進化系統学 研究室 † - 理学部3号館 (406号室:綿野) 研究室HP
- 理学部3号館 (408号室:朝川)
スタッフ † - 教授 綿野 泰行 (わたの やすゆき)
- 講師 朝川 毅守 (あさかわ たけし)
研究内容 † - 系統とは「生物の分類群(集団,種,属,科など)の進化の過程での類縁関係」を意味する.当研究室では,高等植物を材料として,個体間の遺伝子流動といった低次の階層から,絶滅して化石として現在にその跡を留める過去の生物をも含めた高次の階層まで,様々な系統学的問題に取り組んでいる.主な研究テーマは以下の通りである.
- (1) ハイマツ・キタゴヨウ間の浸透性交雑現象の解析
- 浸透性交雑とは,遺伝的に分化した分類群が二次的に接触して交雑し,遺伝的交流を行う現象を言う.生物学的種概念によれば,“種とは遺伝的に隔離されているもの”と定義される.従って浸透性交雑を行う種群は,“種とは何か”という古くて新しい問題にアプローチする際に,最適な実験系であると考えている.マツ科の植物では,ミトコンドリアDNA は多くの他の生物と同様に母性遺伝を行うが,葉緑体DNA は父性遺伝を行う.我々はマツのこの特性に注目し,マツ属の2種(ハイマツとキタゴヨウ)の交雑帯を,母性遺伝のミトコンドリアDNA マーカー,父性遺伝の葉緑体DNA マーカー,そして両性遺伝の核DNA マーカーといった様々なDNAマーカーを駆使して解析した.その結果,ミトコンドリアDNA はハイマツからキタゴヨウへ,逆に葉緑体DNAは,キタゴヨウからハイマツへと,逆の一方向性に遺伝子浸透を起こしていることなど,様々な興味深い現象を明らかにした.
- (2) 倍数体シダ植物種の隠蔽種の発見とその種分化機構
- ミズワラビは,形態的に極めて変異が多い,いわゆる多型種として認識されてきた.我々は酵素多型解析(アロザイム)や葉緑体DNA のシーケンスなどの手法を用いて,この種が少なくとも3 つの遺伝的に分化した実体を含むことを明らかにした.また,これら分子マーカーによって認識されたタイプ間で人工交雑実験を行うことで,これらが雑種不稔という隔離機構を発達させていることを明らかにした.このように,形態的に区別が困難であるが,生物学的に別種と認識されるものを隠蔽種cryptic species と呼ぶ.ミズワラビ以外でも,倍数体種の中に隠蔽種を含む例の予備的証拠をつかんでいる.隠蔽種の探索は,保全生物学的観点からも重要であり,また,倍数体種に多く見つかる事が明らかであれば,シダ植物の種分化機構の解明の新たな糸口になる可能性がある.
- (3) 化石を用いた植物の系統および植物地
- 地球の長い歴史の中で,様々な生物が誕生し消えていった.今生きている生物はそのごく一部が残っているにすぎない.過去にどのような生物が生きていたのか,現在の生物がどのような進化を経て生まれたのか,またそれらはどのような歴史を経ていまの分布となったのかなど,生物の過去の歴史に思いを馳せた思い出は誰にもあるだろう.このような生物の過去の歴史を探るために,現在は日本や南半球各地の植物化石の研究を行っている.
- 日本の白亜紀の石化化石は世界有数の優れた化石で,これを使って裸子植物の系統や被子植物の花の初期進化の研究を行っている.一方南半球では,南米チリ,オセアニアのニューカレドニア,アフリカのマダガスカルの材料を使って,南半球に共通して広く分布する分類群の過去の分布を解析する研究が進められている.
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