ヘロヘロ「金髪巨乳こそ至高」
弐式炎雷「ポニテ美乳だろjk」
フラットフット「成人女性のちっぱいの良さが分からない奴はにわか」
ぶくぶく茶釜「お前ら全員正座な。モモンガさん、逃げんな」
―アインズがまだモモンガと呼ばれていた頃―
「そうそう、モモンガさん知ってます?」
いつものようにぷにっと萌えの雑談が始まった。
「何です?」
「宗教戦争ってあるじゃないですか?どっちの神様が正しいか、みたいな奴」
「ああ、ありますね。」
モモンガが想像したのはぺロロンチーノとヘロヘロのおっぱい戦争だった。
フラットフットと弐式炎雷が参戦して収拾が付かなくなったところに茶釜さんの雷が落ちた。
巻き添えで、何故かモモンガも正座させられて説教された。おかしいと思いながらも怖いから黙っていた。
「あれって、負けた方の神様は悪魔にされちゃったりするですよ。今だと、7大罪の悪魔にもいたんじゃないかな?」
「ベルゼブブとかもそうなんでしたっけ?」
「そうそう。で、これに決着が付けば良いんだけど、そうじゃない場合、何百年も続くんですよね、この争いって」
「まあ、宗教ですもんね。教義や神様が変わらない限り無理ですよね」
「おお、良いところに気付きましたね。それですよ。アヴァターラ」
「え?何でアヴァターラ?」
「例えば、AとBという神様がいるとして、BはAのアヴァターラ、つまり化身だってことにしてしまうんですよ」
「え?別の神様ですよね?」
「そうです。これが結構有効なんですよ。何たって戦わなくて良いから。あの神様もこの神様も全部、自分とこの神様のアヴァターラだってことにしちゃう」
「ズルくないですか?人の褌で相撲を取るって奴ですよ?」
「多神教では良く使われる手法なんですよ。覚えてて下さいね。役に立ちませんけど」
―スレイン法国神都―
会議を行っている神官長達の表情は例外なく深刻だ。
「陽光聖典が全滅とはな」
「復活は?それで、本当にスルシャーナ様なのか?」
陽光聖典ただ一人の生き残りは神の怒りに触れたことを恐れ、休憩も無く、ただひたすら馬を走らせ、馬が潰れれば自らの足で走り続け、神都まであり得ない速さで帰ってきた。
「スルシャーナ様のお怒りにふれ、私以外の隊員は全て、一人残らず死にました。神罰を受けたのです。カルネ村なるところにて、神が待っておられます」
それだけを告げると、息を引き取った。
「いや、復活を拒否しているようだな。相当に恐ろしい目にあったのだろう」
「聖典の隊員が復活を拒否とはな」
「だが、本当にスルシャーナ様であれば、何故、法国に降臨されないのだ?」
「何にせよ、早急に使者を立てねば。誰をやる?」
「神の再降臨とあらば、我ら自身が行かねばなるまい」
「いや、陽光聖典が全滅させられたことを考えると、法国最強の漆黒聖典を送るべきじゃろう」
「だが、もし漆黒聖典がやられるようなことがあれば、法国自体の存続にも関わるぞ」
「それでもやらねばなるまい。どちらにせよ、神と敵対するような馬鹿な真似だけは避けねばならん」
「それしかないか…。すぐに隊員を集めてくれ。今日にでも発ってもらわねばなるまい」
「やれやれ、本当にスルシャーナ様ならば良いのだが…」
「スルシャーナ様か……(やはり、我々法国の罪を裁くために再降臨されたのでは?儂らの命程度で許してもらえるだろうか?いや…)」
「ん?どうした?レイモン」
「ああ、何でもない。すぐに漆黒聖典を呼ぶとしよう」
エ・ランテルを出発し、カルネ村へ向かう一行、神々が残した装備に身を包んだ法国最強の特殊部隊、漆黒聖典。
まだ幼さを残した隊長を始め、普段は軽口を叩くメンバーでさえ、その表情は真剣そのもの、いや、悲壮感で満ちている。
それもそのはず、今回の任務は死の神、スルシャーナへの謁見。あるいは、偽物だった場合はその討伐。
仮に偽物だったとしても陽光聖典を歯牙にもかけず殲滅した化け物だ。
最悪の場合、隊長の持つ最高の神器、神槍<ろーんぎぬす>の使用も許可されている。
この意味を知るものはこの中では隊長ただ一人だ。つまり、最悪の場合、彼は復活も出来ない死を迎えることになる。
神都を出てからここまで、隊員の誰も、殆ど口を開かない。神が法国の人間を殺したことが恐ろしいのだ。
人間を守るはずの法国が人間を虐殺している姿を見て失望されたのかもしれない。もし、神が敵に回ったら、と考えると恐怖で震えが止まらない。
法国の、それも特殊部隊、聖典の隊員ともなれば、神とはただ祈りを捧げるだけの対象ではない。
彼らの装備を身に着けているのだから、神々の力というものを最も身近に感じている者たちである。
それだけに、神を敵に回すようなことは恐ろしくてたまらない。そんなことにならないように、命を懸けてでも、法国を保護してくれるよう、働きかけねばならない。
到着したくない、と思いながらも、彼らはカルネ村についてしまった。
「君たちは、漆黒聖典の者だな?」
「はい、スルシャーナ様。私たちはスレイン法国六色聖典の一つ、漆黒聖典であります。」
神との謁見はすぐにかなった。それを一目見た瞬間、勝てる相手ではないことを理解した。いや、勝つとか負けるとかではなく、戦いにすらならないだろうという確信があった。
「ふふ、私はスルシャーナではないと言ったのだがね。彼は既に死んだ。陽光聖典の生き残りはちゃんと伝えなかったのか?」
「はい、彼はスルシャーナ様がカルネ村で待つことを伝えると、その場でこと切れました。故に、ことの詳細は私たちは分かっていないのです」
「そうかね。では、まずは陽光聖典を殲滅した件から話をするとしよう。彼らがガゼフ・ストロノーフを抹殺するために動いていたのは知っているな?」
「はっ、腐敗した王国を打倒するため、戦士長を抹殺し、帝国に王国を併呑させる計画でした」
「うむ、それ自体は問題ではない。だが、そのために村々を焼くというのはいただけんな。お前たちは人類の守護者ではないのか?それが人を殺めてなんとする」
「仰ることは分かります。ですが、我々には神々のような力はありません。無力な人間が生きるため、手段を選ぶ余裕などないのです。ですからどうか、お力をお貸しください。貴方様はかつて、人間を守るためにお力を奮ってくださったはずです。どうか法国を導いて下さい。何卒、伏してお願い申し上げます」
真摯に、ただひたすら、神の慈悲を乞う姿は哀れですらあったが、彼らに出来ることはそれしかなかった。
「やれやれ、私はスルシャーナではなく、アインズ・ウール・ゴウンだと言っただろう?それと勘違いしているようだが、私は全ての生あるものを愛している。不死たる私にはない、定命のものにのみある、生命の輝きを愛しているのだ」
「人類以外も守護されるのですか?ですが、それでは人間は滅ぼされてしまいます」
「そうはならないとも。私は長い時間をかけ実験を行い、全ての生きとし生けるものが幸せに暮らせるための国を作ることが出来ると確信を持った。弱者であっても強者であっても、変わらずに繁栄を謳歌する楽園を作ることが出来る、とね」
「そ、そのようなことが」
「出来るのだよ。私には。…君たちには、私に協力してほしい。そうだな、それを持ってスレイン法国の贖罪としよう」
「贖罪?村々を焼いたことに対する?」
「いいや、スルシャーナに対する、だよ。同種族として、彼の最期はいたたまれないものだからね」
「八欲王に弑されたという伝承ですか?法国の罪とは一体?」
「……プレイヤーが死んだとき、どこで復活するか知っているかね?」
「確か、ぎるどの拠点だと聞きました」
「そう、六大神であれば神都の神殿、その最奥だ。そこでスルシャーナは最期を迎えた。そこに至る通路にこそ、法国の罪がある」
「法国の罪……」
「見てきたまえ、戦いの跡を。それで分かるだろう。
魔法の詠唱が終わると、神の前に黒い穴が広がる。
「そこを抜ければ神都、神殿の入り口だよ。見てきたまえ」
こともなげに言うが、聞いたこともない、高位の魔法だ。正に神の御業と言わざるを得ない。
「行くぞ」
覚悟を決め、隊長を筆頭に転移門をくぐる。
―スレイン法国神都、神殿前―
本当に神殿の入り口だ。
これだけの距離を、この人数を転移させることが出来るとは。
漆黒聖典全員が転移したあと、少ししてから転移門は閉じた。
神殿の入り口にいた門番に神官長たちを呼んでもらっている間、周りを見てみる。
この先の通路に何があるのだろうか?何度も通ってるはずの道が何故か恐ろしいものに感じてくる。
数分後、神官長たちが集まってきた。全員、全力で駆けてきたのだろうことは想像に難くない。
全員集まったところで、隊長が神との会話の内容を説明する。
皆、意味が分からない中、ただ一人、少し遅れてきた闇の神官長レイモンだけが真っ青になっていた。
「どうされました?」
「そうか、やはり、推測ではなかったのか…。何という、何ということだ…」
「レイモン様?一体法国の罪とは何なのですか?」
「…そうだな、神殿最奥に行こう。そこで説明しよう」
闇の神官長の顔は、死刑台に進む罪人のそれである。
―神殿最奥―
神聖な空気に満ちたこの場所であるが、八欲王とスルシャーナの最後の戦いが行われただけあって、何度も修復した跡があるものの、激しい傷跡がそこかしこに見て取れた。
「さて、ここがスルシャーナ様が弑された場所だ。見てわかる通り、非常に激しい戦いが行われたのだろう」
神殿に入ったことがあるものならだれでも知っていることだが、何故今更?
「ここまでの通路はどうだった?これだけの戦いの跡があったか?いや、戦いの跡自体、殆ど見つからないはずだ」
それが一体何なのか?それが罪だというのだろうか?レイモンが続ける。
「さて、ギルドの拠点というものは、外部からの侵入者に対し、排除行動をとるのだそうだ。だが、ここまでの通路にそれらしい痕跡は見られない」
「それは、既にスルシャーナ様お一人では、ギルドを維持できなかったからでは?」
「それが定説だな。拠点には既に迎撃能力が無かった。だから八欲王は神殿最奥まで来られたのだと」
ふう、と息を吐き、再び続ける。
「だがな、お前たちの話で確信した。スルシャーナ様を弑したのは八欲王。それを手引きしたのが法国の神官たちなのだと」
「何故!神官たちが仕えるべき神を弑するような真似をするのですか?あり得ません!」
「スルシャーナ様がアンデッドだからだよ。そもそも、アンデッドであるスルシャーナ様を祀ることを快く思わない勢力が一定数以上いたということだ」
「そんな馬鹿な!では何故!今もスルシャーナ様を神として崇めているのですか?」
「罪悪感、あるいは、恐怖心だろう。儂はかつて、法国の歴史を研究したことがある。それによると、スルシャーナ様の死後、当時の神官長が数名自殺している。さらに、六大神は人類を守護してくださったが、そもそも、他の種族を根絶やしにしようとしていたわけではないのだ」
「は?亜人や異業種は人類の敵だというのが教えでは?」
「元々はそうではない。スルシャーナ様の死後、そういう風に変わっていったらしい。それでも他の種族を敵と見做すのは弱い人類を団結させるための方便だと思っておったよ。いや、そう信じたかったのだ」
沈黙が辺りを支配する。
そんなはずはないと否定したいが、先ほどの神の言葉と余りにも一致している。
法国の罪とは神を裏切り弑したことなのか、それが本当であれば、スレイン法国こそが大罪人ではないか。
神はスルシャーナは死んだと言った。自分の名はアインズ・ウール・ゴウンだと。神はもう人類を守護する六大神ではない。だからこそ、法国に再臨されることはなかったのだ。
神は人類だけでなく、全ての生きとし生けるものが生を謳歌する楽園を作るという。人類だけを守護してくれる可能性はなくなった。
「法国の民に罪はありません。彼らは何も知らされてはいなかったのだから」
「そうじゃな、せめて、そう、せめて儂ら年寄どもの命で許してもらえんか、許しを請うとしよう」
「法国の罪について理解できたかね?」
いつからそこにいたのか、漆黒の闇で出来たような豪奢なローブをまとった死の神が、恐ろしく優しい声で尋ねる。
その穏やかで、いっそ慈愛を感じるほどの声が逆に不安を煽る。
「神よ、我らをお許しくださいとはとても言えません。ですが、どうか、民だけは、無力な民だけは、どうか、お許しください」
神官長、そして漆黒聖典全員がひれ伏し、地面に頭を擦り付けるほどの勢いで懇願する。
「スルシャーナはな。」
死の神は判決を読み上げるかのように淡々と話し続ける。
「どこで間違えたのだろうか。そう、死の間際に考えたのではないだろうか。私は彼の死を反省として様々な種族を支配し、統治の実験を繰り返した」
統治の実験、カルネ村で語ったことだろうか?だが、どこでそんなことを?評議国は色々な種族が入り混じっていると聞いたことがあるが、彼の国がそうなのだろうか?
「そこでの結果だが、人間だけがどれだけ良い統治をしても反乱を起こすのだ。不思議なことに、飢えもなく、争いも無いというのに、不満を募らせ反乱を扇動するそんな輩が一定数現れるのだ」
前世での魔導国でも人間だけは何故か平和になると争いを扇動する連中が現れた。人類至上主義者とも呼ぶべき連中が。
潜伏している組織があるわけでもなく、何かそういう思想を伝える書物があるわけでもないにも関わらず。
彼らは法国に送られ、法国内部で魔導国への叛意を煽る道具として活用されたが、そもそも何故無意味に反乱を起こそうとするのか、理解できなかった。
「故に、それは人間という種の原罪なのだろうと私は考えた。」
人が人である以上、それは逃れられない罪ということなのか。
「部下の中には人間を絶滅させようと考えたものも多いが、私はそれを良しとはしなかった。人という種も、私の愛する生命だからだ」
神の言葉に少しだけ希望が生まれる。少なくとも人類が神の怒りにより滅びることはなさそうだ。
「さて、諸君の今後だが、私のすることに手を貸してほしい」
「スレイン法国は新たなる神、アインズ・ウール・ゴウン様の為、如何なることでも喜んでさせて頂きます。何なりとご命令ください」
「良かろう。では、スレイン法国は今日、この時より、アインズ・ウール・ゴウンの庇護下に入る。そして、エ・ランテル近郊及びトブの大森林、カッツェ平原も私の領土とする。その旨を全ての国に伝えよ」
「畏まりました。我が神よ」
「ふむ、先も言ったが、私の国は全ての種族を民として受け入れる。それを法国の民が許容できるか?」
「させてみせます。神殿の罪を告発する形で発表致します。多少の混乱はあるでしょうが、かつての神官長たちには悪名を被っていただきましょう」
「うむ、では、後日使いをよこす。お前たちはその者の命令に従い、行動せよ」
「ああ、そうそう、忘れていた。あの子は眠りについたよ。遺品は埋葬してやってくれ。長い間一人で寂しかっただろうから、賑やかなところが良いな」
そう言って神は帰っていった。
「あの子?ああ!」
誰を指しているのか、すぐに分かった。スルシャーナの使徒、スキル<アンデッドの副官>により作られたオーバーロードだ。
スルシャーナ亡き後、数百年に亘って法国を守護してきた従属神。彼の役目は、数百年の時を経て、今ようやく終わったのだ。
上手くいった。
出来すぎなくらいだ。
これでアインズは法国において神の座を手に入れた。
実は八欲王が法国のものに手引きされたというのはただのでっち上げだ。真実など誰も分からない。
では、元ネタは何かというと、前世の魔導国内でのおとぎ話だ。
かつて、スルシャーナ派の教徒たちが魔導国に移住してきたことがあった。
彼らは法国民でありながら、他種族との共存に嫌悪感を示すものが少なかったため、ある程度は受け入れることにした。
その結果、アインズはスルシャーナと同一視されるようになり、アインズが法国を敵視する理由を推測するものが出てきた。
何故、これほど慈悲深く寛容な魔導王が法国だけは頑なに救おうとしないのか?どんな理由があるのか?
それに対する有力な説が「法国がスルシャーナを裏切り、八欲王を手引きした」というものだ。
アインズの態度と、法国の神殿を知っているものからすれば、どう考えてもそれが答えにしか見えなかった。
いつしか、法国は神を裏切った罪深い者たちの子孫ということになり、魔導国では一般的に知られるおとぎ話になった。
神を裏切った罪人たちは未来永劫、救いのない国に縛られるのだと。
これは荒唐無稽な話というわけではなく、元々は法国内部でまことしやかに囁かれていた噂であったのだが、それがさらに信憑性を高めることに繋がっていた。
尚、神殿最奥にはアインズは突然現れたのではなく、カルネ村から
スルシャーナの使徒に見つかると、自分がスルシャーナでないとバレる為、こっそりと処分するために。
使徒を処分した理由なんてものは、それっぽいことを匂わせておけば勝手に周りが考えて納得してくれる。彼らは国の最高指導者たちなのだ。そのくらいの頭はあるだろう。
使徒の所在や神殿内部の構造は前世でよく知っていたため、迷うことなく目的を達成できた。
さらに、話に信憑性を持たせるために神官長の一人に記憶操作を行った。これで当時の神官長の数名は自殺したことになった。
この情報は口伝によって伝えられている。記憶操作してしまえば、もう嘘を見抜くことなど出来ない。
嘘を看破できる魔法やタレントを持っていたとしても、アインズはスルシャーナではないと言っているし、多種族を統治してきたことも嘘ではないのでバレないはずだ。
まあ、神の座は有効に使わせてもらうとしよう。最終的に人類のためになればスルシャーナもきっと許してくれるだろう。
スルシャーナ「アカウント乗っ取られました。運営仕事しろ」