オーバーロード 新参プレイヤーの冒険記   作:Esche
<< 前の話 次の話 >>

5 / 16
かなり投稿間隔が開いてしまいました。
筆の早い投稿者様には頭が上がらないですね。

やや駆け足な展開になってしまいましたが、ご容赦ください。


(4)墓地

 この世界におけるアンデッドは、無残な死者や弔われない死者から生まれるとされ、戦場跡や遺跡において特に発生しやすい。

 隣国であるバハルス帝国との戦場が近いエ・ランテルは、死者をアンデッドにしないために、弔うための場所として巨大な墓地を必要とした。 その結果として、エ・ランテルの共同墓地は、外周部の西側地区の大半を占めるほどの広大さとなっている。

(……でも、丁重な弔いを行ってもアンデッドの発生を完全に防ぐことはできない、だったかな? だから墓地の周りを壁で囲んで、都市部には侵入されないようにしているってことか……)

 伝令を受けて墓地へ駆け付けたユンゲは、四メートルにもなる壁を見上げながら、酒場の主人から手短に聞いた説明を思い返してみる。やや過剰とも思えるような頑丈な壁による防備だが、都市生活の安全を守るために欠かせないのだろう。

 壁の向こうには無数のアンデッドが蠢く気配があり、生者への恨みとでもいうのだろうか、辺りには肌を刺すような怖気が充満していた。

 

「諸君、事態は急を要する! これほどの大量発生は、自然には起こりえない! つまり、悪意を持った何者かが事を成していることは明らかだ!」

 閉ざされた門を前に初老の男――役人然とした仕立ての良い服に身を包んでいるが、醸し出す雰囲気は引退した冒険者のようだ――が、参集した冒険者に向けて声を張り上げる。

「シルバー以上は、開門の合図とともに墓地内へ突入しアンデッドを掃討、および別ルートから先行する冒険者の援護に動け! アイアン・カッパーは、壁上にてアンデッドを迎撃、都市部への侵入を決して許すな!」

 矢継ぎ早な指示に応じ、冒険者たちが死闘を前に高ぶる感情を猛りとして吐き出していく。

「人々の剣となり、盾となり、冒険者としての矜持を示せ! いざ、開門!!」

「うおぉおおおおー!」

 苛烈な扇動に合わせて門が開け放たれ、――勇ましい咆哮とともに冒険者が墓地へと殺到する。

 

 エ・ランテル共同墓地を舞台に、“生者と死者の戦い”が始まった。

 

 *

 

 突出したアンデッドに向けて左手を構え、ユンゲは無詠唱化した魔法を次々と発動させる。

<トリプレットマジック・ショック・ウェーブ/魔法三重化・衝撃波>

 指向性をもった不可視の衝撃をまともに受けたゾンビの四肢が乱れ飛び、周囲のスケルトンを巻き込んで後方へ吹き飛んでいく。しかし、アンデッドの大群に一瞬できた空隙は、突入した冒険者が押し広げる前に、直ぐさま別のアンデットが押し寄せて埋めてしまう。

「……このままじゃ埒が明かないな」

 壁上に陣取り、群がるアンデッドを迎撃しながら、ユンゲは独り言ちる。

 ゾンビやスケルトンは数こそ多いが、個々の強さはそれほどでもないため、墓地に突入したシルバー以上の冒険者であれば、まず後れを取ることはない。

 それらの数の多いアンデットに紛れる、食屍鬼〈グール〉や腐肉漁り〈ガスト〉、黄光の屍〈ワイト〉といったアンデッドも強力ではあるが、挟撃すれば大きな障害ではなかった。

 それでも、戦況は一進一退から、徐々にアンデッドが優位に推移しつつあった。

 

 厄介なのは、死霊〈レイス〉と骨の禿鷲〈ボーン・ヴァルチャー〉だ。

 ユグドラシルにおけるレイスは、さして強力なモンスターではないのだが、実体を持たないために物理攻撃に耐性があり、魔法か魔法を宿した武器による攻撃でしかダメージを与えられない。

 魔法の武器が高価なために普及率の低いこの世界においては、かなりの脅威といえた。

 そして、拮抗する地上戦の状況を打破しようと、アンデッド発生の根源――共同墓地の中心地を<フライ/飛行>で目指した冒険者は、どこからか飛来したボーン・ヴァルチャーの群れによって撃墜されてしまっていた。

 これまで、エ・ランテルの墓地では発生を確認されていなかったという、この二種のアンデッドの出現により、勢い良く突入していった上位の冒険者たちも、徐々に疲労とともに押され始めてしまっているのだ。

 骨だけの翼でどうして飛べるんだとか、文句はいろいろとあったものの幸いというべきか、レイスとボーン・ヴァルチャーという墓地を囲う壁を苦にしない二種のアンデッドは、冒険者の相手に執着しており、今のところ墓地外へ出ていこうとする気配はなかった。

 

 視界に映る端から、周囲の冒険者に支援魔法をかけ続けながら、ユンゲは有効な手を打てないでいた。――率直にいって、味方の冒険者が弱すぎたのだ。

 或いは、ユンゲ単独であったならレイスやボーン・ヴァルチャーの群れを振り払いつつ、墓地の中心に迎える自信はあったが、今この場を離れてしまえば、瞬く間に戦線が瓦解してしまうことは想像に難くない。

(初手を間違えたな……、墓地への突入に参加するべきだった)

 ユグドラシルの準拠するのであれば、アンデッドの弱点は“火”だ。

 突入の先頭に立って、<ファイヤーボール/火球>などの範囲魔法でアンデッドの掃討を図っていけば、十分に勝算はあったのだが、両陣営が入り乱れている今となっては、範囲内に味方の冒険者を巻き込んでしまう可能性があるため、迂闊に放つことができない。

 カッパーの冒険者は壁上で迎撃するという指示に、素直に従ってしまったための悪手だった。

 やむを得ず<ショック・ウェーブ/衝撃波>などの直線的で、範囲を絞った魔法を駆使してアンデッドを攻撃しているが、後から後からわき出してくるアンデッドの群れを前に、どれほどの効果があるのかは疑問だった。

 現状でも、墓地の外へアンデッドを出さないという最低限の狙いは果たせているが、打開策がない以上、他のルートから進んでいるという冒険者――墓地の警備についていたという兵士の話から、その正体はもう分かっている。魔獣を従えた漆黒の戦士と目の覚める美人といった組み合わせが他にいるとも思えない――の活躍に期待するしかない。

 無数のアンデッドが蠢く彼方を見やり、ユンゲの口から小さな呟きがこぼれた。

「モモンとナーベ……、か」

 ユンゲの視線の先、立ち込める暗雲を引き裂くような凄まじい稲光が、紫電を伴って夜闇を押し退けるように迸っていった。

 

 *

 

 激戦から一夜明けたエ・ランテル冒険者組合には、早朝から多くの冒険者が集まっていた。

 依頼のボードを前に意見を交わす者、仲間内で談笑する者、自らの功績を誇り大いに笑う者、そこには見慣れた日常があった。

 昨夜の共同墓地での騒動は、ズーラーノーンと呼ばれる秘密結社が関わっていたらしい。

 無数のアンデッドによる都市壊滅を企図していたという二人の幹部――盟主に次ぐ十二高弟に数えられる、この世界でも指折りの実力者らしい――が、モモンとナーベによって討たれたことで事件は、一応の終息を見た。

 墓地の見張りとして詰めていた兵士と駆け付けた冒険者には少なくない被害が出てしまったが、幸いにして市民に被害はなかった。

 数千のアンデッド襲来に見舞われるという、エ・ランテル始まって以来の危機的な状況にありながら、迅速な解決に導いたモモンとナーベの功績は、オリハルコンかアダマンタイトにも匹敵するもの――特に、モモンの剣技を実際に目撃した多くの兵士からは、“英雄”として称えられていた。

 

 アンデッドの発生が落ち着いた後、いつもの宿で仮眠を取ってから冒険者組合に顔を出したユンゲは、馴染みの受付嬢から昨夜の騒動についてのあらましを聞いていた。

「なるほど、やっぱり彼らはすごかったんですね……」

「ええ、そうですね。でも、ユンゲさんも大活躍だったとお聞きしましたよ!」

 ずいっと身を乗り出してくる受付嬢にやや身構えながら、ユンゲは言葉を返す。

「正直なところギリギリでしたし、彼らが敵の幹部を倒してくれなければどうなっていたか……」

「ふふふ、やっぱり謙遜されるんですね。大丈夫ですよ、ちゃんとユンゲさんを評価してくれる人もいますよ、――ほら」

 訝しげなユンゲにくすくすと笑いながら、受付嬢が銀のプレートを差し出す。

「…………これは?」

「昨夜の働きに報いてです。冒険者のランクアップには昇格試験を受けていただくことをお伝えしましたが、今回は例外です。昨夜のユンゲさんの功績は、昇格に値するものとして判断されました。冒険者組合は、功績には報恩をもって応える組織です」

 ユンゲは、突然の展開にやや面食らってしまう。

「……嬉しいお話ですが、いきなり二つもランクを上げてしまっても大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫です! むしろこれでも足りないくらいかもですね。ユンゲさんは第三位階魔法も使えるとのことですから、実力からすればプラチナ以上のプレートを用意されて然るべきなんです! 上の人間は頭が固いというか慣習に縛られ過ぎなんですよ」

 捲くし立てるように言い差し、人差し指をくるくると回しながら妙に自慢げな受付嬢を見やり、ユンゲはようやっと笑みを浮かべた。

「そうですか、では遠慮なくいただいておきますね」

 手渡されたプレートをユンゲが首にさげたとき、「あ、そうそう」と受付嬢が言葉を続けた。

「あちらの方々ですが、ユンゲさんにお話しがあるそうですよ」

 受付嬢が手で示す方へ視線をやれば、数人の冒険者がこちらを見て会釈を送ってくる。

 日本人の性から思わず会釈を返した後で、ユンゲは首を傾げた。

 仲間内で頷きを交わし進み出た男が告げる。

「不躾で申し訳ないのですが、ブレッター殿に我々の依頼をお手伝いいただければ思いまして……」

 

 

「……商隊の護衛ですか」

「ええ、以前に受けていた依頼だったのですが、昨夜の騒動で欠員が出てしまいまして……。本来であれば依頼を断るべきなのですが、もともと懇意にしていた商会からの依頼なので断ることも難しいのです」

 槍使いの戦士が、疲労の色を隠せない表情で言葉を紡ぐ。

「こちらの受付嬢から、昨夜のブレッター殿の活躍をお聞きしまして――、剣に覚えのある支援系の魔法詠唱者ということであれば、まさに我々が欲する方でしたので、是非お願いをしたいのです」

「組合としても依頼を不履行としてしまうのは避けたいので、ユンゲさんさえよろしければ、ご一緒に依頼を受けてみてはいかがでしょうか?」

 横から勧めてくる受付嬢は満面の笑顔だ。

 提示された条件に不満もない。

「……了解しました。せっかくのお話ですし、有り難くお受けさせていただきますよ」

 憔悴した様子の戦士の手を取り、ユンゲは破顔した。

 

 




-生者と死者の戦い-
アインズ様の召喚したアンデッドが、采配通りに冒険者の足止めという役目をしっかりと果したというお話。

-主人公について-
ここまでは脇役に過ぎなかったですが、次話からはもうちょっと活躍できる展開が……あるといいなぁ。

-質問-
先の展開で某ワーカーチームとの絡みを妄想しているのですが、三人の奴隷エルフは名前が設定されているのでしょうか? 調べた範囲では見つけられなかったので、もしご存知の方がいらっしゃれば教えていただけると嬉しいです。








※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。