強くてニューゲーム 作:トモちゃん
<< 前の話 次の話 >>
「モモンガ様?何か問題がございましたか?」
心配そうな顔をしたアルベドが声をかけてきた。
玉座の間には、アルベドとセバス、そしてプレアデスたちがいるだけだ。
そして今、アルベドが呼んだ名前は、もう30万年も前に使わなくなった名前だ。
この光景は見覚えがある、初めて異世界に転移した時の光景と全く同じだ。
「…本当に転移したのか?いや…」
…確認しなければならない。あの時と同じなのかどうか。
先ずは記憶だ、自分とともに過ごしてきた記憶があるのかどうか。
「アルベド、お前の最後に覚えている記憶を教えてくれるか?」
「はい、モモンガ様が玉座に座られて、至高の御方の旗を指し示しておられました」
愛しい主に声をかけられ、少し頬が赤くなったアルベドが嬉しそうに答えた。
「ふむ、セバス、並びにプレアデスたちよ、お前たちも同じか?」
「はっ、私もアルベド様に動揺に御座います」
どうやら、首を縦に振っていることを見るに、プレアデスたちも皆、同様のようだ。
「(転移してきたのは俺だけか?くそ…いや、新しい関係を作ると考えよう。もう一度この子達の成長を見られるのだ、悪くない)」
アインズのナザリックへの妄執は変わらないが、それ以上に、数十万年ぶりに訪れた新しい状況にワクワクしていた。
前世では結局、絶対支配者とその僕たちという関係を変えることは出来なかった。
今世ではもっと距離を詰めても良いのではないだろうか?そう、家族になるというものありかもしれない。
「ふむ、ではセバスよ、お前はプレアデスの一人を連れ、ナザリックの周辺を30分程確認せよ、おそらく、毒の沼地ではなくなっているだろう」
アインズを除いた全員に衝撃が走る、玉座の間にあってどうやってその異変を知ったのか。
「畏れながら、モモンガ様、一体、何が起こっているのでしょうか?」
恐る恐るアルベドが尋ねる。
「私にもはっきりしたことは分からない。だが、そうだな、アルベドよ、全てのNPCに一時間後、玉座の間に来るよう、伝達せよ。ああ、ただし、オーレオールとヴィクティムは不要だ」
「畏まりました、直ちに」
「プレアデスたちは第9階層の警護に当たれ、では、行動を開始せよ!」
威厳に満ちた声が玉座の間に響く。
「はっ!」
至高の支配者から、直接命令を与えられた事実に歓喜しながら僕たちは行動に移る。
「では、自分の能力と所持品の確認を行うか」
自室に転移したアインズは部屋を見渡し確認する。前世で手に入れたアイテムが置いてあることを。
アイテムは前世のものをそのまま引き継いだのだろうか?徐にアイテムボックスを開く。
自分のアイテムは世界崩壊直前のものと同じだ。まあ、能力が変わっていなかったのでここは想定通りだ。
アインズは前世において、長い年月をかけて多くのワールドアイテムを獲得した。
ある時、ワールドアイテムを全身に装備してみたらワールドエネミーへと進化?した。
ただ、その頃には世界征服も完了し、転移してくるプレイヤーも既にいなかったため、完全に宝の持ち腐れだった。
一週間程は落ち込んで何もやる気が出なかった。5つものワールドアイテムが纏めて消滅したのだから。
アインズの装備はユグドラシル時代よりも圧倒的に強化されていた。
ワールドエネミーが世界級の装備で身を固めているのだ、ゲームバランス至上主義者からは糞ゲーと言われること間違いないだろう。
尚、当然ギルド武器にもカロリックストーンを使用し、さらに強化しているが、戦闘で使用したことはない。
ドワーフたちが作ってくれた武器やアイテムも手持ちにある。
強欲と無欲に貯めまくった経験値を潤沢に使い、身に着けたタレントもそのままだ。
魔法威力を上昇させるものを中心に集めまくったタレントは、それぞれ個別では魔法威力上昇1%等の効果が殆ど実感できないものだが、積み重ねればとんでもないものになる。
既にアインズの素の魔法攻撃力はワールドディザスターすらはるかに超えていた。それがワールドエネミーになったことでさらに強化された為、
この世界が前世と同じであれば、アインズが誰かに負けることは考えられない。
アインズには、この世界は前世と同じだという確信があった。これも手に入れたタレントによるものだが、もうどのタレントによるものなのかは分からない。
直感を強化するものか、予言が出来るものか、真実を見抜くものか…自分でも全てのタレントを覚えていない位だ。
ならば前世と同様、早々に世界を征服し、すぐにワールドアイテムを確保しなくては。
誰かが自分と同じくワールドエネミーになることなど絶対に防がねばならない。
次は宝物殿だ、前世で入手したアイテム、消費したアイテムがどうなったのかを確認しなくては。
アインズは指輪の力を使い、転移する。不詳の
「ようこそ!我が創造主、モモンガ様!」
相変わらずのテンションで迎えられたが、長い付き合いですっかり慣れたアインズは鷹揚に手を振って応える。
「パンドラズアクターよ、変わりないか?」
「それが…」
パンドラズアクターにしては珍しく、奥歯にものが挟まったかのように言い淀む。
「ふむ、無いはずのアイテムがある。そして、消費したはずのないアイテムが消費されている、ということか?」
「な、何故それを?」
恐らくは、驚いた表情をしたパンドラズアクターが叫ぶ。
「ふむ、それを確認しに来たのだが、やはりそうか」
そして同時に、パンドラズアクターが記憶を引き継いでいないことも確認できた。
ワールドアイテムの数もアインズに吸収された分を除き50を超えている。
金貨に至ってはアインズの個人資産だけでかつてのギルド共通資産を大きく超えている。多すぎて数えることも出来ないが。
パンドラズアクターの優秀さは前世で十分に理解していた。今世は最初から彼にも活躍してもらうとしよう。
それに、パンドラズアクターの前ではある程度素の自分でいられることも大きい。
「さて、色々と話をしたいところだが残念ながら時間がない。お前はリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持っているな?」
「確かに、私の指にはいつの間にかこの指輪がありましたが、モモンガ様が?」
驚くパンドラズアクターを手で制し、続ける。
「時間がないのでな、詳しい説明は玉座の間にて行う。ただ、これからはお前は私の参謀の一人として活躍してもらう」
「おぉ!私が創造主たるモモンガ様のお役に立てるときが来るとは!!」
「ああ、それと、パンドラズアクターよ。お前には私と二人だけの時は私を父と呼ぶことを許そう。」
「モモンガ様を父上とお呼びしても?ほ、本当ですか?」
普段の大袈裟な動きではなく、まるで油をさしていない機械のようなギクシャクとした動きでパンドラズアクターは叫んだ。
「構わん、許す。では、急いで来るがいい、我が息子よ」
そう言い残し、アインズは指輪の力で転移する。
残されたパンドラズアクターはアインズの言葉を反芻し、歓喜に咽び泣いていた。