ツアー「どちら様ですか?」
アインズ「おいおい、忘れたのかよ?前世の友達だよ」
ツアー「もしもし、警察ですか?不審者が家の前にいるんですが」
前世において、最も強かった国は評議国だろうが、大変だったのは法国だ。
大陸中央部の亜人たちの国家群は国力自体は法国よりも上だったが、戦力が整った魔導国の敵ではなかった。
今世では既に法国は手中に収めた。
次は評議国だ。ここを抑えればまず危険はないだろう。
評議国といっても、ぶっちゃけると白金の竜王ツアー一人さえどうにか出来ればそれで良い。
アインズは完全不可知化の魔法を唱えると、
―評議国某所―
白金の竜王<ツァインドルクス=ヴァイシオン>は呆然と目の前の闇を見ていた。
いつからここにいたのか、全く気付かないまま、致命的な間合いにいた。
「スルシャーナ?」
言ってはみたが違うと確信していた。彼とは雰囲気が似ているが力の桁が全く違う。
恐らく探知阻害の魔法でも使っているのだろうが、ドラゴンの優れた知覚は目の前の存在が圧倒的な強者であることを教えてくれる。
「ツアーよ、お前も私のことを覚えていないのだな?」
「生憎と、僕の記憶にはないね。君のような存在は一度見たら忘れるはずがないからね」
「むう、やはり巻き戻ったのは私一人か。ツアー、お前の所持するアイテムは前と変わらないか?」
「ん?ああ、全く同じだよ。増えたり減ったりすればすぐに分かる。ドラゴンの本能というやつでね」
ドラゴンはどうしようもなく、財宝に惹かれる性質を持つ。それ故か、自分の塒にある財宝が奪われたりすればどこにいても感知できる能力を持っている。
「はあ、改めて自己紹介をしよう。私の名はアインズ・ウール・ゴウン。今回もよろしく頼む」
「は、初めまして?ツァインドルクス=ヴァイシオン、ツアーと呼んでく、いや、もう呼んでたな。それで、君は一体何者だい?」
「多分、信じられないだろう荒唐無稽な話をするが、とりあえず聞いてくれ。ああ、それから、私のことはアインズと呼んでくれ」
「分かったよ。それではアインズ、聞かせてくれるかな?」
それを信じろというのは無理だろう……。それがツアーの感想だった。
たっぷり数時間、アインズの前世の話をされたわけだが、どう考えても信じられない。
ユグドラシルからの転移は100年毎に行われているので、それは分かる。
だが、この世界が30万年後に滅びるから協力しろと言われてもアインズ自身が言う通り、荒唐無稽な話としか思えない。
「信じられないのも無理はない。だが、前世ではお前の意思を尊重してやっただろ。今度は私に協力しろ」
「いや、僕の意思を尊重してやったとかそんなこと言われても、僕は覚えてないし…。それに、僕が協力するとなると、スレイン法国が黙っていないだろう?」
「スレイン法国は黙らせた。問題ない」
「は?え?どうやって?」
「スルシャーナを乗っ取った」
どうやらアインズはスルシャーナに成り済まし、見事に法国を騙したらしい。
「嘘はついてないぞ。私はスルシャーナではないと何度も説明したからな。法国の連中が勝手に勘違いするかもしれんが、それは彼らの責任だ」
「はあ…それで、僕は何をすればいいんだい?」
「うむ、この星を救うためには、おそらくワールドアイテム
アインズの説明では、ワールドアイテム単体では無理だとか。
そこで、同じくワールドアイテムのカロリックストーンと超位魔法を併用する計画らしい。
アインズの長年の研究により、儀式により超位魔法も強化出来るそうだ。
その強化の儀式にワイルドマジックを使ってほしいとのことだ。
最終的に星の崩壊を防ぐ、もしくは新しい星を作る、というのが目的だそうだが…神かな?
「思ったほど無茶な話じゃなくて良かったけど、いや、やろうとしてる事は無茶苦茶だけど。」
「ワールドアイテムは元々、世界一つに匹敵するデータ量を持つ。世界を作るのにこれ以上のアイテムは無い」
「ええと、それはもう、神の領域だよ?星が滅びるなら、それが自然じゃないのかい?」
「前世と同じことを言うな。生きている以上、死を避けられるなら何でもやるんだ。みっともなくても這いつくばってでもな。諦めて滅亡を受け入れるのは全てやり尽くした後だ」
「君はアンデッドなんだよね?何か生者より生者らしいんだけど」
「さっき話した通り、私はプレイヤー。元々は人間だからな。生者っぽくても仕方あるまい」
「…ねえアインズ?君がやろうとしていることが上手くいったとして、そうしたら君は本当に神になるよ?世界を維持するために、たった一人で。スルシャーナを見てきた僕は知っている。それはきっと孤独で、辛いことだと思う」
「安心しろ。私は一人ではない。共に生きる子供たちがいる。それにな、この世界は嫌いじゃない。人間にも亜人にも、楽しい奴らが沢山いるんだ。勿論、ドラゴンにもな。それと、さっき話しただろう?私は前世でも神をやってたんだぞ。30万年も。休みなしで。というか、そもそも家が職場だから休みといっても色々仕事してるし。配下の連中は休みを取ろうとしないし、何であの仲間たちが作ったのに社畜属性が強いんだろうな?それでな?」
長くなりそうなので無理やり本題に戻すことにした。
「いや、出来るんだったらそれで良いんだ。ところで、その目的のアイテムを手に入れる算段はあるのかい?」
「ああ、今から200年後に現れるギルドが持っている。そいつらから奪取する」
「え?奪い取るの?えらく強引なやり方だが大丈夫なのかい?」
「問題ない。ギルドの場所は分かっているから転移と同時に殲滅する。奴ら、前世ではいきなり攻撃を仕掛けてきたからな。手加減は無用だ」
表情は変わらない骨の顔だが、ニヤリと笑ったのは分かった。この骸骨、殺る気満々だ。怖い。
「で、だ。それまでに世界を纏めておく必要がある。なので、とっとと世界征服することにする。評議国も同盟国として協力してくれ。取り急ぎ、建国するので近隣各国に同盟国としての声明を出してくれれば良い」
「サラッというけど大ごとだよね?」
「ツアー、この星はお前にかかってるんだ。もし協力してくれないなら明日の評議国の天気は隕石の雨かもしれんぞ?知っているか?第10位階魔法
「僕に拒否権は…ないんだよね?」
「勿論だ。お前は前世で俺に「君はもっと我儘になっても良いんじゃないかな?」と言ってくれたからな。今世ではやりたいように我儘に行くぞ」
前世の自分とやらをぶん殴りたい。無茶苦茶な話だが、この骸骨が治める魔導国の形は悪くない。力では止められない相手だし、協力する方が賢いのだろう。
「分かったよアインズ。君に協力するとしよう。でも、なるべく自重してくれないか?君にもっと我儘になれって言った前世の僕は、多分、そう、魔が差したんだ」
「ん?そんなことはないだろう。それに、俺はお前の言葉が嬉しかったよ。また今世でもよろしくな、友よ」
「ああ、よろしく、新しい旧友」
「あ、そうだ、言い忘れてた。俺、結婚したから」
「え?あ、うん。おめでとう」
骸骨にお嫁さん?骨の?
「お前も相手を見つけろよ。前世だとお前、生涯童貞だったからな」
聞きたくも無かった言葉を残し、骸骨は姿を消した。
ナザリックの執務室に戻ったアインズは早速、階層守護者とパンドラズアクターを集め、報告を行った。
「というわけで、評議国も我々に協力してくれることになった。これで周辺で脅威となりうる国家は全てナザリックについたことになる」
転移からわずか数日で、人類最強の国家を掌握し、多種族を支配する国家の協力を取り付けるとは。
これこそが至高の御方々を纏め上げていた至高の支配者の本当の力なのか。
流石アインズ様、と感嘆する守護者達。だが、アルベドとデミウルゴスは不安な顔だ。
これ程優れた智謀の王に自分たちの力がどれだけの役に立つのだろう。
「さて、アルベドにデミウルゴス、そしてパンドラズアクター。ナザリックの誇る知恵者たちよ。お前たちの出番が来たぞ」
まるで自分たちの不安を知っていたかのようなタイミング、その声は正に福音だった。
「お前たちに厳命しておかねばならないが、私が作る国は全ての種族が幸福に生きることを許された豊かな楽園だ。罪人には罰を、善良な者には安寧と富を。民が幸福と繁栄を甘受してこそ、その国の支配者の偉大さが分かるというもの。それを貶める行為は厳に慎め」
「正に、アインズ様が支配される国に相応しきお考えであると愚考いたします」
「うむ。さて、建国にあたり、首都はエ・ランテルになるだろう。彼の都市に放っている僕たちからの情報の報告を」
「はい。エ・ランテルの情報はこちらの資料にまとめております。どうぞご覧ください」
分厚い紙の束が全員に配られる。
「良くまとまっているな。流石はアルベドだ」
愛しい夫に褒められ、頬が赤く染まる。
「この都市を私のものにする為の良い案はあるか?力で支配するのではなく、住人が自分から私の庇護を望むような形が望ましい。」
「う~ん、アインズ様が支配して下さるんだから、喜んで受け入れるんじゃないかな?」
「アウラ、それは当然のことであるけれど、人間ごときにはアインズ様の偉大さが分からないの」
「全く、人間というのは本当に愚かでありんすね。アインズ様の下にこそ幸福があるというのに」
「その哀れな人間を導いて下さるというのだから、本当にアインズ様の御慈悲は深く、尊いのだよ」
「デ、如何ニシテコノ都市ヲ落トスノダ?」
「此処は場所柄、アンデッドが発生しやすいらしいからアンデッドに襲撃させ、それを救う形がよろしいかと」
「ほほう、良い案だ、デミウルゴス」
「ありがとうございます。では、どのようなアンデッドを使用致しましょうか?やはり、ある程度は脅威で無くてはなりません」
「でも、ナザリックの戦力やアインズ様の作られたアンデッドを使用するのは問題よ」
「それは当然だね、アルベド。アインズ様の財を無駄にすることなどあってはならないことだよ」
「で!は!私がアインズ様に変身して、カッツェ平原でアンデッドを支配してまいりましょう。まだアンデッドの発生する地域は残っていますし」
卵頭のドッペルゲンガーがくるっと華麗なターンを決める。どうでもいいが、一々ポーズを決めるのを止めろ。
「それは良いアイデアね。エ・ランテル周辺の治安も向上するし、一石二鳥かしら」
「いや、それには及ばない。お前たち、これを見ろ」
先ほどの資料のある一部分を骨の指が指し示す。
「ズーラーノーン?アンデッドを使う秘密結社?」
「身の程知らずな連中でありんすねえ。アンデッドを使いたいなら、こいつらを眷属にして差し上げんす」
「僕たちの報告では、何か大きな事件を起こそうとしているみたいね。でも、この世界の人間が出来ることなんて、精々第6位階程度の魔法でしょう?大したことは出来ないのではないかしら?」
「いや、こいつらに合流した、このクレマンティーヌという女が持つアイテムがあればもっと大きなことが出来る」
「と仰いますと?」
「叡者の額冠というアイテムがある。これを使用すれば、より高位の魔法が使えるようになる。こいつらの能力と今回の目的からすると、第7位階魔法
「そのようなアイテムが?」
宝物殿の守護者であるパンドラズアクターが驚愕の声を上げる。
「お前が知らないのも無理はない。それはこちらの世界のアイテムだからな。まあ、適合者が100万人に一人とか、使用者の自我が崩壊するとか、余り有用なアイテムではないな」
既にこの世界特有のアイテムの知識まで得ているとは、守護者達はさらにアインズへの尊敬の念を強くする。
「さて、それを踏まえて、エ・ランテルで最も有名なタレントは何だ?」
「…なるほど、そういうことですか」
「そうだ、デミウルゴス。彼らはこのアイテムを使用できる人間を誘拐し、アンデッドを大量召喚するつもりだ」
「それをアインズ様が解決するのですね?」
「うむ、だが、こいつらが召喚できるアンデッドなど嵩が知れているからな。我々がサービスしてやろう」
「なるほど、彼らは身の程知らずにも自分の領域を超えた力を行使し、想定以上のアンデッドを召喚してしまう」
「そして、そのアンデッドの暴走によって自分たちも殺されてしまうというわけね」
「収拾が付かなくなって大混乱に陥る都市をアインズ様が颯爽と現れて救ってくださるって訳だね」
「あらすじはそんなところだ。演出はパンドラズアクター、お前に任せよう。脚本はデミウルゴス、お前だ」
「「はっ、ご勅命、謹んで拝承致します」」
「アインズ様?私は?」
「アルベド、お前は私と共に主演を務めるのだ。お前の美貌は混乱に陥った都市の住人に安心を与えることだろう。良いな?慈悲深い淑女として、私の正妃として恥ずかしくない態度を心掛けよ」
「畏まりました。このアルベド、アインズ様の伴侶として、必ずやこの大役を成し遂げて見せましょう」
良し、これだけ念を押しておけば大丈夫だろう。前世でも人前では我慢できたんだし。
「シャルティア、お前にも働いてもらうぞ。アンデッドを殲滅する戦乙女は神話然として話題になるだろう」
「はっ!お任せくださいアインズ様!」
「さて、こいつらは数日の内に行動を開始することだろう。すぐに準備に取り掛かれ。それとデミウルゴス、アルベド、パンドラズアクターは今後の都市計画についても作成せよ」
いよいよ我らが最高の支配者が表舞台に立つのだ。
守護者たちは興奮の中、行動を開始した。ここで役に立つことをお見せするのだ、と誰もが使命に燃えていた。
ツアー「個人情報を暴露された。訴訟も辞さない」