1992年3月5日、イタリア国境付近の街、ルガーノで6人が死亡し、6人が負傷する事件が発生した。犯人はエルミニオ・クリショーネという37歳の男だった。彼は13年前まで或る肉屋に勤めていたのだが、襲われたのはその関係者と家族だった。 アサルトライフルで武装したクリショーネがまず訪れたのは、かつての同僚で親友の家だった。呼び鈴を押して待つことしばし。そして、ドアが開くや否や発砲した。幸いにも被害者は一命を取り留めている。 しかし、次に訪れた元同僚の家は凄惨を極めた。家族の4人が死亡し、3人が重傷を負ったのである。 クリショーネが最後に訪れたのは肉屋の店主の家だった。ところが、店主は留守だった。已むなくクリショーネはその妻の足を撃ち、 「また来るからな!」 と叫んで走り去った。 以上の狼藉は午後7時から9時までの2時間の出来事だった。 間もなくクリショーネは、車の中でさめざめと泣いているところを武装警官に包囲された。 結局、彼が何故に犯行に及んだのか、何故に泣いていたのかは判らず仕舞いだ。何故なら2日後に拘置所の中で首を吊ってしまったからだ。数多の謎を残してクリショーネは逝った。 なあお前、いったい何がしたかったんだい? (2011年2月2日/岸田裁月) |