こんにちは。パオロ・マッツァリーノです。
Web春秋で連載中の「
悩めるお母さんのための読書案内」が更新されました。
今回取りあげたのは『教科書の中の宗教』。
ここ数年、私は新書の新刊をほとんど読まなくなってしまいました。あれだけ毎月大量に出てると、売り場をのぞきに行ってどんなのが出てるか追いかけるのもめんどくさくなっちゃいました。
で、去年読んだ数少ない新書新刊のなかで、私が新書の大賞に推すならこれってことで。宗教書、比較文化論の本として、傑出した出来だと思います。大げさなことをいうと、あなたの宗教観が変わるかもしれません。
もう一冊あげるとしたら、偶然こちらも岩波新書なんですが、島田昌和さんの『渋沢栄一』。経営学の専門家が、ビジネスマンとしての渋沢栄一の仕事をきちんと研究しています。これまで出た渋沢栄一の伝記や小説類の多くは、経済や経営のことなどなんもわからない文系人間が書くことが多かったんです。だから「渋沢栄一の業績は『論語』の精神によって成されたものである」みたいな、とんでもないデタラメ分析ばかりが幅をきかせてました。
渋沢栄一が実業家として成功したのは、突出した経営センスを持ってたからです。もともと才能のある人が、欧米の経済学・経営学を学んで、いち早く日本で実践したから成功したんです。成功の理由は才能・努力・実践。それだけです。論語の精神なんてのはあとからくっつけたヘリクツにすぎません。『論語』には慈善事業をしろなんてことは書いてないんだから、渋沢が慈善事業に熱心だったのも『論語』の影響とは無関係です。ミもフタもないことをいうと、たとえ『論語』を読んでなかったとしても、渋沢は慈善事業をやってたはずです。
論語のおかげだとか、そういう精神論が好まれるのは、要するに、社会科学も自然科学もわからない文系思想家の嫉妬。やっかみ。ルサンチマン。彼らは自分のわからない分野が社会で影響力を持っていることを認めたくないだけなんですよ。