女子プロレスラーで元クラッシュギャルズの長与千種(53)が、夫から暴力を受けていた女性を救った。札幌市内の駐車場で暴力を止めに入った長与の髪をつかむなどしたとして、北海道警札幌・中央署は19日、暴行の疑いで北海道滝川市、飲食店経営長谷川匡(たすく)容疑者(27)を現行犯逮捕した。長与は代表を務めるプロレス団体「マーベラス」の興業で札幌入りしており、女性の悲鳴を聞き、駆けつけた。手を負傷しながらも、プロレスラーとして、攻撃は一切せず、事態を鎮圧した。
相手が女性に暴力を振るうような男でも、一般人には技は出さない。クラッシュギャルズとして一世風靡(ふうび)したベビーフェースは、変わらぬヒーローのまま、1人の女性を救った。
長与は代表を務めるマーベラスの自主興行「威風堂々」で札幌入りしており、興行終了後に、レスラーの仲間たちと食事をした帰りだった。近くの立体駐車場から女性の悲鳴が聞こえたという。「助けてください」「もうやめて」。考えている暇はなかった。一気に駐車場の3階まで駆け上がると、男が女性に馬乗りになり、地面に押さえ付けていたという。
深夜の繁華街はリングではない。相手が何を持っているかも分からない。それでも、膝をすりむき、悲鳴を上げる女性に暴力を振るう男を見過ごすことはできなかった。「とりあえず、行っとくかな」。
男に対し、「女の子に何やってるの! 離れて!」と声を張り上げた。男の両手を押さえ、注意した。男が観念した様子で「分かったから」と言うので、力を緩めた瞬間、男が長与の髪を両手でつかんだという。
髪がブチブチッと抜けるのを感じ「怒りはマックスに来ていた」。それでも、耐えた。ふりほどこうとした時、男が長与の手の指を一気にひねった。骨に違和感を覚えた。それでも「プロレスラーだから気持ちを止められました」。
通報で駆けつけた署員が、男を現行犯逮捕した。逮捕容疑は19日午前3時10分ごろ、札幌市中央区の駐車場で長与の髪を手でつかみ押さえ付けた疑い。道警によると、長谷川容疑者は酒に酔っていたという。
長与の左手小指は骨折の疑いがある。しかし、同日報道陣の取材に応じた長与は「女性を助けられてよかった。少しでもプロレスラーが世のためになってよかった」と優しい笑顔で話した。
80年に全日本女子プロレスに入門した長与は同期入門のライオネス飛鳥と83年8月にコンビ、クラッシュギャルズを結成し、女性ファンを中心に一大ブームを巻き起こした。極真空手の山崎照朝に師事し、空手仕様のファイトでダンプ松本らの極悪同盟との抗争で大きな注目を集めた。解散までの5年間で延べ600万人以上を動員し、84年発売のレコード「炎の聖書」は10万枚以上、続く「嵐の伝説」などもヒット。85年にブロマイド売り上げ1位を記録し、86年には歌のみのライブツアーも開催した。
89年に引退してタレントに転身したが、90年前半の女子プロレスブームに乗って復帰。94年に自ら「GAEA JAPAN」を設立し、00年には飛鳥と「クラッシュ2000」を再結成した。しかしプロレス人気低迷を受け、05年に団体解散と2度目の引退。その後、興行プロデュース、実業家として活動し、14年頃から積極的に試合出場を重ね、16年に自ら設立した団体マーベラスの旗揚げ戦を開催。昨年は大仁田厚と電流爆破戦線をけん引し「爆女王」初代王者になっていた。なお06年に首の故障で引退した飛鳥は現在、プロレス解説など芸能活動を続けている。