漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! 【アニメ・小説版オーバーロード二次】 作:疑似ほにょぺにょこ
<< 前の話 次の話 >>
レエブン。その血の力はありとあらゆる奇跡を生み出すという。その直系の祖先にあたるアルベドという者の力は筆舌しがたいものであった。
「なんと──なんという──」
言葉にならない。アルベドなる者が生み出した魔法陣は黄金に輝き、まるで太陽の如く明るく眩しい輝きを放っていた。
中で何が起きているのかは分からない。しかし、不思議と恐怖を感じない。どちらかといえば、安らぎを感じるような温かい光なのだ。そう、それは例えるならば──
「女神の奇跡──」
そう、女神だ。
聞こえてきた方を見やる。彼女の背に生えた黒き翼が純白となり、死に瀕する英雄を包んだ。まるで伝承のような出来事が起きて思わず呟いてしまったのだろう。法国の神官長が驚愕のあまり目を見開きながら凝視している。
視線を戻せばゆっくりと光は弱くなってきている。少しづつ見えてくる二人の影。そこには、嘆く女性と倒れ伏す男性の姿はなく。
「あぁっ──モモンガさまっ!!」
己が起こした奇跡に喜び涙する女性と──
「姫──」
その女性を守るが如く、巨悪の前に立つ男性が居たのだ。
「あぁ、我が君。我が愛しきお方。生きていらっしゃったのですね」
「暗く深き闇の中にて、心と魂を削られながら。貴方の声が聞こえた」
そこに立つ男性──漆黒の英雄モモン。そこに禍々しき姿はもうない。その姿はかつて王都でヤルダバオトと戦った時と同じ。黒き英雄の姿があった。
暴走している様子はない。ただ──静かに構え、悪に──ヤルダバオトに対峙するのみ。
「奇跡──奇跡キセキきSekI!奇跡だと!ありえぬ!奇跡など起こりはしない!!」
「その通りだ、ヤルダバオト。奇跡は起こりなどしない」
ヤルダバオトは気づいたのだろう。漆黒の英雄がかつて王都で会った時よりも、ずっと強くなっていることに。
モモンがゆっくりとヤルダバオトに向け、歩いていく。先ほど受けたダメージなど無かったかのように、悠然と。
両手に持つ愛用の二本のグレートソードを背に仕舞い、どこからともなく一本の巨剣を取り出した。黒き炎に包まれた巨剣を。それを構えるでもなく、片手で持ちながら歩いていく。
「ならば何故貴様は立っている!混沌なる意識に飲まれ、魂を打ち砕かれんとしていた貴様がなぜ!奇跡など起きぬはずだというのに!」
「奇跡は起きない。それは確かだ。幾百幾千。幾万幾億祈ろうとも」
歩みが止まる。まるで風の様に、揺らぎ構える。その姿に欠片ほどの隙も無い。
対するヤルバダオトはどうだ。先ほどまでの余裕などまるで夢だったかのように。
「なぜだ──なぜだぁっ!!」
「とても簡単なことだ、デ──デーモンよ。奇跡は起きない。奇跡は──起こすものだ!!」
まるで限界まで引き絞られた弓より放たれる矢の如く、英雄は一気に間合いを詰めていく。悪魔もそれをさせぬと構えようとするが、遅い。
「ガッ──ガァァァァァー!!!」
「武技──極光連斬」
まるで光になったかの如く一瞬でヤルダバオト近付き、そのまま貫いたのである。
「──見えたか、ガゼフ」
「3回までは、な。恐らく私の六光連斬の様に同時に幾つもの連撃を行うものだと思うが」
流石は王国戦士長である。俺でもギリギリ3回見えただけだというのに。奴は3回と言っているが、恐らく確実に見えたのが3回だったのだろう。
「64回だ。ア──奴が放った数はな。無作為の八方からの同時攻撃を8回。全て見えた者は居るかな」
突然聞こえてきた声に驚き顔を跳ね上げる。視線の先に居るのはアンデッド──アインズ・ウール・ゴウン伯爵だ。モモンのあの凄まじい武技によって黒い炎に包まれながら倒れたヤルダバオトを見て終わったと思ったのだろう。展開していた魔法陣は解除され、警戒を解きながらこちら側を向いていた。
「64回同時攻撃ではなくて?」
ざわりと観客席が騒がしくなる。伯爵に問うたのは漆黒聖典の絶死絶命とか呼ばれている女だ。あれが見えたというのか。
「ほう、あれを見えた者が居たか。残念ながらあれは同時攻撃ではない。ゆえに隙が多く避けやすい技だ。あれが本来の──完全なる同時攻撃であれば避ける事も防ぐことも出来ないのだが──うん?」
ふとした違和感を感じたのだろう伯爵は、後ろを振り向いた。戦いの音が消えたのだ。
ヤルダバオトは倒れた。しかし数多の、何十万という悪魔たちはいまだ健在のはずだというのに。
「どうした、セバス」
「アインズ様、悪魔たちが人に戻っておりました」
執事服の男──セバスさんの言葉に皆がしん、と静まった。普通に考えればあり得ない話だ。即死級の魔法を撃ち込まれ、超巨大な亜神を呼び出され、悪魔と化し、そして超巨大ゴーレムで蹂躙されたのだ。死んでいないだけでもありえないほどにおかしい話だというのに、人に戻るなど想像の範疇を超えている。
「ふむ、では代表者を連れて来るのだ」
短い返事と共にセバスさんの姿が消える。いや、あまりに速すぎる速度に目が追い付かないだけだろう。その証拠に、目の前に置かれた強大な鏡にはセバスさんの姿が、凄まじい速度でありながらも悠然と歩いているような姿が映っている。
ちらりとガゼフの方へと視線を向けると、彼の視線は鏡を見て居ない。じっとヤルダバオトが居た場所を見つめている。もしや復活するかもしれぬと思って居るのかもしれない。しかしそんなものは杞憂だとばかりに、ゆっくりと黒い炎は小さくなっていく。そして風でも巻き起こったのだろうか、炎は完全に消えた。小さな燃えカスを撒き散らしながら。
「あれだけの悪魔であっても、終わるときは呆気ねえもんだな」
「あぁ、不思議と死んでいる感じがしなかったのだが──どうやら杞憂だったようだ」
それを黙って見つめているあの男は何を思って居るのだろうか。噂によれば、ずっとあの悪魔を追い続けていたという話だ。長年追って居た者が居なくなるというのは、大きな空虚感が襲ってくるだろう。あれほどの力を得てまで追った相手が居なくなったのなれば尚更だ。
アインズ・ウール・ゴウン伯爵が指をぱちりと弾くと、モモンとその隣に居たアルベドという女は揺らぎ消えた。恐らく伯爵がどこかへ転移させたのだろう。気付けばあの巨大なゴーレム等も居なくなっている。伯爵は指をはじくだけで転移させたという事なのか。
「お待たせいたしました、アインズ様」
いつの間に戻ってきたのだろうか。セバスさんは複数人の女性を伴って戻って来ていた。セバスさんのすぐ後ろ、一際目立つ美貌の女性は遠目だが見たことがある。
「ローブル聖王国の聖王カルカ・ベサーレスと見受けるが、相違ないな」
そう、清廉の聖王女とかローブルの至宝とか呼ばれている女だ。確か他の奴と同じく悪魔の姿になっていたはずだというのに、本当に人間に戻っているようだ。
「なるほど、実験体の有効活用ですか」
アインズ・ウール・ゴウン伯爵対ヤルダバオトという余興を始める時が明日へと差し迫っている時、俺──アインズ・ウール・ゴウンは配下の皆と会議を続けていた。
とはいえ煮詰まっているわけではない。デミウルゴスの作戦の詳細が分からないからである。デミウルゴスは俺が全て理解している前提で話を続けているため、何とかはぐらかしつつ情報を抜き取っていたためここまで時間がかかってしまったのである。
なんとも情けない話だが、何も知らないまま動くよりも何倍もマシなのだから仕様がない。
「そうだ。恐らくお前の事だから操りやすい者に挿げ替えるか、ドッペルゲンガーに任せようと考えていたのだろう。しかしそれでは勿体ないではないか」
「勿体ない──ですか?」
──いかん、齟齬が生まれてしまった。こういう時が一番つらい。いつもは深読みしてくれるからちょっと曖昧に言えばいい感じに回答を作ってくれるのだが、たまにこういう時があるのだ。
必死に頭を動かす。勿体ないという理由、俺としては実験に使った奴をさっさと殺すのは単純に勿体ないと思っただけである。何か有効利用することが出来ると思って。
「理解できぬか。デミウルゴスが特に強く悪魔化した者たちは聖王国の重鎮だろう?」
「──そういうことでしたか。流石はアインズ様です。なんと素晴らしいお考えでしょう!」
良かった。深読みが上手く働いてくれたようだ。しかしどのあたりが素晴らしいのだろうか。
「ふむ、理解したようだな。では、皆に伝える権利をお前に与えよう」
「ありがとうございます、では──」
「我が聖王国を救って頂き、感謝の念しかありません。アインズ・ウール・ゴウン様」
ざわりと周囲が騒がしくなる。それもそのはずだ。敬虔なる信徒であり、聖王と呼ばれる者。そんな彼女が傅いたのだ。聖王が、アンデッドに。王が、伯爵にだ。確かに国の窮地を救われた。己が悪魔化を食い止めてくれたのもあるだろう。しかし聖騎士を擁する国がアンデッドに傅くなどありえない。精々言葉と握手程度で済ませるだろうと思われた。後々金品を送る程度はあるだろうが、ここまでする理由はあっても意地も度胸も無いはず。
しかし真摯に傅く彼女に、八方美人で甘い女王と揶揄された姿はもう無い。民のためならば己がプライドを捨て去ることなど何とも思って居ない、正しく王が姿と言って良いだろう。
そう、私は思って居た。いや、見て居る皆がそう思って居たに違いない。しかし続く彼女の言葉は私たちの想像を遥かに絶するものだったのだ。
「我が国は悪魔ヤルダバオトに蹂躙され、立ち行かぬほどに疲弊致しました」
「私に何を望み、何を求める」
「弱き民に幸せを──誰も、泣かない国を、どうか──」
「私に何を差し出せる」
「全てを──我がローブル聖王国を──」
──ローブル聖王国をアインズ・ウール・ゴウン様に捧げます。
この日を以て、聖王女の言葉を以てローブル聖王国はリ・エスティーゼ王国の属国となったのだった。いや、属国ではない。アインズ・ウール・ゴウン伯爵の物となったのだ。
いや、おかしい。何かがおかしい。彼女の事は知っている。誰もが羨む美貌と、優しき心根の持ち主であることを、私は知っている。我々スレイン法国と宗教は違えども。一部の亜人を擁していても、アンデッドなどに国を売り渡すような──
「っ!!」
にこり、と彼女がほほ笑んだ。私を見て。その笑顔に偽りはない。あの時と同じ笑顔だった。では、彼女に一体何があったというのか。聖王国は、立ち行かぬほどに疲弊するとはどれほどの被害なのか。
「絶死絶命よ、彼女は──カルカ・ベサーレス殿は──人間か」
酷く皺枯れた声だ。出した私自身が驚くほどに。まるで枯葉を磨り潰すような声だ。それほどに私は驚いているのだ。彼女の変貌に。だから、縋り付くしかない。あれは彼女ではない、人間ではないと──
「人間よ。混じり気無しに、ね」
「そう──か──」
私の希望はそこで潰えた。彼女は変わってしまった。悪魔によって変えられたのだ。もう甘い彼女は居ない。もう朗らかな彼女は居ない。もう純粋な彼女は居ない。もう、私の知る彼女は居ないのだ。
「よかろう。私に忠誠を誓い続ける限り、永劫その望みは叶い続けることとなるだろう」
「ありがとうございます、アインズ・ウール・ゴウン様」
それでも、伯爵に笑顔を向ける彼女はどこか懐かしい。
「レメディオス・カストディオ。偉大なる御方に忠誠を」
「ケラルト・カストディオ。偉大なる貴方様に我が信仰を」
「イサンドロ・サンチェス。偉大なる主に、我が叡智を」
「オルランド・カンパーノ。御身に我が命を」
「パベル・バラハ。我が君に我が力を」
「ネイア・バラハ。至高なる御方に全てを」
彼女に従い、続々と皆が集まってくる。九色が。聖騎士が。近衛が。海兵隊が。様々な兵たちが皆一堂に伯爵に傅いていく。
「カルカ・ベサーレス。アインズ・ウール・ゴウン様に我らの血を捧げます」
それは、新たなる王の誕生だった。それは新たなる歴史の始まりだった。それは新たな福音の始まりだった。それを受ける者がアンデッドでなければ。
「頭抱えてぇ──大変ね、神官長サマ?」
大変なのはこれからだ。これを持ち帰り、我らで決めねばならぬ。
大災害<ワールド・ディザスター>となるか世界の敵<ワールド・エネミー>となるか、それとも──
「これにて余興は終了となる。皆、気を付けて帰ると良い。そして、我が名を──アインズ・ウール・ゴウンの名を胸に刻むと良い!」
大仰に両手を広げる伯爵を見て頭を抱える。これから先。少なくとも、良い方には転がりそうにないだろうことにため息を付きながら。
ふぅ、疲れました。
本当はヤルモモでもっとキンキンしてほしかったですが、字数の関係で一撃で終わってしまいました。
本当はその後にモモンがアインズ様に剣を向けるシーンもありましたが、敢え無くカットです。
わりとそういうシーンをばっさりカットするのが私流です。
最後に何でみんな名前言って忠誠誓って居るのでしょうね。
ピンと来た方は私にメッセージ送ってくださいね。
仔細含め全部正解された方、先着5名様をお気に入り登録しちゃいますよ。
多分こういうものになれてる人以外にはぶっ飛んで難しい問題ですが!
さて、あと1話で長かった7章も終了となります。
投稿時点でお題目募集も終わりますので、まだ投稿されてない方は投稿してみてはどうですかっ
もしかしたら当選するかもですよ?