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【社説】

文化系の部活 原点を見つめ直そう

 中学校や高校の文化部に関し、文化庁は活動の目安を盛り込んだ指針の案をまとめた。長時間の練習による生徒や指導教員(顧問)の負担を減らすためだ。これを機に、活動のあり方も見直したい。

 文化庁が一日、同庁の有識者会議に示した指針の案では「週二日以上の休養日を設ける」「一日の活動時間は平日二時間、休日三時間程度まで」などとした。

 背景にあるのは、同庁が行った調査だ。目立つ実績のある国公私立の中学・高校を抽出してアンケートしたところ、たとえば吹奏楽部では、約五割が土曜日も五時間以上の活動をしていたという。

 運動部向けにはスポーツ庁が三月、週あたり二日以上の休養日を設けるなどの指針を定めた。文化庁の案は、文化部でも活動が行きすぎるのを防ぐ狙いがある。

 生徒に何時間も練習を強いるのは論外で、一定の制限は必要だ。半面、年内にも決定される文化庁の指針が独り歩きして「休養日は絶対に練習をするな」といった逆の強制になることも避けたい。

 やり玉に挙がった形の吹奏楽部だが、美術や文芸など一人でもできる活動とは違う事情がある。全体の練習のほか、楽器ごとのパート練習、木管・金管などのセクション練習といったさまざまな練習が必要だからだ。とりわけ重要なのが個人の練習で、短時間でも毎日続けることが大切という。部活の主役である生徒の成長を支えるためにも、吹奏楽にかぎらず「うまくなりたい」という向上心を尊重する環境づくりを考えたい。

 一方で、放課後や週末も部活動に時間を割かれる顧問の先生の負担を減らす手だても必須だ。

 先進例として関心を集める名古屋市の場合、専門技術を指導して顧問を手助けする「外部指導者」や、技術指導から大会への引率や監督までも行う「部活動顧問」を校外から募り、要請のある学校に派遣している。こうした対策を広げ、活動の充実と先生の働き方の改善につなげたい。部活動の指導が「自主的にしている仕事」とされ、時間外手当がないなどといった状況も改めるべきだ。

 文化部の活動が過熱する一因には、コンクールなどの成績を過度に重んじる「勝利至上主義」がある。自身の内面との対話でもある文化や芸術の営みで「他者に勝つこと」が主眼になるのはいかがなものか。生徒の心の成長のためにも、文化部の活動の原点を、指針づくりを機に見つめ直したい。

 

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