江戸絵画の文雅 ─魅惑の18世紀
開催期間 2018年11月3日(土・祝)~12月16日(日)
月曜休館
展示概要
元禄年間(1688 - 1704)、日本は経済活動の発展により、空前絶後の繁栄を極めました。開府よりおよそ100年を経た江戸は人口100万を突破、世界屈指のメガロポリスの地位を確たるものにしました。また、大坂・京都も数十万規模の大都市へと発展します。
「都市」という新たな生活空間の誕生は、文学・演劇・美術など、多様な文化の成立・発展に結びつきます。こうした文化を端的にあらわす言葉に「雅俗」、すなわち、漢文学・和歌に代表される伝統的な「雅」と、俳諧や戯作といった新興の「俗」があります。この言葉は、ふたつの文化が画然と分かたれるものであったかのような印象を私たちに与えるかもしれませんが、実際は相互に混じりあいながら、豊かな文化を形成していったのです。
こうした雅俗の混交は、当時の画壇にも当てはまります。本展では18世紀に生まれた雅俗の絵画を、「文雅」、すなわち文芸をキーワードに見ていきます。
文芸と絵画は古くより不可分の存在です。しかし、その裾野が大きく広がったのはこの時代です。人々の世相や風俗を描く「俗」なる絵画の典型という印象とは裏腹に、古典をもとにした「見立て」を繰り広げた浮世絵。王朝の風雅に対する深い理解と憧れを、絢爛たる色彩に託した琳派。そして、「雅」なるものの象徴ともいえる文人画においては、漢文学に対する深い素養とともに、俳諧など「俗」なる文芸が混ざり合うことによって、日本独自の情趣性を帯びてゆきます。「文雅」をもとに、多様な展開を見せる18世紀の豊饒な絵画の競演を、どうぞご堪能ください。
本展のみどころ
01「文雅」なる江戸絵画の名品を紹介!
文人画・琳派・浮世絵といった諸派から個性的な画家たちが続々と輩出された18世紀の日本。このバラエティーあふれる時代の絵画を、「文雅」、すなわち文芸とのかかわりを中心に見ていくことで、視覚的なおもしろさにとどまらない江戸絵画の深い魅力に迫ります。
02大雅と蕪村の二大競演!
本展では、池大雅「十二ヵ月離合山水図屏風」と与謝蕪村「山水図屏風」というふたりの代表作を同時展示。さらに、蕪村の最高傑作、国宝「夜色楼台図」(やしょくろうたいず)も特別にご出品いただくことに!(11月3日〜18日展示) 日本文人画界に燦然と輝く二大巨匠の夢の競演をお楽しみください。
03光琳・乾山兄弟が繰り広げる琳派の美!
琳派の芸術は、豊かなデザイン性と色彩感覚のみならず、和漢の文芸に対する深い理解と憧れが反映されていることも見過ごせません。尾形光琳・乾山兄弟から、その次世代にあたる琳派の作家たちの煌びやかな作品を通して、「みやこの雅」をご堪能ください。
04肉筆浮世絵、禅画もずらり!
18世紀、浮世絵においても、王朝の雅を感じさせる「見立て絵」が数多く描かれました。また禅の世界でも、民衆に寄り添う禅画が生まれ、絵画の世界にも大きな影響を与えました。本展では、肉筆浮世絵の名品の数々、そして仙厓と並び称される禅僧・白隠の作品もお楽しみいただきます。
展覧会の構成
- 第1章
- 孤高の美学
─大雅・蕪村の競演 - 第2章
- 文雅の意匠
─琳派のみやび - 第3章
- 禅味逍遥
- 第4章
- 王朝文化への憧れ
─「見立て」の機知 - 第5章
- 幻想の空間へ
─「文雅の時代」を継承するもの
各章の解説
第1章 孤高の美学 ─大雅・蕪村の競演
中国で生まれ、正統の画として君臨した文人画。画家の精神性を尊ぶこの絵画が日本で花開いたのは、江戸時代に入ってからです。そしてこの中で、日本の文人画を象徴するふたりの画家が生まれます。それが池大雅(いけのたいが)と与謝蕪村(よさぶそん)です。本場中国の文人画に対する深い理解を持ちつつ、抜群の色彩感覚と天衣無縫な筆さばきにより、独自の画風を打ち立てた大雅。一方、俳人ならではの感性をもとに、日本的な情趣を絵に込めた蕪村。彼らの作品を通して、破格の文人画家に迫ります。
第2章 文雅の意匠 ─琳派のみやび
18世紀の幕開けとなる絢爛たる元禄文化。それを象徴する美術として、琳派の存在を欠かすことはできません。尾形光琳(おがたこうりん)が大成した琳派は、その金銀のきらびやかな描写に、和漢の文芸に対する深い理解が反映されているのです。古典を軽妙洒脱な表現であらわした光琳。その弟で、文人世界への憧れをうつわに託した乾山(けんざん)。そしてその次世代にあたる渡辺始興(わたなべしこう)、深江芦舟(ふかえろしゅう)など、みやこが生み出した文雅の世界を見ていきましょう。
第3章 禅味逍遥
18世紀における文化の変革は、宗教の世界にも波及しました。禅宗は、時代の要求に合わせ、その教えを民衆に広めるため、絵画など理解しやすい媒体(メディア)を用いました。こうした新しい禅宗絵画に見られるユーモラスな表現や奔放な筆づかいは、大雅などの画家たちにも影響を与えたのです。ここでは臨済中興の祖といわれる白隠(はくいん)の作品とともに、禅味あふれる絵画をご紹介します。
第4章 王朝文化への憧れ ─「見立て」の機知
18世紀以降の人々に熱狂的に支持された絵画に浮世絵があります。都市に生きる人々の姿をいきいきと描き出したこのジャンルは、その主題から「俗」な絵画という印象があるかもしれません。しかし、浮世絵には和漢の文芸をたくみに織り込んだ作品も数多く描かれました。「俗中の雅」ともいえる、機知に富んだ「見立て絵」より、人々が抱いた「雅」への憧れをのぞいてみましょう。
第5章 幻想の空間へ ─「文雅の時代」を継承するもの
「文雅の時代」ともいえる18世紀の精神は、後の時代にもたしかに継承されて行きました。従来の絵画ジャンルにとらわれず、折衷的な新画風を確立した谷文晁(たにぶんちょう)。大雅・蕪村を慕いながら、独創的な文人画風を創り上げた浦上玉堂(うらがみぎょくどう)。ここでは、18世紀を生き、そして続く世紀に大きく羽ばたいた画家たちの作品をご覧ください。