Am I Girl!?

第四話:「Let's登校!」


僕は桐生 凛(きりゅう りん)。正真正銘の男だ。

けれど、ある日僕は怪しげなお店で買ったボディソープのせいで、女の子の身体にされてしまった。

元に戻る方法が見つかるまで、僕はこの格好で生活しなきゃならない。

さてさて、今日はどんなことが待ち受けているのやら―─。




ジリリリリリ……。

「ん……ううん……」

目覚ましの音が朝を告げる。

「ふ……ふぁぁぁぁ……」

ベッドから身を起こして、僕は大きく屈伸する。

「ん~……むにゃ?」

寝ぼけ眼で自分の身体に目をやると、

そこにはたわわに実った二つのふくらみがあった。

…………。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

ズルッ、ゴッ!!

「あだだ……」

絶叫と同時にベッドから転がり落ちてしまった。

「――っ、そっか、またか……」

何度目だろう、この起き方は……。

しかしまぁ、夢であってほしいことだよ……うう。

「お兄ちゃーん、朝ごはん出来たよー」

階下から明日奈の声が響く。

「分かった、今行くよ」

とりあえず返事をしておく。

明日奈は、家事一通り、特に食事が上手だ。

将来はきっといい奥さんになるだろうなぁ。

そんな妹を持ってなんだか誇らしい気分。

……そういえば、僕の取り得は何だろう?

――それは、考えてはいけないかもしれない。

「さてと、着替えようか」

僕はベッドから降りて、洗面所で顔を洗う。

さっぱりしたところで、眼鏡をかけ、制服がしまわれているクローゼットを開ける。

――そこで、思考が停止した。

「――こ、れは」

うん。

確かにこれは、僕の通う私立秋宮高校の制服だ。

ただし、女子用の。

「……な、ななななんで!? 昨日確認した時は男子用だったのにっ!?」

秋宮高校の学生服は、男女とも臙脂色のブレザーだ。

違うのは、男子がネクタイとカッターシャツ、そして紺のチェックのズボン。

女子はリボンにブラウス、そして紺のチェックの「スカート」であること。

――そう、僕のクローゼットにはつい此間まで着ていた男子用ではなく、真新しい女子用の制服が入っていたのだ!

「どうして……はっ!」

気がつくと、もう時刻は7時40分をまわっていた。

「やば、そろそろ支度しないと遅刻かも! ……うう、仕方ない……」

僕はやむなく、スカートに足を伸ばした。



「お早う、明日奈」

ばたばたと食卓に駆け下りて来て、僕は言った。

「お・そ・よ・う」

明日奈はそう言ってこちらを見た。

始めは何か言いたげな目をしていたが、僕の姿を見ると驚いた風になり、それはすぐさまにやついた顔になった。

「へぇ……なかなか似合うじゃない」

なんて、明日奈は言ってきた。

「へ……な、なんで驚かないのさ?」

僕は今、女子用の制服に身を包んでいる。

昨日、明日奈が丁寧にスカートなど女子用の衣服の身に付け方を教えてくれたお陰で、結構早く着替えられた。

普通は「ええっ、どーしたのよそれ!?」とか言うと思うんだけどなぁ……。


いらすとれいてっど:MONDO様

――はっ、まさか!?

「明日奈……ひょっとして、僕の制服取り替えた?」

そう聞くと、明日奈はふふん、と笑みを浮かべて、

「まっさかぁ。そんなことするわけないでしょ? まぁ、私じゃない”誰か”ってことよねー」

なんて言った。

……そんな馬鹿な。

家の警備システムは万全で、夜中に特定の人間以外が侵入すると警報が鳴るようになっている。

それをくぐりぬけられるのは困難だし、何よりそんなことをしてまで制服を取り替えるような真似はしないだろう。

それにしても、明日奈の言い様……。

「もしかして明日奈、犯人知ってるんじゃない?」

ジト目で問うてみる。

ぎくっ、と明日奈は身体を一瞬硬直させ、すぐさまどこかぎこちない笑顔で言った。

「ま、まっさかぁ。それよりお兄ちゃん、早くご飯食べてよ。せっかく作ったのに冷めちゃうでしょ」

「う……うん」

そう言われては仕方ない。

僕はテーブルに座り、ベーコンエッグトーストに手を伸ばした。




「行って来まーす」

すでに誰もいない家にそう言って、僕は玄関から出た。

明日奈はすでに中学校へ登校している。

僕は、手にした小型のリモコンのスイッチを一つ入れた。

ガー……ガシャン。

無機質な音とともに、家中の窓・玄関のシャッターが閉まる。

そうして門の前に行くと、そこにはもう、親友・美作亮輝が待っていた。

「おはよ、凛」

いつものようにさわやかな笑顔で挨拶してくる。

「おはよ、亮輝。ちょっと待ってね」

そう言って僕は門の横、すぐそばにある細い穴に電子キーを差し込む。

ピッという音とともに、門が完全にロックされる。

目に見えないが、それと同時に警備システムが作動する。

これが桐生家名物「ハイパーガードシステム」である。

何せ、この電子キーは持ち主にしか使用できないようになっているからだ。

――と、亮輝がじっとこちらを見ているのに気付いた。

「……? どうしたの、亮輝」

僕が尋ねると、亮輝は慌てて、

「い、いやぁ、そこまでしっくりくるとはって思ってただけさ」

なんて言った。

――何だってぇ?

「亮輝……」

僕はジト目で彼を見る。

「な、何かな?」

明らかにたじろいでいる亮輝。

「昨日、僕の部屋に来なかった? 真夜中に」

こいつには家の合鍵を渡してある。

それほどまでに信頼できる人だからなんだけど……。

「な、なワケねーだろ」

あせったような、どぎまぎした感じで亮輝は答える。

怪しすぎ。

――よし、ならば。

「そういえば昨日僕、眼鏡をつけたまま寝ちゃってたんだよ。うっかりうっかり」

「え? 確かお前、ちゃんと眼鏡外してたぞ?」

「やっぱ犯人はお前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ゲシッ!!

「へぐぁっ!? な……なぜ……」

僕のハイキックが、亮輝の顔に炸裂した。

――こんなカマかけに引っ掛かるなんて……。

合鍵渡すんじゃ無かったよ……。

にしても明日奈の奴……亮輝だったから言わなかったのか?

あの悪魔っ娘め……。




そんなこんなで、僕達は学校に到着した。

学校法人天竜寺学園所属・私立秋宮高等学校。

以前にも述べたように、都内でも有名なエリート校だ。

また、その規模もかなりのものであり、校舎は全部で4つ、それがさらに号棟で分けられている。

僕らの教室は2号館・3号棟2階にある。

当然そこに向かうわけだが……。

「このまんま行けないよなぁ」

僕は自分の身体を見回して、そう呟いた。

「ん~……大丈夫だと思うぜ? 先生方は知ってるんだし。――一応、津上先生が来たら一緒に入るようにすればいいんじゃね?」

そうか、その手があった。

ちなみに津上先生とは、僕達の担任の教師だ。

人当たりがよい、化学の担当。

「んじゃま、先に俺入ってるわ」

そう言って亮輝はさっさと教室に入っていった。

「あっ、亮輝! ……もう」

いつのまにやら廊下には僕一人。

キーンコーンと予鈴が鳴る。

すると、間もなくして階段から一人の男性が現れた。

並程度の肉付きの身体に、優しげな顔立ちをした、清潔感のある短髪の頭。

僕らの担任・津上明人先生だ。

「おーい、もう予鈴は鳴ってるぞ。はやく自分の教室に行きなさい」

そう言いながら彼は僕の前にやってきた。

「おや……君は?」

「あ、えっと、その」

僕は慌ててしまった。

い……いきなりなんて言えばいいんだろう!?

そう困っていると、津上先生は優しい笑みを浮かべて、

「桐生だよな。合宿でのことは聞いているよ。――ああ、入りづらいんだな。よし、俺と一緒に入ろうか」

と言ってくれた。

「あ……はい、お願いします。

よかった。色々面倒なことにならなくて済みそうだ。

そうして僕は、津上先生と共に教室へと入った。

……この時点で、甘い考えは捨てておいた方がよかったのだろうな……。



――おい、あの子、誰?

――転入生かな?

――可愛い~!

うう、なんか影で色々言われてるような。

僕は転入生ぢゃないぞ~……。

「はい、静かに。SHR始めるぞー。――まず、彼女についてだ」

教卓にて津上先生が言った。

ちなみに僕は先生の左隣にいる。

皆からの視線のせいか、鼓動が高まって仕方ない。

「こないだの合宿に行った者は知っていると思うが、彼女はうちのクラスの桐生だ。どのような経緯でこんな風になってしまったのかは分からないが、みんな今までどおりに接してやってくれ」

そう言うと、先生はとん、と僕の肩を叩いた。

「あ……えっと、その、よろしく……お願いします」

ぺこりと頭を下げる。

途端、

「桐生君なの!? 可愛い~!!」

「うっはやべぇ、惚れそう」

「前々から女の子だったらいいのになぁって思ってたんだよねあたしー」

「今度から凛ちゃん、て呼ぼうぜ!」

「うわぁ、肌白くて綺麗……うらやましいな」

「え? あ、その、あの」

突然と沸き起こる教室内。

こ……こりわ……!?

いつかどこかでみたような情景……。

「何だ、心配するようなことは何も無かったなぁ。じゃぁ桐生、色々大変かもしれないがこれからも頑張れよ。先生も出来るだけ協力してやるからな」

そう言って、津上先生は教室を出て行った。

「あ、先生! ちょっと……って、うわぁ!?」

ドドドドドドド!!

あっという間に僕の周りに人だかりが出来る。

そして「胸どんくらい?」やらなにやら色々と質問等が僕へとくる。

――お、思い出した!

これって合宿二日目と殆ど同じ状況じゃないかっ!

「りょ、亮輝助けて!」

必死に僕は人だかりの中から、窓際の机に座っている亮輝に訴える。

「あーもうしょうがねえな……おいお前ら、ちょっとどへぶっ!」

僕に近寄って来ようとした亮輝は、誰かの肘が今朝僕が蹴り上げた顔面にモロに突き刺さり、そのまま後ろへとぶっ倒れた。

「亮輝のバカぁ……だ、誰かぁ~!」

押し寄せる人ごみの中で、僕の叫びは空しく響いていった。

――ああ、神様。

僕の起源は「不幸」なのでしょうか……?




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