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ある国は、いま
一定の時期になると、
―――まるで、すべての人間を狩りつくさんとばかりに
そんな相手に、ただの一般人やそれに毛が生えた程度の兵士が適うはずもない。いつだって一方的な蹂躙をされてしまっていた。
それでも、アダマンタイト級冒険者や法国の秘密裏の援助によって何とか耐えていたのだが―――、今年に限って援助、陽光聖典の到着が遅れていた。彼らは竜王国にとって数少ない戦力だというのに・・・法国はなにをしているのだと、女王は頭を痛めながら目の前にある被害報告に目を落としていた。
「冒険者だけでも無理があるというのに、今年の奴らは凶暴性が増している。―――いったいどうしたと言うんだ」
秘密裏に借りていた部隊だったため、表だって要請することは出来ない。それでも書簡を送って打診しているが返事がこない。―――もしや、見捨てられたかと眉をしかめていると、ノックする音が響いた。
「報告がございます」
「ハア・・・、また被害が出たのか!今度はどこだ?!」
「いえ、被害もありましたが―――冒険者の方が妙な
「?
謁見の間に、馴染みの冒険者と一人の
女王のお出ましを待っているのだが、
「ほぇ~、ふ~ん、はぁ~~~」
「キョロキョロするな。おのぼりかお前は」
「別にいいだろ?滅多に入れない場所何だから隅々までみたってさ」
冒険者"閃裂"に諫められた
しかし、その仕草一つ一つに周りが警戒していることをこの
所詮獣だと、女王のお出ましを待っていた―――。
コツリと小さな足音が響いた。官僚が女王の入室を声高らかに宣言すると、室内の者すべてがひざまずき、頭を垂れた。
意外にも、
衣ずれと靴音がわずかに響いたあと、女王の声が降ってきた。
「
幼い声が耳に心地よく、"閃裂"はうっとりとした顔で女王の顔を見上げた。
女王が座する椅子は少々彼女には大きすぎるらしく、小さな足が地に着かず宙でプラプラと揺れている。その肩には大きすぎるであろう、豪奢な上掛けが引っかかっているのだが、首まですっぽり埋まってしまっている。
その裾からのぞく小さな指が、椅子の肘掛けに乗せられているが、距離がありすぎて手を大きく広げても爪の先が乗るのがやっとという感じであった。
何というか・・・、子供が懸命に背伸びして大人に見せかけようとしているようで、とても萌えると"閃裂"は鼻から垂れそうになるモノをぐっと耐える。
「それで、報告の方は聞いていたのですが・・・。その
「はい、女王陛下。彼の者が
"閃裂"達が到着した頃には
小さな少女に手をかけようとした
怒り狂う
仲間は、
アレは"同胞"である。
結果、"閃裂"の賭は大勝ちであった。村人を救うだけでなく、多くの
「そうですか・・・、この国の代表として感謝します。―――それで、もし不都合がなければお名前を教えていただけますか?」
女王の言葉に、無言が返されいぶかしげに"閃裂"が横を盗みみると・・・、
「ど―――」
したのだと、問いかける前に我に返ったらしい
不思議に思いつつも、まあ、幼い女王に呆気にとられ、我に返っただけだろうとその時は思った。
「失礼しました。女王陛下、―――私の名は・・・、ペロロンチーノと申します」
一瞬名を名乗る時に迷ったように見えた。
「自由気ままに枝から枝に旅をする
「旅の者でしたか、―――何故、
「困っているロリ―――いえ、幼・・・ゴホンッ困っている者を助けるのは紳士として当然でございます」
何度か言い直す
「・・・・・・そうですか、高い志に深く感謝いたします。それでもし、よろしければこの国を助けてはくれないでしょうか?」
女王の言葉にどよめく者は多い。しかし、この
「我が国を救っていただけるのであれば、報酬は望むままに差し上げましょう」
女王の言葉にギョッとする。要求や、条件を聞く前に報酬を与えることを約束してしまった。これで
そして、この国の追いつめられ具合からみれば自分の身の一つや二つを投げ出す覚悟も決めなければならない。
「お願いします。我が国を救ってください」
悩むそぶりを見せる
「―――望みを、どんな望みでも聞いていただけるので?」
「はい」
確認する
「―――では、私の言うとおりにして貰ってもいいですか」
何なりとと、女王が促せば真剣な顔で
「まずは・・・、ちょっと膝を持ち上げて、あ、イヤそんなに上げなくていいです。ほんとちょっとですええ。膝小僧はくっつけて、あ、スカートの裾とハイソックスの隙間もうちょっと広げてください。で、前の方で両手首をくっつけて―――、あ、もうちょっと上、口元を隠す感じで。そうそう、体ちょっと丸めて、いったん視線は床に、その伏せ目がちのまま上目遣いで・・・・・・。う~んと、ちょっと首傾げて貰えます?あ~、萌え袖の方がよかったかな?まあ、とりあえずこれで――――――、じゃあそのポーズのままこう言って貰っていいです?」
そう言って、女王の耳元で何かを囁いたあと、元の位置に着くともう一度ひざまずき「どうぞ」と女王を促した。
「―――ぺ、ペロロンおにいちゃん。あたしをたすけて?」
「喜んでっ!!!!!」
イエス、ロリータ!!と謎の呪文を唱えた
なにがなにやらと困惑し、呆気にとられていると"閃裂"が「ぐふぅっ!!!」と悶えた。
「じょ、女王陛下!!わ、私にもお願いします!!!!」
「ふ、ふぇ?!え、えっと・・・、"お、おにいちゃんたすけてぇ"?」
「任せとけぇっ!!!」
イエス、ロリータ!!と、なぜかアダマンタイト冒険者まで叫び、
―――女王は酒浸りになったそうだ。
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「――――――世界が滅亡すると、本当にそう言ったのか?」
「はい。・・・その予言をしたあと自殺を図りましたが、何とか取り押さえて落ち着かせました―――、しかし、いまだ部屋に閉じこもっております」
「・・・それを知っているのは他には?」
「すでに箝口令をしいて押さえています。―――いまだ動揺は収まっておりませんが」
「それがいい。今は無用な混乱は避けなければならない。・・・・・・滅亡の原因は分かっているのか?やはり"滅亡の竜王"の復活か?」
「解りません。ただ、世界が消え失せていくとだけ」
その報告に、男は片手で顔を覆う。―――そして、辛そうに命令した。
「・・・落ち着いたら、詳しく"視る"ように伝えろ。原因を特定できれば回避できるかもしれない」
そう言って下がらせると、男は口元に手を当てて考え込む。この時期にそのような予言が出ることに、男は思い当たることがあった。
「――――――100年の揺り返し、八欲王の再来、か?」
降って沸いた巨大な問題に男は頭を抱えた。
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「ゴウン様お手紙です」
「はいはい」
渡された手紙を受け取り、アインズは二つの封筒をひっくり返す。
ソコには新しく友人になった者の名前が書かれており、最初に白い封書の封を切る。
―――開く前から思っていたが、やはり中にはぎっしりと手紙が詰まっている。これはもうちょっとした本では?とも思ったが、睡眠の必要のないアインズには長い夜にちょうどいいと目を通す。
送り主はたっち・みーだ。王都から離れる際に文通しようと言われていた。
冒頭は手紙の定型文から始まり、何を書いていいか判らないからとりあえず近況を報告しますと、事細かに書かれていた。
たっちが王から貰った住居は元は商家だったらしく、なかなか広い物件で掃除が大変そうだと書かれていた。まるで人事だなと読み進めていたら、どうやら一人で住んでいるわけではないようだ。
助けた人たちが使用人として働いているらしい。住む場所も行き場も無く、困っている様子だったから雇ったとのことだ。―――それがツアレの元同僚達と聞いて、アインズは頭を抱えツアレにはこの手紙のことは黙ってようと思った。
まあ、助けたときに異形である事は知っているらしいから、何も知らない人間を雇うよりはいいだろうなとアインズは納得する。
彼女らもたっちに恩を返したいだろうし・・・。ちなみに元同僚には男も居たらしい。人間の業の深さにアインズは呆れるしかない。
そんな彼らとの日常を手紙にびっしりと書いてあるが、読み進めるうちにアインズは頭痛を覚えてしまう。
彼女らはまだ心の傷が癒えていないらしく、懇願されて夜は一緒に寝ていると書かれていて、アインズは緑色に発光した。しかし、読み進めればただ添い寝をしているだけらしい事にホッとする。
―――ただし、相手の希望は添い寝ではないようだが。
”一緒に寝てあげていると擽ってくるんですよ。やめなさいと叱っているんですが、泣かれてしまって―――子供返りですかね?”
相手が哀れになってしまうのと同時に、ツアレはたっちと別れて正解だったと頷いた。
他にも王都の女性達は親切で優しいという話も書かれていて、アインズはこれはモテ自慢だろうかと、ないコメカミがひくつく思いをしたが、本人が全く気が付いていないので天然タラシであると結論づけた。
「―――いっぺん爆発すればいいのにっ」
アインズの胸で嫉妬マスクが血の涙を流した。
さて、次は黒い封筒である。これも友人となったデミウルゴスからの手紙である。
何でも古い友人と喧嘩してしまい疎遠になり、寂しいから友人が欲しいと言われたのだ。私でよければといえば大層喜んで、では文通しましょうと言われたのだ。
こちらも分厚い。手紙ってそんなもんだっけ?と思いながら封を切って手紙を読む。
上流階級の貴族が書くような丁寧な手紙で、何というか住んでいる世界が違う内容だなーと思いながら読み進めていくと―――だんだんと古い友人のグチが長々と書き連ねられていった。
その友人の悪口のオンパレードだが、嫌いきっていないのが言葉の端端から見えて、仲直りしたいんだろうなぁとアインズは思った。
他にも、新しい仕事に着手して大変忙しい毎日ですと書かれていて、商人も大変なんだなと頬杖を付く。
「―――うーん、いざ手紙を書くとなると何を書けばいいか判らないなぁ」
返事に頭を悩ませながら書いていると、結局二人に負けないくらいの枚数となり苦笑いを漏らしてしまった。
―――誰も気が付かなかった。
相手の手紙を何の問題もなく読んでいたという事実にアインズは気が付かなかったし、返事を貰った二人も嬉しさからアインズからの手紙に使われている字の違和感に全く気が付かなかった。
相手の手紙が日本語であると言う事実に気が付けば、きっと何かが変わっていただろうに・・・・・・。
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