オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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国のドイツについてはモモンガ様言っておりません。
ただあの文を漢字変換したらあれがカタカナになったんで、まあいっかとただ流しただけなんです。
11
法国の一兵士であるロンデス・ディ・クランプは実のところ、このような王国の村々を襲う作戦など嫌だった。
周辺諸国最強の戦士たる王国戦士長ガゼフ・ストロノーフをおびき寄せるためだけに辺境の開拓村を襲い、略奪の限りを尽くした。村を焼いただけではなく目撃者は全員殺し、若い女に至っては慰み者にする始末。
この作戦が長い目で見れば人類繁栄のためと仰せつかっているが、そのために人間を殺すというのは自分たちの信条に反してはいないかと。人類の危機となっている亜人やモンスターを狩る仕事なら嬉々として向かっただろう。
それがわかりやすい人類守護の目的であり、そのために法国の部隊に入ったのだから。
人類の生活圏を狭めて、やることが王国の最高戦力を落として、王国という国の崩壊を誘発すること。それほどまでに王国は堕落したからと。
立場のある人間を殺すためには、こういった罠か王国へ潜入しての暗殺、そして戦争へ忍び込んでの謀殺。
方法はいくらでもあった。だというのに上層部がこの作戦を敢行した意味が分からなかった。法国は宗教色がとても強い国だ。もし神が降臨されて、ガゼフを殺せと宣言されたのならロンデスも喜んでこの任務を請け負っただろう。
ロンデスは法国の中で末端とはいえ、神が降臨されたのならさすがに知らされる立場だ。だがそのような話は噂話としても流れてこないのであれば、国を牛耳っているのは上層部の神官たち。
その神官たちの横暴なのではないかと疑ってしまう。一人殺すために、村人を虐殺しろなどと。
この村での作業も一段落して、生き残っていた村人を村の中心部に集めている。ここからは隊長を任されているベリュースの独壇場だろう。彼は箔をつけるためだけに今回の作戦に参加して、略奪行為に悦を覚えた愚か者だった。
そんな人間が同じ国の、敬愛なる信徒とはロンデスは認められなかった。
ベリュースのおこぼれに与ろうとする周りの隊員たちも同様だ。ロンデスはさっさと帰還して報告書を書いて、この下衆どもを神聖なる国から排除したかった。
「オオオオオオオオァァァ!」
そのしわがれた、生者の物とは思えない咆哮が村に響き渡る。その声がした方向を見ると、2メートルは超す巨体に大きな盾と歪な剣を握ったアンデッドがいた。それが森からこちらに向かってくる。
それは圧倒的な力を持っていた。遠目から見ただけでわかる。一体で大都市を崩壊に持っていけるような、ドラゴンに匹敵する強者だと。
あの声を聴いてからあのアンデッドから目線を外せない。一体だけでも手に余るというのに。
「十体、だと……!?」
同じアンデッドが十体、こちらに行軍してくる。十体しかいなくてもあれは行軍だ。いや、人間の軍隊を相手にしていた方が生存率も勝率も確実に上だった。
そんな化け物が十体。ああいう敵から人類を守るために志願して軍人になったというのに、アレから人間を守り通せる自信など一欠けらもなかった。
そしてその後ろから、白銀の鎧とヘルムを身に着けた騎士がやってくる。その騎士の圧を見ただけで察してしまった。ここで死ぬと。しかも人類のために戦って華々しく散るのではなく、悪を為したことによって成敗される側として。
あの白銀の騎士こそ正義だと。弱者を守るために力を振るおうとしている意思を感じる。そして人類最強は彼だと。法国の六色聖典でも、彼には敵わないと本能で感じ取ってしまった。
さらにその後ろから神々しい獅子の頭をした天使が三体現れた。天使は法国にいれば幾度もなく目にする機会があったが、あのような神に連なると言われてもおかしくはない天使など初めて見た。
その天使は白銀の騎士に従うように浮いている。一番近くにいるアンデッドの騎士たちも白銀の騎士に従っているように見える。
彼は騎士である上に、生と死まで従えている。そんな存在に当てはめる言葉を、ロンデスは一つしか知らなかった。
「神……?」
「さて、そこなる騎士の皆々様。あなた方は我々の逆鱗に触れました。……あの御方を悲しませました。もう二度と、あの方を悲しませまいと私は誓ったばかりだというのに。我々に忌憚なく接してくれる、唯一かもしれないお嬢様方を傷付けたのです。その行為に対するあの御方の命令は鏖殺。……ええ、あなた方の思惑も知りません。如何なる理由で村を襲っているのかも知りません。
ですが、私も怒りましたし、あの御方の心を痛めるような行為をしたあなた方には相応しい命令だと思います。あなた方は一人として、人間らしく殺しはしません。村に倒れている方々のような殺しをしたのですから、自分たちが同じ目に遭うことくらい想定されていたでしょう?
――The goal of all life is death。死ぬことは、必ず訪れる生者の義務ですから」
その凛とした良く響く声はこちらへの神の啓示のようで、受け入れなければならないような、絶対の強制力があった。
白銀の騎士が右手に持っていた剣をこちらに向けると、一斉にアンデッドの騎士が突撃してきた。獅子の天使は集められた村人たちを守るように陣取り、白銀の騎士とアンデッドの騎士によって味方は蹴散らされていった。
宗教国家の人間が天使に歯向かわなければ任務を達成することができず、天使に向かおうとすれば背後から白銀の騎士とアンデッドの騎士に斬り伏せられる。
しかも見てみたら、アンデッドの騎士に斬られた味方はゾンビとして起き上がり、アンデッドの騎士の隷属を受け入れているようであった。味方がやられればやられるほど、敵の数が増えていく地獄。
この光景に一般兵たちは及び腰になっていた。
「お、お前たち!私を守れぇ!私はここで死んでいい人間で――」
ベリュースが言い切る前に、アンデッドの騎士によって両断されていた。その両断された身体が不自然にくっつき、ゾンビとして動き出してしまった時には声にならない声が上がった。死体の状態などお構いなしにゾンビに変えるらしい。
こんな異常事態に、今の部隊では対処しきれない。後詰めで来ている聖典の部隊でもどうにかできるとは思えなかった。それほどまでに、力に差がある。
だが、この情報は確実に国へ持って帰らなければ、国にもたらす被害がどれほどの物になるかわからない。
だからこそ、ロンデスは即決した。任務の遂行よりも情報の伝達が大事だと。
「撤退だ!全ての責任は私が請け負う!すぐに国へ帰還して――!」
「ホウ?あなたはこの中ではマトモなようですね。あなたがいいでしょう」
「あ――」
いつの間にか眼前に迫っていた白銀の騎士の拳を腹に受けて、ロンデスは気を失った。選ばれたのは幸運だったのか、この場で殺されるのが正解だったのか。それはこの場にいる人間には誰にもわからないことだった。
そして蹂躙が終わった頃――。上空より低く圧のある、絶対なる支配者の宣言が伝播する。
「そこまでだ、パンドラ。ゾンビになった者は灰にしろ。騎士は一人残らず身体も魂も残さないように、蘇生魔法も効かないように、徹底的に処分しろ。村の方々の目に映らぬところでな。人間とも思えない悍ましき何かに、遠慮はいらん」
「ハハッ!」
生き残った村人たちは、上空から降りてくる一人の男性の言葉に白銀の騎士が敬礼をして従順を示し、天使やアンデッドの騎士が傅いているのを見て理解する。
彼こそが、彼らの主だと。
モモンガ様「こんな虐殺する奴らは、人間じゃねえ!なら遠慮はいらんな!」
今回の話のまとめ。
でも、この話と次の話、たぶんこの小説の中で一番大事な回かもしれない。