フランク・ヴィトコヴィック
Frank Vitkovic (オーストラリア)


 

 1987年12月8日、メルボルンの中心街、クイーン・ストリートでの出来事である。午後4時20分頃、ミリタリー・ジャケットにジーパン姿の若い男(22)が、赤いステーションワゴンで商業ビル前に乗りつけた。大きめで茶色の紙袋を携えている。
 男はエレベーターで5階に上がり、某信用組合のオフィスに入った。そして受付で、
フランク・ヴィトコヴィックという者ですが、コン・マルゲリスさんにお会い出来ませんか?」
 これは後に判ったことなのだが、マルゲリスはヴィトコヴィックのかつての友人だった。間もなくマルゲリスが受付に現れた。と、ヴィトコヴィックは紙袋の中からカービン銃を取り出し、マルゲリスに狙いを定めて発砲したではないか! マルゲリスは咄嗟に屈んだおかげで被弾は免れたが、背後にいたジュディス・モリス(19)は、とんだとばっちりで帰らぬ人となった。
 その直後、非常ベルが鳴った。時刻は午後4時22分だった。
 ちなみに、マルゲリスは床を這って女子トイレに逃げ込み、ガクガクブルブルと震えていたという。自分が狙われた理由はまったく見当がつかなかった。

「彼とはしばらく会っていませんでした。仲違いしたわけでもありません。どうして狙われたのか、こっちが訊きたいくらいですよ」

 一方、ヴィトコヴィックはというと、信用組合のオフィスを後にして、エレベーターで12階に向かった。マルゲリスを追わなかったということは、やはり私怨が動機ではなかったのだろう。しかし、どうして1階ではなく12階に向かったのか?
 ワケもなく「going postal」に打って出たということなのか?
 おそらくそうなのだろう。12階に降り立ったヴィトコヴィックは出会う者すべてに発砲した。結果、以下の者が死亡した。

 ジュリー・マクビーン(20)
 ナンシー・アビニョン(18)
 ウォーレン・スペンサー(29)

 今、私の頭の中で大量殺人ゲーム『ポスタル』の決め台詞「Guns don't kill people, but I do.」がこだましている。生存者もこのように証言している。
「あいつの眼はマトモじゃなかった。キチガイそのものだった」
 つまり『ポスタル』の領域にイッてしまったというわけなのだな。

 その後、階段で11階に降りたヴィトコヴィックは、相変わらずはしゃぎ回り、以下の者を射殺した。

 マイケル・マクガイア(38)
 マリアンネ・ヴァン・ユーク(38)
 キャサリン・ダウリング(28)
 ロドニー・ブラウン(32)

 と、ここで数名がヴィトコヴィックに飛びかかり、銃を奪い取ることに成功した。はてさてヴィトコヴィックはどうするかと思いきや、なんと、あろうことか窓から外に飛び出したではないか! それが逃げるためだったのか、はたまた死ぬためだったのかは今となっては判らない。応戦した一人が逃がしてなるものかと足首を掴むが、ヴィトコヴィックはそれを蹴り飛ばし、悲鳴を上げながら落下、絶命した。先のゲーム『ポスタル』ならば「I regret nothing.」といったところか。

 とにかく派手な狼藉だった。動機は今もなお不明のままだ。但し、ヴィトコヴィックは犯行の2ケ月前にサイエントロジー教会に入信しようとしていたとかで、精神的にかなりテンパっていたことは確かなようだ。

(2010年2月27日/岸田裁月) 


参考資料

『THE ENCYCLOPEDIA OF MASS MURDER』BRIAN LANE & WILFRED GREGG(HEADLINE)
http://en.wikipedia.org/wiki/Queen_Street_massacre


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