オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世
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今回から新章入ります。でもごめんなさい。エ・ランテルにはまだ行きません。


第2章 語られるは漆黒の英雄譚
第0話 出立


 カルネ村の件から数週間がたった。ナザリック地下大墳墓第6階層コロッセオ、そこに鎧姿の支配者がいた。その手に握られているのはグレートソード、本来であれば、両手でもつよう作られているそれを二振り、片手づつ装備している事実がこの人物の常識はずれの筋力を証明していた。右手を横なぎにふれば、暴風が吹きすさび、左手を縦にふれば。大地が砕け、破片が周囲に飛び散る

 (しまった!力を入れすぎた)

 瞬時に、まるで時間を巻き戻すように修復される床、そう、これがギルド拠点の特典というなのシステムではあるものの一日にできる量は限られている。

 (まあ、腕力は十分あることは分かったし、型を覚えることを優先しよう)

 こうして、訓練を再開する支配者。右の剣を斜めに振り下ろし、地面にあたる寸前で静止、何かがたたきつけられたように舞い上がる埃、右腕を半回転、そのまま反対の方向に再度振り回す。空気を叩く音が響く。あらかじめあげておいた左腕を力の限り振り下ろす、今度はそれが床にいかないよう注意する盛大に地面を叩く音がする、それでも床は砕けない。今度は成功だ。なんとか3連撃、まあ簡単に決まるとは思えないけど。それに今のは上半身だけの動き、実戦ようにするためには、下半身、足さばきも加えたうえで、型を作る必要がある。そこからは、ひたすらに風が、大気が揺れているようであった。その姿を本日の世話係であった一般メイドのフィースは「なんと神々しい御姿でありましょう」と涙を流して眺めていた。

 

 

 アインズが行っていたのは戦士としての訓練であった。この世界に溶け込むのであれば、できる限りたくさんのアンダーカバーが必要となるだろう。そして「人化の指輪」のさらなる実験も兼ねていた。あれから気づいたことはほかにもあった。まずはその精神性、仮に以前の、「鈴木悟」の頃のアインズであれば、そもそも人を殺すことはできないであろうし、殺した事実に体がこわばり、恐怖と、自身を自身が拒絶するという何ともいえない負の感情で動けなくなってしまうだろう。しかし、実際にはそんなことなくて、

 (今や、精神は完全にアンデッドということか)

 何だか笑ってしまう。どうしてかって?それは、以前は、まだこの姿が単なるアバターだったときは、どれだけ、アンデッドであることに徹しようとも、一線は越えられないでいた。ようは、どこまでも人の心をもったアンデッドであったのに、今では

 (あべこべだな)

 兜の下でつい笑みを浮かべてしまう。もう、あの頃には戻れまい。それでも、後悔はない。戻ったって、きっと自身の居場所なんてもうなくなっているだろう。そしてここでは、どうしようもない自分を必要としてくれる者達がいる。彼らにも報いるためにもできることはやらなくてはならない。アインズはふとグレートソードを2本とも、床に突き立てる。それで主が何をしたいのか、察したフィースは急いで予備の剣を持ってくる。それは、ちょうど、あの戦士長が扱っていたのと同じくらいのものであった。

 「ありがとう。そして悪いが、少し離れてくれるか?危ないしな」

 「この程度の事、当たり前でございます。それに私どもは使用人、もっときつい言い方、いえ、命令風でもあなた様に従います」

 「?、そうか?では、命じよう、とっとと、どこかへいけ!」

 「はい!喜んで!」

 (ええぇ?何で喜んでの?この娘て、アレなの?)

 最初の優しく言うのと違い、明らかに目を輝かせ、満面の笑みを浮かべるメイドに彼は軽く、困惑と戸惑いを感じていた。

 それは単に、一般メイドたちがアインズにはぞんざいに扱ってもらったほうが、「支配されている」感を感じられていいというもので、決してそういう性癖というものではない。仮にほかの者、具体的には、イワトビペンギンなどが、同じことをいえば絶対零度の視線を向けていたことであろう。しかしまったく無関係というのも無理があるような気がしてくる。

 (考えても仕方ない)

 アインズはひとまずその事を置いといて剣を構える、あの時、みた戦士長のように。さながら、憧れのヒーローの必殺技の準備動作をまねる子供のように。

 (武技、六光連斬!)

 さすがに口にするのはまだためらわれるもの一気に剣を振り放つ、そして、斬撃が飛ぶもの、その太刀筋はどう見ても一本、

 (やっぱ、数度見ただけと、見よう見まねでは限界があるか)

 メイドは目を輝かせているもののアインズとしてはまだまだ未完成だと恥じ入るばかり。精々「飛翔烈破」と名付けるのが精々か、カッコ悪いのは分かっている。自分にそのてのセンスがないことは何より自分が分かっている。それでも嬉しいこともある。あの指輪を使った状態であれば、「人化」状態であれば、武技を修得できる可能性。いや、それだけではない。この世界は、ゲームではない。努力すれば、新たな技能を身につけることができることは、先日の実験や、シャルティアの成長ぶりをみても間違いなさそうだ。

 『モモンガお兄ちゃん!お昼だよ!愛情たっぷりの妹(が作ったご飯)を味わってね!』

 ふとなるのは、あらかじめ利き手に取り付けていた時計から鳴り響く録音音声、その声に、ひどい台詞だというのに、再び涙をながすメイド

 「なんで、こんな台詞しかないんですか。ぶくぶく茶釜さん」

 《リアル》で声優をやっていたという。あの双子の創造主の顔を思い浮かべて、アインズは苦笑する。それを狙ったかのようなタイミングで新たな人物がコロッセオにやって来た。

 「アインズ様!お昼ご飯と報告書を持ってきました!」

 「ま、まってよ~お姉ちゃん!」

 この階層の守護者であり、先ほど聞こえた声の主ともいえるエルフの姉弟。その手にはバスケットと何やら丸められた紙のようなものが握られている。

 「よく来てくれた。アウラ、マーレ、そうだな、昼にするとしようか」

 鎧を脱ぎ、本来、その手の知識が皆無のアインズがこの全身鎧を脱ぐのは、苦労するはずであるが、そこはさすが魔法の一品、指をならしてやるだけで、煙のように消える。そして出て来るのは鈴木悟が向こうの世界で最もしていたであろう格好、Yシャツにトラウザーズズボンであった。

 (しょうがないじゃないか。これくらいしか思いつかなかったからな)

 結局自分にはYGGDRASIL(ユグドラシル)しかなかった。それしか生きがいが、だからこそほかのことには無関心ともいえたし、まったく気を回す余裕も、お金もなかった。いや、金はあったんだろうけど、すべて課金に費やしたからなぁと、軽いため息、まあ、気にしてもしかたない。

 「今日のメニューは何かな?」

 そう問いかけられ、まってました!と、目を輝かせるアウラ

 「今日はアインズ様のため作らせた、特製のハンバーガーです!付け合せはピクルス2本に皮つきフライドポテト。飲み物はコーラです!」

 「それは4人分あるのか?」

 その問いにさらに顔を得意げにして彼女は続ける

 「もちろん!お優しきアインズ様はそうおっしゃるだろうと、しっかり人数分お持ちしました!」

 「ふ、さすがだアウラ、よし、では」

 見れば、すでにフィースが屋外用のテーブルと椅子を3人分セッティングをしていた。本当に優秀なもの達ばかりだ。しかし、

 「フィースよ、何故お前の分の席がない?」

 「しかし、アインズ様、私は、」

 確かに、使用人という立場上、主人と同じ席で食事を摂るなんて許される行為ではないし、もしもそれで、このメイドがペストーニャやアルベドに叱られる可能性もあるわけだ。それでも、

 「私はすべての者と対等にありたい」

 まあ、実際は負けているところだらけのだが、

 「それに、食事とは、みんなで食べたほうがおいしかろう」

 それは、数少ない安らげる記憶。母と共にした食卓を思い出してのもの

 「ともに食べぬか?」

 主にそこまで言われてしまえば、さすがのフィースであっても、

 「畏まりました。アインズ様、お食事を共にさせて頂きます」

 承諾してくれた。自分はいいと思ってやってるけど、もしも、これが、パワハラとかになっていたらどうしようと、今更ながらに心配しだすアインズ。

 (大丈夫、だよな?)

 「!!、申し訳ございません。アインズ様!やはりご一緒はできません」

 何かに気付いたのか、先ほどの発言を撤回したうえで、深くあたまをさげ主に謝罪するメイド

 (ええ!どうしよう!ホントにパワハラだったのか?)

 「ちょっと!フィース!アインズ様に失礼でしょ!」

 声をあげるのは、アウラに、マーレも無言であるもののその視線は静かに主の誘いを無下にした彼女に向けられている。それだけでかなりの重圧だろうに、それでも彼女はなんとか言葉を紡ぐ。

 「本当に申し訳ありません。椅子のほうを3人分しか用意していなかったもので」

 (ああ、そういうことか)

 確かにそれでは、結局は一人は立って食事をとることになるが、しかし、心優しい主がそれを許容するわけなく、かといって、自分が腰かけて、主が立つ(おそらくはこの方はそうする)というのもフィースにとって論外の選択肢である。結局、断るしか選択肢がないわけである。

 (たいしたことじゃないんだけど)

 彼女のこの態度だと、新たに椅子を用意する時間をもらうのも不敬と考えている可能性がある。ふと、そこで自分の体形、正確にはその大腿の太さと、そして次に双子の体形をみて、思いついた。

 「それでは、アウラかマーレ、まあ、二人共でもいいんだが、私の膝にのって食事にするか?」

 「「え」」

 一瞬呆けたような声をあげられ、アインズも気づいた。いくら見た目が子供でも肉体的接触は駄目かもと、なんとか表情は平淡にたもっているものも、今すぐ顔を覆いたくなっていた。

 (違う、違うんだ。俺は犯罪者でもその予備軍でもない)

 そう、けっして、少年少女のお尻の感触を太ももで味わうのが趣味という訳ではない。本当に親心からなんだ!

 「あ、あの、僕はアインズ様のお膝に座りたいです」

 「マーレ!・・・・・うう、あたしも座りたいです!アインズ様」

 (ほら、みなさん!この顔をごらんなさい)

 向けられるのは、恥ずかしそうに顔を赤らめながらもその言葉に甘えたいとう子供のものであった。アインズはもはや、幻聴、あるいは、幻覚水準のかつての仲間たちに胸をはって宣言する。俺はこの子たちの親なんだ。と、

 「では、時間もおしい」

 アインズはフィースが用意してくれた椅子の内、一脚に腰をかけると、双子に手招きをしてやる。以外にも先に動いたのは、弟のマーレであった。歩くのと変わらない速度できた彼の脇に手をあてて、

 「んっ、アインズ様ぁ」

 (何で、そんなうるんだ瞳で俺を見つめる?どこか加減を間違えたかな?)

 持ち上げてやって、そのまま、自分の右足、その大腿に座らせてやる。やはり、この体の筋力は相当なもののようで、全然疲労感を感じない。こうなっては、もうアインズ自身動くことはできない。

 「どうした?アウラも来たらどうだ?」

 あくまで、優しく手を差し伸べてやる。

 「は、はいアインズ様」

 彼女はテーブルにくると、バスケットと紙を置いて、アインズに向かって両腕を開いてみせる。

 (ああ、そうか)

 先ほどマーレにしたのと同じように手を当てて、空いた左足のほうに動かしてやる。その間、アウラは顔を真っ赤にさせて、黙ったままであった。そのあと、向かいの席にフィースも座り、ようやく昼食の時間となるのであった。

 

 アウラが持ってきてくれたハンバーガーはアインズにとって、ひどく懐かしく、いや新鮮に思えるものであった。1口だけでも相当の大きさをほこるそれをかじれば、バンズの固くもふんわりとした食感が、レタスの歯ごたえとパティの肉厚とともにアインズの舌を魅了する。それを一度咀嚼、もう一度咀嚼と、味わいながら顎を動かし続けることで、のどに流し込む。続いてフライドポテトにかじりつく。程よい塩加減と芋の香ばしさがする。ピクルスを口にすれば、酢で柔らかくなったウリの固さがあっさりとした味とともに広がり、先に食べた肉汁と溶け合い、さらなる旨味となった。しめとばかりにコーラを飲めば炭酸特有の甘みがはじけるように、それまでのすべての味を吹き飛ばす。

 (ジャンクフードってやつだったっけ?)

 こんなにもおいしいものだとは、思わなかった。いや、食事自体はもう何度もとっているのだけど、そのどれもが、とてもおいしいと感じられる。

 (向こうでは簡単な携帯食だったからなぁ)

 あの世界では食事一食、食材一品でも相当の値段であった。よって、アインズは価格の安さをなによりも優先して、チューブ型の栄養食だったり、様々な栄養素をつめたというブロック食だとか、そういうものですましていた。別にそれでも生きるのには不便はなかったし、YGGDRASIL(ユグドラシル)さえあれば、それでよかったのだから。ふと辺りを見渡せば、アウラにマーレ、フィースも満足そうに食事をしている。それだけ、ナザリックの料理長の腕が確かということか。そのまま右手でコーラの入ったカップを持ちながら、アウラが持ってきてくれた。報告書に目を通す。こういう時、似合う飲み物は、紅茶とコーヒーとどっちだろうか?

 あれから、決まった事もたくさんある。二グレドには結局あそこからでてもらい、以前アインズがカルネ村を発見した部屋、そこにさらに遠隔視の鏡をいくつか運び込み、何体かのオーバーロードやエルダーリッチなどを配置して、カルネ村周辺の監視の役割をしてもらうことになり、彼女には室長としての新たな役割を与えた。この先、現地の調査が続けば、その範囲も広がるはず。ちなみに副室長としてヴィクティムにもついてもらっている。それから、カルネ村には復興支援として、ゴーレムを数体、派遣することになり、その指揮と姉妹の世話係、それに村人たちとの橋渡しとしてルプスレギナにいってもらうことになっていること。情報収集を主として、イブ・リムス単体の独立師団、ん?少し言葉が変か、まあ、彼女なら、よほどの相手でなければ遅れはとらない。こと、かくれんぼや鬼ごっこであれば。それとは、別にグリム・ローズを中心に七罪3人の部隊もできていること。あと決まっていないのは、

 

 「アインズ様、よろしいでしょうか?」

 声をかけてきたのはアウラであった。特に忙しい訳でもないし、自分は大切な子供からの呼びかけを無下にする親ではない。

 「何だ?アウラ?」

 かえしてやると、彼女は顔をやや赤くして、逡巡する様子をみせるが、意を決したように口を開く、

 「あの、大変失礼ではあるのですが。アインズ様と、ぶくぶく茶釜様は、恋人、だったのでしょうか?」

 「はあぁぁぁぁ!!!!」

 飲みかけの炭酸飲料を吐きかけるが、何とか抑える。そんな事をすれば、支配者の前に文明人として失格だ。

 (俺と茶釜さんが?何を言っているんだアウラは?)

 もはや恒例行事ともいえる。思考凍結、再開の末、必死に頭を回す。もしかして、アウラも色恋が気になる(そんな)年ごろか、

 「何故、そう思うか聞かせてくれるか?」

 「はい、アインズ様はアルベドの告白に答えていないと聞きまして」

 (あああああああああ!!!!・・・・・・・・・それも広まっていたか)

 それに関しては仕方ない。なんせ墳墓の一大事であったらしいから。それよりも今は目の前の話題だ。

 「アルベドの想いに応えていないのは、今の状況を鑑みてのことだ。特に深い意味はない」

 「そうなんですか」

 その様子はなんだか納得していないようで、

 「ほかにも心当たりがあるのか?」

 「あの、先ほど茶釜さんの声が鳴ったその時計なんですが」

 彼女が指を指していたのは間違いなく、先ほど鳴った腕時計であった。これにはアインズも気まずくなる。まさか、聞かれるとは、よりによって、あんな台詞を。表情筋が動かないよう。必死に耐える。

 「これがどうしたのかな?」

 「それをいただいたのって、アインズ様だけではないんでしょうか?」

 「いや、それはないはずだが、」

 実際どうなんだろう?確かほかにももらったって言っていたメンバーがいたような、いなかったような、曖昧だな。アウラはそれでも何か、納得できるものを探すように言葉を続ける。

 「ですが、あのように、優しい声を納めたものをアインズ様に送っていたとしたら。やっぱり、アインズ様のことが好きだったのではないのでしょうか?」

 あんなものを優しいとはなんて優しい子であろうか

 「いや、それはないだろう」

 確かに仲はよかったし、それに気に入られていたのも確かなはず、しかし、それは悪魔で、弟の友達、いや、同類としてのものだったはずだ。第一、彼女がそこまで自分にとって大切な相手であれば、YGGDRASIL(ユグドラシル)にこだわっていなかったはずだし、何より、彼女は当時、トップ近くの人気を誇る声優であったし、比べて自分はしがないサラリーマン。とても釣り合うはずがない。それにあれだ、こういうのは期待してもろくなことにならないし、もっといえば、ありえないが、百万、いや、一億分の一の確率として彼女とそういう中であった場合。もれなく、あのぺロロンチーノ(エロゲバカ)が義弟となるわけだ。そうなる事実のほうが、遥かに耐えられない。間違いなく、断言できる。

 「私と彼女はそういう仲ではなかったさ」

 「そうですか」

 その言葉にアウラはようやく理解はしたもののどこか寂し気であった。

 「どうした?アウラ?まだ納得できないか?」

 「いえ、アインズ様はそうであっても、もし、ぶくぶく茶釜様がそうじゃなかったら」

 (この娘はどうしても俺と茶釜さんをくっつけたいのか!?)

 恋愛ものの少女漫画にはまってしまった娘とはこんなものだろうか。

 「もしも、そうであれば、ぶくぶく茶釜様はもうアインズ様と会えない、ですよね」

 「????、そうだが、それがどうかしたか?」

 その時アウラが見せたのは二度と家族に会えないとようやく理解した顔であった。

 「ぶくぶく茶釜様が、悲しまれているかなあと、泣いているかなあと、」

 何とか崩れそうな顔を保っているものであった。その頭に手を置いてやる。

 (本当、優しい子だ)

 そもそも、自分を捨てた相手、いや、親であるというのに、そんなに思いやれるなんて、そして、アインズもまた、考える。自分がこんなことになってしまったから。向こうの体は、いわば魂の抜け殻、死体同然。おそらくは過労死という結果であっさり、それこそ、紙くずをゴミ箱に投げ入れるように処理される事だろう。そうなったとき、それを知った時、ぶくぶく茶釜、彼女は泣いてくれるだろうか?それは彼女だけではなく、ほかのメンバーもどうだろうかと、連鎖的に思考にふけるが、

 (いくら考えてもしかたないか) 

 結局それが分かるのは当の本人達だけだ。もうどうしようもないし、戻るつもりもない。

 「アウラは優しい子だな、きっと茶釜さんも喜んでいるはずだ」

 「う、ううううアインズ様あああ」

 いつも元気な彼女にしては珍しく、取り乱していた。やっぱり、寂しいよな

 「ア、アインズ様、僕もなでてほしいです」

 いつの間にか、自分の頭を差し出すように傾けているマーレ

 「ははは、マーレも甘えん坊だな、」

 もちろん、なでてやる。やらない理由がない。

 

 その光景をフィースは今日何度目になるか「何と尊き光景であるのでしょう」と涙をながし、ながめていた。

 

 

 

 

 

 玉座の間にて、アルベドはアインズに今回決まったことをまとめた報告書を渡していた。そこにあるのは、次の作戦に向けた、人員配置、無論アインズもその対象だ。彼らばかりに働かせるわけにはいかない、それが主の願い。その結果を見て、主は笑って下さった。

 「中々、面白いではないか。しかし、よかったのか?私が冒険者として城塞都市エ・ランテルに向かうというものは」

 「ええ、勿論でございます」

 実際それは、会議の場でも満場一致で開始5秒で決まったことであった。主は比較的、楽な仕事だと思っているのだろうが、自分たちの本当の狙いはそこではない。主はこの異変の前はあの世界を、かつていらっしゃっていた。ほかの至高の方々と共に駆けていた。一種の冒険者であったのだ。ならば、この世界でもそれになり、「楽園計画」は自分たちに任せて、のんびりセカンドライフを送ってくれればそれが一番だ。

 「それにしても、意外だな。てっきり、お前がついてくると言うと思ったのに」

 その言葉に心臓が高鳴る。それと同時にわきあがるは羞恥、確かに本音ではそうしたかったのだが、主とその願いを思えば、できる訳なく、そして、さらに自分よりもその件で暴れた人たちがいる為、このような結果になったのだ。できることなら。主には黙っていたい。

 「ふふ、それは、お誘いと受け取ってよろしいのでしょうか?」

 冗談半分、本音半分で返す、

 「い、いや!それには及ばない、今のは・・・・・そう、純粋な驚きだ」

 その姿に不敬ながら、愛おしく、可愛らしいと感じる。主のこういった所も大好きだ。

 「私は今後を考えれば、ナザリックに残るのが最も得策かと」

 「うむ、そうだな、確かにそうだな、お前の能力と役職を考えれば、当然か、デミウルゴスに、ウィリニタスも残留組か」

 そう、義兄には自分の補佐として、悪魔たる階層守護者である彼には、例の『至宝』を用いた実験に新たなアイテムの開発、そして消費アイテムの量産体制を整えてもらう予定だ。

 (そういえば)

 主自身もなにかやっているらしいことを一般メイドたちのうわさで聞いた。本当に彼女たちの耳はどうなっているのか?正直言えば、気になるもののそれを知られることを主が良しとしなければ、それに従うまで、なにより嬉しい。そうやって、主には、生きていることの楽しさをもっと知ってほしいとさえ思う。

 「では、私が外に出ている間。ここのことは頼んだぞ、アルベド」

 「はい!あなた様の帰りをいつまでもお待ちしております。アインズ様」

 主は一瞬、のけぞったように見える。嬉しい、嬉しい、愛おしい、自分を女として見てくれている。

 

 

 「アインズ様、よろしいでしょうか?」

 不意に外から声が聞こえる。もう少し、主との2人だけの時間を過ごしたくあったが、仕方ない。この声の主は

 「ああ、構わないぞ、入れ」

 

 アインズに許可をもらい入ってきたのは、民族衣装に身を包んだ女性であった。黄色人種に近い肌よりやや黒い肌に、不釣り合いともいえなくもない、茶色交じりの黒髪は緩やかに流れていて、後ろで一つにまとめている。その瞳はアメジストを思わせるように輝いていた。彼女が着ているのはコイレクと呼ばれる衣装で、長い着丈と裾丈についている立ち襟は低いワンピース風ドレス。その上には丈の長いカムゾルをかぶせるように着込み、頭にはタキヤ・ボーリクと呼ばれる、とんがり帽子を被っている。が、それはすべて幻影でそうみせているだけ。彼女こそ、シャルティア・ブラッド・フォールンの前任者であった。イブ・リムスその人である。

 

 「アインズ様、ご機嫌麗しゅうございます」

 やはり、先輩というべきか、その佇まいはあの吸血鬼以上だと、私怨ぬきで思う。

 「ああ、お前も元気そうだな、イブ・リムス」

 「お疲れ様です。イブ・リムス様」

 彼女や義兄たち《始まりの3人》はもっと気さくに接してくれというけれど、とてもそんな恐ろしいことはできない。自分を始めとした階層守護者のほとんどが、なにかしらの敬称をつけて彼女たちに接する。呼び捨てにしているのは、シャルティアとアウラぐらいのものだったはず。そして、彼女はこちらに視線をやったと思うと、やや罰が悪そうに、頬をかき、謝罪した。

 「ああ、アルベド、さっきは悪かったね」

 「いえ、私はなにも気にしていませんとも、義兄のことも水にながしてくだされば、」

 後半の台詞を言った瞬間、冷気が溢れる。レベルでは自分や主が勝っているはずなのに、この威圧感はやはり凄まじいとしか言えない。

 「あいつは駄目だ、あの六目フクロウ、いつかぶっ殺してやる」

 静かなる殺害予告に真っ先に反応したのはやはりというべきか、必然なのか、愛する主であった。

 「あまり、不穏な事を口走るな、お前たちが殺し合う所など、私は見たくないぞ」

 「申し訳ございませんアインズ様、つい口が滑りました」

 「ははは、そういう時もあろう」

 どこまでも寛大な主は冗談だと片づけてくれるが、自分は分かっている。間違いなく、義兄と目の前のこの人物は本気で殺し合うだろう。それも突き詰めれば自分とあの吸血鬼を思ってのことだから、中々口を出しづらい。なんていっていられない。

 (本当、優秀な人たちですのに)

 この点だけでは自分たち以上のポンコツであることは、あのデミウルゴスも認めたことであった。その時のもう一人の前任者である彼の台詞が思い出される。

 

 『ごめ んね アル ベド ちゃん デミ ウル ゴス くん こいつら すこし いや かなり バカ なんだ 』

 

 恥ずかしいが、その通りであった。

 

 「さて、お前の用件はなんだ?」

 余計な思考をしていたせいで、愛おししい主の貴重な声を聴く機会を逃すわけにはいかない。

 「大したことではありません。出立前にシャルティア様、・・・・シャルティアにあっていただきたいのです」

 胸に痛みが走るが、彼女が頑張っているのも知っているので、感情に任せていい話ではない。

 「ふむ、それは構わないが、何故、わざわざ?」

 「あのバカ、失礼、シャルティアはアインズ様に激励をいただきたのです」

 「??、分かった。後で彼女を尋ねるとしよう」

 「感謝いたします。アインズ様」

 

 その言葉とお辞儀と共に彼女は玉座の間をでるべく歩き出す。去り際に見せたその顔はわずかに微笑んでおり、「ごゆっくり」といっているようであり、やや頬が熱くなる。やはり、義兄にしてもあの人にしても自分やシャルティアに対するあたりはそんなに激しくなく、むしろ優しい部類だ。普段だって別に仲が悪いわけではないのに、どうして、あの時は、

 (人とは、難しいものです)

 そもそも、人ではないが、

 

 

 (え、何!ウィリニタスとイブ・リムスって、仲が悪いの?)

 そりゃあ、これだけの大所帯となれば、多少のいざこざがあるのは仕方ない。しかし、先ほどイブ・リムスがみせた雰囲気は本物だ。であるならば、

 (俺がなんとかしないとな、)

 さて、原因はなんだろなあとのんびり熟考する支配者がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

  第9階層、使用人室の一室にて彼女たちは集まっていた。

 

 「あなたたち、しっかり、務めを果たすのですよ」

 ユリ・アルファはこれから外にでる予定の妹たちに語りかける。新たな人員配置の結果、3人が外に出ることになり、ナザリックに残るのも、1人は、また所属が変わるので、今を逃したらしばらく姉妹が揃うこともない。

 「ルプスレギナ、くれぐれも失礼のないように」

 まずは、次女である彼女に釘をさす

 「ユリ姉、それじゃ、私が駄目な子みたいじゃないすか」

 「事実そうでしょう。間違ってもあの方たちにその言葉遣いをしないように」

 「まあ、努力は、してみるっすよ」

 これはあまり期待できないかもと、次に移る。

 「ナーベラル、あなたも大変だと思うけれどお願いね」

 「ええ、いつものように、仕事を果たすだけよユリ姉様」

 「ちょっとユリ姉、私のときと態度が明らかに違うっすよ~」

 猛抗議をしてくる次女は無視して、どちらかというと固い三女にはそこそこの信頼があった。名前の件も、その成長はとても喜ばしいことだ。

 「私は、ナーベラルが少し羨ましいわ」

 続いて口を開くのは、どちらかというと柔らかい三女であった。

 「??、ソリュシャン、あなたは何を言っているのかしら?」

 「あらぁ、だって、アインズ様のお付きだなんて、ナザリックの者としてこれ以上の喜びはあるのかしら?」

 「でも、その分、大変な務めであることは変わらないし、あなただって、シャルティア様の下につくのでしょう?」

 「うふふ、本当に無自覚なのね」

 「私にはあなたが何を言っているのかよくわからないわ」

 やれやれと思う。次女から話を聞いたり、このところの2人の様子から、仕えるべき、主に恋慕を抱いているというのは知っていた。正直不敬だと思うが、何分可愛い妹たちだ。正妻だったりするのは、無理かもしれないが、側室などであれば、その可能性はあるかもしれない。折を見て、誰か、信頼ができる親友あたりに話を聞いてもらおう。

 「そうね、ソリュシャンもシャルティア様のお付きとして、しっかりやるのよ」

 「はい、安心してくださいな、ユリ姉さん」

 この三女は、大丈夫だろう。それに、自分たちの上司であるセバスも同行するのだから。あとは七罪から一人と、

 (少し、不安ね)

 あの執事見習いも同行するらしい。あまり、先のことを考えても仕方ない。気を取り直して次だ。

 「エントマも、コキュートス様に失礼のないように、あと、恐怖公様のお部屋にみだりに出入りしないように」

 4女、あるいは5女で蟲を思わせるこの妹はよく、あそこにいっては、あの方の眷属を食べているようだが、今回その妹がいくのは、その方と大変仲がいい人物の下であるため、あまりそういった不安材料は減らしておきたい。

 「頑張って、我慢してみますぅ」

 してみる、ではなくて、そうしてほしいのだが、こちらもあまり期待はできないようだ。悪い子ではないというのに、

 「ユリ姉、もっと私たちを信頼してほしいっすよ」

 「シズ、ユリ姉様をお願いね」

 「・・・・(コクリ)・・任された・・・・」

 握りこぶしに親指を立ててみせて答えるもう一人の4女、あるいは5女で機械を思わせる妹。

 「さあ、せっかくセバス様が用意してくれた時間を無駄にしないためにも、そうね、この前やったレシピでも見直すとしましょうか?」

 「それは、いいですわね」

 「うふふ、腕がなりますわ」

 「・・・・クオリティを上げる・・・・」

 「おいしいものたくさん作りましょおぉ」

 そう、以前あった実験の一環で、姉妹たちには、共通の趣味ができていた。

 

 「あ、ごめんっす。私はそろそろっす」

 なにやら、伝言(メッセージ)を受けていたらしい次女が謝って来る。

 「あら、もうなの?」

 「デミウルゴス様からの連絡っすね」

 それでは仕方ない。名残惜しいが、彼女はここまでだ。

 「くれぐれも、ね?」

 「しつこいっすよユリ姉~」

 

 

 

 

 

 同じころ、第9階層の通路を歩きながら、レヴィアノールはため息をついていた。先ほどのプレアデスたちのやり取りをみて、微笑ましいと思うと同時に羨ましいとさえ思った。まるでチームみたいだと、七罪真徒(自分たち)も同じようにできないか、声をかけたところ

 (あの連中ううううううう!!)

 今でも頭に残っているその際に言われた言葉に怒りがおさまることはない。

 

 『必要ありますか』

 『めんどい』

 『下らん』

 『興味ないなあ(笑)』

 『お断りしますわぁ(嘲笑)』

 『!!!!!!!!』

 

 いや、最後は何を言われたのか分からないが、あの時の様子から、決して好意的ではなかったのは、たしかである。あの時、ナザリック中から殺意を向けられた時に、共に立ち上がったのは何だったのか、これから自分がすることにやることを思えば、彼女の心は重くなるばかりであった。

 

 

 

 

  イブ・リムスの助言に従い、シャルティアの自室たる屍蝋玄室に向かうアインズ、シモベといえど、相手は、女性?少女?であるため、その扉を軽くノックする。

 「シャルティア、私だ、今、いいか?」

 『ア、アインズ様?!いま、お通しいたしんす!』

 中からはなにやら、大量の物が動く音がしていたが、やがて、彼女のシモベであるヴァンパイア・ブライドが姿を現す

 「お待たせしました。アインズ様、シャルティア様の準備が終わりました」

 「何、そんなに時間はかかってないさ、では、失礼するとしようか」

 

 部屋に入ったアインズを出迎えたシャルティアは、

 (ほう、そういうことか)

 いつもの格好ではなく、シンプルなワンピース風ドレスにスラウチハットを被った姿であった。おそらくは変装の一環であることだろう。

 「申し訳ございんせん、アインズ様、少し時間が足りなく、このような姿で」

 確かに創造主にそうあれとされていた姿を変えるのは、いささか抵抗があるのだろう。それでも、それも自分のワガママの為だ。それに、

 「構わない、それに、無理に胸を強調しなくても、お前は十分美しいぞシャルティア」

 それがアインズの素直な感想であった。いつもは、あの物々しいドレスや、パッドのせいで、全体的に膨らんだ印象をもつ彼女であるが、それでもあのぺロロンチーノ(エロゲバカ)がその生涯をかけて、は言い過ぎかもしれないが、作った存在だ。その線は細く、美しく、言うなれば、薄幸の美少女といったところだろうか?

 「ア、アインズ様あ~!」

 途端彼女は泣き出してしまった。

 (あ!もしかして、これって、セクハラになるのか!)

 勿論違う、シャルティアはただ、うれしかったのだ。たとえ、胸がなくても美しいといってくれた主の優しさに、そしてなんとしてもこの御方の役に立つのだと。

 「あ、ありがとうございますううう!」

 「あああ!分かったから落ち着け、シャルティア!」

 

 何とか落ち着いてもらい、話をする。

 「私が来たのは、何、ただお前と話がしたいからだ」

 「話、でありんすか?」

 「ああ、お前には、これからセバスたちと共に、王都に向かってもらう訳だからな」

 シャルティアを始めとしたもの達の役割は王都に赴いての情報収集、無論その途上、有益なものがみつかれば、その確保も視野にいれる予定だ。

 「大変な仕事になるのは目に見えているからな。労いをかけないとな」

 「ああ、いと優しきアインズ様、私の為に、そこまで、してくださるとは」

 「ははは、お前が努力しているのは、イブ・リムス達から聞いてはいるからな」

 ふと、アインズは床に落ちていた、紙を一枚拾い上げる。シャルティアは羞恥に顔を染めるが、アインズは気にしない。それは彼女の努力の結晶であることには違いないから。

 

 紙には、次のような内容。

 

 

  傷を負っている者、哀れ者の可能性あり、涙をながしてい者、哀れ者の可能性あり、いずれもアインズ様、あるいは、大口ゴリラ、デミウルゴスに確認をとる必要あり、

 

  下卑た笑いをしている者、愚か者の可能性あり、やたら、不快な高笑いをしている者、愚か者の可能性あり、確認をとったうえで、ナザリックへ連行すべし、

 

  愚か者共の有用性、情報源、褒美としての玩具、あるいは食料、あるいは資源および、素材とその活用は幅広いため、極力殺さずに生け捕りにすること、むろん愚か者だけである。

 

 

 その字はつたないまでもシャルティア自身が書いたであろう字、そして書かれている内容から、以前であれば、人間は玩具でしかないはずであったのに、ここまで明確に認識を変えている。まあ、やや怪しい部分もあるが、下卑た笑いに、不快な高笑いて、どこの悪役だ。それでも、

 (うん、この娘は大丈夫だな)

 これにはアインズも感服するしかない。そして感謝しなくてはならない。恐らくはここまで教育してくれたであろう彼らに、

 

 「シャルティアよ改めて頼むぞ」

 

「勿論でございます。アインズ様、このシャルティア・ブラッド・フォールン、必ずや御身のお役に」

 

 

 

 

 

 

 

   やがて、その日が来た。出立組の出発の日だ。十分に時間をかけ、準備を行い。最後の確認をアインズは行う。

 

 「さて、みんな伝言(メッセージ)用のスクロールは、しっかり、規定数もったか?」

 

 「「「「勿論でございます。アインズ様!」」」」

 

 「いいか、無駄遣いだとか、下らんことは考えるな!何かあれば、判断に迷うようなことがあれば、遠慮なく私や、ナザリックに残るアルベド、デミウルゴスに連絡をとれ!いいな!」

 

 「「「「かしこまりました!アインズ様!」」」」

 

 「最後に厳命する!必ず生きて!ここに帰ってこい!誰一人欠けることなく、必ずだ!」

 

 

 「「「「必ずや帰還いたしますアインズ様!」」」」

 

 

 「では、いくとしようか」

 

 「いってらっしゃいませ、アインズ様、お帰りを末永くお待ちしております」

 

 残留組を代表するのは当然のようにアルベドであった。

 

 

 

 

 

 

   カルネ村、すっかり広くなってしまった。その部屋に、赤毛のメイドがやって来た。

 

 エンリは目の前の女性の美しさに目を奪われていた。アルベドといい、あの方の周りは美女ぞろいだ。いや、もしかしたら。その辺りの基準からしてもう自分の常識が通用しないかもしれない。その女性は静かに綺麗に完璧なお辞儀をする。

 

 「はじめまして、エンリお嬢様、ネムお嬢様、アインズ様より、あなた方の世話係を拝命いたしました。ルプスレギナ・ベータと申します。これから、何なりとお命じ下さい」

 

 妹は「お嬢様」と呼ばれ、やや照れていたが、エンリはそれどころではなかった。世話係?何だろうそれは、

 

 「あ、あの、それはどうしてですか?ルプスレギナさん」

 「呼び捨てで構いません。その件につきましてはこちらをどうぞ」

 渡されたのはアインズからの手紙であった。その内容は、本来であれば、共に暮らすべきであるが、私にはほかにやることがあり、それが叶わない。代わりといっては何だが、世話係として、一人信頼のおける部下を送るから、何かあれば、その者に伝えてくれということであった。

 (いやいやいや、恐れおおいよお)

 自分はどこにでもいるただの村娘だ。それがいきなり、こんな貴族みたいな扱いは困る。まずはそこからなんとかしなくては、

 

 「あの、ルプスレギナさん?」

 「エンリお嬢様、呼び捨てで構わないと」

 「いえ、その、お嬢様はやめてくれませんか?」

 「それは、何故でございますか?」

 「何で?お姉ちゃん?」

 「ネムは少し静かにしていようか、私達はただの村娘です。とてもそう呼ばれるような人間ではありません。気軽にエンリと呼んでください」

 「それは、本当によろしいのでしょうか?」

 そういう彼女は、どこか耐えているように見えていた。それもそうだ、もしも、これで自分のワガママを通してしまえば、彼女はあのゴウンやアルベドに叱られるかもしれない。それでもお願いするしかない。

 

 「あの、」

 「アインズ様が気に入られたのも納得・・・・すね」

 え?突然空気が変わったような気がする。

 「分かったっす!じゃあ、エンちゃん、ネーちゃんと呼ばしてもらうっす!」

 事の展開に追いつけていない自分がいる。

 「ネーちゃんって、ちょっと変っすね。まあいいっすか、おいでっす!親愛のハグっす!」

 そう言って腕を広げるルプスレギナに

 「わーい!」

 なんの躊躇いもなく、甘えん坊体質なのか、子供体質なのか、飛び込む妹、すぐに抱きしめられる。

 「!!、いい抱き心地っす、シーちゃんや、もう一人のエンちゃんにも負けていないっすよ~」

 「えへへ、・・でも、お姉ちゃんのほうが気持ちいいかな?」

 「へえ~そうなんすか?」

 「こら!ネム!」

 遠回しに肉付きの事を指摘されたようで、恥ずかしくて頬がほてる。しかし、目前の2人にはもうどうでもいいのか、次の話題に移っている。もう、どうにでもなってください。

 

 「ネーちゃん、ネーちゃん?」

 「なあに、ルぷス、レぎなさん?」

 少し長い名前をいうのは、まだ妹には少し難しいようだ。というか、エンリだって、中々、6文字の名前を持つ人物なんて会わない。

 

 「ハグって、大事っすよね~」

 「うん!大事!」

 

 (やっぱり、そうっすよね~)

 彼女の頭に浮かぶのは、最近冷たい妹たちだ。彼女たちに今ネムにしているようなハグをすれば、

 

 『なにかしらルプスレギナ?・・・殺すわよ?』

 『これは、セクハラですよ。ルプー姉さん』

 『・・・・・・ルプー、うざい・・・・・』

 『やめてくださあぁい、訴えますよぉ』

 といった。あんまりにも冷たすぎる反応

 

 (う~お姉ちゃん、寂しいっすよ~)

 

 こうして、姉妹と、人狼メイドの初顔合わせは過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

 

  はあ、はあ、どうして、と思う。何で、どうして、あんなにゴブリンとオーガがいるんだ。

 

 「ンフィーレアさん!ここは私たちに任せて、逃げてください!ニニャ、君も一緒に行くんだ!」

 

 「でも、ぺテルさん達は!」

 「ぺテル!ルクルット!ダイン!」

 

 「いいから!早く!」

 「逃げるのである!」

 「姉貴と再開するまで、お前死ねないだろ!」

 

 「みんな・・・・」

 

 その言葉に従い、走るも、敵は多くて、あっという間に追い詰められ、あの子の顔が脳裏に浮かぶ。

 

 (エンリ)

 

 せめて、君にもう一度会いたかった。そして、オーガがその斧を振り上げて、ふと見えた。太陽に黒い点が、

 (え、)

 

 それは点ではなかった。なぜなら、だんだん点は秒刻み大きくなりやがてシルエットになって、

 

 

 剣が振り下ろされた。縦に両断されるオーガ、そして、降り立ったのは、

 

 

 「大丈夫かな?助けにきた」

 

 

 漆黒の鎧に身を包む戦士であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 第2章にして、ようやく、この作品のテーマが固まりつつあります。

 「YGGDRASIL(ユグドラシル)しかなかったアインズ様がいかに生きる喜びを見出すか」
 「すべての生命を救済すべく楽園の建設」
 「何故か神様に祭り上げられるアインズ様」
  といったところでしょうか。
 なお、楽園計画の本拠地がカルネ村ということもあり、エンリ・エモットが必然的にもう一人の主人公ということになりますので、ちょくちょく、カルネ村の話も載せていく予定です。







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