極めて興味深い事件なのだが、如何せん資料が少ない。故に中途半端な記述にならざるを得ないことを予めお断りしておく。 1990年8月30日、チューリッヒで宝石店を経営するリヒャルト・ブライトラーは、4人の銀行員を高級レストランに招いた。借金返済の筋道を彼らに説明するためである。しかし、そんな筋道など存在しないことは彼には判っていた。だから、本当の目的は説明ではない。銀行員たちが席につくなり、ブライトラーは上着の内ポケットから拳銃を取り出して、続けざまに引き金を引いた。3人が被弾し、うちの1人が死亡した。そして、制止する店長にも発砲して傷を負わせると、店の前に停めていたオートバイに飛び乗り逃走した。 あっという間の出来事だった。 ブライトラーの自宅に踏み込んだ警察は。妻のフラウと十代の息子の遺体を発見した。また、彼の宝石店には女性秘書の遺体があった。いずれも頭を撃たれていた。 ブライトラー自身の遺体は間もなく郊外で発見された。オートバイの脇で頭を撃ち抜いていたのだ。 新聞社に宛てた手紙と録音テープは銀行への罵倒で溢れていた。 「こうなったのは全て銀行の責任だ。奴らは俺の愛する家族や忠実なる部下を奪ったのだ」 いやいや、彼らの命を奪ったのは君だからね。 まあ、気持ちは判らないでもないが、家族や秘書まで殺すことはなかったのではないかね? (2011年1月20日/岸田裁月) |