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【社説】

<IT強国 中国で考える>(6) 経済が矛盾を押し流す

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 中国での取材中、何度も戸惑ったり不思議な場面に遭遇した。

 人工知能(AI)による顔認証で犯罪者を割り出すシステムを開発した深セン光啓高等理工研究院。担当者が最新技術の説明をしている最中、ふと画面下を見ると「不是正版」の文字が浮かび上がっている。担当者は無視して説明を続けたが、案内役は「基本ソフトが海賊版だという警告ですね」。

 アリババが杭州で運営する食品スーパー「盒馬(フーマー)鮮生」で客はスマホで支払いをする。担当者は「レジはなく人員もいらない」と自慢する。ところがやや年配の女性が何度スマホをかざしてもうまく決済できない=写真。結局、店員が飛んできて助けた。「人員は必要じゃないか」と思った。

 中国ではキャッシュレスが広がるが、トラブルも日常茶飯事らしい。杭州の空港では、自販機からスマホで水を買うのに悪戦苦闘している中年男性を見かけた。

 会った人の多くが不動産投資の話を好んだ。「買わなくて損するぐらいなら、買って損した方がいい」と力説する人もいた。中国では土地の使用権しか認められていないので転売目的とみられるが、リスクはあまり気にしておらず、それが不思議だった。

 ホテルではウイグル問題を伝えるNHKニュースの画面が突然消えた。一方、習近平政権の最重要政策である一帯一路の不調を伝えるNHKの番組は流れていた。

 矛盾は多い。ただITを中心に据えた中国経済は、これらを一気に押し流してしまう迫力があった。みな明日への希望を語るのが好きだった。明日の不安を語る日本人とここが最も違うと感じた。あくなき欲望を抱えた巨大な隣人と、一定の距離を保ちつつ共存共栄する。日本はこの離れ業を求められているようだ。=おわり(この連載は富田光が担当しました)

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