小さな工事屋ではない。
一部上場企業の話である。

左折すれば、デッカイ看板が立ってる時間貸し駐車場。
場所のワリに台数が多過ぎて、少なくとも三毛は、満車になってるのを見たことがない。

だのにその営業マンはそこを通り過ぎ、右折してコンビニにクルマを駐めた。
そして、それがさも当たり前のように「コンビニにクルマを駐車してきました」と言った。

で、営業マンの相談の内容なのだが、

三毛所有の、空車だらけの駐車場の中に、工事用車両を通らせてくれ、というものだった。

田舎で、戦前からの家がまだまだ残っていて、一方通行がややこしい場所で、一方通行を守ったら、どうにも工事出来ない。
コレは仕方がない、と思った。

でも、うちの水栓を使う、というのは、断った。

工事の開始まで、時間はタップリあったし、工事中だけならともかく、(当たり前のことだが)後々その工事が完成すれば、上下水道が必要な工事だった。

まもなく「上下水道は、現場のすぐ近くまで来ているので、大丈夫です」という、電話連絡があった。

それから大分たってからだ。
「明日から工事に入るので、お宅の水道を使わせてくれ」と、言ってきた。
「水道代は払うから」

まぁ、工期の都合もあるろうから、一回だけは仕方がないだろう、とオーケーしたら、
「その後も引き続き使わせろ」

一回目の工事の時はたまたま雨だったので、水道は要らなかったのだが、

「もちろん水道代は払う」、と言われても、引き続き使うというのは、三毛としては納得できない。
工事の段取りの悪さを、三毛に押し付けてくるのか?

車両通行OKだけでは、不満なのか?

で、とあることで、水道の蛇口の近くに住んでいて、電話番号だけは知っている(電気工事屋さんだと思ってた)方に、
水道の蛇口の上に(蛇口は地下に埋まって、鉄の蓋が付いている)工事用のクルマのタイヤを載せてくれないかと頼もうと、無理とは承知で、電話をかけた。

電話口に出てきた人は、しっかりとした、感じのいい中年の男性だった。
顔も知らないオバハンの変な依頼に、なぜタイヤを載せて欲しいのか、理由だけを聞いて、

「工事のクルマは昼間出払ってしまうので、水道を使えない様にするのには役に立たない。
使えるクルマとしては、ワシの自家用車しかないのだが、それでいいだろうか?」

いやいや、タイヤのついたクルマなら、なんでもいい。

そしてイタズラっぽく、
「傷や塗装をやり直すのを楽しんでいるクルマだから、傷をつけてもらうのは一向に構わないんだが、」

「スバル360よりは新しいが、クラシックカーの部類に入るクルマだから、キズつけたら高くつくと、その工事会社に言っといてくれ」
「場合によっては、部品1ケを、特別に作らなあかん(笑)」
(古過ぎて、車両保険に入れない由)

一時間ほどしてから、おっちゃんから電話があった。
わざわざ、水道を見に行ってくれていた。

「こういう障害物があるので、どうしてもタイヤが載せられない」
「代わりに、ま新しい水道の蛇口が付いていたから、外しておきました(笑)」

「それと、水道局が元栓を取り外しているから、週明けに水道局へ電話して、水栓を開けないように言っときなはれ」

「水道局が元栓を開けない限り、水は使えない。」
「万一使ったら、窃盗罪や」

翌日の祝日、お礼を持って、おっちゃんちに行った。
出てきたおっちゃんは、ガタイがデカくて、よく日に焼けたひげ面で、一見怖そうなのだが、優しい目をした男性(後で聞いたところによると58才)だった。

「見ず知らずのオバハンの為に、ココまでして頂けるとは・・」
「いや、情けは人の為ならずや」
 ↑クイズ: 正確な意味をご存知の方は、ぜひぜひ、
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   重量感タップリの景品付きでござりまするゾ!!


「バブルがはじけて、でも阪神淡路大震災過ぎまではワシらも仕事があったんやが、震災の3年後に勤め先がとうとう潰れてもた」

「でも不景気で、とにかく仕事が見つからない。
妻子(子ども3人。一番下は1才だった由)を養うためには、土方でもなんでもやった」

「とにかく誠実に仕事をするをモットーに、仕事のついでに色んなことを覚え、資格もとって、今は小さいとはいえ自営業として、道楽のクラシックカーも持てるようになった」

「あの大きな会社が、あんなことをするのは許せない」
「ユンボ(という工事用のクルマなんだそうだ)が、何をしたか、よく見てきなはれ」

その後、水道を見に行った。

そしてとんでもなく大事なブロックが壊されていたのが分かった。
(今回初めて覚えた言葉だが、建築に詳しい方には分かるように、「既存不適格の塀の控え壁」というブロックを壊していた)

ユンボが壊したブロックは、たかが数個だ。
しかし、法律に従う形にし直すためには、いったいどれだけの工事をしなくてはイケないのか?

悪いのは、一部上場企業だが、
弁護士を立てれば、工事くらいするだろう。

いや、これからの塀の工事が問題なのではない。
「困ってるオバハンがいれば、自分の利益とは無関係なのに助けてやろう」というおっちゃんに会った直後だけに、腹が立つと言うよりも、ただただ、悲しかった。

※:正解者全員にもれなく、送料受取人払いで、新品のブロックを一個づつ、送らせていただきます (=^・^=)