体験者の高齢化が進む中で、沖縄戦の記憶をどのように継承すればいいのか。

 沖縄社会が否応なく直面するこの問題に早い段階から対応してきたのは、糸満市のひめゆり平和祈念資料館(普天間朝佳館長)である。

 昨年5月、同資料館説明員の仲田晃子さんが「ひめゆり・ヨーロッパ平和交流の旅」の報告会で語ったエピソードは象徴的だった。

 「沖縄の子どもたちでも沖縄戦のことを『戦争時代』と呼ぶなど、『江戸時代』などと同じような感覚で捉えている」

 子どもたちにとって73年前の沖縄戦に触れることは「異文化接触」に等しい体験なのかもしれない。

 家族の中に戦争体験者がいないから、沖縄戦について聞く機会がほとんどない。学校現場は残業続きの日常業務にに追われ、平和教育の時間がもてない。

 2017年度の修学旅行団体は小・中・高校あわせて2026校。県内は57校のみである。

 開館以来の入館者は2200万人を超えるが、1997年度をピークに減少傾向が続き、年間の入館者が初めて60万人を割った。

 ひめゆり学徒隊の体験者は、高齢化のため語り部活動の一線から退いた。戦後世代が資料館の運営を担い、入館者に戦争体験を伝える時代になっている。

 戦争記憶の継承問題は、将来の沖縄社会像にも影響するだけに、沖縄全体の課題として、館を超えて取り組みの輪を広げていくことが重要だ。    ■    ■

 昨年あたりから、ひめゆり資料館単独でも、時代の変化を見すえた取り組みが目立つようになった。

 昨年12月、ひめゆり平和研究所を設立し、今年8月には映像制作ワークショップ「メモリーウォーク」を日本で初めて開催した。

 沖縄戦の記憶を映像化するこのワークショップは、ひめゆり資料館とアンネ・フランク・ハウス(オランダ)が共同で実施したものである。

 学芸員の前泊克美さんらが中心になって現在、進めているのが「『ひめゆり』を伝える映像作品コンテスト」だ(募集締め切りは30日)。

 ドキュメンタリーやフィクション、アニメ、歌やダンスなど表現方法は自由、だという。ここにも若い世代を意識した工夫が感じられる。

 ひめゆり資料館の使命とは何か。ひめゆり平和祈念財団代表理事の仲程昌☆(徳の心の上に一)さんによると、資料館は「平和のありがたさ」を知るための、沖縄戦当時の若い人たちから託された「バトンを受け取る場所」なのだという。

    ■    ■

 説明する側にとっても聞く側にとっても大切なのは、「気付き」の機会が得られることである。

 戦争の知識を得るというだけにとどまらない、もっと深い体験-それが「気付き」である。その機会をどのようにして作り出していくか。館の運営を担う戦後世代に課せられた役割は重い。

 ひめゆり資料館は来年6月23日、開館30年の節目を迎える。