この世界に転移してからしばらくたった。
この異常事態に守護者を集め、早急に情報収集を始めた。周りは草原、近隣に生き物の影はなかったが、少し足を伸ばせば人間の街を発見できた。モンスターもそれほど強くない、と言うより弱すぎる部類であり。このナザリックの脅威となる存在は確認できなかった。
「それでモモンガ様、これからのご予定をお聞きしても?」
報告に訪れていたデミウルゴスが、執務室に座るオーバーロードに伺えば現状維持を命じられた。
「防衛レベルは引き上げるが、これまでと何も変わらずそれぞれの務めを果たせ。侵入者には死を。このナザリック地下大墳墓は永遠に現在の姿を保たせる」
「———了解しました。モモンガ様、それでは私も本来の守護階層に戻ります」
「ご苦労だった」
優雅にお辞儀をしたデミウルゴスを、オーバーロードと側に控え微笑むアルベドが見送り扉が閉じられた。
瞬間、微笑んでいたアルベドの表情が一変し、氷のような視線を隣のオーバーロードに向けた。
「いつまであの御方の姿を騙っているの。さっさと戻りなさい」
すると、オーバーロードの形が崩れ、その場に現れたのは軍服を着たドッペルゲンガーである。
「やれやれ、守護者統括殿はせっかちでいけない。デミウルゴス殿が引き返されたらどういいわけをするのですか」
「デミウルゴスだって気がついているわよ。モモンガ様が本当は不在だって事は」
何の感情もない目で扉を振り返るアルベドに、「そうでしょうね」とパンドラズ・アクターもため息をつく。
この何処とも知れない世界にナザリックごと転移してからしばらくして玉座の間に現れたのはモモンガの姿を模したパンドラだった。
モモンガの帰還に喜びかけたアルベドは、すぐさま違和感に気がつき激高しパンドラを攻撃しようとした。しかし、パンドラの話にアルベドは落ち着きを取り戻し、気にくわないが共犯者に成ることを決めたのだ。
「―――それにしても信じられないわね。ユグドラシルが消滅してしまったなんて」
アルベドは覚えている。珍しくモモンガがセバス達を引き連れて玉座の間に現れた日のことを。あの日は至高の方がお見えに成られた幸せな日だと記憶していたのだ。しかし、その日は世界が終わる日だったのだとパンドラに教えられた。
何を言っているのか全く理解できなかったのだが、あの日は世界が跡形も無く消えてしまう事が決められており、それをモモンガが嘆いていたと聞かされ、アルベドは常にないモモンガの様子を思い出して心を震わせた。
しかし、ナザリックは残った。何らかの意志が働いたのか、ナザリックは別の世界に転移することで消滅を免れたのだ。
それに気づいたパンドラは与えられた役職を一時放棄し宝物殿から抜け出してきた。このナザリックを守るために―――。
「・・・モモンガ様はこのナザリックが消滅したとお考えになられているのね」
アルベドの暗い顔にパンドラは目を向けたが、慰めを必要としていないことが判るので何も言わない。
ナザリックが消滅したとモモンガが考えていれば、それは二度とこの地には戻られないと言うことだ。あんまりな事実にアルべドは髪を毟って発狂したい思いに駆られるが、そんなことは許されない。ただ一つ、慰めはモモンガが最後まで自分たちを見捨てなかったこと、ナザリックの消滅に心を痛めてくださったことだ。そして、アルベドにはもう一つこの身に残していってくださったもの。
「モモンガを愛している」
最後の戯れだったかも知れないが、アルベドに愛することを許してくださったのだ。それがアルベドを支えるものだった。
「・・・・・・二度とお戻りには成らないかも知れませんが、至高の御方々が愛したこのナザリックを何一つ変えることなく維持することが我々、いえ、私の使命だと考えております」
誰もいなくなったナザリックを何一つ変えることなく維持してきたモモンガのように今度は自分たちがこの姿を永遠に残さなければ成らない。
だからこそ、ほかの僕に気づかれないようにパンドラはモモンガの姿に変わり、いつもと変わりない光景を作り出しているのだ。
―――いや、本当は僕たちは薄々気がついている。しかし、認めず現実から目を背け気付かないふりをして己を保ち続けている。デミウルゴスもそうだ。パンドラがモモンガの姿を模していることなど承知で目を背け続けていた。そうしなければナザリックが崩壊すると知っているからだ。
現実から目を瞑り、またいつか至高の方々がお越しになる夢を見ながら変わらない毎日を続けるのだ。
「―――それじゃあパンドラズ・アクター、私も配置に戻るわ」
そういって、アルベドも部屋から出ていくのを見送り、パンドラは宝物殿に戻った。
「・・・・・・・・・本当ならすべてを話した方がいいのでしょうが」
宝物殿に転移して溜息をつく。
パンドラは本当はすべてを知っている。自分たちがゲームの存在でただのデータで有ったことを。そして、至高の方が、―――本当はただの人間であることを。
メンバーがいなくなるにつれて、モモンガの独り言が多くなりそれをナザリックの知恵者と設定されたパンドラが拾い、真実を組み上げたのだ。
ならばもう好きにしてしまえばいいのかも知れないが、モモンガの愛を知るパンドラにそれは出来なかった。
「子は親に似るものですし、ね」
もしかしたら、もしかしたらと願いながらメンバーを待ち続けたモモンガ。そのあとを引き継ぎ、パンドラも何も変えずにここで待ち続けることを決めたのだ。
「我が神よ、またお会いできる日をお待ちしております」
*****
誰かに呼ばれた気がして振り返るが誰もいない。気のせいかとアイテムの整理をしながら自分の情報を探す。
何というか、意味のないものまで詰め込んでいるなと、以前の自分に呆れながらボックスを探っていて、ふと、あるものを見つけた。
それは黄金に輝くスタッフである。7匹の蛇が宝石を銜え絡み合い一つの形に成ったような杖。なかなか邪悪なオーラも発しているがこれが一番の貴重品だと判る。
「名は―――"スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン"。アインズ・ウール・ゴウンの杖か・・・」
これが個人的な杖であれば自分の名前であることは間違いがない。さっき見つけた「モモンガ」よりはよっぽど名前らしいじゃないか。
「うん、これに決めよう。今日から俺はアインズ・ウール・ゴウンだ」
うんうんカッコいいと頷き、そばに控えていた
*****
パンドラは全てを知っている。
ギルメンがいなくなった後、モモンガは独り言が多くなっていましたし運営費稼いで宝物殿に行き来してたので、パンドラは全てを理解してます。
主を失ったナザリックをまとめるためにパンドラが動きました。別に周囲に迷惑かけないようにとか考えてはいません。
モモンガの指示がないからというのもありますが、万一戻って来た時に仕様が変わっていたらがっかりするだろうと思ってのことです。
モモンガさんも許可されているにも関わらずギルメンの装備を勝手に売ったりせず、ギルドを維持したりしてたので、そこが似た。ーーーということにしてください。
パンドラが宝物殿から単独で出てこれた理由ですが、宝物殿にも予備のリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンがあることにしています。
基本宝物殿のマジックアイテムを整理したり磨いたりすることは許されていますが、譲渡されない限りは、装備、使用は出来ない。というよりしなかったのですが、緊急事態ということでアイテムを拝借したことになってます。
これを咎められたら自死の覚悟はしていますし、勝手に創造主の姿を借りたこと、ナザリックを一時的にでも動かしたことの責任も一人でとるつもりでいます。