強くてニューゲーム   作:トモちゃん
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3話

初めて会ったとき、雷に打たれたような衝撃を受けた。

創造主から自分の伴侶になるのだと紹介された方は美しかった。

白磁の顔、シミ一つない肌。眼窩の赤い光は強い意志と深い知性を感じさせ、匂い立つような色気を放っていた。

一目で恋に落ちた。自分の将来の旦那様は何という素敵な殿方なのだろうか、と天にも昇る気持ちだった。

至高の御方々がナザリックに来なくなってもアルベドは寂しくはなかった。

愛しい旦那様の気配を感じることが出来ればそれだけで幸せだった。

運命のあの日、久しぶりに愛する旦那様の姿を見て心臓が高鳴った。

それだけではない。自分は彼を愛することを許されたのだ。これは愛する旦那様からの愛の言葉と考えて間違いない。

彼女の幸福な日々はこうして幕を開ける。

 

夜だ。

正式にアインズの正妃となって初めての夜だ。

どうしよう。上手くやれるだろうか?サキュバスの本能でやり方は良く分かっているが経験はない。

初めてなのだから初々しい方が喜ばれるだろうか?しかし、全く反応しないようではつまらないと捨てられてしまうかもしれない。

これは絶対に失敗が許されないミッションだ。今のうちにシミュレーションしておいた方が良いだろうか。

脳裏に浮かぶのは愛する夫の比類なき美貌。そこでアルベドはふと考える。

「それにしても、アインズ様の御召し物は、少しセクシー過ぎないかしら?」

確かにアインズの力の象徴たるモモンガ玉が見えるようにするにはあれだけ胸元を開けなければならないだろうが、それにしても露出が過ぎる。

幼いアウラはまだしもシャルティア等は絶対発情しているはずだ。あの尊いお姿をいやらしい目でジロジロ嘗め回すように見るなんて不躾にも程がある。

あの神々しいお姿を見ていやらしいことを考えるなんて。全く、これだからあの吸血鬼は。

 

そういえば、かつて至高の方々が語り合っていたが、魅力的な体の最上級を“メチャシコボディ”というらしい。

「メチャ、は滅茶苦茶とかとてもという意味よね。シコは…至高かしら?ボディは体ね。となると、アインズ様のお体こそメチャシコボディということね。くふふ。あの時話をしていた至高の方々は全て殿方だったからバストサイズとかに関する比重が大きかったようだけど、何故ぶくぶく茶釜様やあんころもっちもち様、やまいこ様のお体のことには触れなかったのかしら?あんなに美しいのに」

アルベドもナザリックで作られた守護者であるため、彼女の目には至高の存在は美しいものだった。例え、その対象にどんな感情を抱いていようとも。

 

「いけない、もうこんな時間ね」

そろそろアインズの部屋に行かなくては。いよいよ愛する人と結ばれる時が来たのだから。

「ああ、私はやっとアインズ様のものに…くふふふふ…」

涎を拭きながら今夜の戦場へと向かう。

 

アインズは精神の沈静化を繰り返しながらアルベドを待っていた。

生身の体はないが、ワールドエネミー化することで身に着けた超位幻覚魔法で肉体を作ることは出来る。出来るようになってしまっていた。

なので、行為自体は出来るのだが、30万年も拗らせた世界最強の大魔法使いには荷が重すぎた。

アルベドの気持ちは疑いようもないが、この年で童貞など、呆れられないだろうか?

不安だけが募っていく。

「いや、もう逃げ隠れもしない。タブラさんにはすまないが、やると決めた以上はやるんだ。頑張れ、俺」

ほんの僅かの勇気を振り絞り、前世のシャルティア戦以上の緊張を持って人生初にして最大の決戦に挑むアインズ。

コンコン、とドアをノックする音が聞こえる、そしてまた精神が沈静化する。

 

「アインズ様…」

眼に涙を浮かべ、何とも色っぽい表情でアインズにしな垂れかかるアルベド。

前世で暴走した時のような感じはない。これなら安心して出来そうだ。

「(良かった、前世はバグか何かがあったんだ。本当のアルベドは俺の理想通りの女性だったんだ。)」

アルベドを抱きしめながらアインズが囁くように、自信なさげに言葉を紡ぐ。

「アルベドよ、私は骨の体の為、こういう行為はしたことがない。高位の幻術により体を(一部)作ることで出来るとはお」

アインズの言葉は最後まで続けることが出来なかった。

「は、初めて?私がアインズ様の初めてなのですね?」

アルベドは前世と同じだった。既にアインズの体はベッドに押し倒された後だった。

「(ええ~?またか?何でなんだ?これがギャップなのか?本当にこれが萌えるのか?タブラ?もし転移してきたら殴ろう)あ、アルベド、落ち着け!」

「いいえ、もう我慢出来ません!くふふ、アインズ様が私と同じ清らかなお体なんて。ああ、私はこの日を一生忘れません!」

金色の瞳孔が開いた性欲の獣がそこにいた。また精神が沈静化され、別の感情が沸きあがってくる。

「ふふ、ハッハハハ!」

アインズは思わず笑い声をあげた。何度も繰り返してきたやり取りを思い出し、懐かしさと可笑しさがこみ上げてくる。

「あ、アインズ様?」

やっと自分のやってることに気付いたのか、アルベドが慌てて顔を上げる。

「いや、お前はそういう女だったな。ふふ、落ち着けアルベド。私は逃げたりしないとも。それより、お前の可愛い顔を見せておくれ」

「アインズ様?」

アルベドは恥ずかしそうにアインズを見つめる。上気した頬が赤く染まっている。

「ふふ、お前はそれで良い。その方が私たちらしいだろう」

「えっと?それはどういう?」

すっかり肩の力が抜けた。自分はロマンチックな初夜など出来るほどの経験はないのだ。これから何万年も一緒に過ごすのだ、飾る必要も無いだろう。

「何でもないとも。アルベド、今からお前は私だけのものだ」

アルベドを優しく抱き寄せながらアインズが体を入れ替える。

 

―明け方―

「…なあ、アルベド?そろそろ朝になるんだが……」

「もう一回だけ、もう一回だけですから!」

「そう言い続けてこれで18回目なんだが…」

「これでラスト!本当にラストですから!」

食われる。そう直感していた前世の自分は正しかった。

 

 

「…というわけで、凄かったのよ。初めてだったのに何度気をやってしまったか分からないわ。一晩中眠らされてくれなくて、くふふ。」

「今の話だとアルベドがアインズ様のお体を貪ったようにしか聞こえないんだけど?」

「全くでありんす。うらやま、不敬にも程がありんすえ」

「本音が駄々洩れよシャルティア」

アインズの妃達、及び妃候補が第6階層、湖のほとりでお茶会をしていた。

アルベドの報告会という名の自慢話が延々と続いていたが二人は興味津々で聞いていた。

自分たちもこれからナザリック絶対支配者の寵愛を受けるという栄誉を賜るのだ。

「はあ、今夜は私の番でありんす。ちびは大人になるまで我慢でありんすえ」

「ぐぬぬ…。まあ、大人になったらあたしが独占してやるんだから今くらいは許してあげるよ」

アウラとシャルティアの喧嘩はいつものことだがアルベドの言葉が割って入る。

「ねえ、貴方たちはアインズ様に全てを捧げられるの?」

「は?何を当たり前のことを聞くの?当然でありんす」

「そうだよアルベド。アインズ様に全てを捧げるなんて当然じゃん」

「本当に出来るの?全てよ?」

「出来るでありんす」「当たり前だって」

自分たちの忠義と愛を疑うような言葉は流石に不快だ。怒りを隠さずに声を荒げる。

「そう、なら良いのよ。貴方たちにとって最も大事な人はアインズ様ということね?その覚悟はあるのね?」

「…何がいいたいの?」

「貴方たちがぺロロンチーノ様やぶくぶく茶釜様と戦えると聞いて安心したわ」

「は?」「え?何言ってるのアルベド?」

「当然でしょう?それとも愛する殿方にこう言うの?「貴方は私の2番目に大切な方です」って。そんなことを許すと思うの?」

アルベドの発言はどう考えても不敬だ。それでも言わんとすることは分かる。

 

シャルティアは生まれて初めて恐怖した。アルベドと戦えばまず間違いなく自分が勝つ。それでも、アルベドが怖い。

「私は言ったわよ?アインズ様の妃となるなら全てを捧げなさいと」

「アルベドは出来るの?タブラ・スマラグディナ様と戦えるの?」

「出来るわ。必要ならタブラ・スマラグディナ様を殺すわよ」

目を逸らさず真っすぐ見つめてくる。

「私はアインズ様の為に作られたのよ。私の名は“白”、アインズ様の為の純白の花嫁。あのお方の隣に座る為に生まれてきたの」

自分だけは違う。このナザリックで本当の意味でアインズに全てを捧げているのは自分だけだ。

「だ、だからって自分の創造主に対して不敬ではありんせんの?」

「問題ないわ。私はそうあれかし、と作られたのだから。それに私の白にはもう一つの意味があるの」

「意味って何さ?」

「私の居場所は玉座の間。ナザリック最終防衛ライン第8階層を突破してきたものを迎え撃つ場所。そして私とアインズ様の死に場所よ」

「死にって…どういうこと?」

「そうね。デミウルゴスなら知ってるかもしれないけど、ウルベルト様が仰ったの、「第8階層を突破されたらナザリックは落ちる」って。そして悪のギルドらしく堂々と玉座の間で勇者を迎えようって」

至高の御方々がそんなことを話していたなど初めて聞いた。しかし、アルベドが嘘を言っているようには見えない。

「至高の御方々はもうアインズ様しか居られないわ。でも、至高の御方がお一人で最期を迎えるなんてあってはならない。私の白はあの方と共に死ぬための死に装束でもあるの。…シャルティア、覚悟が出来たなら私のところに来なさい。アインズ様に取り計らってあげるわ。アウラ、貴方には時間があるわ、十分に考えなさい」

そのままアルベドは振り返ることも無く去っていった。重苦しい沈黙が辺りを支配していた。

 

 

「何で今日もアルベドが?」

寝室に入ったアインズの目には昨日と同じくアルベドの姿が。

「シャルティアはまだ覚悟が出来ないようです。ですので、本日も私が」

ヤバい。疲労を感じない体だが連日は不味い気がする。何とか誤魔化す方法を探し部屋の中を見回す。

「ん?この枕は何だ?」

枕に刺繍がしてある。こんな物は昨日まではなかったはずだ。

「それは“YES-NO枕”でございます」

「ほう?」

「働く殿方はお疲れのこともございましょう。ですが夜のことを直接言うのも憚られる。そんな時にこの枕で意思表示をするのだと聞きました」

「(誰から聞いたんだ?既婚者?タブラさんかたっちさんか。下系の話ってことは、たっちさんでは無さそうだな。またぺロロンチーノかも知れない)」

早速枕をひっくり返すと…YES

「あれ?アルベド?両方YESなんだが?」

「くふふ、今日も可愛がっていただけるのですね?」

「え?いや、これおかしくないか?」

「いいえ、これは由緒正しい“YES-の枕”でございます」

「は?ちょ、ま、アルベ「さあ、夜はこれからですわ、アインズ様!!」

肉食獣の宴は再び幕を開けた。








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