007
俺は前世の記憶が戻るまでの自分が言いたかったが言えなかったことを父に話すことに決めた。
記憶を取り戻す前から俺はローエンハイム家の跡継ぎはカーティスがなった方が良いと思っていた。
俺の生みの母親は一応貴族ではある。しかし領地を持たない法衣貴族の男爵出身だ。それに比べてカーティスの母親であるイザベラは伯爵家のご令嬢だ。
法衣貴族の男爵と領地持ちの伯爵とでは位は二つも違うし力関係がぜんぜん違う。そのうえこのあたりの貴族の中で幅を利かせている。
貴族たちの中ではカーティスを次の子爵にと推す声は大きい。誰がどう考えてもカーティスが次の跡継ぎに相応しいはずだ。
カーティスが跡継ぎに決まればイザベラのいじめも無くなるだろう。
父がいまだに亡き母を愛していて俺に後を継がせたいのは良く分かっている。
だけど父もうすうす感づいているはずだ。昨日のパーティーでも貴族達の対応をみたら誰でも気付く。気付かないわけがない。
それにこれからのローエンハイム家のことを考えればカーティスを次期当主にした方が良いに決まっている。俺が相続を放棄すれば全て丸く収まる。
今まで俺をいじめてきたイザベラの喜ぶ顔を見るのはおもしろくないがカーティスは可愛い俺の弟だ。カーティスが家を継ぐことは記憶を取り戻す前の俺も考えていたことだ。
別に俺は家を追い出されても一生働かなくてもいい金を持っている。魔物や魔族、最後に魔王を討伐したときの報奨金や送られてきた財宝などが【
それに冒険者として今の俺でも一日に5万
「お父様。 私はローエンハイム家の相続を放棄します。 血筋から言っても伯爵家の血を引くカーティスが家を継いだほうが良いでしょう。 僕の母は法衣貴族の男爵の出です。
マクミラン伯爵家はこの辺りでは力を持った貴族です。 法衣男爵家の血を引く私が家を継ぐのは不利益でしかないのです。
どうか私の言うことを聞いて私を廃嫡して下さい。 お願いします」
「馬鹿者が。 お前は正当なローエンハイム家の嫡男なのだぞ! なぜそんな悲しいことを言う。 今は家庭教師の話をしているのだ。 家の跡継ぎなどの話をしているのではない。 お前は何を考えている」
父は俺を愛している言葉の端々からそれを感じられる。俺に家の後を継がせると母に誓いでも立てたのだろうか。現状が理解できていないのだろうか。
「有難う御座います。 お父様。 しかし私がこの家を継ぐのは不利益でしか有りません。 これでも貴族として生きています。
貴族のしがらみは理解しているつもりです。 お父様が私にこの家を継がすことを諦めなければイザベラお儀母様の実家であるマクミラン伯爵家が黙っていないでしょう。
私が言い出したことです廃嫡されても依存はありません」
父は悲しそうな顔をする。
「しかい、俺はお前を産み死んで行くブリジットにお前を当主にすると約束した。 その約束を違えろと言うのか。 俺にはそれは出来ない」
その話を初めて聞いた。俺も悲しくなってくる。会ったことのない母だが俺の生みの母親だ。悲しいという気持ちが湧き上がってくる。
「現実を見てください。 お父様。 昨日のパーティーでの貴族や商人の反応をみて気付きませんでしたか? 誰もがカーティスが次期当主に違いないと思っての行動でしたよ」
父はその言葉を聞いて昨日のパーティーでの貴族達のあからさまな態度を思い出したのだろう。怒った顔つきになる。
「いつからだ。 お前はいつからそのようなことを考えていた? 俺は全くその事に気付かなかった。
昨日までのお前は大人しくて熱心に勉学や剣の稽古に励む子供だった。 いつから大人のような目をするようになった?」
確かに見た目は子供だが俺はれっきとした大人だ。しかし父の言葉に衝撃を受ける。父は気付いているのだろうか?俺が前世の記憶を持っている大人だということを。それはないな。
「私は自由に生きたいのです。 相続問題で家を二つに割るわけにはいきません。 私は冒険者になります。 きっと冒険者として大成して見せます」
「お前の話は分かった。 でも納得したわけではない俺はお前を廃嫡する気はない。 家庭教師の件はお前の言うとおりにしよう。 だがお前はまだ子供だ。 もう少し時間を掛けて考え直してくれ。 頼む」
結局、この日は物別れにおわった。俺の主張は父の考えにどのような影響を与えるだろう。とりあえず父には俺が冒険者として働くことを許してもらった。
もうこそこそと出かける必要は無い。最低限の自由は勝ち取ったわけだ。
その晩の夕食は俺一人だった。父は仕事が忙しいらしい。
俺は一人部屋に戻りこれからのことを考える。
とりあえず成人するまではこの屋敷で過ごしそれから王都に行くことになるだろう。高等部を卒業してから独立を考えようと思う。
俺は机に向かいノートパソコンを取り出す。
ネットショップでワインとリーズ、ハムを購入して一人で酒を楽しむ。
今日は興奮しているので眠れそうにもないから寝酒としゃれ込んでみた。
この世界のヒューマンの成人は15歳だが酒は7さいから飲んでも言いことになっている。水よりワインの方が安い地域も存在するからだ。
酒を飲みつまみを食べながらネットサーフィンを楽しむ。
そして通販で飴玉5袋と絵本を10冊か買う。明日教会の孤児院にお土産として持っていくつもりだ。
久しぶりに小説でも読もうとネット小説を読む。
すこしだけいつもと違う、ゆったりとした時間が過ぎていく。
夜の0時が回った頃ベッドに横になり眠りにつく。
最後まで読んで頂きありがとう御座います。