強くてニューゲーム 作:トモちゃん
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ナザリック最奥、玉座の間。
一部のNPCを除き、ほぼ全てのNPCが一同に集められている。
異形の強者たちが整然と、規則正しく並ぶ姿は圧巻である。
「面を上げよ」
偉大なる支配者の声により、全員が頭を上げる。
「さて、先ずは、お前たちの中に、魔導国での記憶があるものはいるか?」
魔導国?聞いたことのない国の名前に皆が首を傾げる。
どうやら、NPCの中で記憶を引き継いだものは誰もいないようだ。後でここにいない二人にも確認しなければならないが。
「モモンガ様、魔導国とは一体?」
ナザリック一の知者、デミウルゴスが尋ねる。
「ふむ、魔導国とはな、この私とナザリックによって統治される国である。あらゆる種族が私の下で幸せに暮らすのだ。そこには飢えもなければ争いもない。甘い蜜で満たしたかのような、そんな楽園だ。ふふ、前は30万年も続いたのだがな」
楽しそうに語る支配者の声に嘘は感じられない。いや、そもそも至高の御方が嘘を吐くはずがない。ならばその国は実際にあったに違いないのだ。
「それは正に理想の国家で御座います」
デミウルゴスが満面の笑みで答える。
「うむ、当然、今回も建国するつもりだ。そして、世界をこの私が支配する。お前たちにはその為に働いてもらいたいが、異論のあるものはいるか?」
「そのような不届き者は一人もおりません!」
守護者統括アルベドが即答する。それに続き、NPC達は全員、首肯する、当然であると。
主のために働けることこそ、至上の喜び、しかも、世界征服という偉業に自分たちを使ってくださるという。
NPC達全員の目が使命に燃えていた。全てを捧げてやり遂げるのだ、と。
「頼もしいな。お前たちの奮闘に期待する。いや、お前たちならば必ずや私の理想を叶えてくれると確信している」
「お任せください。僕たち一同、モモンガ様の為、全てを捧げ、お仕えいたします」
「お前たちの忠義に感謝しよう。では、状況の確認だ。セバス、ナザリック周辺の状況を報告せよ」
「はっ、モモンガ様の仰った通り、ナザリック周辺は毒の沼地ではなく、草原になっておりました。また、周囲に警戒すべき魔物なども見当たりませんでした」
「ふむ、知的生命体も見つからなかったのだな?」
「仰せの通りでございます」
「良かろう、まずはナザリックを隠蔽するとしよう。マーレ、偽装工作を任せる。」
「は、はい!お任せください!」
「そうだな、上空は幻術を展開しよう。近くに大森林があるはずだ。それとつなげる形で、ナザリック周辺を森で囲め。それと、通常の方法では森を抜けられないよう、魔法をかけておけ」
「はい!」
大役を任されたマーレが笑顔で答える。周りの守護者達の顔に嫉妬の色が浮かぶが、アインズは無視することにした。いつものことなのだから。
「さて、では次に、最も重要なのは情報収集だ。周辺の強者の情報を集めよ」
前世と同じなら危険はないだろうが、油断はしてはいけない。
ユグドラシルで特に仲が良かった友人であるぺロロンチーノもこう言っていた。早口で。
「モモンガさん、エロゲーは2週目からが本番なんです!2週目からじゃないと攻略出来ないキャラがいるんですよ!新キャラだって登場するんです。前はいけなかったルートに突入出来たときの感激ときたら!特にロリ系はこの傾向が強いんです!いいですか?1週目で攻略出来なかったからって諦めたらそこで試合終了なんです!血が繋がったロリだって攻略できるんです!」
…思い出す言葉を間違えた気がするが、自分以外にも2週目に突入したプレイヤーがいるかもしれないし、前世とは違うキャラがいるかもしれない。自分が強くなった以上に相手は強くなっているかもしれないのだ。それと折角の2週目だ、前世では手に入らなかったレアアイテムや人材を確保するのも良い。法国にはそれなりに優秀な人材がいたはずだ。
自分の持ち物は前世のままだが、NPC達はどうか、これも確認しておかなければならない。
アインズには、彼らの忠誠を疑う気持ちは既に無かった。
問題は戦闘能力と武装、創造主が持たせた各種アイテムだ。
「では、各階層守護者に聞く、担当の階層、及びお前たちの持ち物について、異常はないか?先ずはシャルティア」
「はっ、第1から第3階層ですが、僕たちに異常はありんせん。ただ、見たことのないアイテムが複数、配置されておりんした。」
恐らくは前世で新たに配置したアイテムに違いあるまいが、トラップ系のものであれば確認しなければならない。
自分で配置した罠で死ぬなど間抜けにもほどがある。
「それから、私の装備ですが、以前持っていたはずのアイテムがいくつか喪失しておりんす。そして知らないアイテムがいくつかアイテムボックスに。それと、装備が強化されているようでありんす」
「大きく強化されているアイテムはスポイトランスだな?それはワールドアイテム、カロリックストーンを使用した結果だ。また、階層に配置されているアイテムは私が設置したトラップだろう」
玉座の間がおぉ、とどよめく。まさか僕ごときにワールドアイテムを使用されるなど。
「お前だけではないぞ、シャルティア。階層守護者のメインとなる武器は全て、カロリックストーンにより強化済みだ」
どよめきが大きくなる。世界一つに匹敵するほどのアイテムをどうやって守護者全員分確保できたのか、至高の御方のお力とは斯くも偉大なものなのか。
「流石は至高の御方。私の愛する殿方でありんす」
うっとりとした表情でアインズを見上げるシャルティア。どこからかギリギリという歯ぎしりの音が聞こえてくるが、気のせいに違いない。
「次に、コキュートス、第5階層はどうだ?」
「ハッ、僕タチニ異常ハゴザイマセン。タダ、大量ノ死体ガ氷漬ケニナッテオリマシタ。」
「ふむ、その死体の数は凡そ5万というところだな?」
「左様デゴザイマス。ゴ存知デシタカ」
「ああ、それは私がアンデッドの材料にしたり、実験に使用しようと考えているものだ。」
「承知イタシマシタ。デアレバ、他ニ異常ハゴザイマセン」
「うむ、アウラ、マーレはどうだ?」
「はい!第6階層は湖周辺に誰かが生活していた跡がありました。また、あたしたちの知らない農園などもありましたが、侵入者の形跡などはありませんでした。農園の管理はアンデッドがしているようです」
「…そうか」
どうやら、外部からナザリックに来た者たちは今世には来れなかったようだ。ハムスケやピニスンはトブの大森林にいるだろうか?
もしいるなら早々に回収しよう。あれらには愛着もある。特にハムスケは大事なペットだ。抜けたところもあるが、どれだけ癒されたか分からない。
だが、自分が作成したアンデッドは居るようだ。農園にいるのはスケルトンなどの低位のアンデッドだが、いないよりはましだろう。
「ふむ、その集落跡はそのまま残しておけ、現地の者たちを住まわせるときに利用するとしよう。また、農園の作物はアンデッドを使用して外部で栽培することとする」
「はい!畏まりました!」
アウラとマーレの目には尊敬の光が宿っている。自分たちが知らない間にどうやって集落や農場を作ったのか、自分たちの主の神の御業を知るにつけ、敬意が限界を突破していく。
「デミウルゴス」
「はっ、第7階層は異常御座いません。」
「うむ(そういえば、第7階層はそもそも外の生物が生活できる環境ではなかったため、殆ど変化が無かったんだったっけ)」
「ただ、私の手元に、いくつか、ウルベルト様のものと思しきアイテムがあるのですが…」
「(前世で褒美としてやった奴だな)構わん。それはお前が持つべきものとして、私が与えたものだ」
「おぉ、なんという…。これほどのご慈悲を賜り、感謝の言葉も御座いません」
「構わないとも、デミウルゴス。智謀に優れたお前には苦労をかけるだろうからな」
「主人の為に働くことこそ我が喜び。存分に我らをお使いくださいませ」
「ああ、期待しているとも。頼むぞ、デミウルゴス」
「最後に、アルベド」
「はい、モモンガ様」
「守護者統括として、お前の役目は非常に重要だ。また、内政面での働きが多く、目立った功績をあげることが難しいかもしれんが、お前にしか出来ない大事な役目だ。頼りにしているぞ」
「過分なお言葉、ありがとうございます。全力を持って務めさせていただきます」
「お前には第9階層に私室を与える。私のぬいぐるみ等が山積みになっている部屋があるので、そこを使え」
「も、モモンガ様のぬいぐるみですか?畏まりました、喜んで使わせていただきます」
「うむ。」
前世での経験からアルベドの想いは良く理解している。
あるいは自分が設定を書き換えたことが原因でギルメンに対する憎悪を抱いたのかもしれない。
彼女を責める資格は自分にはない。アルベドの憎悪は自分が抱いていたものと同じだからだ。
……ここでアインズは考える。前世での最後、アルベドに約束したことがある。今、それを言わなかったらまた最後まで言えないかもしれない。
どうするか、いや、30万年も待たせた相手だ。今度も言えなかったら自分が許せないだろう。
「アルベドよ、先ほど、私は建国し、王になると言ったな」
「はい、モモンガ様に相応しい地位と愚考いたします」
「うむ。だが、王が独り身というのは侮られるかもしれん」
そこまで聞いたとき、アルベドの脳裏に電流が走る。
「で、では、私を正妃として頂ければ!!」
国がどうとか、言い訳がないとプロポーズも出来ないのか、と自嘲しつつ、アインズは続ける。
「お前が良ければそうしたいのだが、構わないか?私を愛するよう、お前の設定を書き換えたのは私だ。だが、それでも私はお前の意思を尊重したい」
「勿論でございます!!ああ、私はとうとう、モモンガ様のものに…くふふ……」
「ちょっと待つでありんす!モモンガ様!同じアンデッドである私のほうが妻には相応しいと愚考いたしんす」
「シャルティアよ、お前も私の妃になりたいと申すか?」
「はい、このナザリックにおいて、至高の御方に恋い焦がれないものなどおりんせん」
「ふむ。では、側室という形になるが、それでも良いか?正妃となれば、外交の場に出ていくことも多くあろう。政治的な駆け引きをすることを考えれば、アルベドが最も適任なのだ」
「んぐぐ…」
頭脳、駆け引きではアルベドには勝てない。だが、この期を逃せば至高の御方の妃という最大の名誉を得る機会を失うかもしれない。重要なのは地位ではない。自分が最も寵愛を受けることだ。
「…畏まりんした。側室として、モモンガ様をお支え致しんす」
「くふふふ……」
勝者の笑みでシャルティアに勝ち誇るアルベド。敵意を隠さずに睨みつけるシャルティア。
どちらも愛する男の前でしてはいけない顔をしていることには気づいていなかった。
「いいなぁ…」
ポツリとアウラが呟く。
そういえば、前世において、アウラもアインズに求愛していた一人だった。
十分に成長したアウラは美しく、魅力的な女性だった。だが、今はまだ幼い少女だ。ひょっとしたら今世では別の男を好きになるかもしれない。
「アウラ、お前はまだ幼い」
「はい…」
子供だから分かってはいたが、落ち込んでしまう。
「ただ、お前が大人になって、もし、私と結婚したいと思ったなら、その時は私に教えてくれるか?」
「は、はいっ!!早く大人になって、あたしもモモンガさまの妃になります!」
アルベドやシャルティアはこれ以上成長しないので、妻として迎え入れるのにそれ程抵抗はないが、アウラは前世で大人になるまで育てた娘のような存在だ。
自分の娘に手を出すのはなあ…などと思っていると、頭の片隅で心のぺロロンチーノが囁き始めた。
「モモンガさん、自分の好みの少女を育てて妻にするのは男の夢ですよね!最高ですよ!幼い少女の頃から仕込んでいって、妖艶な女性になるまで色々なシチュエーションが楽しめる!Yes!ロリータ、たっち・みーですよ!」
殴ろう。そんなことを考えたが、これは自分の妄想のぺロロンチーノだ、いくら彼でもそんなことを口にするはずがない。しないはずだ。多分しないと思う。しないんじゃないかな……。
さて、とりあえず、ナザリックの状況は理解した。次は周辺の状況だ。
と、最後に言わなければならないことを思い出した。
「さて、お前たちに言わねばならないことがある」
至高の支配者の言葉に全員が耳を傾ける。決して一言一句たりとも聞き逃すなど許されないという気迫が漲っていた。
「お前たちの創造主はこの地を去った。そして、ナザリックがどこか知らぬ地に転移したことから、おそらく、もう彼らと会うことは叶うまい。」
至高の御方の言葉に僕たちは一様に悲痛な表情になる。
「ゆえに、私は名を変える。これより、私こそがギルド・アインズ・ウール・ゴウンである!お前たちのただ一人の主であり、お前たちの父である!私を呼ぶときはアインズ・ウール・ゴウン、アインズと呼べ!異論あるものは立ってそれを示せ!」
「ご尊名、承りました、いと尊き御方、アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」
アルベドの声にアインズ・ウール・ゴウン万歳の大歓声が続く。
至高の創造主はいなくとも、自分たちの全てを捧げるべき尊い主がいるのだ。
その喜びに身を震わせながら僕たちは叫ぶ、絶対の支配者への忠誠を。