オーバーロード 新参プレイヤーの冒険記   作:Esche
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-御礼-
お返事が遅くなり、申し訳ございません。
前話での質問についてお答えいただき、ありがとうございました。
登場の際には、ネーミングセンスが問われそうですね……。

-主人公の能力について-
ご質問いただいた件ですが、投稿者の知識不足のために未定となっております。wiki等の職業ページとにらめっこしているのですが、厳密に固めてしまうと後々に矛盾が出てしまいそうなので……
いずれどこかでまとめなくてはと考えておりますが、現時点ではレベルは60前後。一対一ならば、プレアデスの戦闘メイドと良い勝負ができるくらいをイメージしていただければと思います。

また、本編で活かせるかは不明ですが、料理に関する職業の取得はさせたいなーと考えています。


(5)帝都

 視界の端で揺れる荷馬の尻尾を避けるように目線を巡らせば、抜けるような高空が、遠く万年雪をいただいたアゼルリシア山脈の峰々を越えて広がっていた。

 トブの大森林より北方に位置し、霜の竜〈フロスト・ドラゴン〉や霜の巨人〈フロスト・ジャイアント〉が住まうとされる、峻険なアゼルリシアの山々は古くから人を寄せ付けず、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の国土を分かつ境界線として南北に横たわっている。

 

 ユグドラシルでも同様だったが、この世界においてもドラゴンや巨人はやはり強力な種族であるらしいということは、今回ともにパーティ組んだ冒険者の一人――魔法詠唱より肉弾戦に自信があるという、お喋り好きな神官〈クレリック〉の青年――が、ユンゲから質問する前にいろいろと語ってくれた。

 語っているうちに青年が熱くなり、かつて魔神と戦い世界を救った十三人の英雄が、“神竜”と呼ばれるドラゴンとも戦ったという、御伽噺にまで発展したときは流石に辟易したものだが……、この世界にもドラゴンと対峙できるような強者がいることは確からしい。

 ユグドラシルにおいてドラゴンと相見える機会のなかったユンゲは、一度戦ってみたいと思いつつも、万一にも死んでしまった後に復活できるのか分からない状況で、無謀なことはできないと自分を戒めるが――。

(でも……、いつかドラゴンと戦ってみるのも面白そうだな)

 腰に提げたバスタードソードの柄に触れ、ユンゲは静かにアゼルリシア山脈への思いを馳せた。

 やがて、山際にたなびく白雲が朱に染まりつつあるのを見やり、隊商のリーダーである商人が今日の旅程の終了を告げると、皆が野営のための準備に取り掛かっていった。

 隊商の護衛としてエ・ランテルの街を発って一週間余り、天候に恵まれたこともあり概ね予定通りの旅路だったので、目的地であるバハルス帝国の帝都アーウィンタールにも、明日には到着できるだろう、とのことだった。

 

 街道からやや外れた商隊の野営地を取り囲むように、黒く染めた絹糸に鈴を括った“鳴子”による警戒網を引きつつ、ユンゲが周囲を見回せば、これまで来た道の方から武装した騎馬兵が向かってくるのが見えた。道中でも何度か見かけたバハルス帝国の兵士だろう。

 野営の準備をする隊商の様子を横目に、篝火を掲げながら駆け去っていく騎馬の姿を見送る。

(兵士が巡回警備しているからなのか……、ほとんどモンスターと遭遇しなかったな)

 モンスターによる襲撃があったのは、最初の数日――王国領内を進んでいるときだけだった。

 帝国領内に入ってからは一切の襲撃もなく、警戒心はかなり緩んでしまっている。

 モンスター退治を冒険者に依存している王国と異なり、帝国では職業軍人である兵士がその任に当たっているとの話だが、そのために冒険者の地位は王国におけるほど高くはないらしい。

(当たり前だけど、国によっていろいろと違うんだよな……)

 道中で聞いた話を思い返してみると王国と帝国の置かれた情勢は、それぞれ対極といっても差し支えないほどだった。

 王族と貴族が対立し派閥争いに躍起な王国と、皇帝が最高権力者として君臨する帝国は、目下戦時下にあり、両国の緩衝地帯に当たるカッツェ平野を舞台に、毎年戦争を繰り返しているらしい。

 戦争における兵備一つをとっても、農民までも動員し数を持って攻める王国と、練度の高い少数の兵士で戦う帝国では、戦略が根底から異なるのだろう。

「余力が十分な帝国に対して、王国はジリ貧だ。ただでさえ人手の足りない収穫の時期に男手を徴兵しちまうもんだから、どうしたって民の暮らしは苦しくなるし、国力だって落ちちまう。せいぜい持ち堪えても、後数年くらいかな」とは、クレリックの青年の言い分だ。

 彼自身、王国辺境の農家出身らしく、徴兵された父親の戦死を契機とし貧困に喘ぐ故郷を捨てて、冒険者の道を選んだということだった。

 そして、今回の商隊護衛の依頼を急いだ件については、例年の戦争において両国による宣戦布告がなされてしまうと、国境を越える商人の往来などに制限がかけられてしまうことから、商会側としては依頼を先送りすることができなかったということらしい。

 

 国家に属さない冒険者については、往来の制限はかけられないとのことなので、帝国に滞在するタイミングで、もし戦争が始まってしまってもエ・ランテルに戻ることはできるそうなのだが――。

(俺はどうするべきなんだろうな……、元の世界に帰る方法とか探すべきなのかな……)

 結局のところ、最初に訪れた街がたまたまエ・ランテルであっただけの話で、なんとなく冒険者となって、流されるままに今はバハルス帝国へ向かっているだけだ。

 現実の世界へ戻りたい願望がそれほど強いわけでもないが、どういった理由で異世界に転移してきたのか、何かなさなければならないことがあるのか……正直、何一つとしてもわからない。

 街中なら不安を酒でごまかすこともできたかも知れないが、今はできない。

(……帝国は魔法の研究が盛んなんだっけ? 異世界転移みたいな魔法もあったりしないかな)

 おそらくないだろう、という心の声を押し殺して、ユンゲはかぶりを大きく振った。

 とりあえずは、護衛の任務に集中しようと自分に言い聞かせ、ユンゲは焚き火を囲っている隊商のもとへと歩き出した。

 夜の帳を下ろそうとする深い藍色の空に、星が一つ、また一つと煌めき始めていた。

 

 *

 

 帝都アーウィンタールは、皇帝の居城である皇城を中心に大学院や帝国魔法学院、各種行政機関が放射線状に配置され、ほとんどの通りは石畳やレンガによって舗装されている。

 街道からそのまま乗り入れている中央道路については、馬車が通るための車道と歩行者のための歩道を防護柵によって区分までされており、計画的に整備された都市であることを思わせた。

 驚くべきことに、美術館や劇場まで建造されているという話だから、かなり洗練された文化が根付いているようだ。

(中世のヨーロッパみたいな世界をイメージしてたけど、すごい近代的な感じがするな。魔法とかがある分、もしかしたら現実の科学とかより優れたところもあるのかも……)

 隊商とともに関所を抜け、帝都に足を踏み入れたユンゲは、初めて外国を訪れた旅行者そのままにキョロキョロと辺りを見回してしまう。

 まず感じたことは、街全体が活気に溢れているということだ。

 一国の首都と地方都市を同列に比較してしまうのは良くないことかもしれないが、エ・ランテルと比べてみれば、その差は一目瞭然だ。

 通りには数多くの商店が軒を連ねており、ユンゲには用途も分からない異国の品々が、所狭しと並べられている。いっそ喧しいほどの客引きも大いに賑わいを感じさせてくれる。

(依頼が終わったらいろいろと散策してみたいな……ていうか、でかっ!?)

 ぼんやりと景色を眺めていると、進行方向の先にひと際大きな円形の建造物が見えてきた。

 遠く風に乗って聞こえてくる歓声に、旅の途中で聞いた“大闘技場”という単語が思い起こされる。帝国内でも帝都にしかない施設らしく、庶民の最大の娯楽の一つだということだった。

 剣闘士や腕に覚えのある冒険者、捕らえられたモンスターなどが死闘――最近では多くないが、死者も出ることがあるとのことなので、かなり激しい戦闘が繰り広げられているのだろう――を演じ、連日満員御礼の大盛況らしい。

(貴族からは嫌われるけど、庶民からは人気のある皇帝に……、闘技場。――なんか、古代ローマ帝国みたいな感じなのか、そんな映画あったよな……。あれ、でも写真で見たローマって格子状の街並みだったような……?)

 曖昧な記憶を探ってみるが、もともと歴史や地理に疎かったユンゲには確かめる方法はない。

 そうして街を眺めているうち、商会の荷揚げ場まで赴いて隊商と別れたユンゲたち冒険者一行は、アーウィンタールの冒険者組合――エ・ランテルの冒険者組合より造りの立派な建物だったが、どこか活気に欠ける印象――で依頼の報酬を受け取った。

 

「……北市場?」

「ああ、小さな露店ばっかりが並んでるところなんだけど、マジックアイテムとか結構な掘り出し物があったりするんだ。毎日、違う商品が売り出されるから、必ずあるわけじゃないんだけどね」

 冒険者組合で紹介された宿屋で荷物を下ろし、ロビーで小休止がてら帝都について話していると、ユンゲとともに護衛を務めた槍使いの冒険者が、帝都北市場の話題を振ってくれた。

 曰く、冒険者や請負人〈ワーカー〉が集まる市場で、冒険の中で手に入れた装備やアイテムを持ち寄って開かれるフリーマーケットのような催しの場らしい。

 ちなみに、ワーカーとは冒険者からの脱落者と呼ばれる存在で、冒険者組合が取り扱わない――犯罪行為等も含めた仕事を生業としている者を指す言葉らしい。

 組合に所属していないため、依頼人は自身の伝手で契約を結びたいワーカーを探す必要があるし、冒険者組合がやっているような依頼の事前調査――冒険者のランクに応じた依頼の難易度の振り分けや倫理に反する内容の確認――などは、ワーカー自身が行う必要があるとのことだ。

 何らかの理由や問題を起こした元冒険者がワーカーに身を落とすケースのほか、既存のルールに縛られたくない者や大金を稼ぎたい者、多くのモンスターを倒したい者がワーカーとなるらしい。

 冒険者を日向の存在とするなら、ワーカーは日陰者といったところだろうか――。

「まあ、しばらくは帝都に滞在するんだろう? 散策のついでに寄ってみるのをお勧めするよ」

「了解! そうしてみるよ、ありがとう」

 ユンゲが笑顔で礼を返せば、「あの辺りにはスリも出ないしね」と冗談めかして軽く笑った槍使いが、話を締め括った。

 エ・ランテルで初めて会ったときには暗かった槍使いの表情も、旅の中で幾分かは和らいでいたことに安堵しつつ、ユンゲは冒険者組合を出る。

(モンスター討伐と墓地のアンデッド退治の臨時報酬に、今回の護衛報酬を合わせればそれなりの金額は貯まってるし、とりあえず散策に行ってみようかな……)

 大学院や帝国魔法学園にも興味はあるのだが、許可を得ないと敷地内には入れないとのことだったので、一旦は後回しだ。

 それに……と、ユンゲは思う――やはり、このハーフエルフの身体は腹が減るのだ。

(屋台で売ってた珍しそうな果物とか、帝都ならではの料理とか、いろいろ食べてみたいし……)

 結局、初めて土地を訪れた旅行者気分のまま、ユンゲはぶらぶらと帝都内を歩き始めたのだった。

 

 何気なく訪れることを決めた帝都北市場では――、右も左も分からないまま異世界に放り出されたユンゲの、運命が大きく動き始める一つの出会いが待ち受けているのだった。

 

 




-帝都編-
次話へのつなぎに当たる説明回のため、やや冗長です。
ホニョペニョコ騒動やリザードマンの話に介入する余地はなさそうということで、舞台を帝国に移してしまいましたので、これからしばらくは独自路線となります。
できる限り、原作書籍やWeb版の記述に基づいて描写したつもりですが、誤り等がありましたらご指摘いただけると嬉しいです。

-主人公の活躍-
もうちょっと先かな……







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