オーバーロード 骨の親子の旅路   作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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昨日更新しなかったんで少し早めに更新します。


8 鳥の背後霊

 

 それから食事を終えて、モモンガは一つの実験をしていた。指輪を外してアンデッドになった後また指輪をつけていた。その姿は食事をしていた時と変わらず、瑞々しい姿だった。指輪を外しても再装着すれば以前の姿に戻れるらしい。

 

「色々実験が進んだな。しかしもっと情報を得るにはやはり大都市に行くしかないか……。身分保障にもなるし、やはりエ・ランテルに行って冒険者になるのが無難か……」

 

 エンリから話を聞いた結果、更なる情報を得るためというのもあるが、身分保障という観点で冒険者になるのは魅力的だった。モモンガとパンドラにはリアルで言うところの戸籍がない。

 これはこの世界で生きていく上で必要不可欠だ。長いものに巻かれろではないが、宝物殿がある以上この近辺からそう離れて暮らすわけにもいかないし、怪しまれないためにも不審な部分は消しておくに限る。

 

 冒険者には幻術を使って人間の姿をしていればいい。パンドラも当初の予定通りたっちの姿をさせればいい。モンスターを狩ってお金を得られるのであれば天職と言えるかもしれない。ユグドラシルで散々やってきたからだ。

 欲を言えば冒険もしてみたいが、それはこの世界に慣れてから。郷に入っては郷に従え、だ。

 

「パンドラ。エンリとネムを最優先保護対象にする。この地で我々という異形の者たちにも親切に話をしてくれて、話してくれた情報も有用だった。これ以上は言わなくてもいいな?」

 

「かしこまりましたっ、モモォン様!」

 

(アフターフォローも交渉じゃ大事だからな。それにすぐそこのカルネ村に住んでいるんだから、冒険者になってからの居住地にした方が便利だし。そういう意味で今後も接点があるから友好的にしよう。薬草とかほしくて森の護衛程度なら引き受けても構わないし)

 

 モモンガはそこまで考えて、その対価が料理だけというのもいかがなものかと思った。モモンガも食事をしてみて美味しかったが、それはモモンガがリアルで食べてきたものが料理と呼べもしない物ばかりだったためにそう感じたのかもしれなかった。

 もちろん味も良かったのだが、リアル基準の考えと、この世界の常識がまだ完全に把握できていないための齟齬だった。

 

「二人とも、用事がなくてもこれからここに来て良いぞ。その際にはまたお菓子やお茶を出そう。今日のお礼だ」

 

「いいんですか!?モモン様!」

 

「ああ、いいともネム。子どもはよく食べてしっかりと成長すべきだ。俺のように仕事ばかりしていたら、さっき見せたように身体がボロボロになってしまう。その末路がこの骨だけの身体だ。……ここは笑うところだぞ?パンドラ」

 

「私、ですかっ!?それぇは、失礼いたしました!お詫びに一発芸を行いましょう!能面!」

 

 ただ顔の前で手を交叉させただけ。表われるのもいつもの埴輪顔。全員が呆けている。無茶ぶりしたモモンガも悪いのだが。

 

「……能とはたしか、日本の伝統芸能だったか?五百年は前の芸術だが……。俺も詳しく知らない物をこの二人の前でやっても芸にはならんぞ?というかどこでそんな物知った?」

 

「能面というアイテムが宝物殿にございまして。それを死獣天朱雀様が寄付された際に説明してくださったのです。源次郎様と宝物殿を整頓している際のことだったかと。今は失われて嘆かわしいと仰っておりました」

 

「そうか……。パンドラ。ドングリのネックレスを四つ、あと飛行のペンダントを三つ宝物殿から引っ張り出せ。それくらい在庫はあったな?」

 

「はい、その倍以上在庫はあります。では、持って参ります!」

 

 持ってこさせるのは良いが、確認をしないといけない。モモンガからしたら《飛行(フライ)》の魔法くらいは然したる弊害にもならない程度の魔法だが、目の前の二人はどうかわからない。

 そもそも価値のあるものなのかどうかさえ、わからなかった。

 

「二人は《伝言(メッセージ)》という魔法と《飛行》の魔法は使えるのか?」

 

「いえ……。そもそも私たちには魔法の適性がないと思います。調べたこともありませんけど、魔法の才能を持っている方は少ないですから」

 

「そうか。なら良い贈り物かもな」

 

 パンドラが持ってきた二種類二つずつを姉妹に、ドングリのネックレスはモモンガとパンドラも身に着ける。銀色の羽が装飾されたペンダントはパンドラのみが身に着ける。

 

「このドングリの方は《伝言》の魔法が使える。どれだけ遠くにいても相手と会話ができるものだな。と言っても、これを着けている相手限定のマジックアイテムだが。こっちの羽の物は簡単に言うと空を飛べる魔法だ」

 

「空を飛べるの!?」

 

「ああ。だが三時間だけだから気を付けるように。一応急に落ちても大丈夫なように効力が切れそうになったら自動的に地面へ向かうのだが。パンドラも今後前衛職になるのだから、別の手段での飛行は重要だろう」

 

「はっ!心遣い感謝いたします!」

 

「一々感謝しなくていいぞ。当たり前のことをしているだけだからな」

 

 飛べない前衛では高速移動できない限り集中砲火を受ける。たっちの姿になればその高速移動もできるが、二人して煙に巻く時は飛んで逃げようと思っているので、飛ぶ手段を与えただけ。

 この姉妹に与えたのは、情報量の対価。正直このアイテムは在庫がかなりあるのも知っていたし、序盤で手に入るマジックアイテム。《伝言》も《飛行》も重要な魔法だが、巻物や、最悪味方の魔法詠唱者に補助してもらえばいいだけのこと。

 開拓村だからこそ、序盤のアイテムでも有用かなと思って渡しただけだった。

 

「飛んでみたーい!」

 

「では外へ出ようか。ただ一言、飛行と告げれば飛べるぞ」

 

 全員で外へ出て、ネムがウキウキしながらペンダントを上へかざす。上へかざす必要は全くないのだが。

 

「飛行!」

 

 唱えた途端ネムの身体が浮く。そして子供は学習能力が高いのかすぐに要領を得て自在に飛んでいた。

 

「すっごーい!わたし、空を飛んでる!」

 

「エンリも飛んでみたらどうだ?存外浮かぶというのは心地の良い行為だぞ?」

 

「そ、それなら……。飛行」

 

 遠慮がちに呟いたエンリだったが、空を飛んでみるとすぐに笑顔になっていた。今では姉妹で空中散歩をしている。いわゆる、子どもたちが遊んでいるという状況だ。それはモモンガが――鈴木悟がリアルでは一切見ることができなかった光景。

 

 精々が体育館のような屋内の施設で走り回っているだけ。こんな自然に囲まれて遊べるという体験は、リアルではできなかったことだ。

 子どもたちが笑顔で遊んでいる。この光景のために身を削ってまで取り組もうとしている人たちには感動を覚えたほどだ。

 

(もしブルー・プラネットさんややまいこさんがこっちの世界に来ていたら喜んだかなあ……)

 

 そんなことを思いながら仲よく遊ぶ姉妹を眺めていたモモンガ。背筋に何故か親友と言っても過言ではない鳥人のアバターが血涙を流している情景が浮かんだが、幻想だと思い振り払う。

 だが、アンデッドとして背筋が凍るというバッドステータスは無効化のはずなのにそう感じてしまったのは、今は人化の指輪をつけているからだと誤魔化した。

 親友本人の怨念が世界を超えたとは、思いたくなかったからだ。

 

 

 




空飛ぶ姉妹。


全く関係ないですが、空飛ぶ広報室というドラマはとても面白かったなあと思い出しました。
もう何年も前のドラマだけど。






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