強くてニューゲーム   作:トモちゃん
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わた、アルベド様は慈愛の女神。
魔導国の至宝。
異論は認めない。


11話

復活した市民たちは魔導王の魔法により作られた建物にて夜を明かすことになった。

朝日と共に現れたのは神話の軍勢。

女神のごとき美女に率いられたそれは一糸乱れぬ統制のとれた動きで見るものを圧倒するものであった。

ドラゴンや天使、恐るべき力を感じさせる魔獣達、そして昨日都市を襲ったアンデッドよりはるかに強いと思われるアンデッドの群れ。

市民たちの恐怖は、アインズに跪く彼らの姿を見て霧散した。彼らは神の使いなのだと。

 

復旧が進むエ・ランテル郊外で、親と逸れたのであろう少女が泣いている。

体も碌に洗ってないのか、薄汚い格好をしている。

「あら?貴方どうしたの?一人?」

優しい声に顔を上げると金色の瞳に艶やかな黒髪、捩れた角。絶世の美女が優しく微笑んでいた。

「お、お母さんがいないの」

「そう、お母さんとはぐれてしまったのね?大丈夫よ、一緒に探してあげるから」

そう言って、汚れるのも気にせず、優しく少女を抱きかかえる。痩せこけて、ガリガリの体だ。

「さあ、お母さんはどこかしらね?ねえ、貴方は何か困っていることは無い?」

「あ、あの、お母さんが、働くところが無くって。それで、私、何か出来ることが無いかなって、思って」

「そうなの。じゃあ、私がお仕事を探してあげるわね。大丈夫、アインズ様の下では、皆幸せに暮らせるわよ。これからはお腹一杯お食事が出来るわ」

「本当?もうお腹が空いて眠れないとかしなくて良いの?」

「ふふふ、勿論よ。お母さんが見つかったらお話してみましょうね」

程なくして、母親と思しき女性が見つかった。

「アルベド様、ありがとうございます」

「ふふ、良いのです。この国の民は全てアインズ様の子供。ならば、妃たる私の子供も同然。子供たちを慈しむのは当然のことです」

「す、すみません。あ、あの、お召し物に泥が」

高貴な方の服を汚してしまった。学のない自分だって知っている。最悪は死罪だと。

「ん?ああ、服は洗えば良いのです。気にすることはありません」

小首を傾げる女神の微笑みは、慈愛に溢れていた。

「お母さん!アルベド様がお仕事を見つけてくれるって」

「もし良ければ、農場で働いてみないかしら?一日三食の食事は保証するわ。この子の分もね」

「え?ほ、本当ですか?でも、私は、あの、こんなみすぼらしい格好で学も無くって、あの」

「大丈夫。私と、魔導王陛下を信じてくれる?絶対に後悔させないと約束するわ」

アルベドの聖母のごとき微笑みに、母親は感激の面持ちで涙を堪え切れず、頭を下げる。

この聖女とその敬愛する夫、魔導王がこの国を治める限り、魔導国の未来はきっと、いや、間違いなく明るい。

 

魔導王の正妃たるアルベドの、誰にでも裏表のない優しさは、あっという間に評判となり、慈愛の女神と称えられるほどだった。

昼夜を問わず、民の為に復興の指揮を執る魔導王を支える賢妻。

魔導王に対しては、まるで恋する乙女のよう、いや、実際に恋しているのだ。

男なら誰でも、あの笑顔が自分に向けられるなら、世界を敵に回しても後悔しないだろう。

王国の黄金が霞むほど、魔導国の至宝、純白の王妃は輝いていた。

 

当初、誰もが、魔導王は自分で勝手に都市計画を進めるだろうと考えていた。

ところが、魔導王は下々の者が相手でも話を聞いてくれる。

「私はアンデッドだ。君たち人間の体とは異なる。私の僕たちもそうだ。だからこそ、この都市で最大の人口を誇る、君たち人間の意見が聞きたいのだ」

本当は、全ての意見を聞きたいのだが、それは難しいだろうからという理由で、代表者を50名選出し、彼らと協議することになった。

驚くべきことに、この代表者たちは貴族などの支配者階級のもの以外に、冒険者や商人、果てはスラム街の人間までいるほど多種多様だった。

「貴族と商人と、何が違うのかね?服を脱いだら、皆同じ人間だろう?」

まあ、私は骸骨だがね、と笑う魔導王の言葉は、全ての民に衝撃を与えた。

魔導王は、知恵と力、寛容さと威厳、そして全てを魅了するカリスマを備えた理想の支配者だった。

 

「恐れながら、魔導王陛下。陛下はこちらへ来られてから働きづめでございます。少し、休憩を取られた方が宜しいのでは」

「私はアンデッドだ。疲労しない体なのでな、問題は無い。それに、民があってこその王。民を守ることこそが王の務めだ。ああ、お前たちはちゃんと休むのだぞ?疲れた頭では効率の良い仕事は出来ん。体を休めることもお前たちの役目と知れ」

誰よりも偉大な王は誰よりも勤勉だった。

魔導王をアンデッドだと忌避するものは―神殿勢力ですら―このエ・ランテルにはいなかった。

 

「アインズ様~」

可愛らしい少女、いや、女装した少年がとてとて、と駆けてくる。

アインズ・ウール・ゴウン魔導王の階層守護者、マーレ・ベロ・フィオーレ。

偉大な王に仕える彼自身も強力な魔法詠唱者だ。彼の力が無ければ都市の再建など不可能だっただろう。

「おお、マーレ。どうだ?仕事は順調か?ちゃんと休憩は取っているか?食事を抜いては駄目だぞ?」

優しく頭を撫でながらマーレに話しかける魔導王の姿は、復興中のエ・ランテルでは見慣れたものだ。

市民たちが微笑ましい二人のやり取りを見つめている。

「は、はい。もうすぐ、必要な建材は作り終わります。そ、それと、ちゃんと休んでますし、ご飯も食べてます」

「良し、偉いぞ」

わしわし、とちょっと乱暴に、しかし愛情たっぷりに頭を撫でる。

「えへへぇ…」

マーレの目尻がトロンと下がる。

「む、そろそろ食事の時間だな。さあ、マーレ、アウラを迎えに行こうか」

マーレを抱きかかえると、そのまま郊外の食堂へと向かう。

エ・ランテルの難民たちは、全て、アインズが臨時で建てた食堂で食事を取っていた。

そこで提供される料理の味は、貴族たちですら食べたことが無いほどだった。

復興が終われば、一般の民ですら、これらが普通の食事になると聞き、民の復興意欲はいよいよ高まっていた。

 

「あ~!マーレ、ズルい、アインズ様、あたしも!あたしも抱っこ」

アインズとマーレの姿を見つけるや否や、ピョンピョンと、アインズの周りを飛び跳ねるアウラ。

「ははは、アウラもまだまだ甘えん坊だな」

両腕に闇妖精の双子を抱え、アインズは食堂へと向かう。

「あら、二人とも、お行儀が悪いわよ」

笑顔で迎えるアルベド。

「只今、アルベド。さあ、この子達にお昼を」

「畏まりました。ですが、二人ばっかりズルいです。私も」

アルベドがアインズの首に両腕を回し、抱き着いてくる。

周りの民たちはまるで仲の良い親子のような姿に癒されながら見ていた。

ただ一人、アインズだけはアルベドの鼻息が荒くなっていくのが怖かった。

 

蒼の薔薇がエ・ランテルに来てから既に2週間が過ぎた。

「なあ」

不意に口を開いたのは戦士ガガーラン。

「もうさ、全部魔導王に任せて良いんじゃねえか?王国もさ」

「あのねえ、それを見極める為にここに来たんでしょ?」

「だからさ、もう王国の王様になってもらったら良いじゃねえか。魔導王にさ。この都市見ろよ」

 

女神のごとき美女、アルベドが引き連れてきた僕たちの力であっという間に瓦礫が撤去され、綺麗な更地になるまで僅か半日。

そして、市民たちにアンデッドという労働力を貸し与えて工事に参加させること僅か2週間。

廃墟と化した都市が、既に全ての道が石畳で舗装された美しい街並みに変わっていた。

街路の端には街路灯が設置され、夜になると周囲を明るく照らしてくれる。

区画毎に設置された公衆浴場では、市民ですら無料で風呂に入ることが出来る。

体を清潔に保つことが病気の予防になる、との魔導王の考えによるものだ。

強力なアンデッドが巡回しているおかげで治安は非常に良い。

そのうえ、発表された税率は今までよりずっと低い。

 

スラム街の住人はカッツェ平原で働いている。

かつて、恐ろしいアンデッドが蔓延る危険地帯だったカッツェ平原は、既にエ・ランテルの食糧庫だ。

大量に立ち並ぶ大きな倉庫には、それ自体に保存(プリザベーション)の魔法がかけられており、食材が痛むことはない。

労働環境もとても良い。一日の労働時間は最長8時間。食事は三食、新鮮な野菜に王族でも食べられないようなフワフワの白パン、脂ののった豚や牛の肉。

アンデッドを使用するという嫌悪感さえ何とかなれば実に魅力的な職場だった。しかも五日働いたら二日の休暇が与えられる。

衣類は綺麗なものが全て支給される。ボロを着て、作業中に引っ掛かったりすることが無いようにとの配慮だ。

仕事を休んでも給料が出る有給休暇という驚きのシステムもある。一年で20日与えられるそれは、消化率9割以上が義務付けられている。

労働条件と給料の額が知られる頃には、ここで働きたいというものが殺到するほどだった。

 

「こんな国、世界中探したってどこにもねえぞ。最初に魔導王の話を聞いた時にゃ眉唾物だと思ってたが、本当に理想の国を作りやがった。マジで楽園だぜ」

口は悪いが市民たちの姿を見てきたガガーランは、魔導王の治世に素直に感心していた。感動と言ってもいい。

「真っ当な人間が報われる理想の国の形ね」

貴族として、王というものを身近に見てきたラキュースにとっても魔導王は正に理想的な為政者だった。

気さくに市民に話しかけ、何か問題がないか聞いて回る姿は親しみさえ覚える。

圧倒的な強者でありながら、子供たちにも優しく、正妃アルベドとの仲睦まじい姿はまるで一枚の宗教画のような美しさと神聖さを感じさせた。

「アウラ様が最高」「マーレ様が至高」

「そんな話をしてんじゃねえよ。だが、俺はセバス様だな」

「お前、童貞好きとか言ってたじゃないか。セバス様はどう見ても違うだろ」

「だってお前、俺を女扱いできる紳士とかあの人が初めてだぜ?惚れても仕方ねえだろ。マジで抱かれてえって思ったのは生まれて初めてだぜ」

「ちょっと、だからそんな話をしてるんじゃないのよ」

「パナソレイ都市長の名前で王国からの離脱、魔導国に恭順するって声明を出したんだろ?」

「これで馬鹿な貴族たちが騒ぎ出すわよ」

「私たちの出番?」「始末する?」

「駄目よ、貴方たちは、もうそういう世界から足を洗ったんだから」

双子の忍者は自分たちの大切な仲間だ。裏の世界に戻すようなことはさせられない。

「とりあえずは帰ってからラナーに報告ね。それでイビルアイ、リグリットと連絡は取れた?」

「いや、あの婆どこにいるのか。伝言(メッセージ)も繋がらない」

「しょうがないわね。ツアーの方はどう?」

「こっちは繋がった。全部事実だってさ。評議国は全面的に魔導国を支持するそうだ」

「どっちにしたって、王国は亡びるしかねえんだ。最悪の亡び方をしないように動くしかねえだろ」

「さあ急いで帰りましょう。馬鹿っていうのは行動力だけはあるんだから」

「おう、んじゃ、ちょっとセバス様に挨拶してくるぜ。お持ち帰りされたら、お前らだけで先に帰っといてくれ」

「マーレ様を見納め」「アウラ様を視姦してくる」

「ちょっと貴方たち、急ぎだって言ってるでしょう?」

貴族たちが余計なことをしでかす前に釘を刺しておかなくては。

最悪は暗殺という手段を使ってでも。

 




アルベド「スーハ―スーハ―、クンカクンカ、ハァハァ、フッフー」
アインズ「落ち着けアルベド!ステイ、ステ~イ」






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