こんにちは。パオロ・マッツァリーノです。同居している占い師に勧められ、ブログをはじめました。同居している予言者には、最初は面白がってまめに更新するけど、そのうち更新頻度が落ちるだろうといわれました。同居している警視総監には、もっくんに家賃を払わなくてもよいといわれました。
さ、ウソはこれくらいにしまして、先日、土下座について取材を受けました。なぜかというと、私の著書、『パオロ・マッツァリーノの日本史漫談』が、日本でもっとも土下座の歴史について詳しく書かれている本だからです
(これはホント)。

とかく、教科書に載ってないような文化史・庶民史に関しては、ネットの情報はまったくあてになりません。根拠のない私論・私見ばかりで、事実確認もできません。
たとえば、土下座をウィキペディアでひいてみてください。べつにこの項目を書いた人に恨みがあるわけじゃないけど、これ、かなりダメな例です。もっともらしいことがちょろちょろっと書いてあります。でも、根拠となる史料も出典も示されてません。江戸時代には、土下座をすればたいていのことは許してもらえる風潮があった、なんて書いてあるのには驚きです。そんな話は聞いたこともないし、常識的に考えてありえないでしょう。土下座で許されるなら、江戸時代には刑罰など存在しなかったはずです。オレは土下座なんかしねえ! と頑なに拒んだヤツだけが死刑にされてたとでも?
詳しくは『日本史漫談』に
(根拠を明確にして)書きましたけど、江戸時代の庶民は、現代人がイメージするいわゆる土下座の礼は、めったにしていません。ただし、江戸末期から大正時代くらいまでの日本では、地べたにあぐらをかいて座ることも、うんこ座りをすることも、みんなまとめて土下座といってたんです。これは当時の新聞や小説などの記述からもわかります。ですから広い意味では、むかしの人は土下座をやたらとしていたといえなくもありません。
つまり、明治時代にタイムスリップして、当時の人に土下座しろ、と命じたら、ただ普通に地べたにあぐらかいて座るか、うんこ座りするはずです。なお、土下座して謝るという行為自体が一般的になったのは、昭和初期からです。
なにか情報を伝えるとき、根拠を示すのは非常に重要なルールです。ネットではパクリ行為にきびしい人が多いのに、情報の根拠を明らかにすることに関しては、みなさんなかなか守ってくれません。
私の本には、「だれそれによると」「なんとかという本の記述によれば」みたいな文章が頻繁に出てきます。学術書であれば、それは注として巻末にまとめて書くのが普通です。でも私は一般読者が巻末の注なんか読まないことを知ってるから、文章がちょっとまわりくどくなるのを承知で、あえて本文中に書いてしまいます。
それは、他人が発見した情報を自分の手柄のようにしないためです。私自身、いろいろな文献調査をしてきましたから、なにかを調べることの大変さを身を持って知ってます。ググってすぐにわかるような情報には、たいした価値はありません。
情報はみんなの共有物だ、なんて思ってるなら大まちがいです。引用じゃなければネタ元は明かさなくてもいい、というのも失礼な話です。それは自分で調査研究をしたことのない
(かつ、その能力のない)人間のいいぐさです。
だから情報を伝えるだけでなく、その情報を調べた人、発見した人の功績を称えるためにも、私は根拠を示すのです。
というわけで、もし土下座について調べているかたがいましたら、まずは『日本史漫談』を読んでみてください。それどころか、本書を読まずして土下座を語るな、といっておきましょう。
そして雑学本ライターのみなさん、もし『日本史漫談』および私の本に載ってる情報を使う場合は、参考文献として必ず書名を明記してくださいね。ネタ元や根拠を示すというルールをもっとも守ってないのが、雑学本ですから。