宅間國博
「『とんねるずっぽい』ことができるよう、態勢は整えてる」――「ジジイ」になった木梨憲武の第2章
11/16(金) 7:33 配信
「今日も朝3時ぐらいから起きてます」。そう笑って「ジジイ」を自称しながら、新しいラジオ番組、ライブの準備、アーティストとして展覧会設営……と、日々を忙しく過ごす。若いころからずっと「遊びの延長のようなノリで」企画を生み出してきた。多彩な活動の根底にあるものとは――。40年近く2人で歩んできた、とんねるずのこれからについても聞いた。(取材・文:てれびのスキマ/撮影:宅間國博/Yahoo!ニュース 特集編集部)
(文中敬称略)
「ジジイ」をどう楽しむか
木梨憲武は、10月からTBSラジオで『土曜朝6時 木梨の会。』を始めた。タイトルの通り、番組は土曜の朝6時から。しかも、生放送だ。
朝早いってことに関しては全く問題ないね。ちなみに今日も朝3時ぐらいから起きてます(笑)。家で夕飯食べるときは、30分あれば食べ終わるんでね。それでワインとか日本酒かお茶か、テレビの前で飲んでると、そのままゆっくり眠ってる。それが、下手すれば(夜の)8時前くらい。で、11時に起きて「テレビまだやってるね」みたいな。「嘘でしょ、こっから起きちゃうのかな」と思ったら、また2時間寝たり……。ま、つまりジジイっていうのはそういう繰り返し。睡眠とれば、次の日、ホントの幸せがやってくる。逆に浅いと、最悪の1日になる。どれだけ続けて眠りが取れるか。たぶん世界中でその大会が開かれていると思います。
デジタル系はほとんどやらなくて、「らくらくホン」1本(笑)。ショートメールで「了解」しかやらない。「12時40分迎えです」「了解」って。ほら、見て。こんなに字が大きくて。「今日は1万歩歩いた!」ってらくらくホンが教えてくれるの(笑)。
木梨は現在56歳。「ジジイ」を自称している。年齢を重ね、自身に何か変化はあったのだろうか。
ジジイになると日々せっかちになってくるね。何かやるって計画しても、進行が遅いと、すぐに飽きちゃう。今、“せっかちランキング”の第1位が長嶋一茂で、俺が第2位(笑)。ジジイ真っ盛りだね。
僕の先輩に水谷豊さんがいるんですけど、今、66歳。10コ上なんです。あと4年で水谷さん、70だから、「うわ、おじいちゃん⁉(笑)」って言って遊んでるんですよ。でも、映画監督もやって、今日も『相棒』の撮影で飛び回って、あれだけ運動神経も良くて、とにかく現役で体もぶっ壊れない。睡眠時間が短くても、頭がいつも回っていて70ページの台本も暗記。そういうすごい先輩が近くにいてくれるから、気持ち的にすごい助かってる。ドラマの現場をあれだけ俯瞰(ふかん)して見られる人なのに方向音痴っていう(笑)。そういうところも面白い。(笑福亭)鶴瓶さんも所(ジョージ)さんも、先輩方は、まあ、働く働く。俺はテレビは、所さんが倒れたら(代理で)出るぐらいでいいや。助け合いで。ウソウソ(笑)。すごい先輩にアドバイスをもらう喜び、勉強になります!
遊びの延長のようなノリで
一方で木梨自身も人生の先輩として、自分を慕う若者の道を切り開いている。例えば最近も、TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』にゲスト出演した際に、将来の進路に悩む22歳の男性リスナー「リバティー」くんに「才能よりも人との出会いが大事」などとアドバイスし、木梨が主演した『いぬやしき』(2018)の映画スタッフに「会わせます」と宣言。その後、実際に彼の就職先が決まるという実に“とんねるずっぽい”ドラマチックな展開が話題を呼んだ。
『いぬやしき』の公開日に彼も来て、一緒に焼き肉屋に行きましたよ。プロデューサーの甘木(モリオ)さんもいて、「すぐ映画入るけど、手伝える?」という話になって、その場で就職先が決まりました。次の週にはもうADからスタートしてましたね。甘木さんが携わっていらっしゃる、蜷川実花さんが撮った映画『Diner ダイナー』(2019年公開予定)の現場に入れさせてもらいました。もともと彼は、映画の原作とか本を書いてみたかったみたいだから、自分が本を書くにも、そういう現場を経験してイメージつくるのが一番いいんじゃないのと、スタートしたんです。それでやめるとか続くとか、もうどっちでもよくて。好きだったらやるだろうし、次の目標が見えたんだったら次行くだろうし。
そうした「どんどん自分で動いちゃうしかない」「きっかけがあれば、絶対に会った方がいい」という木梨のスタンスは、若いころから一貫して持ち続けているものではないだろうか。
俺らが20代のころは、例えばフジテレビでもどこでも常にザワザワした雰囲気がありましたから。「今度ウチ来てよ、遊び来て」「行く行く」「じゃあ、明後日さ、結構いろんな人くるから、くれば?」「あ、行きます、行きます」って。どこに行っても年下。毎日、動いてましたね。だって楽しそうだもん。「えー、なに? どうなってるんだろう」って。友達、新しい友達と宴会の連続。涙・ケンカ・ムダ話・相談。そうして会ったいろんな方と、遊びと仕事を真剣にやってきたから、今もお付き合いさせてもらってるの!
木梨は会議を好まない。遊びの延長のようなノリを大事にする。さまざまな企画はどのようにして生まれていったのか。
全員で集まって丸いテーブルで企画立ててやるパターンもありますけど、飲んでる勢いで「これ面白いと思わない?」「ああ、いいっすね」って決まるパターンのほうが多かった。もちろん、そうじゃないときもあるんだよ、「いやいや、きのうは酔ってたし……」みたいな(笑)。みんな必ず飲みに行って、なんか面白いことがあると「それ、じゃあ来週やろう」っていうのが、『(とんねるずの)みなさんのおかげでした』とか『生ダラ(とんねるずの生でダラダラいかせて!! )』のパターン。当時は、もう次の週に撮影して、その翌週にはオンエアしてたっていう速さ。「何食う?」から全てが始まってたね。
妻である安田成美さんの存在
近年、木梨が精力的に個展を開催しているアート活動も、そんなふうにして生まれた番組企画が発端だ。『生ダラ』で岡本太郎をパロディーにした「憲太郎」に扮したワンコーナーがあった。
そこで、自分が絵の具の中に入って、でっかいキャンバスにダイブしたの。“一発勝負”の作品。その企画で会ったアーティストの日比野(克彦)さんが、名古屋のパルコをプロデュースしてて、「憲ちゃん、そこで個展やってみたら?」って言われたのがスタート。美術をずっと勉強していなくても、自分が表現したものが人に伝われば、なんだって好きにやっていいんだっていうのを、日比野さんに教わったような気はしましたね。テレビもアートも表現の仕方が違うだけで同じだと感じてます。
アート活動をしていくなかで木梨が重要な存在だと語るのが、妻でありプロデューサーの安田成美だ。彼女はどんな役割を担っているのだろうか。
美術館はそれぞれ場所によってムードが違いますから、必ず事前に成美さんと一緒に行って、どの作品を展示するか演出を話し合う。「いらない」「そうっすね」、「これ入れよう」「いらない」「そうっすね……」って。俺より成美さんのほうがハッキリしてるから。俺は全部に結構思い入れがあるからね。すっげえ、自分の中で「うわ、アリだな!」って思ったときに、成美さんが来て「まさか、それ出さないよね?」「え? 出すわけないじゃない」って(笑)。そこはもう、間違いなく答えを出してくれるんで信頼してます。まあ、アートだけじゃないです、基本的には、全部。生活の中で、全てご指導いただいてます!(笑)正解を探し、正解に近付く! 答えがないようである!
あ、ここで初の発表だけど、今度、俺と成美さんで、映画つくります! 俺が監督やるときは、成美さんが助監督。成美さんが監督やるときは「俺、助監督」つったら、「ガチャガチャするからいらない」って言われたけど(笑)。今度は映画の世界でチャレンジします。初監督……やります!
木梨が語っているようにアートは「一発勝負」から始まった。木梨の活動は多岐にわたるが、共通しているものは「一発勝負」の精神ではないか。
中身は全部一緒。テレビや映画のようにチーム戦になるか、アートのように個人戦になるかの違いだけ。
歌もそうなんだけど、「普通に歌わなくていいよ」って育てられてるから。そういう、役割。番組も台本が一応あるんだけど、台本通りやらないで一発勝負、半分はアドリブ。あの時代はそれが求められてた。逆にマニュアルどおり普通にしてると、「あれ、どうしたの、今日。調子悪いのかな?」とか思われてた。歌番組でも金網登ろうが、セット壊そうが、どっか行っちゃおうが、良かったの。「追っかけろー」なんつって。そんなことをしてたら、美空ひばりさんに怒られたんだけどね(笑)。「あんたたち、ちゃんと歌いなさい」って。『夜のヒットスタジオ』の本番中に「終わったら家に来なさい」って電話がかかってきて、そのときは「えー、マジ? 家行くの?」って思いましたけどね(笑)。嬉しくて家にダッシュ!
美空ひばりはとんねるずを自宅に招き、自身のコンサートのビデオを解説しながら見せた。この一件で急速に親交が深まり「タカ」「ノリ」「お嬢」と呼び合う仲になった(ちなみに彼女のことを「お嬢」と呼べるのはごく一部の間柄に限られていた)。その後、美空は『とんねるずのオールナイトニッポン』にもたびたび“乱入”。闘病から復帰を果たした東京ドームでの「不死鳥コンサート」にもとんねるずは招待された。国民的スターである美空ひばりとの交流はとんねるずにとって大きな財産となった。
だが、現在のテレビ界では、とんねるずのように台本からはみ出すようなことをする芸人はほとんどいない。今テレビで活躍している後輩芸人たちを、木梨はどのように見ているのだろう。
誰もがそうはいかないかもしんないけど、少しはいてもおかしくないのにね。今は“企画の中から”の大会だから。やっぱりね、今、売れている人たちは“プロ”ですよ。プロの集団。どのコーナーでもちゃんと与えられた役割をきちんとこなせる。だから、その人がいると番組助かる。いないと困るしね。だから売れている人はプロ。頭のいいお笑いのプロが増えている気がする。企画をこなせるプロ、アドリブのプロだらけ!
とんねるずの未来は?
先日、とんねるずのファンクラブ閉会が報じられた。一部ではそのことで今後、とんねるずのコンビとしての活動がなくなってしまうのではないかという憶測を呼んだ。木梨はとんねるずの未来をどのように考えているのか。
新しい動きがあればファンクラブの会報にも書けるんだけど、今、確定しているものがないからね。何もないのに続けてたら、逆に申し訳ないじゃない? それでいったんファンクラブは閉会ってことにしたんです。だから、何かやるって決まれば、今まで入ってた人にはお知らせが行くみたいよ。
どこかの局から“とんねるずっぽい”番組の企画が来た場合、「うわ、面白そう」って、即やるかもしれない。でもこの間、貴明と話したのは、『みなさんのおかげでした』が終わって、とんねるずの“長い1回戦”が終わったとしたら、今度は「ライブのほうが(やりたいことに)近いかなあ」って。それでラジオで冗談半分「東京ドームで」なんて話したら、バーン! ってネットニュースに見出しが出ちゃって。いやいやいや、東京ドームはちょっと待ってって(笑)。89年にやった東京ドームのライブに来てくれた3万~4万人の人に、もう一回集合かけたらどれくらい集まるかっていう大会! 同窓会をやるとか⁉ 現実っぽいのは武道館かな〜と思ったりして⁉ とか、なんとなく私なりにイメージしています。
コントのライブとなると「あれ? ずいぶん若手芸人に戻ってるね」みたいな感じになるし、時間もかかる。でも、うちらには、とんねるずの曲もあれば、野猿もあれば、矢島美容室もあれば、憲三郎もあれば、貴明さんがいろんな人と組んでる曲もあれば……って、ずいぶん曲がありますから。かといって、“野猿復活”とかじゃなくて、“お祭り”として開けたら面白そうかなと私は思ってます。石橋プロデューサーのGOが出れば、とんねるずライブ、あるね!
貴明とは、高校時代、16歳から知り合いだから、ずいぶん長い。青春の16から56? 26、36、46……膝も痛えわけだ(笑)。基本的にはスタンスも関係も変わってない。すげえジジイになって、お互い結婚もして子どももいればってなってますけど、カッコ悪いのは嫌だから。「あ、とんねるずっぽい」っていうことができるよう、態勢は整えてるつもりです。あとはタイミング!
こんな感じで大丈夫? あとはうまいことまとめといて(笑)。
木梨憲武(きなし・のりたけ)
1962年生まれ。東京都出身。帝京高校の同級生・石橋貴明ととんねるずを結成。画家としても活動する。主演映画『いぬやしき』のブルーレイ・DVDが好評発売&レンタル中。「PARTY LIVE 木梨の会。」が11月28・29日、act*square(東京)で上演予定。「木梨憲武展 Timing―瞬間の光り―」は12月9日まで奥田元宋・小由女美術館(広島)、12月20日からOPAM 大分県立美術館で開催される。TBSラジオ『土曜朝6時 木梨の会。』とコラボしたバラエティー番組『木梨の貝。』がGYAO!で配信中。
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