記憶喪失の神様   作:桜朔@朱樺
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冒険者を始めました
新米冒険者


 

 

お世辞にも綺麗と言えない宿屋の扉を開けて入ってきた男を、柄の悪い者たちは鋭い視線で値踏みした。

アインズは現在魔法で作った黒い全身鎧に身を包んだ戦士風の姿である。魔法詠唱者(マジックキャスター)が何故戦士の格好を?と思うだろうが、全身鎧の方がスケルトンな体を隠しやすいからだ。それに、自分の力が強すぎる事を確認したので出来るだけ本来の力を出せない状態の方がいいと思ったのだ。

強すぎてもろくな事にならない。

 

男たちの視線を無視して、宿屋の主人に部屋を頼む。大部屋を案内されそうになったが、一人部屋を希望したら何故か怒られた。聞けば新米ひよっこ冒険者はここで仲間を捜すのが常識で、大部屋で互いを知り合う為にこの宿屋があるのだという。なるほど、受付で薦められたのはそう言う訳かと納得する。が、大部屋でスケルトンが仲間募集中でーすVなどと出来るはずがない。一人部屋でお願いしたらフンッと不機嫌そうに鍵を投げ渡された。

 

(まあ、そうだよな。かわいくない新人だよなぁ)

 

内心申し訳なさげ部屋に向かおうとしたら、通路に足が差し出された。相手を見ればニヤニヤとこちらを見ていた。店主は知らん顔である。

これは―――

(漫画でいう転校生(新人)にありがちの不良(ゴロツキ)からの洗礼だっ!!)

 

アインズの脳内で、転校生であるアインズの行く手を阻む不良の図が展開していた。

 

(ここで下手な対応をしたら俺の冒険者ライフは暗雲に見舞われる!)

 

気弱な姿勢をとれば不良のパシリとなる運命だとアインズは気を引き締める。正解を導き出さねばと空っぽの頭をフルに動かす。

 

ポクポク チーンッ!喧嘩は買わずスルーだ!!

 

伸ばされた足を避けて跨ごうとすると、足を動かされて当てられた!しまった!当たり屋だった!!

 

「イッてーなおい!」

 

反射的に謝りそうになったが、ぐっと我慢する。ここで下手に出れば相手が図に乗ってしまう。威嚇してくる冒険者がオヤジ狩りする若者に見えてきた。しかし、俺は気弱なサラリーマンではない!!

 

「すまない、まるで三下なセリフに笑いを禁じ得ない」

「はあっ?―――うおっ!!」

 

こう言うときは強い姿勢でいれば不良は一目置く、オヤジ狩りの若者は躾の意味で少し痛い目に遭わせればいい。

襟首を持ち上げ、床に放り投げる―――つもりが向こうまで飛んで行ってしまった。しまった。力加減を間違えた!しかし、そんな気配はみじんも見せずに仲間を睨みつける。強者に認められたようで視線を逸らされた。

よし!イベントクリア―――と思ったのもつかの間。女性の奇妙な悲鳴に何事かと全員顔を向けた。そしたら冒険者らしい女がつかつかとやってきて鼻先に指を突きつけてきた。

 

れでぃーすが現れた!などと脳内テロップが出たが、どうやら投げた男の先に彼女の買ったばかりの回復薬(ポーション)が有り、それを割ったから弁償しろとのことだ。回復薬(ポーション)ごときと思ったが、食事や酒を我慢してまで買った回復薬(ポーション)を台無しにされたのだと言われれば、罪悪感が沸く。自分もそんな覚えがある。記憶無いけどすごい判るので多分ある。

かといって弁償するにも金がない。ので、自分の回復薬(ポーション)を渡すことにする。差し出したら乱暴にひったくられた!れでぃーすこえぇっ!

 

「こ、これで問題ない、な?」

「―――まあ、ひとまず」

 

ちょっと声が震えた気がする。一応は納得したようなのでそそくさと部屋に行くとすぐさま鍵をかけて一息つく。もうカルネ村に帰りたい・・・。

魔法を解いて粗末なベッドに倒れ込む。別に休息も睡眠も必要ないが心が疲れた。けれど、大手を振って出てきた身だ。せめて倍は稼いでこないとと、出てきたときのことを思い出す。

 

村は財政難に陥っていた。

村人を殺され、畑を荒らされたのだ。暮らして行くには苦しい状況である。何とか村で遣り繰りするが、街に出て補充しなければ成らないものが多い。しかし、金がない。売るものだってまともな物はないのだ。

アインズが持つ金貨を使うことも考えたが、こんな立派な金貨をこの村が持っていると知れたら賊がわんさかやってくるだろうから却下した。―その前に村人がそこまで甘えられないと辞退した―

 

「なら私が出稼ぎに行きます」

 

アインズが名乗りを上げた。冒険者になればアインズの強さだ、すぐさま稼げるだろうとの考えである。しかし、ゴウン様ばかりにと村人に罪悪感がこみ上げる。

 

「村は助け合うものでしょう?村の一員として働かせてくださいよ」

 

その言葉に、村長は申し訳ないと言いかき集めたお金をアインズに渡した。冒険者になるにも登録料があるし、さすがに街では宿を取らねばならないからだ。

 

「すぐに倍にして持って帰ってきますから」

 

そういってアインズは村人に見送られてカルネ村を後にした。

 

その際、何かあったときのためにと、ゴブリンメイジにメッセージのスクロールを渡していたらネムの突撃に合った。初めに着ていたゴテゴテしたローブではなく動きやすいシンプルなローブをギュウギュウにつかんで来た。

どうしたのかと聞けば、小さな声で「いっちゃやだ」と泣きそうな声で言われた。慌ててエンリが引き離しに来たが、大丈夫だとネムを抱き上げた。

 

「ほんの少し出かけてくるだけだ。すぐに戻って来るさ」

「・・・・・・」

「お土産買ってくるからいい子で待っててな?」

 

コクリと頷くのを確認してエンリに託すと村を出た。その時手を振るネムの姿に出張する父親の気分とはこう言うものだろうなと胸が暖かくなった。

 

「うん、ネムのためにもがんばろう」

 

新米パパは気合いを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

しかし、意気込んだものの自分のランクに合った依頼はショボいものだらけで、倍を稼ぐどころか託された金額を稼ぐのに半年は必要だろうと無い眉を寄せた。分かっている、初心者ならこういう依頼がベストだという事は、しかし、村に残してきたネムの悲しそうな顔を思い出すと稼ぎのいい仕事をすぐに受けたい。意を決してミスリルランクの高い報酬の依頼を手に取り受付に行く。が、やはり断られた。

 

「私は別の国でも冒険者をしていたんだ。このランクの依頼でも十分にこなせる」

 

もちろん嘘だが、魔神かも知れない自分ではこれくらいの仕事でさえも物足りないくらいだ。しかし、受付嬢は規則ですからと相手にしてくれない。そこをなんとかと、すがりつきたいが若い子に無理を言って困らせるのも社会人としてどうなのだと思い直し謝罪する。

 

「わがままを言って申し訳ない。では、銅のランクで一番難しい仕事をお願いしたい」

 

ここで高い仕事といわないのは金にガッツいていると思われたくないからだ。金のために嘘までついて仕事を取ろうとしたなんて噂になったら恥ずかしくて外を歩けない。

 

「それでしたら、私たちの仕事を手伝いませんか?」

 

そういって若い冒険者の4人組に声をかけられた。これが漆黒の剣との出会いである。

 

 

*****

 

 

彼らの仕事とはモンスターを狩って報酬を得るというシンプルな仕事だった。依頼ですらないが、モンスターを狩った分だけ金を得られるので渡りに船であった。安い依頼をこなすよりよっぽど稼げるとすぐさま契約した。その際に色々な雑談していると自分が知らない生まれながらの異能(タレント)の話に興味が出る。が、そう珍しいものでもないらしく不思議そうに見られた。

 

―――では準備が出来次第出発。と話している時、受付嬢に呼ばれた。

 

「モモンさん、名指しの依頼が入っています」

 

モモンとは偽名である。アインズの名前で登録してもよかったが、アンデッドがバレたときの保険である。アインズでバレてもモモンとして逃げれるし、モモンでバレてもカルネ村に逃げれる。

本当はモモンガで登録しようとしたのだが舌もないのに噛んでしまいモモンで登録されてしまったのだ。まあ、問題もないので別にいいが・・・。

 

いったい誰と思えば先ほどの雑談で出た有名人だった。何で俺を指名したんだと首をひねり、先約がいるからと断れば周りは驚いていた。ペテルでさえももったいないというので、じゃあ話だけでもということになった。

 

有名人ンフィーレアの依頼は薬草採取の護衛である。採取場所まで行って戻って来るという簡単な仕事だ。アインズ―――モモンを指名したのも宿屋で強さを見せた事で興味を持ったからだそうだ。安くすませられそうというのも納得の理由である。しかし、先約を蹴るのもどうかと思い。ペテルに共同で受けないかと誘えば二つ返事でOKされた。取り分が減るが、後々取り戻せばいい。

 

 

向かう場所がカルネ村と聞き、来て早々Uターンかとがっくり肩を落とした。

 

 

*****

 

 

のんびりと草原を歩きながらカルネ村に向かう。来た道を戻ることに若干複雑な心境だが、軽いおしゃべりをしながら道を進むのを少し楽しいと感じていた。

 

そのうちモンスターが現れ戦闘になったが、オーガを一刀両断し戦士として十分戦えることにホッとする。そしてすべて倒し終えたモンスターの周りをキョロキョロと見渡しているとニニャが不思議そうに近寄ってきた。

 

「どうしました?」

「いえ、クリスタルが落ちてないかと・・・」

「? ゴブリンやオーガが宝石を持っている話は聞きませんが・・・」

 

そうなのかと首を傾げた。モンスターを倒せばなにかしらのデータクリスタルが手にはいると思ったんだがと、自分の知識に頭をひねる。

 

実はそう言う齟齬が度々有るのだ。自分の中の常識と世間の常識にズレがあり周りに不思議な目で見られることがある。そうはいっても壊滅的なズレではないので今は放置しているが、そのうち本でも読んで修正しようと思う。

 

 

 

 

 

まだ明るいうちにベースキャンプを作り寝床を確保するときも早すぎないかと首を捻ったが、逆に首を捻られてしまったのでこれもズレだなとモモンは心のメモ帳に記載する。

竈からおいしそうな料理のにおいにワクワクし、装われた野菜スープに感嘆の声を上げたところで気がついた。

 

(俺アンデッドだから食えねーじゃん!!)

 

ガビーン と碗を持ったまま固まるモモンに周りがどうしたのだと伺ってくる。あんなに楽しみにしておいて食べないなんて可笑しいだろう。必死に言い訳を考えて絞り出したのが―――。

 

「わ、わたし猫舌でして―――」

「ぶはっ!その図体で猫舌ぁっ!?」

 

腹を抱えて笑い出すルクルットを殴っていさめるペテルだが、その肩が震えている。ニニャも横を向いているが耳まで真っ赤である。ダインもンフィーレアも俯いて全く顔を上げない。

 

「うう、さ、さめるまで待ちますので皆さんは先に食べてください」

「ぅぷ、わ、わかりました」

 

震える声に言い訳を間違えたと後悔したがもう遅いと、碗を横に置く。

 

「そう言えば、何故皆さんは漆黒の剣なんです?」

 

話題を変えようと話を振れば、「ああ」と未だ横隔膜をヒクつかせながら教えてくれた。

 

「由来は、13英雄の黒騎士が持っていた4本の剣です」

 

 

パチッ・・・パチッ・・・

 

 

えっ!それで終わり?!13英雄ってなに!?世間の一般常識なの?!

 

「ど、どんな話でしたっけ?」

「え?知りません?」

「あ、いや、かなり前に聞いたっきりなので詳細を忘れました」

「あー、まあ、興味なければそんなもんだよなぁ」

 

幾分かがっかりしたルクルットが頭をかく。申し訳ないと思いつつも話を聞けば200年ほど前魔神と呼ばれる存在と戦った英雄たちと聞いて思わず身を堅くした。

 

(魔神と戦った―――)

 

自分は魔神ではないかと疑っている身としては大変興味深い話である。

その中の悪魔の血を引いているといわれる黒騎士と呼ばれる者が持っていた4つの剣を見つけるのがこのチームの目標なのだという。しかし、その一つがすでに発見され王国の最高位の冒険者の手にあるとンフィーレアから聞くと、少しがっかりしたように声を上げた。しかし、伝説と言われたものが実在することに逆に燃え上がったようだ。残り三本かー全員に行き渡らないなーと、残念がっていながらも、でも自分たちにはこれがあるだろと、黒い刀身の短剣をそれぞれ取り出すと光に照らして目を細めた。チーム結成の証かと察すると、モモンはなんだか羨ましく感じた。

 

自分にも仲間がいたのだろうか?いたとして今はいったいどうしているんだろうか?記憶をなくした俺を探しているのだろうか?

 

・・・ズキリと頭が痛くなった気がした。

 

ンフィーレアがペテル達の仲の良さを見て、モモンには仲間がいないのかと話を振ってきた。

 

「いや、私は―――」

「モモンさんは一匹狼って感じだよなー」

「はは、足手まといはいらないってね」

「あれほどの強さをお持ちですから、一人でも大丈夫―――」

 

 

 

 

「好きで一人なんかじゃないっ!!」

 

 

しんっ、と静まりかえった場に我に返ったモモンは何か、フォローしないとと思うがグズグズと胸の中でくすぶるなにかが暴れていて思考が纏まらなかった。

 

「―――すみません、頭を冷やしてきます」

 

そういって冷め切ったスープの碗を持って離れた。

 

 

 

 

 

どうして、あんな事を口にしてしまったのだろう。なにも覚えていないというのに―――。

けれど、一人でいることは本意ではないのだろうなと、まるで他人事のように思う。

 

 

 

 

脳裏に、広い円卓で一人座り込む誰かを幻視した気がした。

 

 

 

 

*****

 

 

 

「・・・何か、悪いことをいってしまったようですね」

「―――全滅、とかか?」

「ああ、それは―――」

「辛いことを思い出させてしまったかも知れないであるな」

 

離れてしまったモモンの背が、なんだか小さく見えてペテルたちは眉を下げた。なんだか距離を開けているモモンに勝手にツルむのが苦手な人なのだと思いこんでいた。けど、あの叫びを聞いてモモンが一人なのは別の理由なのだと悟った。

 

「仲間を戦闘で全員失った人はあんな雰囲気を見せるよ」

「・・・また失うのが怖いから壁を作ってしまっているのかな」

 

発した言葉は戻らない。後悔とは後から悔いることだと誰かがいった。奪われる辛さをよく知るニニャは暗い顔をした。

 

そんな暗い雰囲気を変えようとわざとらしくンフィーレアが話題を降ると、それに飛びつくように漆黒の剣も話に乗る。

最初はモモンの強さから自分たちも強くならねばという話、それからモモンの兜の下の素顔の話にンフィーレアが食いつき、そして何故か恋愛の話に発展し、ンフィーレアの恋を応援する所まで発展したところで―――

 

モモンが碗を持ってこちらを伺っているのに気がついた。どうやって声をかけようかと困っているのが目に見えて、ルクルットがニヤリと笑うとンフィーレアを捕まえてモモンを呼んだ。

 

「モモンさ~ん、カルネ村にンフィーレアくんの恋人がいるそうですよ~?」

「こ、ここ、恋人じゃないですっ!!・・・・・・まだ」

 

ルクルットに呼ばれてほっとしたモモンは「ほうっ」と話題に入ってくる。

 

「青春してますね~」

「若いっていいね」

「よ~し、お兄さんがすっげーテクニック教えてやんぜ」

 

怪しくにじり寄るルクルットに身の危険を感じるンフィーレアが後ずさりする。が、

 

「お前は実践したこと無いだろ」

 

ペテルの言葉に撃沈した。

 

「さも自分の経験みたいに噂を教えるなよ。それで失敗したら可哀想だろう」

「う、うるせーっ!!俺だって経験ぐらい有るわーっ!!」

 

一転してペテルに噛みつきにいくルクルットに察したモモンはなま暖かい目を送る。ニニャは呆れ果てて、ダインは微笑ましく見守っている。

 

「そーいうお前はどーなんだよ!!」

「私は普通に経験してますよ」

 

ペテルの応えにルクルットがよろめく。

 

「し、娼館は数に入らねーぞ?」

「当たり前だろう」

 

さも当然という顔に裏切られたとルクルットはペテルと距離を取る。

 

「い、何時だよ?そんな様子全然」

「いや、村にいたときに付き合っていた子がいて」

「こんな人畜無害そうなのに!!」

 

うわーっ!!と叫びを上げるルクルットを呆れた面もちでペテルが眺めていたら、ポンとモモンに肩を叩かれた。何かと振り返ったら。

 

「爆発してしまえ」

「ええっ?!」

 

何故か恐ろしいことを言われた。どういうことだと動揺してたらルクルットが味方を得たとばかりにモモンの元へと走った。

 

「モモンさんいいこと言った!!お前なんか爆発してしまえ!!」

「ちょ、モモンさんまでなにをっ」

「うるさい、顔がよくてちょっとモテるからって余裕ぶっこきやがって。爆発四散してしまえ」

「モモンさんが怖い!?」

「もーお前なんか仲間じゃないぜ!このヤリチン野郎が!!」

「そこまでじゃないぞ!」

「いやですねーあんな女には興味ありませんてすました顔しておいて」

「ほんとですよー、女に刺されてしまえばいいのに」

 

モモンとルクルットがヒソヒソ話しながら離れていくのをペテルはもう怒ったと追いかける。もちろん本気ではないのでたき火の周りをぐるぐる回るだけのじゃれあいである。モモンは意外とお茶目だったんだなとニニャもダインもンフィーレアも笑った。その日はルクルットが捕まってお開きとなった。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

カルネ村につき、村の変わりように驚くンフィーレアたちを眺めながら素知らぬフリでモモンは続く。自分は今はモモンであってアインズではない。村人やゴブリンに気付かれないように口を閉ざして村にはいり、ンフィーレアとエンリが話している間に丘の方に足を進めた。

 

「うん、作業は順調そうだな」

 

村の襲撃のあと、防壁を作ることを提案したのはアインズだ。モンスターにも襲われるのは稀だと言っても、やはり無防備に村を晒すのはよくはない。

人が少なくなり男手が足りないと言われたが、そこはアインズの魔法が役に立つ。力仕事が出来るものや地道な作業に向いているモンスターを召喚し、村人とともに防壁をこの短時間で作り上げたのだ。

しかし、防壁が出来てもまだまだ村でやることが多いので、デスナイトやスケルトンたちを置いて行ったのだ。

離れている間、デスナイトに不具合が出ていないか少し心配していたが、問題なさそうである。媒体のないスケルトンたちは時間制限がありすでに消えているし、アインズも手助け出来ないから作業が遅れる心配があったのだが―――

 

「いらぬ心配だったな」

 

広場では弓の訓練をしている村人も見える。人間はたくましいなぁと眺める。アインズを頼るばかりではなく、自分たちで何とか出来る力を求めて努力している。―――いい村だなと改めてこの村が好きになった。

 

誰かが丘を登ってくると気が付き振り向けばンフィーレアである。なにをそんなに慌てているのかと思ったら

 

「モモンさんは、アインズ・ウール・ゴウン様でしょうか!?」

「ファッ!」

 

いきなり正体を当てられた!

何で早々にバレたんだ?!聞けば俺の持っている赤い回復薬(ポーション)は普通の製法では作れないはずの特別なモノだそうで、ここの村人に使ったもの、そして宿屋で渡した回復薬(ポーション)から結びついたという。

常識の齟齬に足を掬われた訳だ。これは早々に改善しないとだめだと頭を抱えた。

 

「あー、内緒にしていてくれないか」

「はい!何か事情がおありなんですよね!」

 

別にそう言う訳じゃない。意気揚々と出稼ぎに行っておきながら仕事ですぐ戻ってきたなんて格好悪いから黙っていて欲しいだけである。

しかしまあ、勘違いしてくれるのならそれでもいいかとほっとくことにした。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

さて、薬草採取の仕事をしようと必要な薬草の説明を聞いていたのだが———なぜか見分けがつかない。

えー?何でこんなに見分けがつかないんだ俺??草の種類くらい・・・だめだ。全部同じに見える。漆黒の剣の皆は黙々と集めているし、モモンさんは休んでていいといわれたが、皆が働いている中俺だけ突っ立っているわけにも行かないと辺りを見渡す。

 

あっ、あれそれっぽい。そう思って近づくが途端に混ざって分からなくなる。もしかして老眼か俺??

仕方がないとンフィーレアに近づく。

 

「ンフィーレアさんすいませんが私向こうを探してきます」

「え?見分けつかないんですよね?」

「ええ、なのでソレっぽいのを片っ端から集めるので後で選別してください」

「わかりました。あまり遠くには行かないでくださいね」

 

雇い主の了解も得たので探索を開始する。遠くからならソレっぽいのは判別できるのだ。場所を覚えてそこの草を取ってかごに入れていく。ハズレも多くはいるだろうがまあ、無いよりはいいだろうとどんどん奥へと進んでいく。―――と、何かに引っかかった感覚があった。

 

その瞬間地鳴りが響き、何かがこちらに向かってくるのが分かった。ンフィーレアに呼ばれたのですぐに戻る。

 

「森の賢王でしょうか?」

「さあな、とにかくデカいのがくるのは間違いない」

 

森の賢王とはここら一体をテリトリーにして魔獣だと道中に聞いていた。そいつのおかげでカルネ村がいままでモンスターに襲われずにすんでいるらしい。だから殺さないで欲しいとンフィーレアにいわれたが、カルネ村を結果的に守っているのならアインズ的にも殺したくはない。しかし、テリトリーに足を踏み入れてしまったのなら仕方がない。多少の痛い目を見せて追い返そうと剣を構える。

 

「ここは私に任せてお先にどうぞ」

「一人で大丈夫ですか?」

「無理と分かったらすぐに撤退しますよ。逃げ足にも自信有りますし」

 

冗談で和ませたら「無理をなさらないでくださいね」とペテル達は出口に向かって走り出した。

 

さて、白銀の四足獣で尻尾は蛇とのことだから、予想では鵺だと思うが―――。と、森の影から突然伸びてきた鋭い攻撃をいなす。そのままそれは影の中に戻っていくのを見ておそらくあれが尻尾だろうとあたりを付ける。

森の影から声が聞こえてきた。自分の一撃をかわすものはそうそういないと感心すると見逃してやると言ってくる。しかし、モンスターの言葉をそのまま信用する気はない。それに妙な言葉遣いに顔を見てみたいという好奇心があったので、少し挑発し姿を現すのを待っていたら―――。

 

「じゃ、ジャンガリアンハムスター・・・?」

「なんと!そなた拙者の種族を知っているでござるか?!」

「え?あー・・・うん」

 

確かこんな生き物がいたはずだ、―――手のひらサイズで。

聞けばどうも仲間がおらず一匹狼(?)をしていたらしく、己の種族すら知らなかったという。同種との出会いを期待しているところ申し訳ないがサイズ違いの別種と説明すれば「そうでござるか」と落ち込んだ。少し申し訳なくなったが、ハムスターは気を取り直すと"命の取り合い"をしようと息巻いてくる。しかし、ちょっと顔を見たかっただけのモモンにはそんな気はサラサラないし、カルネ村の安全の為に縄張りをキープしてもらわなければならないのだ。

しかし、どう納得させようかと考えても目の前の気が抜ける顔を見ているとなんだかばかばかしくなる。

例によりめんどくさくなり絶望のオーラレベル1で闘争心を根こそぎ奪ってやった。

 

恐怖に腹を見せて服従のポーズを見せるので後は帰っていいと手を振ったのだが・・・

 

「殿!拙者、殿に忠誠を誓うでござるよ!!」

「―――は?」

 

なんと森の賢王は起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見つめている!

 

「いらん」

 

モモンは拒否した。しかし、森の賢王はつぶらな瞳で見つめてきた。

 

じ―

じ――

じぃ―――――っ

 

「ああもう分かった分かった!!」

 

森の賢王が仲間になった!!チャラーン!

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「こ、これが・・・」

「「森の賢王?!」」

「とりあえず支配下に置いたので暴れませんよ。しかし、これが森の賢王とは―――」

「な、なんて―――立派な魔獣なんだ!!」

「ファッ?!」

「すごい、こんなの俺たちじゃひとたまりもなかったな」

「強大な力を感じさせるである」

「英知を感じさせる瞳です!」

「ええ?!」

 

皆の絶賛に振り返る。・・・どっからどうみてもデカいハムスターである。

 

「えーと、皆さんこれ可愛いと思いません?」

「―――え?」

 

信じられないという顔に、モモンも信じられない気持ちでいっぱいだった。

 

「も、モモンさんにはこれが可愛いと感じるんですか?」

「ええ―――・・・・・・っ」

 

俺の感覚が変なのか??そりゃ世間とのズレは激しいけど、だってハムスターだぞ?ハムスターとは可愛いモノなんじゃないのか??

 

「すっげーなぁモモンさん」

「・・・ソレは度量的意味ですか?それともセンス的な意味ですか」

 

ただただ笑うだけのルクルットを睨みつけるが、モモンはもういいと投げる。かわいさ談義なんてどうでもいいのである。

問題はこのハムスターが俺に付いてくると言って聞かないのだ。

 

「拙者は殿について行くのでござる~~~!!!」

「い~ら~んん~~~~~っっ!!」

 

スガリツくのを腕を伸ばして引き剥がそうとするが梃子でも動こうとしない。しっぽを腰に巻き付けてくるし。

おっさんがハムスターをつれて歩くなんてどんな羞恥プレイだ!!

周りは周りでいいじゃないですかとハムスターの味方だし、唯一こちらの味方は縄張りの心配をするンフィーレアだけである。

 

「拙者に乗って颯爽と駆ってくだされ~~~」

「よけいにい~~や~~~じゃ~~~~~~っっっ!!!」

「いや~懐かれてますね」

 

懐かれてますねじゃねぇ!!

 

 

 

 

結局問答で日が暮れた。

 

 

 

 

 

 

 

*****








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