オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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モモンガとパンドラの大森林探索はかなりの精度で進んでいた。モンスターの分布図はほぼ出来上がっていて、エンリから聞いていた森の三大勢力の領域もざっくばらんにだが把握したほどだ。
だが、その中で一つ懸念があった。東だけ統率が執れておらず、ここだけモンスターの分布が不安定だった。
「パンドラ……。もしかしなくても“東の巨人”とはあのトロール共だったんじゃないか?」
「その可能性は非ィィ常ゥに高いかと!南と西と比べると、モンスターたちは好き勝手に移動しており、モンスターたちによる争いも数多く発生しております」
「だよなあ……。で、“西の魔蛇”はまだ見付かっていないが、“森の賢王”は本当にそいつなのか?」
「これ以外に三十レベルを超える存在はいませんので……。白銀の四足魔獣で尻尾は蛇のよう。エンリ嬢から聞いた話と一致します」
「だがなあ……」
二人が遠隔視の鏡で見ているのは一つの洞穴の中。そこでいびきをかきながら腹を見せて眠っている一匹の大きな獣。
「どこからどう見ても、ハムスターだろう?これ」
「そのハムスターなるモノは存じませんが……。レアではありますね。ユグドラシルにはいなかったと記憶しております」
「ああ、いなかったな。俺の知ってるハムスターは掌に乗るサイズだったし、蛇の尻尾なんてついていなかったしなあ……。こいつがこの辺りを治めているから安全だっていうのも信じるとしよう。三十台はこの世界でかなりの脅威らしいからな」
アダマント級冒険者という人類最高峰の実力者たちもいるが、チームで戦って“森の賢王”と同格かもしれない、という話だ。それほどまでにトブの大森林は人外魔境らしい。
そこをほぼ全て把握してしまったモモンガたちは一体何になるのか。魔王か。
「アレと同格の“西の魔蛇”も放置でいいだろう。これ以上トブの大森林は調査しても脅威は感じられん。それよりも山のドラゴンだ。……地盤固めのためにそろそろエ・ランテルに行って冒険者になるか?この調子なら死の騎士を数体この周りに置いておけば問題はないだろう」
「では、本格的な冒険の始まりですね?私も宝物殿に引きこもってばかりでしたので御方々の語っていた冒険なるものを体験できるのは至極恐悦でございます」
「やっぱりお前は俺の息子だなあ。冒険が楽しみなNPCとか聞いたことないわ」
「お褒めいただきっ、ありがとぉうございます!……ですが、たまには宝物殿でアイテムを磨きたいので帰ってきても?」
「というか泊りがけの依頼とかじゃなければ毎日帰ってくるぞ?ここを長期間空けるわけにはいかないし、《転移門》使えばすぐに帰って来られるんだからな」
宝物殿はワールドアイテムも保管されているし、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがなければ入れないとはいえ、ずっと放置などできはしない。財産と一緒に思い出もある場所なのだから。
そうして冒険者になるための設定を考えようとして紙とペンを出したところに《伝言》の魔法が届いた感覚があった。
(モモン様……。妹だけは、助けてください……)
「エンリ!?どうした、エンリ!?」
エンリから初めての《伝言》が届いたと思ったら息絶え絶えの連絡だった。
ドングリには近場であれば相手の場所がわかる機能があり、トブの大森林の中に二人がいることがわかる。
「まさかモンスターに襲われたか!?パンドラァ!」
「ハッ、完了しました!」
モモンガは咄嗟に《転移門》を開く。パンドラもすでにたっちの姿に変身を完了させていて、急いで《転移門》をくぐっていった。
パンドラが出た瞬間、目の前にいた騎士のような男の首を切り落とした。モモンガは近くにいた同じ鎧の男に《
パンドラは辺りの警戒をして、モモンガはエンリを抱きかかえる。まだ息をしていて、傷が深かったために気絶しているとわかり、マジックボックスから
傷は途端に塞がり、息も安定し始めた。それを見てネムは一安心したようだった。
「ネム、何があった?こいつらは誰だ?」
「お父さんが帝国の騎士って言ってた……。いきなり襲われて、村から逃げてきて……」
「村ごと?つまりは戦争行為だと?……戦争にもルールがあるってウルベルトさんが言っていたな。人と人の争いである以上、絶対に守らなければならないこともあると。……パンドラ。すでに死の騎士を村に行かせた。今から《
「承諾いたしました」
モモンガは両腕でエンリを抱き上げると、見上げてくるネムに言い聞かせる。
「ネム、この先は俺たちの家だ。すぐに終わらせてくるからちょっと家で待っていてくれ」
「……わかりました」
モモンガは《転移門》をくぐってすぐ、実験で召喚していた門番の智天使に《転移門》をくぐらせてパンドラの援軍とした。もう半分はここに残ってエンリたちの護衛に当てる。
ベッドに寝かしつけたエンリにはしばらく起きないように睡眠の魔法をかける。ネムにもかけて、二人は寝かせておいた。この方が安全だと思ったためだ。
家を出てすぐ、モモンガは近くの樹を殴りつけていた。魔法詠唱者とはいえ、レベル100の身体能力に耐えられるわけもなく、大きな音を立てながら折れていった。
「クソが……クソがくそが糞がぁああああああ!ただの村娘だろうが!それを森まで追いかけて殺しかけるだと!?それのどこが戦争行為だ!?皆殺しと占領は異なるだろうが!民がいなくなった国を支配してどうする!?辺境など統治する気もないということか!?そんな行為を、国の名の元に許す大バカ者はどこのドイツだぁああああああ!?」
叫び終わった瞬間、急激に落胆していく。感情抑制が起こった証拠だ。冷静になれるというのはメリットもありデメリットもある。
こうして人間としての当たり前の嘆きまで、抑制されるとは。
「クソが……。激情まで抑制するなんて……。こんな行いが国として正しい行為として行っているなら俺は悪でいい……。たっちさんのような正義なんて背負えない。ウルベルトさんの言う悪も為せない……。中途半端な悪にしかなれなくても、この村くらいは救ってやる……!」
モモンガは今だけは、外見通りのアンデッドのように生者を憎む存在になろうと決意した。姿は幻術で人間の姿へと偽り、新しく開いた《転移門》をくぐって、カルネ村へ直行する。
毎日帰ってくる冒険を冒険と呼ぶのだろうか?
あ、虐殺モード入りましたんで。
というかウルベルトさんってこんな感じで合ってる?
便利枠として酷使させていただきますんで。