なぜ韓国だけが他のどの国よりも「反日」なのか

2017年01月12日 11:30
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Robert E. Kellyという、米国人の政治学者で韓国の釜山大学で准教授を務めておられる方が2015年に書かれた「Why South Korea is so obsessed with Japan(なぜ南韓は日本のことで頭がいっぱいなのか)」という記事は、過去に産経新聞のニュースでも部分的に取り上げられていたようだが、今改めて読んで見ると実に興味深い。

この記事においてKelly氏は韓国在住の米国人知識人という立場を生かし、実に第三者的に、ほとんどどちらのサイドにも感情移入をすることもなく韓国人の日本に対する嫌悪感情(彼はこれをAnti-Japanismと呼んでいる)の異常性を指摘し、この異常事態がなぜ生じているのかを淡々と論じている。

2年も前の英語記事なので、既にいくつかのブログやニュース記事でも邦訳・紹介されているが、Kelly氏の記事は今この時期にこそ改めて注目されるべき内容であるし、また私なりの見解を加えつつ解説をしたい部分もあるので、ここでは敢えて改めてこの記事の内容を要約しながら適宜引用し訳していくことにしたい。

まず、冒頭からして早速Kelly氏は「韓国の異常性」に対する純粋な驚きを表現している。

It is immediately obvious to anyone who has spent substantial time in South Korea that its people and its elites have an extraordinary, and negative, fixation with Japan.

(邦訳)ある程度韓国で時間を過ごしたことのある人には即座に明白であるように、韓国の民衆及びエリート層はともに日本に対して常軌を逸した、そして否定的な執着を持っている。

また、韓国メディアが普段どのように日本について報道しているかについても言及している。

Korea’s media talks about Japan incessantly, usually with little journalistic objectivity and in negative terms: as a competitor for export markets which must be overcome, as a rival for American attention, as an unrepentant colonialist, as a recipient of the ‘Korean Wave’ (watch Korean analysts triumphantly argue that Japanese housewives are learning Korean), as a lurking military imperialist just waiting to subdue Asia again, and so on. (太字は私の編集)

(邦訳)韓国メディアは日本についてばかりひっきりなしに話題にするが、大抵は報道としての客観性はほとんどなく、またそこでは否定的な言辞が多用される。例えば、輸出市場獲得を争う打ち負かすべき競争相手として、アメリカの注目をめぐって争うライバルとして、全く反省の色を示さない植民地主義者として、「韓流ブーム」に便乗する消費者として(韓国のアナリスト達が勝ち誇ったように日本の主婦達が韓国語を学んでいると主張するのを見よ!)、あるいは再びアジアを征服する時を今か今かと待ち構えている軍事帝国主義者として、などだ。

また、韓国がLiancourt Rocks(竹島)に異常に執着していることや、韓国の独立記念日には子供達が日本軍を模した人形に水鉄砲を撃ったりすること(On Korean independence day, Korean children use squirt guns to mock-kill dressed-up Japanese soldiers)などにも触れ、これらの例に見られるような異常な日本に対する執着はきちんと説明されなければならない(this obsession cries out for explanation)とKelly氏は言う。

そこでKelly氏が考えるこの事態に対する「説明」とは、以下のようなものだ。

South Korea’s nationalism is negative, defined very much against Japan and, importantly, not against North Korea. The reason, I hypothesize, is that North Korea so successfully manipulates Korean nationalist discourse that South Korea cannot define itself against North Korea

(邦訳)韓国のナショナリズムは常に「何かの否定」として現れるが、特に「日本」の否定によって特徴づけられ、かつこれが重要なのだが、「北朝鮮」の否定としては現れないのだ。この理由は、私の仮説では、北朝鮮が実に見事に韓国のナショナリストの言説を操作しているために韓国側が北朝鮮に敵対する形で自己を規定できないからである

北朝鮮が「マルクス主義」あるいは「社会主義」といった西欧由来の思想よりも、「主体思想」に基づいて「朝鮮民族」ないし「韓民族」の優越性を基礎とする自民族優越主義(ethnocentricism)を基調としたイデオロギーによって成り立っていることは日本でもよく知られているが、この影響が実は韓国にもより否定的な形で及んでいるとKelly氏は言う。

This would not matter if South Korea’s political identity were democratic and post-racial, but it isn’t. The minjok myth is in fact deeply resonant. South Korean education teaches it (the resultant racism is a huge problem); government media campaigns and commercials stress it; my students write about it in glowing terms; until a few years ago the national pledge of allegiance was to the minjok, not to the democratic state.

これ(韓国は北朝鮮に比べて「朝鮮民族としての純粋性」という点でどうしても劣らざるを得ないこと)は、もし韓国の政治的アイデンティティが民主的でポスト人種主義的であれば大して問題にならないのだが、しかしそうではないのだ。「民族」神話は実は深く反響している。韓国における教育でそれは教えられているし、(その結果生じる人種差別は深刻な問題である)政府系メディアも民族キャンペーンを実施し、民間のCMでも強調されている。私の学生達もそれについて煌びやかな言葉で書いてくる。つい最近まで国家の忠誠誓約は民主国家に対してではなく(朝鮮)民族に対してされていた。

つまり、韓国在住のアメリカ人政治学者から見て韓国は決して民主政治がしっかり根づいた国とは言えず、むしろ韓国における政治的正統性(legitimacy)は「朝鮮民族」に対する忠誠の程度によってのみ担保されるのが実態だ。

だが、哀れなことに韓国人は北朝鮮人に比べて「朝鮮民族」としての純粋性において劣っているという自覚を持っており、従って「朝鮮民族」としての責任を韓国人でありながら果たすためには仇敵日本を叩き続けるしかない、かつそうすることに対してはアメリカも、中国も、ロシアも、北朝鮮も、また国連や国際社会も別に文句を言わない。文句を言うのは日本だけ、否、日本の「右翼」だけであり、同じ日本人でさえも「リベラル」派は文句を言わないどころか韓国人の反日感情を真に受けて「謝罪」にとどまらず「賠償」までしてしまう。そうであるなら、急速に進む西欧化、グローバル化の中でアイデンティティを失いつつある韓国人にとって「反日イデオロギー」ほど便利なものはない、というのがKelly氏の見解である。

つまり韓国人は「日本のリベラル」のように「愛国心や民族的プライドなど失ってなんぼ」と開き直ることもできず、かといって北朝鮮のように経済的利益を犠牲にしてまで「民族主義」を徹底することには躊躇し、そんな自己に対して道義的負い目を感じつつもそれを「反日」という形でしか表現できない実に憐れむべき状態にあるとのことだ。

だが、仮にそうだとするならこれは日本にとっては迷惑千万な話である。日本人としてはとんだ「とばっちり」であるが、それにしても韓国人の勝手な都合でこれほど国際的名誉を傷つけられるなどたまったものではない。名誉毀損ないし侮辱罪で訴えてもいいくらいだ。加えて、仮令日本が完全にリベラル化し、西欧のリベラルに言われるがままに韓国に謝罪と賠償を永久に続けて、教科書から何から全て韓国様の仰せの通りに書き換えたところで、彼らが反日化している原因が実は日本そのものにあるのではなく、韓国人の北朝鮮に対する劣等感に端を発するidentity crisisにあるというのであれば、韓国の反日姿勢は韓国人自身が変わらない限り一向に改善しないだろう。

誰が韓国をracial ideologyから救い、democratic stateへと変えることが出来るのか。そんなことは誰にもできないだろう。そもそも完全にracial ideologyを克服しているのは最初から多民族国家として成立したアメリカくらいのものであり、ヨーロッパ諸国にだっていまだにracial ideologyは残存しているのである。となれば、現実に韓国を脱反日化するには結局南北朝鮮の統一しかないのかもしれない。またその日が来るまでは日本側も「反日」が韓国にとってのoptimal choiceであるという状況をいつまでも許すつもりはないとはっきり示すべきだろう。その意味で安倍政権の今回の対応は実に正しい。いずれにせよ、真に日韓関係を改善したいのであればリベラル派は「自虐史観」のみに囚われるのではなく、こうした冷静な第三者の意見を少しくらいは参考にすべきではないだろうか。

*追記:ここではRacial ideologyというのは、ある国家における政治的正統性が特定の人種的グループへの忠誠によって担保され、かつされるべきだとする主張という意味で使われている。ヨーロッパ諸国は元来圧倒的多数の白人とごく少数のマイノリティのみで成り立っていたので、仮令どれほど「リベラル化」しようとも、例えばフランスの場合であれば “franco-français”という言葉があるように、「生粋のフランス人」といった概念は決して無くならないし、生粋のフランス人ないしフランス文化を守れという「保守的」主張も常に出てくる。だが、アメリカ合衆国は最初から「白人」だけの国ではない(ネイティブアメリカンの方が正統性を持っている上、多くの黒人も初期から在住している)し、よりリベラル化した現在では「アメリカへの忠誠」や「アメリカ文化」が事実上「アングロ・サクソン系の白人への忠誠」や「アングロ・サクソン系の白人の文化」を含意することはほとんどない。アメリカにおいて残酷なほど露骨な人種差別が存在することと、アメリカの政治思想においてracial ideologyが跋扈する余地があるかどうかということは全く別の問題である。日本で「日本人の為の政治を」求める声が出たり、あるいはドイツで「本物のドイツ人の為の政治」を要求する運動が生じたりするのと同様な形で、「本物のアメリカ人の為の政治」を求める声はアメリカでは出にくい。そもそも「本物のアメリカ人」が何なのかはっきりしないからだ。白人のアメリカ人が黒人のアメリカ人を差別するということと、白人でなければアメリカ人と認められにくいという現実が存在することとの間には明白な違いがあり、かつ前者は後者を必ずしも伴わない。本稿における”racial ideology”というのは、特に後者のような国民としてのアイデンティティに人種概念が侵食している現象のことを指しており、前者を含むracism全般を指しているわけではないことを念のため断っておく。

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