【ネコ好き必見】 農家を救う!? 野良猫の就職先は「縁側ネコ農法」だった

2018.11.22

【ネコ好き必見】 農家を救う!? 野良猫の就職先は「縁側ネコ農法」だった

全国の農家さんの頭を悩ませる、野生動物の「食害」。この問題に対するひとつの解決案が、野生のネコとの共存です。ネコの住処を確保しつつ、食害を防ぐ。そんな「ネコ農法」を提唱する縁側ネコ研究家の渡部久さんにお話をお伺いしました。

 

こんにちは。ライターの坂口ナオと申します。

ここは山梨県山梨市のとある山あいの町。

 

私がこんな場所にいるきっかけは、ある女性の何気ないひと言でした。

 

「私の知り合いで、山梨に『ネコ農法』をやってる人がいるんですよ!」

 

「『ネコ農法』……? 畑でネコを育てるんですか?」

「いやいや、畑で育てるのは普通の野菜とかフルーツです。でも、山が近い畑では、猿とか鹿とかが降りてきて作物を食べられちゃうんですよ。でも、その人の畑にはネコがいるので、被害がゼロなんです!」

 

こちらの女性は、以前ジモコロで取材させていただいた「Yaika Factory」代表の井川さん。

大のネコ好きが高じて、高知県の港町で、「港の猫とおばあちゃんプロジェクト」を立ち上げた方なのです。そんな彼女とネコについての雑談をしていたところ、上記のタレコミが。ネコ好きネットワークすごすぎじゃない?

 

話を聞くと、どうやらその「ネコ農法」とやらは、

・ネコは畑にいるだけなので、訓練する必要はない

・野生動物による食害を防ぐことができる

・特別な施設や資材は不要

・コストもあまりかからない

という、食害で悩む農家さんにとってはめちゃくちゃありがたい農法。

しかも、井川さんによれば「ネコの新たな可能性が拓ける」「ネコ好きじゃない人にもネコを見直してもらうことができるかもしれない」取り組みとのこと。

 

これはネコ好きライターとして、ぜひ話を聞いてみたい!

と思った私は、さっそく約束を取り付け、山梨県山梨市へと向かったのでした。

 

というわけで、やってきました山梨県 

そんなこんなで、今回はその「ネコ農法」とやらをやっている畑にやってきました。

一見なんの変哲もない畑に見えるこの場所で、何が行われているというのでしょうか?

 

 

・・・にゃ〜

 

 

 

ん…?

さっそく向こうのほうからネコの声が聞こえてきましたね……

にゃ〜ん…

 

 

にゃ〜〜あん…

 

 

ネコじゃねえ

 

 

「どうもどうも〜! この畑を運営している渡部(わたべ)と申しマースッ!!」

「お約束した坂口です。今日はよろしくお願いします!」

「あれッ? にゃんとッ! 僕の写真も撮るんですかッ!?」

「喋り方」

「それならこのシャツ、脱いだほうがいいですかね〜ッ!? そのほうが写真映えするでしょ〜!? にゃ〜んちゃッてッ!」

「早くもテンションについていけない」

ついに明かされる「ネコ農法」の真実 


安心してください。本物のネコもちゃんといました。

 

「さっそくなんですけど、ここにいるネコちゃんたちは、その…『ネコ農法』に関係してるんですよね……?」

「そ〜うにゃ〜んデーーーースッ!!!! 見ていただくほうが早いと思うんで、さっそく畑をご案にゃい(=ご案内)しますねッ!!」

「あの、取材しづらいんで、話し方普通にしてもらってもいいですか」

「あ、はい」

 


「ほら、ここって畑のすぐ横が山になってるでしょう? こういう環境の畑は、普通なら獣害を防ぐために、ぐるりと柵で囲んであるものなんです。でも、ここにはその柵がありません」

「ほんとだ」

「その理由は、この畑にいるネコたちが、野生動物や害虫から畑を守ってくれているから。エサと寝床を提供するだけで、ネコたちがもともと持っている『なわばり意識』『狩猟本能』を、この畑のために活かすことができるんです!」

 

そう。実は「ネコ農法」とは、ネコの本能や習性を活かすことで、野生動物による食害を防ぐ農法のことだったのです。

 

今でこそ愛玩動物として室内で飼われることの多いネコですが、かつての彼らはネズミの番を果たすことで、人間とうまく共生していました。

渡部さんは、本来人間との共存関係にあったネコの生態に着目。野良ネコや飼いネコと差別化するために彼らを「縁側ネコ」と名付け、畑における彼らの行動とその影響を9年間研究しました。

そして、「畑の獣害対策に、縁側ネコの生態が有効である」と確信し、彼らを活かした畑の運営方法を「縁側ネコ農法」として類型化。

今では、「縁側ネコ農法」は、獣害に悩む市町村や農業関係者などから講演依頼を受けるほど、注目の農法となっているのです。

コストは? においや騒音問題は? 「縁側ネコ農法」のメリットデメリット

「自分の畑で、縁側ネコに活躍してもらうために必要なのは、朝晩の餌付けと雨風をしのげる寝床の準備だけ。本能を利用しているので訓練はいらないし、100ヘクタールの広大な畑でも2〜3匹もいれば十分。獣害に悩む農家さんにとって、メリットばかりの農法なんです」

 

渡部さんの畑にいる縁側ネコ4匹。 左上から、オニギリ、ラーユ、ミソ、ゴマ

 

「今、渡部さんの畑には何匹の縁側ネコがいるんですか?」

「今いるのは、オニギリ、ラーユ、ミソ、ゴマの4匹ですね。あとは2軒隣の家で出産中のハハケル。ネコはメスが中心になって群れを作るので、ハハケルがここを離れてる今は、実質上オニギリがボスです」

「えええ! あんなにちっちゃいのに!」

 

「でも4匹もいたら、エサ代が結構かかるんじゃないですか?」

「うちの畑ではネコに悪影響がないように、農薬を使っていないんです。すると虫や小動物が集まってくるんですけど、ネコたちがそれらを食べてくれるんですよ。その分も計算してエサは少なめにしているので、ほとんどお金はかからないんです」

糞や尿のにおいは問題にならないんですか?」

「と思うじゃないですか! でも、土をしっかり耕している畑は微生物が豊富なので、においなんてすぐに消えちゃうんですよ。それに、多少においが残っていたとしても、ネズミ防止に効果的なので逆にありがたいんです」

 

畑を優雅に闊歩するオニギリ

 

「じゃあ鳴き声の問題とかあるんじゃないですか? 発情期のときとか、結構ネコ鳴きますよね?」

「この辺りはご近所と距離が離れてるのでさほど気にならないんです。騒音問題よりも作物が一切採れないことのほうがみんなの悩みの種なので、この農法の理解が進めば進むほど、ネコの鳴き声でガミガミ言う人はいなくなると思います」

「なるほど……、都会では問題になることでも、場所が畑になることで、たいした問題にならないんですね」

食害が深刻な地域で被害ゼロ。その違いは「畑にネコがいた」

 

渡部さんが、ネコが獣害対策に有効かもしれないと気付いたのは、この畑に越してきたばかりの2009年頃のこと。

山と里のキワという土地柄、この地域では作物を野生動物に食べられてしまう「食害」が深刻でした。しかし、ほかの農家さんが被害に悩むなか、なぜか渡部さんの畑だけは被害が全くなかったのです。

そのことを不思議に思い、ほかの畑と自分の畑との違いを観察し始めましたが、違う点といえば「畑にネコがいる」ことぐらい。渡部さんの畑には野良ネコが住みついており、渡部さんは彼らに食事と寝床を与え、付かず離れずの関係を築いていたのです。

 

もしかしたら、ネコが獣を追い払ってくれているのでは」

そんなことを思っていたある日、街の野良ネコが、市内に紛れ込んだサルを追いかけて撃退する様子を渡部さんの家族が目撃。続けて、渡部さんの畑に居ついていた子猫が鹿を撃退する様子も目撃したのです。

確信を深めた渡部さんは、その2つのできごとが偶然ではなかったことを確認するため、畑に麦を植えることにしました。

麦は、野生動物の大好物。もしもこの麦が無事に収穫できたら、食害対策にネコが有用であることが証明されるかもしれない——。それから3ヶ月後の2013年6月、麦は、一切の食害がないまま収穫されました。

「縁側ネコ農法」発見の背景に、生物オタクの姿あり!?  

「そ〜んな実験の成果を、ひどい食害に悩んでいた両隣のお宅にも話して、協力してもらったんです。 そしたら、ネコが居つき始めた途端、それまで一切とれなかった作物が、ぜ〜んぶ収穫できたんですよ!」

「実験の結果もすごいけど、渡部さんの執念もすごいですよね」

 

不思議に思い、その執念の源を探っていくと、ありましたありました。こんこんと湧き出る好奇心の泉が。

実は渡部さん、これまでにウン万種類の生物の繁殖、育成に関わってきた、筋金入りの生物オタクだったのです。

小学生の頃、水生昆虫のタガメ(虫が苦手な人は検索注意)をきっかけに開眼。当時の愛読書はもちろん生き物図鑑。高校は農業高校に進み、生物部の仲間たちと、雷鳥を見るために60kgの荷物を背負ってアルプス山脈に登ったこともあるそう。

 

その後、ペットショップ店員、ブリーダーの職を経て、「やっぱり商売にしないで、ハイアマチュアとして生き物に関わっているのが一番楽しい!」と、今では畑仕事や炭のコンサルなどの片手間で、研究用のウーパールーパーだけを育てているのだとか。渡部さんの考えるネコたちに対する責任と想いとは

イーアイデム

この記事を書いた人

坂口ナオ
坂口ナオ

東京都在住のフリーライター/編集者。’85年生まれ。2013年より「旅」をメインテーマに据え、webと紙面にて執筆活動を開始。日本各地のユニークな取り組み、人、伝統などの取材を手がける。2015年に編集者として株式会社LIGに入社、2018年には再びライターとして独立。専門ジャンルは「地域・人・文化」。なお、中学生の頃のあだ名は「エスパー」。大学生のときは「あご門天」です。

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