自分の脳について
今やっているプロジェクトで、脳の構造画像から個人の脳の特徴がどれくらいわかるかということを調べている。
これが意外と面白い。例えば、MRIの画像さえあればその人のどの脳部位が発達しているかがわかる。なんだかんだで50人ぐらい(データベースを含めると500人ぐらい)の脳と比較して個人の脳の発達のパターンをみると、かなりその人の特徴がわかる。
ほとんど脳占いの領域に入っている。自分の脳を平均的男性の自分と同じぐらいの年齢層と比べると、自分の左前頭葉が発達していることがわかる。研究者には実はこのパターンが多い。
実はこういう感じでかなりいろんなことがわかる。詳しいことは論文になるまで公開できないが、個人のおっちょこちょい度とか、仕事をまじめにこなす度とか、記憶力とかが実はかなりわかってしまう。
被験者で来てくれた人が興味があれば、自分の脳が平均とくらべてどうかというのを見せてあげることにしているけれど、たまに脳がすごく少ない人とかもいて、申し訳ないときもある。
あまりに予想していたよりもその人のことがわかってしまうから、未来には脳の画像を履歴書に貼付けるようになるのではないかという倫理的な問題も生じてきてくる可能性さえある。
基本的には相関をみているだけだから、今後は脳画像に基づいた予測の精度が問題になってくる。おそらくデコーディングをやっている人たちはすでにたっぷり考えていることだろうけど、"prediction is everything"というのを常々感じるようになった。というのは、やはりデータの次元が脳科学全般であがってきていて、古典的な統計ではその次元に対応するためにそうとうな実験の量が必要とされるようになってきた。おそらく予測能力というのが、科学の理論の強さを測る絶対的な指標なのだろう。
これは自然科学だけではなく、社会科学にもあてはまる。おそらく占いというのは原始的な科学で、人間の脳は世界の不確定性を扱うために、未来を予測する能力をもとめてきた。その意味で、科学というのは人間の自然な欲求に基づいていると思える。
そして、予測することから途中の経過を操作することで、予測通りに現状を変化させることが技術力だろう。脳の相関からターゲットの部位を見つけて、薬学的かあるいは脳刺激によって、予想通りに行動のパターンを変化させることは技術にあたるし、理論の正当性の確認にもなっている。医学というのは人間の体の仕組みの理解に基づいて、人間の体を操作することだし、電化製品なんかは物理の予測能力の賜物といえる。
まだまだ脳科学が脳技術になるまでに何十年かかかるかもしれないが、その時代はすでにみえている。おそらくクリティカルな次のステップは、脳科学が経済的に社会に貢献することだろう。今はまだ脳科学は好奇心に基づいた研究テーマでしかないが、インターネットが今の社会を20年前とは別モノにしてしまったように、脳科学も徐々に実社会に浸透していくだろう。
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