シドニー郊外の閑静な住宅地、カンリーベールでの出来事である。ジョン・チャン(23)が恋人のリュー・ユイン(23)にフラれたのは1987年9月の終わりのことだった。 「今度、他の男の人と結婚することになったの」 あら、ショックぅ!…などと戯けている場合ではないのだぞ、岸田君。なにしろショックから立ち直れなかったチャンが取った行動とは、元カノの一家を皆殺しにすることだったのだから。 それが決行されたのは10月10日の晩のことだった。ユイン家の勝手口から侵入したチャンは、台所でリューの父親、トゥアン・ユイン(63)に遭遇した。ちょうどお茶を入れているところだった。 「な、何者だね、君は!?」 うるせえとばかりに頭を撃ち抜き、夫妻の寝室へと向かってユイン夫人を始末した。次いで姉のラン(29)を廊下で、弟のマイケル(18)とスティーブ(12)をそれぞれの寝室で射止めた後(但し、スティーブは幸いにも一命を取り留めている)、ようやく憎き元カノに出くわした。 「お願い! 許して! 悪気はなかったのよ!」 「悪気もクソもあるか!」 ズドン。 かくして目的を果たしたチャンは、抜け殻になってしまったのだろう。それ以上、家捜しをすることはなく、自らの頭に銃口を当てて引き金を引いた。おかげで、ベッドの下に隠れていた妹のヒュー(21)とフォン(22)は犠牲にならずに済んだのである。 警察は後日、チャンの筆によるこのような書き置きを発見した。 「フラれた腹いせで衝動的に殺したわけではない。情け容赦なく綿密に計画されたものだった」 だけど「フラれた腹いせ」には違いないんだけどね。 (2010年2月26日/岸田裁月) |