筆者はニッカが好きなのですが、どうしても手に入らない、手に入れようにも大容量のボトルしか手に入らない、個人的に幻の銘柄がありました。それがハイニッカです。

hinikkaハイニッカは1964年に発売されました。当時は酒税に基づいた等級として2級ウイスキーとして売り出され、現在よりもアルコール(スピリッツ)を多く含ませてウイスキー原酒の割合を少なくして販売していました。
ブレンデッドとして売り出すうえで、創業者の竹鶴政孝は、通常のグレーンウイスキーで使われる複式蒸留器の中でも比較的クラシカルなカフェ式蒸留器を導入しました。
カフェ式では、単式ほどではないものの、素材となる醸造酒(もろみ)の香りや味を残しやすい特徴がありました。
このカフェグレーンウイスキーが、ニッカの各銘柄に大きな影響を与えました。

ハイニッカが発売されると、当時500円の価格と妥協しないうまさが人気を呼び、ニッカの売り上げに多大なる貢献をします。この人気にあせったサントリーが、対抗商品として復活させたのがサントリーレッドでした。

このハイニッカは、竹鶴が大切にしたブランドといえるエピソードがいくつかあります。
仙台に新たな蒸留所を決めるきっかけとなったのが、新川川の水で割ったハイニッカの味によるものでしたし、晩年に晩酌用として飲み続けたのがハイニッカでした。
低価格で多くの人が飲むであろう銘柄にこそ、なおさら妥協を許さなかったのでしょう。

1989年に酒税法が改正された後、ハイニッカにはスピリッツを使わず、カフェグレーンウイスキーを多く含んだブレンドへと変わり、現在に至ります。

さて、当方がこのハイニッカ720mlを入手するまでの顛末は別のページに書きましたが、2014年3月現在では、酒屋さんでもおいている場所は少なく、札幌の中心部に至っては全く見当たらず、1920mlの大瓶と4Lのペットボトルしかありませんでした。
価格の点でブラックニッカ クリアに負け、味でも遜色ないレベルにあることから、絶滅危惧種になりつつあります。
ただ、上記における竹鶴のエピソードがあって、これを飲まずにはいられないと、送料が高くついても通販で購入するに至りました。それでも取り寄せに数日かかっているので、本州でも入手が難しいのかと思われます。

いつものようにロックで飲んでみると、意外にもアルコールの刺激は控えめで、それでいながらもウッディな香りと味わいがしっかりとやってきます。
トゥワイスアップにしても、同じ価格帯のウイスキーのように味わいや香りが消えることはなく、ウイスキーとしてのボディ、ウッディな香りはしっかり残っています。

ほとんどがカフェグレーン原酒でありながらも、ウイスキーとしての体をしっかり成していて、同価格帯にあるサントリーレッドやトリスと比べても十分に格上を見せつけられる味を持っています。
むしろある程度の香りや味が残るカフェグレーンウイスキーを使っているからこそのメリットと言えるでしょう。

そのあとでスーパーニッカを飲んでみると、モルト原酒ならではの麦の香りや味わい、シェリー樽原酒と思われる華やかな香りがやってきますが、それ以外はハイニッカと大差がないことに驚きました。
スーパーニッカは現行のボトルデザインになる際に万人受けするブレンドに改められましたが、そのコンセプトはハイニッカ、そしてブラックニッカ クリアから引き継がれたもののように思えます。
また、カフェグレーンウイスキーの香りや味によって、低価格帯であっても貧弱な味にはならない、ニッカらしさが作れるように思えます。

価格は720mlで900円ほどで、ブラックニッカ クリアに価格で負けてしまいます。
しかし、価格の割にしっかりした味が、何かを混ぜているような疑いを持ってしまうクリアに対し、 ハイニッカは甘さ控えめで香りや味も控えめで、それでもウイスキーとしての最低限のレベルを確保していて、ニッカらしい侮れないウイスキーと言えます。
とはいうものの、ブラックニッカクリアのコスパを考えると、やはり店頭ではそちらが人気になるのは仕方ないですが、カフェグレーンウイスキーの良さをしっかり生かしたハイニッカを販売終了にしてほしくないですね。

<個人的評価> 
・香り C:嗅いでみるとアルコールが強く感じられるが、実際に飲むと抑え目。樽からのウッディな香りが支配する。 
・味わい C:華やかさはないものの、甘味、渋みは最低限あり、ウイスキーだと自覚できるレベル。
・個人的評価 B:晩酌用と銘打ちながらも、しっかりウイスキーらしさを残した絶妙なブレンド。1000円以下のウイスキーの中でもトップレベルのうまさ。



<追記>2014/11/24

朝の連続テレビ小説「マッサン」が好調なのを受けてか、近所のスーパーやディスカウントストアにもハイニッカが見かけるようになりました。

近年は日本人向けの穏やかなブレンドを主体にしてサントリーに日和った銘柄が出てきましたが、本物のウイスキーを目指した竹鶴政孝の精神が込められたこれらの銘柄が脚光を浴びるようになったのは注目すべきことです。

これで手軽に、本物をいただけるのはありがたいことです。