ジュリーこと沢田研二が、さいたまスーパーアリーナ公演を10月17日の開催当日に中止したことが騒動になった。チケットを買ったファンがすでに会場に集まり始めている段階で、プロモーターと約束したレベルの集客に届かなかったからという理由でドタキャンしたことに賛否両論が沸き起こった。プロ意識がないと批判される一方、自身のプライドを貫いたのは彼らしいと肯定する人もいる。
この件で思い出したのが、沢田がかつて主演し、カルト的な人気を持つ1979年の映画『太陽を盗んだ男』だ。中学の理科教師が、小型原爆を手作りする。でも、特に目的がなかったため、警察に適当な要求をして脅迫する。要求の一つがThe Rolling Stonesの日本公演実現だった。1960年代のグループ・サウンズ全盛期に沢田がザ・タイガースでカバーしてもいたストーンズは、1973年に来日公演が決定したものの、メンバーの麻薬問題で中止になった。『太陽を盗んだ男』における要求は、その出来事を踏まえたもの。ドタキャンで注目された70歳で古希の沢田は、若い頃には中止になった公演のやり直しを求める脅迫犯役を演じていたわけで、それを思い出すとなかなか感慨深い。
洋楽の大物でいうとポール・マッカートニーも1975年にストーンズと似た事態があり、1980年には成田空港に到着したもののマリファナ所持の発覚で来日公演がすべて中止された。彼は直後のアルバムに「フローズン・ジャパニーズ(原題:Frozen Jap)」(直訳「冷たい日本人」)なる曲を収録し物議を醸した。とはいえ、ストーンズもポールも1990年代以降はたびたび来日公演を行い、そこまで高齢になっても元気に海外ツアーをするのかと驚く状態になった。かつてのトラブルは帳消しになったかのような印象である。
日本でも不祥事でスケジュールが白紙になり、謹慎期間を経てから、最近のASKAのようにライブ活動を再開する例はみられる。過去の悪評を払拭できるかは後の活躍次第だ。
一方、沢田研二のライブに関しては、観客からの気に障るかけ声に対して怒る、説教する、「黙っとれ」、「嫌なら帰れ」とまでいうことが報じられている。彼の場合、1980年代まではヒット曲多数でテレビによく出演し、バラエティでコントもこなすアイドル、人気スターだったから、当時のイメージとの落差であれこれ書かれる。だが、彼は自分のライブに関しては昔から頑固だったのである。
ステージでの態度という点では、エレファントカシマシ初期の宮本浩次も語り草になっている。観客の拍手や声援に「うるさい」と怒鳴りだすわけのわからなさが記事になり、それで注目され始めた面もあった。後にテレビ出演するようになった彼は、やたらと髪をかき上げる落ち着かない変わり者でありつつも、親しまれやすい風情になった。この点は、とっつきにくくなっていった沢田と逆である。
観客とのトラブルといえば、2010年の安全地帯のライブも当時は大々的に報道された。ボーカルの玉置浩二のろれつが回らない、不満の声を上げた観客と彼が口論になる、ステージの途中でバンドの一部メンバーがいなくなるという異様な展開になり、途中で中止されチケット代は払い戻された。どう転がるかわからない生の雰囲気を大切にしたいと考える本人が体調不良だったこともあり、観客と感覚にズレが生じ、空回りしたらしい。だが、玉置は、以後も歌の上手い人と認められている。真剣にやっているからこそ、時には観客と摩擦が起きることもある——とファンを説得できるだけの地力があったのだろう。
逆方向のエピソードもある。2012年の上原ひろみ公演で観客の携帯電話が鳴った。アーティストが怒ってもしかたがないシチュエーションである。だが、彼女は客席に笑顔を見せてから着信音のメロディを取りいれ、そのまま演奏を続けて笑いをとったという。ジャズ・ピアニストとしてユーモアを交えつつアドリブ対応力を示したわけで、一種の武勇伝となっている。
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