ふしぎのくにのありんすちゃん ~ALINCE IN UNDERGROUND LARGE GRAVE OF NAZARICK~ 作:善太夫
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私たち人間の身体の中ではたくさんの細胞たちが毎日、二十四時間休まず働いています。
ところでアンデッドの身体の中ではどうでしょう?
人間と同じく赤血球がいました。うーん……なんだか様子が違うみたいですね。
「……あー働きたくね……つか、俺、必要ないんじゃね?」
赤血球たちは皆座り込んだり寝転んだりしてしまっています。
「だってよ、アンデッドってそもそも生きていないじゃん。生きていないのに酸素必要か?」
「確かにそうですね。すると先輩、私はどうしたら良いですか?」
赤血球の女の子は困った様子で尋ねました。どうやら彼女は新人みたいです。
「……ん? いや、俺たちがいるのはアンデッドの身体の中なんだ。新人、お前はアンデッドって知ってるか?」
「……アンデットですか?」
「──ちがーう! アンデッ“ド”だ!! あぶないあぶない……奴らに聞かれたりしたら面倒な事に……」
新人の赤血球は訳がわからないようです。
「……あのう先輩。アンデッドとアンデットって何が違うんですか?」
先輩の赤血球は新人の口を慌ててふさぐとかがんで周囲をうかがいます。
「……どうやら奴らには聞かれていないみたいだ。正確には『読まれて』いなかったようだ。いいか? 絶対にアンデッドの『ド』に濁点をつけ忘れてはならない。それがここのルールだ」
「わかりました先輩。絶対にアンデットとは言いません──あ!」
赤血球の二人はしゃがみこんで息を殺します。
「……大丈夫なようだな。そういえば今は平日の午前中か……5ちゃんねるも人が少ないから助かったな」
「……そんなに恐ろしい場所なんですか? その『ゴッチャンデス』というのは?」
「ああ。恐ろしい。何でも我々の世界の多くがエターナルという魔法で消滅してきたらしい。ある日なんの前触れもなく、な……」
新人はブルリと身を震わせました。
「……そ、それにしても先輩はよくいろんな事をご存知ですね。ここではもう長いんですか? 私は昨日ようやく一人前に──」
「いや、一週間だ。お前もすぐにわかるさ。何しろアンデッドは死体と同じなんだから。俺たち赤血球が酸素や二酸化炭素を運ぶ必要がない……と。……新人?」
先輩赤血球の話の最中に新人赤血球は好中球の姿を見かけて走っていってしまいました。
「はっけっきゅーさーん! 何しているんですか?」
白血球。好中球のひとつで体内に入ってきた細菌を撃退します。
「……赤血球か。今はする事がなくてな。コイツと酒を飲んでいるんだ」
白血球の隣には銀灰色の細菌がいました。
ケカビ──ムコール属の細菌でタンパク質を分解します。動物の死体に付く事も多くデンプン糖化力が強いものはアルコール製造に使われることもあります。
「……ケカビです。宜しくお願いします」
「あ、はい。私は赤血球です。宜しくお願いします」
ぎこちなく挨拶をかわす二人です。と、突然激しく地面が揺れました。
「……これは……ヤバイな。あいつらが来る……」
先輩赤血球が真っ青になります。とはいえ赤血球はヘモグロビンで赤いのですが。
「せ、先輩。まさか『ゴッチャンデス』が来るんですか?」
新人赤血球の声はたちまちかき消されてしまいました。
激しい物音と共に空から降ってきたのは大量の──大量の血液──赤血球たちでした。
「あわわわ……赤血球が一杯……くるし……」
吸血──アンデッドの中でも吸血鬼が行う外部からのエネルギー摂取行為です。
たくさんの赤血球たちは叫びました。
「……ここが我々の新天地か。さて、頑張って働くぞ!」
大量に吸血された赤血球たちはどれも新鮮な酸素を持っていました。
「先輩。彼らは酸素をどこに届けたら良いでしょう?」
先輩赤血球はしばらく考え込んでから言いました。
「この身体の持主は少しばかり脳が栄養不足みたいだから酸素を届けたら少しはまともになるかもしれない。………………だが、あそこには……」
「ありがとうございます先輩。脳ですね。……では皆さん私が案内しますから酸素を運びましょう! 脳へ!」
新人赤血球は大勢の赤血球と共に出かけていってしまいました。
「…………あそこにはやっかいな存在がいるんだが……」
※ ※ ※
脳にやって来た赤血球を待ち構えていたのは──
『ありんす菌』──特定のヴァンパイアにだけ存在する固有の細菌でお風呂と昼寝とお菓子が大好きです。
数えきれない数のありんす菌が赤血球達を囲みます。
「ありんちゅちゃはかくれんぼしるでありんちゅ」
「モンブラン食べたいでありんちゅね」
「ありんちゅちゃと鬼ゴッコしるでありんちゅ」
「お風呂入るでありんちゅ」
仕方ありませんよね。だって、ありんすちゃんはまだ5歳児位の女の子なのですから。