日韓が力を合わせて最大の懸案に取り組んできた土台が崩れる。韓国は日本の拠出金をもとに元従軍慰安婦への支援事業を実施してきた「和解・癒やし財団」を解散すると発表した。首脳間で確認した取り決めをないがしろにする決定で失望を禁じ得ない。
日韓関係が長期にわたり悪化していた2015年、安倍晋三、朴槿恵の両政権はソウルで「最終的かつ不可逆的な解決」をうたった慰安婦合意を発表。財団の設立はその柱だった。朴氏は「100%は満足できないが、最善を尽くした」と国内に理解を求めた。
合意は日本が拠出した10億円を元手に両政府が協力して「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行う」とした。元慰安婦と遺族への現金支給とともに、慰安婦の記念・追悼の事業などに充てる案を想定していた。
朴氏退陣後、文在寅大統領は「元慰安婦や国民が合意内容を受け入れておらず、真の問題解決にはならない」と語った。本当にそうか。合意時に存命していた元慰安婦47人のうち約7割が支援金を受け取った。元慰安婦が両政府の外交努力を評価するなど合意に肯定的な意見は数多く聞かれた。
日韓外交でとかく論じられてきた「勝ち負け」でなく、互いに歩み寄った点も評価された。今回、国同士の約束や外交努力よりも「被害者中心主義」のもとで国内の保守派たたきに軸足を置く文政権の姿勢が鮮明になった。
韓国が解放された後も元慰安婦は国内でつらい人生を歩んだ。その心の痛みを日本人も忘れてはならないだろう。だが、政権交代のたびに過去の取り決めが白紙に戻るのでは、国家間に信頼関係を築いて手を結ぶのは難しい。
元徴用工訴訟を含め、文政権の対応は、日韓双方で関係修復に尽力してきた人々に喪失感をもたらしているようにみえる。両国の往来が年間1千万人を突破しそうな時代に、政府自らが民間の足を引っ張る愚を冒すべきではない。