フィギュアスケート男子でオリンピック(五輪)連覇の羽生結弦(23=ANA)が、日本男子最多のグランプリ(GP)シリーズ10勝目を挙げた。GP初戦のフィンランド大会はショートプログラム(SP)フリー、合計で世界最高点でV。フリー前に右足首痛を抱えたロシア杯も優勝。かつて「スロースターター」だった羽生が、初のGP連勝を果たした裏に、何があったのか? 秘密のかぎは3食+補食にあった。【取材・構成=益田一弘】
平昌(ピョンチャン)五輪後のルール改正で始まった新シーズン。羽生が、圧倒的な力を見せている。ロシア杯では公式練習で右足首を負傷したが、完成度の高いサルコー、トーループの4回転ジャンプで優勝。手負いでも、そのクオリティーはズバ抜けている。新ルールでも王者は変わらずに王者のままだ。
変化に対応するため、新しい試みがある。羽生はこれまで「味の素」のサポートを受けてきた。今季もすでにフィンランド大会、ロシア杯と1日3食、アスリート用の「勝ち飯」を食べて出陣。さらに新シーズンから3食に加えて、公式練習の前に同社のだし入りおにぎり「パワーボール(PB)」など補食をとる。ルール改正された今季の男子は、フリーが4分30秒から4分に短縮された。時間は短くなったが、その分、選手は呼吸を整える時間がなくなった。フィンランド大会の羽生は、基礎点が1・1倍になる演技後半に世界初の4回転トーループ-3回転半など3つのコンビネーションジャンプを配置する超攻撃的な構成だった。しかも上半身や手の動きなどつなぎ要素にもすきがないプログラムだ。
PBは、約50グラムのこぶりなおにぎりで、競泳日本代表がレースとレースの合間に摂取するものだ。空き時間にエネルギーを補給して、パフォーマンスを維持する。羽生は、フィンランド大会で公式練習の直前にPBを摂取。濃密なプログラムを滑りきる体力を維持するために、こまめにエネルギーを補給している。
大会期間中のルーティンを変えることは、勇気がいることだ。実績があればあるほど、そのハードルも高くなる。しかし「五輪連覇王者」は、変わることを恐れない。究極のジャンプである4回転半への挑戦もその象徴。右足首の状態は気がかりだが、挑戦をやめることは決してない。リンク内でもリンク外でも新しいものを取り入れる姿勢こそが、世界最高のスケーターであり続けることの源だ。
◆羽生のフィンランド大会VTR 3日のSPは106・69点で首位。4日のフリーは世界初の4回転トーループ+3回転半を着氷。フリー190・43点、合計297・12点でSPも含めて世界最高点を記録した。シニア転向9季目で初めてのGP初戦優勝だった。
◆羽生のロシア杯VTR 16日のSPは、完璧な内容の110・53点で、自身の世界最高点を更新。だが翌17日の午前練習で4回転ループで転倒して右足首を負傷した。「全治3週間」の診断も強行出場。フリーは4回転ループを回避したが、2種類の4回転を成功させて優勝。12月のGPファイナル進出を決めた。