこの男性を解放した。同所は「初犯で悪質ではないと判断した」(危機管理課)と説明。手続きに時間がかかるため、刑事告発することは「年に数回もない」という。
中国で肥育農家の技術指導を手掛けるなど、現地の事情に詳しい松本大策獣医師は「和牛精液を欲しがる業者はいくらでもいる」と警鐘を鳴らす。既に精液が持ち込まれたとの情報も耳にしたことがあるとし、「今回のケースは氷山の一角ではないか」と指摘する。
ストロー数百本、中国入国時に発覚。 「違法行為、知らなかった」
持ち出したのは、自称大阪府在住の男性。今年、冷凍した和牛精液の入ったストロー数百本を、液体窒素を充填(じゅうてん)した保存容器「ドライシッパー」に入れて国外に運んだ。農水省動物検疫所の聞き取りでは「知人に頼まれた。違法なものとは知らなかった」と話したという。
日本から動物やその一部を他国へ持ち出す場合、家畜伝染病予防法では家畜防疫官の検査を受けるよう定めている。ただ、持ち出す人が申し出なければ、同所は把握できず「今の仕組みだと、悪意があれば容易に持ち出せる」(危機管理課)と実態を明かす。
航空会社の手荷物検査でも発見は難しい。「ドライシッパー」を開けるには知識が必要な上、取り出した内容物は温度が急上昇して劣化することもある。持ち出し禁止でない医療用の試薬などを運ぶことも多いため、国交省航空局も「どの航空会社も、通常は中身まで確認しない」(運行安全課)。X線には通すが、中身は判別できないという。
畜産業界からは心配する声が上がる。法規制の前にオーストラリアに遺伝資源が流出したことにより、オーストラリア産「WAGYU」が日本の和牛と競合し、輸出に影響が出ているためだ。日本畜産物輸出促進協議会は「国も牛肉輸出には力を入れている。遺伝資源の流出は大きな問題だと受け止めてほしい」と訴える。
違反者への対応にも疑問の声が上がる。同法は違反すると、懲役刑が付くこともあるが、罪に問うには動物検疫所の刑事告発が必要。今回、同所は厳重注意だけでこの男性を解放した。同所は「初犯で悪質ではないと判断した」(危機管理課)と説明。手続きに時間がかかるため、刑事告発することは「年に数回もない」という。
「氷山の一角」
中国で肥育農家の技術指導を手掛けるなど、現地の事情に詳しい松本大策獣医師は「和牛精液を欲しがる業者はいくらでもいる」と警鐘を鳴らす。既に精液が持ち込まれたとの情報も耳にしたことがあるとし、「今回のケースは氷山の一角ではないか」と指摘する。
おすすめ記事
島根あんぽ JAしまね 島根県のJAしまねが販売しているあんぽ柿。県を代表する秋果実の一つである柿「西条」を使用。一つ一つ丁寧に手作業で皮をむいている。 機械による強制乾燥で半生に仕上げ、しっとりとした食感を楽しむことができる。あんぽ柿にすることで甘味が凝縮し、和菓子のような味わいとなり、コーヒーや紅茶との相性も抜群だ。 県内スーパーで取り扱う。JA全農が運営するインターネットのショッピングサイト「JAタウン」では、4パック(1パック3個入り)セットを2400円で販売。問い合わせは同JA本店米穀園芸部園芸課、(電)0853(25)8694。 2018年11月24日
中小の経営支援強化 肉用子牛補給金充実を 全中、畜酪政策提案 JA全中は、2019年度の畜産・酪農対策に関する政策提案をまとめた。肉用牛の繁殖や都府県酪農を中心に生産基盤の弱体化が深刻化する中、中小規模経営を含めて営農継続を後押しする対策を最重視。米国を除く11カ国による環太平洋連携協定の新協定(TPP11)の発効に備え、肉用子牛生産者補給金制度の保証基準価格を再生産が確保できる水準に設定することなどを求める。 2018年11月20日
和食セミナーで成果 米飯給食増える 全中 JA全中が栄養教諭らを対象に「和食給食セミナー」を開いた地域で、米飯給食の回数が増えていることが分かった。2016、17年度に開いた24地域で、週平均3・35回から3・59回に増えた。全中は、米の消費量が年間約600トン、消費額は1億6000万円超増えたと試算。料理人による献立提案や調理実習などで和食給食を促したことが、米飯給食の増加につながったとみる。 セミナーは全中の米消費拡大対策の一環で、ご飯中心の和食を給食にもっと取り入れようと、若手和食料理人でつくる「和食給食応援団」やJAなどと16年度から開く。17年度までに22都府県24地域で実施し、給食の献立を立案する栄養教諭や学校栄養職員ら1055人が参加した。 文部科学省によると、16年度の米飯給食回数の全国平均は週3・4回で、14年度から同数が続く。一方、全中がセミナーの実施前と3カ月後で米飯給食の回数を調査したところ、24地域の平均で同0・24回増えた。この結果、全中は給食での米の年間消費量が594トン、約1億6300万円分純増したと試算する。 セミナーでは、和食給食応援団の料理人が、給食用に考案した献立の調理を実演する。食材費や調理時間、栄養バランスを考慮した主菜と副菜を提案。だしの取り方やご飯の炊き方など和食調理の基本を含め、実習や試食も行う。栄養教諭らへの調査で「健康的な和食給食の回数を増やしたいが、献立の種類が少なく、調理も難しい」との課題が分かったためだ。 農家も招き、農業や米作りについて語ってもらう。食材の作り手の苦労や思いを伝え、地元の農産物への関心を高めるのが狙い。米飯給食の増加について、全中は「料理人や農家と連携し、和食や米、農業への魅力を発信する地道な取り組みが実を結んでいる」とする。 全中は、18年度も計15地域でセミナーの開催を予定する。11月24日の「和食の日」に合わせ、これまでの取り組みを報告する冊子を作成。12月初めにも全国のJAなどに配布する予定だ。 2018年11月24日
畜産酪農対策 家族経営支え増産促せ 2019年度畜産酪農政策・価格対策は、12月中旬の決定に向けて論議が本格化する。焦点は家族経営の支援強化だ。自由化に伴う肉用子牛補給金制度の一本化、加工原料乳補給金単価の水準、家畜ふん尿処理施設の更新対策などで、持続可能な農業生産を担保すべきである。 畜酪対策論議本格化を踏まえ、JA全中は6日の理事会で重点要請項目を絞り込む。欠かせないのは食料安全保障を担保する国の基本政策確立だ。年明け以降、食料・農業・農村基本計画の見直し論議が始まる。これと並行し、酪農肉用牛近代化方針(酪肉近)の協議も行う。今後5年間の生産振興指針となる酪肉近は、現場の実態に合った議論を深めるべきだ。 畜産酪農経営は、中小規模の生産者を中心に廃業に追い込まれている。子牛の異常高値は基盤弱体化の裏返しと言っていい。特に酪農は都府県の家族経営で離農に歯止めがかからない。たびたび問題になる牛乳の風味問題も、巨大酪農経営の大量生産が一因との指摘がある。中小規模の家族経営の支援を拡充し、生産全体の底上げ実現が最重点となる。 喫緊の課題は、肉用子牛補給金制度の見直しだ。補給金と、生産者が一部負担している繁殖経営支援事業の「2階建て方式」を、補給金に一本化する。農水省は検討会で関係者の意見を聴取しているが、農業団体からは「中小規模に配慮した保証基準価格にすべきだ」との意見が出ている。 自由化に対応した新たな補給金水準の「発射台」となり、規模別子牛生産費のどの層を配慮するかで、水準は大きく異なる。1頭当たりの生産費は、平均と10~19頭の中小規模層で8万円近くも違う。今後、自由化の進展で子牛価格が下がった際の最低所得補償も意味するだけに、新保証基準価格の水準をできるだけ高く設定することが必要だ。 加工原料乳は、補給金単価と集送乳調整金の水準が焦点。特に物流経費の高騰で集送乳コストは、現行の生乳1キロ当たり調整金単価2円43銭の水準を超えているとの見方が強い。現行では指定生乳生産者団体だけ対象となっている。調整金引き上げは指定団体への生乳集荷への経済的な有利性を増す。 ただ、酪農家の手取り乳価は、補給金と集送乳調整金の合計のため、一方の補給金単価を引き下げれば、影響は乳価全体に及ぶ。北海道地震では2万トン以上の生乳が廃棄に追い込まれた。再生産確保の視点で、酪農家の生産意欲につながる単価実現が必要だ。 家畜のふん尿処理施設も更新時期を迎えており、新設支援が欠かせない。関東などの酪農家からは乳価引き上げと共に処理施設の更新経費がかさみ「都市近郊酪農家の離農に拍車が掛かりかねない」との切実な声が上がっている。同省は知恵を絞り具体的な支援をすべきである。 2018年11月26日
TPP11発効直後は? 豪産牛は様子見カナダ産に注目 中長期では増加 食肉輸入業者 米国を除く11カ国による環太平洋連携協定の新協定(TPP11)が12月30日に発効することが決まり、食肉業者らが仕入れの対応を探っている。輸入牛肉や豚肉の関税が下がるためだ。輸入量の多いオーストラリア産牛肉では、現地相場の高騰から発効直後は様子見の構えだが、中長期的には輸入を増やす姿勢。発効直後から卸売価格が下がるカナダ産牛肉などを新たに調達しようとする動きもある。国内産地が警戒感を高める中、TPP11発効が迫っている。 TPP参加国からの牛肉輸入は大半がオーストラリア産。2015年に締結した経済連携協定(EPA)で関税が既に下がっているため、TPP11と比べて低い方の関税が適用される。発効後の冷蔵はTPP11の27・5%(現状29・3%)が適用され、関税が下がる。ただ、冷凍は、EPAの関税が低いため、現状の26・9%を維持。発効2年目の19年4月にはTPP11の関税率が適用され共に26・7%に下がる。 食肉加工メーカーのプリマハムはオーストラリア産牛肉の関税削減に期待する。「販売価格を下げられるため、販売のメリットがある」(同社)。 同国産は干ばつの影響で現地相場が高騰し、長期化の恐れがあるため、「輸入拡大はすぐには考えていない」と東京都内の輸入業者。ただ、より低い関税を狙って発効直前の12月は通関を控えるため、来年1月は輸入が急増する見通しだ。特に、現行38・5%の関税が発効後に冷蔵、冷凍ともに27・5%、19年4月以降に26・7%に下がるニュージーランド産とカナダ産は、「大きく関税が下がる4月分に通関をまとめる」(同)という。 スターゼンは「スーパーのカナダ産に対する注目度が高い」と指摘する。同国産は穀物肥育の「アンガス牛」などが大半で、肉質も米国産に近く、評価されているという。東京都内で300店舗を展開するスーパーは「カナダ産肩ロースなどは卸売価格が1割ほど下がり、価格優位性が高まる」と話す。現在、同国産は扱っていないが、コスト削減を試算し、仕入れを検討している。 17年の同国産輸入量は約2万トン。米国、オーストラリア産の10分の1ほどだが、「輸出余力はある」(輸出団体)。ニュージーランド産はひき肉用が多く、オーストラリア産の代替として使われる。 豚肉について、スターゼンは「5年程度たつと、カナダ産冷蔵品にメリットがある」と話す。安価な部位だけ輸入する考えを示す。 宮崎県の肉牛農家は「安価な輸入品の出回りが増えれば、国内牛肉消費が奪われる」と危機感を募らせる。 2018年11月24日
農政の新着記事
和牛精液あわや国外へ 出国検査甘さ露呈 申告制、告発わずか 貴重な資源流出は打撃 輸出禁止の和牛精液が日本国外へ不正に持ち出されていたことが、農水省への取材で分かった。中国入国時に見つかり中国国内への流出は水際で止められたが、日本の検査はすり抜けており、検査体制の甘さが浮き彫りになった。畜産関係団体は「和牛精液が流出し、他国で生産が広がれば和牛の輸出先を失う。畜産農家は大打撃だ」と危惧する。(金子祥也) ストロー数百本、中国入国時に発覚。 「違法行為、知らなかった」 持ち出したのは、自称大阪府在住の男性。今年、冷凍した和牛精液の入ったストロー数百本を、液体窒素を充填(じゅうてん)した保存容器「ドライシッパー」に入れて国外に運んだ。農水省動物検疫所の聞き取りでは「知人に頼まれた。違法なものとは知らなかった」と話したという。 日本から動物やその一部を他国へ持ち出す場合、家畜伝染病予防法では家畜防疫官の検査を受けるよう定めている。ただ、持ち出す人が申し出なければ、同所は把握できず「今の仕組みだと、悪意があれば容易に持ち出せる」(危機管理課)と実態を明かす。 航空会社の手荷物検査でも発見は難しい。「ドライシッパー」を開けるには知識が必要な上、取り出した内容物は温度が急上昇して劣化することもある。持ち出し禁止でない医療用の試薬などを運ぶことも多いため、国交省航空局も「どの航空会社も、通常は中身まで確認しない」(運行安全課)。X線には通すが、中身は判別できないという。 畜産業界からは心配する声が上がる。法規制の前にオーストラリアに遺伝資源が流出したことにより、オーストラリア産「WAGYU」が日本の和牛と競合し、輸出に影響が出ているためだ。日本畜産物輸出促進協議会は「国も牛肉輸出には力を入れている。遺伝資源の流出は大きな問題だと受け止めてほしい」と訴える。 違反者への対応にも疑問の声が上がる。同法は違反すると、懲役刑が付くこともあるが、罪に問うには動物検疫所の刑事告発が必要。今回、同所は厳重注意だけでこの男性を解放した。同所は「初犯で悪質ではないと判断した」(危機管理課)と説明。手続きに時間がかかるため、刑事告発することは「年に数回もない」という。 「氷山の一角」 中国で肥育農家の技術指導を手掛けるなど、現地の事情に詳しい松本大策獣医師は「和牛精液を欲しがる業者はいくらでもいる」と警鐘を鳴らす。既に精液が持ち込まれたとの情報も耳にしたことがあるとし、「今回のケースは氷山の一角ではないか」と指摘する。 2018年11月26日
ドローン 国交省が一括認定 19年度上期に 高性能機 普及を促進 政府は、ドローン(小型無人飛行機)を農業利用する際に必要な機体や操縦者の認定手続きを国土交通省に一元化する。航空防除について定める農水省の指針などに基づき、農林水産航空協会を通じた認定手続きが生産現場に定着しているが、自動操縦機能などを備えた最新型ドローンの認定に対応できないなどの課題が指摘されていた。高性能ドローンの普及を促し、農家の生産性の向上につなげる。2019年度上期までに実施する。 ドローンを農薬散布に使う際、メーカーは機体の性能について、農家ら操縦者は技能について、それぞれ航空法に基づく認定を受ける必要がある。同協会は、農水省が航空防除時の航行や農薬安全について定める技術指導指針などに基づき、機体と操縦者の認定事業を担い、国交省に代行申請している。国交省が機体を直接認定し、操縦者も民間の教習組織が認定する手続きもあるが、農業関係者には同協会の認定が浸透している。 一方、技術指導指針は産業用無人ヘリコプターによる農薬散布向けに作られている。指針を前提とする同協会は、高精度の航行につながる自動操縦機能やカメラ機能などを搭載した最新型ドローンの認定体制が整っていない。無人ヘリを前提にした認定のため、ドローンのメーカーから「必要以上に細かい項目まで審査される」といった不満が出ていた。 生産現場が円滑に国交省の手続きに移行できるよう、同協会による認定は来年度上期までは続け、来年の営農分のドローン利用は同協会による認定で対応できるようにする。併せてドローンのメーカーなどに、農家が認定を受ける際の国交省への必要書類提出など代行申請をするよう農水省が働き掛ける。同協会は、無人ヘリに関する認定事業は従来通り続ける。 農水省はまた、今年度中に国交省と連携し、ドローンの操縦者の他に配置が求められる補助者について、一定条件を満たせば配置を不要にするなどの規制緩和も進める。ドローン散布に向く農薬の確保にも取り組む。既存の農薬を高濃度にして散布できるよう、農薬メーカーが国の登録を受け直す際の必要な手続きも簡素化する。 2018年11月25日
家族協定締結農家 5万7600戸 0・8%増 家族経営協定を締結している農家が2018年3月末で、前年比450戸(0・8%)増の5万7605戸になり過去最多を更新したことが、農水省の調べで分かった。ただ前年からの伸び率は鈍化し、初めて1%を切った。政府は、20年度までに協定締結農家を7万戸にする目標を掲げるが、このままでは達成は難しい状況だ。 2018年11月25日
TPP11発効直後は? 豪産牛は様子見カナダ産に注目 中長期では増加 食肉輸入業者 米国を除く11カ国による環太平洋連携協定の新協定(TPP11)が12月30日に発効することが決まり、食肉業者らが仕入れの対応を探っている。輸入牛肉や豚肉の関税が下がるためだ。輸入量の多いオーストラリア産牛肉では、現地相場の高騰から発効直後は様子見の構えだが、中長期的には輸入を増やす姿勢。発効直後から卸売価格が下がるカナダ産牛肉などを新たに調達しようとする動きもある。国内産地が警戒感を高める中、TPP11発効が迫っている。 TPP参加国からの牛肉輸入は大半がオーストラリア産。2015年に締結した経済連携協定(EPA)で関税が既に下がっているため、TPP11と比べて低い方の関税が適用される。発効後の冷蔵はTPP11の27・5%(現状29・3%)が適用され、関税が下がる。ただ、冷凍は、EPAの関税が低いため、現状の26・9%を維持。発効2年目の19年4月にはTPP11の関税率が適用され共に26・7%に下がる。 食肉加工メーカーのプリマハムはオーストラリア産牛肉の関税削減に期待する。「販売価格を下げられるため、販売のメリットがある」(同社)。 同国産は干ばつの影響で現地相場が高騰し、長期化の恐れがあるため、「輸入拡大はすぐには考えていない」と東京都内の輸入業者。ただ、より低い関税を狙って発効直前の12月は通関を控えるため、来年1月は輸入が急増する見通しだ。特に、現行38・5%の関税が発効後に冷蔵、冷凍ともに27・5%、19年4月以降に26・7%に下がるニュージーランド産とカナダ産は、「大きく関税が下がる4月分に通関をまとめる」(同)という。 スターゼンは「スーパーのカナダ産に対する注目度が高い」と指摘する。同国産は穀物肥育の「アンガス牛」などが大半で、肉質も米国産に近く、評価されているという。東京都内で300店舗を展開するスーパーは「カナダ産肩ロースなどは卸売価格が1割ほど下がり、価格優位性が高まる」と話す。現在、同国産は扱っていないが、コスト削減を試算し、仕入れを検討している。 17年の同国産輸入量は約2万トン。米国、オーストラリア産の10分の1ほどだが、「輸出余力はある」(輸出団体)。ニュージーランド産はひき肉用が多く、オーストラリア産の代替として使われる。 豚肉について、スターゼンは「5年程度たつと、カナダ産冷蔵品にメリットがある」と話す。安価な部位だけ輸入する考えを示す。 宮崎県の肉牛農家は「安価な輸入品の出回りが増えれば、国内牛肉消費が奪われる」と危機感を募らせる。 2018年11月24日
植物品種保護条約 東南アに加盟訴え 国産無断増殖防止へ 農水省 農水省は、日本で登録された品種が海外で無断増殖・栽培されないよう、東南アジア諸国連合(ASEAN)の参加国に対し、植物新品種の保護に関する国際条約(UPOV条約)への加盟推進に乗り出す。アジア地域で条約加盟国を増やして品種の保護環境を整え、日本の優良品種の海外展開を後押しする。 2018年11月24日
国連が小農宣言採択 協同組合への支援明記 世界は再評価 米国で開かれている国連総会第3委員会は日本時間の20日未明、「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言(小農の権利宣言)」を賛成119の多数で採択した。家族経営など小規模の農家(小農)の価値と権利を明記し、加盟国に対して小農の評価や財源確保、投資などを促した。その中で、食料の安定生産に向けた種子の確保や、協同組合への支援なども呼び掛けた。12月の国連総会で決議されることが確実で、小農の価値を再評価する潮流が加速する見通しだ。 採択は棄権49、反対7。発展途上国を中心に賛同が圧倒的多数だった一方、米国や英国、オーストラリア、ニュージーランドなどが反対。日本は棄権した。 宣言は農家だけでなく、漁業や林業など農村で暮らすあらゆる人を対象にした。食料生産や地域における小農の価値や役割を明記し、「食の主権」確保や生物多様性への貢献を評価。その上で、女性差別の撤廃、種子の安定的な提供への措置や、農作業安全、教育などの権利を加盟国が確保することを明記した。協同組合を支援するための適切な措置も求めた。 宣言はボリビアが中心となって提案し、来年の「家族農業の10年」を見据えた。小農の権利を守ることは、都市住民の生活や権利につながるとしている。 日本が棄権した理由について外務省は「農村の人々の権利は既存の仕組みの活用によって保護される。固有の権利の存在があるかについては、国際社会での議論が未成熟」(人権人道課)と説明する。 国連は今秋、全加盟国が投票権を持つ六つの委員会を開催。12月には各委員会で可決された提案を総会で決議する。小農の権利宣言は、9月にジュネーブで開かれた一部加盟国による国連人権理事会で採択されていたが、総会では初となる。 日本 真摯に見つめよ 研究者や農家らが2015年に設立した「小農学会」共同代表の萬田正治鹿児島大学名誉教授の話 家族農業など一貫して小農の価値を再評価してきた国連が、ようやく統括し宣言を採択した意義は非常に大きい。小農を守り、権利と価値を認めることが世界的な潮流となっている証しだ。小農を重んじる動きはさらに強まる。一方で日本は規模拡大ばかりを重視し、農水省は宣言と逆の政策を進める。同省は地域を支える家族経営農家を再評価し、国連の宣言を真摯(しんし)に見つめる必要がある。 2018年11月22日
農業の外国人材受け入れ 派遣形態も想定 衆院法務委で政府 外国人労働者の受け入れ拡大に向けた出入国管理法などの改正案が21日、衆院法務委員会で実質審議入りした。政府は農業分野で、人材派遣業者を通じて農家が外国人を受け入れる形態も想定していることを明らかにした。野党は現行の技能実習制度で生じている問題の対応などが先決と訴え、徹底抗戦の構えを強める。審議日程は窮屈となっており、会期延長の可能性も高まっている。 2018年11月22日
肉用子牛補給金制度 算定方式 実勢に近く 小規模経営踏まえ 農水省検討 農水省は20日、環太平洋連携協定(TPP)の国内対策で制度内容を見直す「肉用子牛生産者補給金制度」の基本的な考え方を示した。発動基準となる「保証基準価格」の算定に用いる期間は過去7年間の生産費とした。現行より実勢に近くなるため基準価格が引き上がり、発動しやすくなる見込み。小規模農家の経営に配慮した形だ。今後、同省審議会で算定方式や価格を定め、米国を除く11カ国による新協定(TPP11)が発効する12月30日から適用する。 2018年11月21日
県種子条例を制定 継続し種もみ品質確保へ 富山 主要農作物種子法(種子法)が廃止されたことを受け、富山県は新たに「県主要農作物種子生産条例」を制定し、2019年1月1日から施行する。全国一の水稲種子(種もみ)出荷県として、引き続き県内の種子生産者に安心して生産してもらい、種子の品質確保を図る。 2018年11月21日
制度 熟議を 農業分野で最大7300人 新在留資格に農家注文 トラブル回避―技能実習 教訓生かして 衆院法務委員会で21日に審議が始まる出入国管理法改正案を巡り、農業の現場からは技能実習生の“教訓”を生かした仕組み作りを求める声が相次ぐ。新たな在留資格が導入されれば、農業では初年度、対象14業種中で最多となる最大7300人の外国人労働者が雇用される可能性がある。技能実習生を長年受け入れてきた監理団体や農家らは、十分な議論を通じた制度設計を求める。 2018年11月21日