(cache)ゴーン容疑者が「ニッポンの国策捜査の生贄」となるまで(伊藤 博敏) | 現代ビジネス | 講談社(2/3)


ゴーン容疑者が「ニッポンの国策捜査の生贄」となるまで

国際紛争に発展する可能性も
伊藤 博敏 プロフィール

日産・ルノーの共同運営だったインド工場を、ルノーの仏工場に移管、工場の稼働率を40%も上げ、雇用に貢献させたことがある。日産をそういう形で、もっと貢献させたかったが、それは政治の思惑であり、企業の論理からはかけ離れている。ゴーン容疑者は「経営統合は、日産の企業価値向上につながらない」として相手にしなかった。

しかし、ルノーが政府出資の企業である以上、制約は受ける。今年6月の株主総会で任期が切れるゴーン容疑者は、年初の段階では、CEOの座を追われかけた。そこで政府と取引、報酬の3割削減を呑み、経営統合に前向きに取り組むことを約束して、22年までの任期を得た。留任の発表は2月15日だった。

日本では、大きな話題にならなかったが、日産とルノーの合併は既成事実となり、3月末には米経済紙が大きく報じている。日産社内には危機感が生じ、ゴーン容疑者やその右腕で代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者を排除しよういう動きが持ち上がる。そこから先、内部告発、社内調査、検察への相談、司法取引の導入、という流れになる。

この半年の流れを推測してみたい。もちろん仮説である。

 

「ワルはゴーン」ひとり

財務、経理担当の執行役員などが、ゴーン容疑者の周辺を洗うと、「株価連動型インセンティブ受領権」と呼ばれる株価連動型報酬を記載していない、あるいは海外4カ所の自宅を会社に買わせている、といった不実記載や公私混同を幾つも発見できた。それを「排除の道具」に使うことで社内は一致。

経産省(官邸)に根回しの上で検察に持ち込むと、官邸と密接な関係を保ち、司法取引という武器を手に入れた検察が乗ってきた――。

このシナリオが実現する最低条件が、司法取引だった。この武器を手に入れるまでに、検察がどれだけ忍従の時を過ごしたか。

横浜市にある日産の本社(Photo by gettyimages)

私は本コラムで、「検察のエース」といわれる森本宏特捜部長の誕生に合わせて、検察が悲願の「司法取引」という手段をいかにして獲得したかを記事にしたことがある。(2015年8月13日掲出「ついに司法取引の導入を決定「最強の捜査機関」地検特捜部は甦るのか」 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/44710

その効果は抜群だった。日産の全面協力がなければ、「世界有数の経営者」といって差し支えないゴーン容疑者の逮捕などできなかった。また、仮に少しでも“弱気”があれば、仏政府にとっても日産合併は国策であり、ゴーン捜査に抗議してくることが予想された。日産が捜査で、政府が外交で、十分に協力、下支えをしてくれる、という読みが電撃逮捕に踏み切らせた。

日本の司法取引は、「協議・合意制」と呼ばれ、容疑者・被告が捜査協力者となって組織トップや主謀者を告発、罪を軽くしてもらうもの。従って、グレー領域がない。

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