漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】 作:疑似ほにょぺにょこ
<< 前の話
「まずは余興の成功、心よりお慶び申し上げます」
ナザリックの王アインズ・ウール・ゴウン伯爵と漆黒の英雄モモン対大悪魔ヤルダバオトという壮大な余興が終わって早数日。撤収作業も滞りなく行われ、俺たちはナザリックに戻って来ていた。
「ローブル聖王国の方はどうだ、デミウルゴス」
「はい、裏で操っていたのがヤルダバオトであるということを大々的にローブル聖王国国民に報告させました。それによって罪を全てヤルダバオトに、功績を聖女に──そしてその主たるアインズ・ウール・ゴウン伯爵様に。その立役者となりました漆黒の英雄モモンも既に、ローブル聖王国の中では知らぬ者も居らぬでしょう」
そうか。と俺は小さく呟く。正直な話、俺はここまで話を大きくするつもりはなかった。精々、大々的にアインズ・ウール・ゴウン伯爵を世界に知らせることが出来れば、その程度だったのだ。しかしデミウルゴスの働きによってヤルダバオトが参戦し、それによってアインズ・ウール・ゴウン伯爵だけでなく漆黒の英雄モモンの名も大きく世界に知られることになった。そして一番大きいのは──
「アインズ様の御計画通り伯爵と言う立場を利用することにより、国対国の矢面に立つことないまま聖王国の国主という大きな立場を手に入れることが出来ました。私のような稚拙な計画ではこうも簡単に、かつ素早く国一つを掌握することはできなかったでしょう」
俺が、気が付けば王国の伯爵兼聖王国の国主という立場となったのである。
デミウルゴスは全て俺の素晴らしい計画のお陰だと言っているが、聖王国に関しては俺は全く手を出していない。デミウルゴスが人の身でありながら悪魔の力を手に入れるという、通称「悪魔武器計画」を組み上げたお陰なのだ。悪魔を武器化することにより、それを持つ者を変質させる事無く大幅に強化できる。しかも悪魔をそのまま使うよりもずっと強くなるのは、通常あの仔山羊にギリギリ勝てるかどうかという力量の悪魔ですら簡単に倒せるほどの力に引き上げられることからも確かだろう。その力によって聖王国は亜人という強大な敵対者に対して対抗する力を人の身であるままに手に入れることが出来たのだ。
しかし悪魔の力という強大な力であるが故に一時的に悪魔化したりすることもあるようだが──まぁ、元に戻れるならば誤差と言っていいだろうな。
「特にヤルダバオトを倒した漆黒の英雄モモンの名は、聖王国の中でも随一。もはや並ぶ者も居りません」
「もう良い、デミウルゴス。我らに恭順する聖王国はもはやナザリックの一部である。それを心に刻み、この話は終わりとする。よいな」
恭しく頭を垂れる皆に鷹揚に頷き、次を促す。最後の懸念。そう、傾城傾国。シャルティアを操ろうとした愚か者をどうするか、だ。
「シャルティアを操った者は依然姿が掴めません。しかし少ない情報から推察するに、既に死亡しているものと思われます」
「死んでいる、か。確かにあの時の、効果中のシャルティアは自分の主が誰なのかを正しく理解していなかった。そういう意味でもその判断は正しいと言える。しかし、だ」
「洗脳したものが死んだとしても、洗脳が解けない事。で、ございますね」
通常精神系状態異常は、行った術者が死亡すれば自動的に解除される。故に洗脳等を行って敵対行動を起こさせた者は見つからないように隠れるのが常道だ。しかし流石はWI<ワールドアイテム>と言うべきか。精神系を無効化するアンデッドに効果があり、しかも使用者が死んでも効果が消えないとは厄介極まりない。
「そうだ。現在プレイヤーが居るかどうかは不明だが、間違いなく傾城傾国を齎したプレイヤーが存在するはずだ」
「なるほど、付きましては十分に注意して──」
「いや──」
誰かを選出して派遣する予定だったデミウルゴスを制する。結局は我が儘だ。俺の、最初から最後まで。でも、譲れない我が儘なのだ。
「スレイン法国には、モモンが行く」
「帰ったか、闇の神官長マクシミリアン・オライオ・ラギエ。並びに番外次席よ」
いつもの我らが神殿。いつもの通路を通り、いつもの扉を潜り、皆が待つところへ戻ってきた。しかしどうだろうか。まるで異界にでも来た気分になる。何か幻術にでもかけられているのかと勘違いしてしまう程に。未だあの凄まじい時間から抜け出しきっていないということなのかもしれない。
思い出したようにゆっくりと礼の姿を取り、ゆるりと口を開く。そう思うも口が動かない。
「一体どうしたというのだね、闇の神官長よ」
「巫女姫に見て貰っていたが、何も口にすることなく倒れ伏して居る。我々には最早あの場で行われた余興とやらの情報を取得出来る状況ではないのだ。闇の神官長よ、直接見てきたお前の口から聞かせてくれないか」
口々に他の神官長たちが騒ぎ出す。間接的にでも『あれ』を見させたのか。あの常軌を逸した地獄絵図を。確かにあんなものを見せられてまともな精神で居られるものではないだろう。
ゆっくりと歩き、皆の真ん中に立つ。言わねばならぬ。伝えねばならぬ。今まで危惧してきたことなど稚技に等しきことであったと。本当の地獄はこれから始まるのだと。終わりと始まりが起こるのだと。
「あ──あ──」
だというのに、まるで魔法が掛けられたように声が出ない。奴の、伯爵の力なのか。それともあれを見た私の心は壊れてしまったのか。
ぼろぼろと、年甲斐もなく立場すら捨て去ったとばかりに大粒の涙が流れていく。辛いわけではない。悲しいわけではない。ただただ、意味もなく涙が伝っていく。
「死の神たるスルシャーナ様を崇めるお前でもそうなるほどか。では、番外次席よ、発言を許す。お前の口から話すのだ」
視界が歪む。視界が滲む。嗚咽すら口から出ない私の耳に、コツコツと靴音が近付いてくる。まるで地獄から私を呼びに来たかのような音が。笑い声を伴って。くすくす。くすくすと。
「何がおかしい!」
笑う絶死絶命に激高した一人の神官長の叫びに、さらに笑い声は強くなる。笑うしかないと。そう言うかのように。
「貴方達も来ればよかったのよ。そして見れば良かったのよ」
「だから何を見たというのだ!」
「力が強いだの弱いだの。身分が高いだの低いだの。あっちで人が死んだ。向こうで赤子が生まれた。向こうが焼けた。こっちで建てた。そんな普通の事が全て些事である。何も意味のない事である」
「何を言っているのだ、番外次席よ!神人たる貴様まで狂ったとでもいうのか!!」
「狂う?くすくす。あんなものを見て狂わない者なんて居ないわ。ありとあらゆる常識を破壊し尽くされるのよ。正常な判断なんて無理でしょうねぇ」
的を得ぬ絶死絶命の言葉にさらに声を荒げる同胞に声を上げたい。上げられる。喉が震えぬ。
こ奴が言っていることは全てが答えなのだと。
「まぁ、分かりやすく言いましょうか。そうねぇ──地獄──では陳腐ね。そう──ありとあらゆる理不尽を見てきた。いえ、見せつけられた。で、良いと思うわ。あれを見たら、いかに自分がちっぽけな存在であるかを理解できるわね」
私の肩に手を置く。肩に感じる微かな震えに顔を上げると、私に微笑みを向けていた。その姿は、まるで見た目相応の少女のようであった。そう見えたのは、あの時間を──あの混沌を互いに見たからなのかもしれない。
「モモンさぁぁぁぁん──」
久しぶりの酒場に入ると、まるで待ち構えていたかのように『ひしっ』と何かに抱き着かれる。一瞬避けようかとも思ったのだが、どうも見たことある色合いだったのと避けたら余計に面倒なことになりそうだったのでそのまま受けることになっていた。
「心配したんですよぉぉ──精神支配を受けたとか無理矢理強化されたとか──死んじゃっ───ぐふぁっ!!」
「お、おう──」
我慢が出来なかったのか、それとも敵対行動と見做したのか。ナーベラル・ガンマことナーベが抱き着いてきたモノ──イビルアイの横腹を思い切り蹴り飛ばしていた。
もんどりうって倒れたイビルアイは、かなり良いところに入ったのかピクリとも動かない。だが彼女は最上位ではないとはいえ吸血鬼である。しかも前衛ではないナーベの一撃だ。即死していることはないとは思うが。
「元気──なのかしら」
「いや、なんとか動いていると言ったところだ」
促された席に座り、テーブルに肘をつく。英雄らしからぬ行為。しかしやらねばならない。何しろ俺は──
「やはりヤルダバオトと戦った傷は中々癒えないみたいね」
「あぁ、アルベド姫に怪我の類は治して貰ったのだが、思うように力が出なくてな」
「相当派手にやったみたいだからな、あちこちおかしくなっても不思議じゃねえか」
「珍しく弱気。甲斐甲斐しく看病すべき?」
ヤルダバオトと戦って傷ついたことになっているから。そのため暫く冒険者稼業は休止。それもこれも冒険者となった理由の一つである金銭の苦労が、聖王国を併合したことで無くなった事。そしてある程度有名になるという目標もヤルダバオトを各国の重鎮の前で行ったことで天井知らずである。であれば、今はだらだらとモンスター退治して居る必要は無くなったわけだ。
そこでうまく作った理由が、戦闘での怪我。『膝に矢を受けたから戦線離脱しました』作戦である。
「モモンさんは少し頑張りすぎなところもあったから、しばらく休むのも良いと思うわ。ギルドとしても王国としても、あのヤルダバオトの討伐賞金がかなり出るみたいだし。金銭的問題も無いはずよ」
「もし足りなくても、私が持っているから大丈夫よ」
やはり大丈夫だったのか。俺の隣──ナーベとは反対側にイビルアイが座りながら言ってくる。金銭的束縛を行う事で俺の行動を監視しやすくするという理由もあるのだろう。
ちらりとナーベに目配せをすると、理解できたのか確信めいた視線をこちらに送りながら頷いてくれる。最近のナーベの駄目っぷりに、表には出さないもののパンドラズ・アクターの低すぎる評価のせいで本当に大丈夫かと一瞬迷ったが背に腹は代えられない。
「ゆっくりと休養するつもりだったのだがそういうわけにもいかないのだ」
「その間に関しては私がモモン様の分まで働くから問題ないわ」
とうとうナーベの俺を呼ぶ敬称が完全に様になってしまった。こう、世界的英雄と言う立場になったからなのか、もう様付けで良いんじゃないかと開き直ったのか、それとも単に忘れているだけなのかは微妙なところである。まぁ設定上俺は遥か昔の王子様であり、設定上ナーベはその御付きであったということになっているので問題ないと言えば問題ないのだが。
「────」
(あぁぁぁ──周囲の視線が痛い──)
こう、『マジかよ。とうとう様付けさせやがったぜアイツ』とか『やっぱりあんなストイックなふりしてベッドの上で様付けさせてやがったんだな』とか『英雄様の下半身は魔王様ってか』とか。そんな周囲の小声や視線が辛くて仕方ない。
(俺だって呼び捨てが良いんだよ。出来れば『さん』付けが良かったんだよ。でもコイツ達ガチなんだよぉぉ──)
思わず頭を抱えそうになるのを必死に堪えながら話を続けて行く。本当にアンデッドに成ってよかったと思える瞬間である。
こんな時に思いたくもなかったが。
「では、どこかに行くんですか?私も──」
「必要ない。知り合いの伝手等もあるからな。なに、そう時間はかからないだろう」
私の監視から逃げられるなんて思うなよ、と暗に言ってくるイビルアイを必死に躱していく。直接言ってこないからこそやれる戦法である。
「そ、それではどこに行くかくらいは──」
「スレイン法国だ。最も物見遊山の観光ではないがね」
せめて場所だけでもというわけか。これは下手をすれば現地に別の監視員が居る可能性も視野に入れておいた方が良いな。
「ナーベ、お前は蒼の薔薇の皆と行動を共にするのだ」
「はっ──こちらの事はお任せを」
「いえ、そんなナーベさんに──はうっ──ふぅぅ──」
こちらの監視付きではうまく動けないと思ったのだろうイビルアイの反対を、彼女の頭に手を置いて黙殺する。貴様の頭など簡単に潰せるのだぞ、との意味を込めて。
流石に殺気交じりにやるわけにはいかないので、傍から見れば単に頭を撫でている様にしか見えないだろう。俺も大分やるようになったものだ。
イビルアイにも意味は伝わったのだろう。肯定とばかりに撫でられて嬉しい振りをしていた。
「モモンと行動を共にする実力者なんだろ。後で俺と手合わせでもするか」
「実力は知っておきたい」
「エン──ヤルダバオトの蟲のメイドを退けたのは貴方と貴方でしたね。──喜んでお相手致しましょう」
「あまり無茶はするな、お前は第三位階魔法までしか使えないのだからな」
エントマをぶっ殺した時の事を思い出したのか、ナーベの殺気が駄々洩れになり始めたので釘を刺しておく。このままでは本気(第八位階魔法)でぶっ放しそうだったからだ。設定上ナーベは第三位階魔法までしか使えないということになっているのだから。
「────はい」
しぶしぶと言った風でナーベが頷く。いやあれは、第三位階魔法まででどうやって殺そうか考えて居る目だ。二人とも前まではイビルアイ程の強さも無かった。しかし今ではかなり実力が上がっているのだ。下手をすれば二人で本気のナーベと対等に戦えるかもしれない程度に。ちょっと昔を思い出して、力入れて修行したせいというのもあるかもしれない。流石に本気で殺し合う事は『今のところ』無いと思いたいが、いつボロを出させて殺害対象となるかもしれない。相変わらず俺たちは薄氷の上を渡り歩いているのだから。
「──どうした、二人とも」
「くくっ──なんでもねえよ」
「そうそう、なんでもない」
そんな俺の心情を見透かしたかのように、ガガーランとティアは互いの顔を見ながら含み笑いをしていた。
これにて7章は終了となります。長かったです。くぅ疲(略
これから幕間となる8章。スレイン法国編です。傾城傾国とあの子の話ですね。長くならない予定です。たぶん。
なので次章のお題目募集は割と早く終わるかもしれませんのでご注意くださいませ。
さて、現投稿を持ちまして7章のお題目募集を締め切らせていただきます。
今日中に活動報告ページにて当選者の発表を行いますので、投稿されました方は楽しみにお待ちくださいませ