オーバーロード~遥かなる頂を目指して~ 作:作倉延世
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カルネ村の一件を解決してナザリックへと帰還したアインズは玉座の間にてシモベ達を前に宣言するのであった。
「皆、今回の件は私のワガママに付き合ってくれて、感謝する。このまま、カルネ村を楽園計画の起点としよう。そして、もうひとつ決まった。はじめの目的はリ・エスティーゼ王国だ!アインズ・ウール・ゴウンの名の元、お前たちに厳命する!かの国を調査せよ、結果武力行使が必要であれば力をもって!策略が必要であれば、知略をもって!友好的に事を進められるとしたら、慈悲の心をもって!王国を救済せよ!そして楽園へと組み込もうではないか!」
「「「「「「畏まりました!大気を揺るがす力を持ちし、最強の主よ!!」」」」」
(((((承知いたしました!大地に深き巡らす智謀を持つ、策謀の御方よ!!)))))
「「「「「了解いたしました!海より深い慈悲の御心を持つ、優しきアインズ・ウール・ゴウン様!!!」」」」」
臣下、シモベ一同のその答えを受けて、アインズは胸を撫で下ろす。これで、この世界におけるナザリック地下大墳墓の方針が完全に決まった瞬間でも、あった。後は、自分なんかよりもずっと優秀な彼らに任せれば、うまくいくはずだ。丸投げ?違う、適材適所なんだと、アインズは誰かにいい訳するように思考する。さて、この後自分はどうしようか?全部彼らに任せてしまって、カルネ村であの姉妹と静かに暮らすか?あるいは、自分もこの未知の世界に飛び出すべきか?いや、聞くまでも、ないか。部下に仕事を丸投げして、自分は村で穏やかに、それこそ悠々自適に過ごすなんて最悪の社長だ。まして、自分はまだそんな年ではなかったはずだ。エモット姉妹には悪いが、アインズ自身も積極的に調査に参加すべきである。では、どのような形で現地に赴くべきか、ガゼフに言ったように旅人として、各地を巡るのもいいかもしれないが、如何せん、この世界の知識だったり、常識がまだ足りていない。村長から聞いた話や、捕らえた兵たちの情報ではまだまだ十分とは言えない。「遠方の地から来たので、この辺りのことについて疎いんです」というのも限界がある。さて、どうしたものか、ああでもない、こうでもないと熟考の金縛りにとらわれそうになったところで、慌てたように、頭を振る、
(いかん、いかん、いくら凡人の俺が考えても、仕方ないじゃないか)
「アインズ様、いかがされましたか?もしや、お気分がすぐれないのでは?」
傍に控えていたアルベドが心配そうに声をかけてくれる。その声と、向けられた優しい瞳に感謝する。
(ありがとな、アルベド)
その姿勢に何度助けられたことか、彼女の存在が自分にとってなくてはならないものになっていくのを実感している。
「いや、大丈夫だ。少し考え事をしていただけだ」
「それならば、よろしいのですが」
本当に大丈夫だと、それで納得してもらえたらしい。それはそうと、自分は何を考えていたっけ?
(ああ、そうか、デミウルゴス)
今回、彼は自分とは別に動いていたはずだ。
「アインズ様、デミウルゴスから報告があるとのことです」
狙ったようにアルベドが告げる本当に彼女の存在はありがたい。
「そうか、デミウルゴスよ聞かせてもらおうか」
「かしこまりました。アインズ様」
並んでいた階層守護者たちから一歩前へと踏み出す悪魔、その姿は、心なしか震えているようであった。
「まず初めに私はアインズ様に許しを乞わねばなりません」
瞬間、周囲から彼に浴びせられるのは、憎悪の視線、いったい、なにをやらかしたんだおまえは?と、アインズも少し驚いていた。完璧なデミウルゴスでも失敗することがあるのかと、もちろん失敗は叱らなければならないが、それにしてもその内容を聞かないと、どうしようもない。アインズはできる限りの優しい声、子をなだめる親の気持ちでデミウルゴスに接するべく、言葉を紡ぐ
「何があった?何、よほどのことでもなければ、不問にするさ」
「しかし、アインズ様、それでは」
「デミウルゴス!!」
叫び声をあげたのは、守護者統括であるアルベドであった。
「いと優しき、寛大であらせられるアインズ様がこうおっしゃっているのよ。あなたがすべきは早急に事の説明をおこなうことではななくて?」
「アルベド、大丈夫だ。デミウルゴスなら話してくれるだろう」
あくまで自分の為に怒ってくれる彼女に感謝しながらも、ここは下がってほしいと仕草で指示をするアインズ、それに、深く頭を下げ従うアルベド、そしてデミウルゴスも覚悟を決めたのか、話し出す。
「私は今回の出立で失態を犯してしまいました」
「ふむ?結果を出せなかったということか?」
「いえ、なんとか、御方のお役に立てるものの獲得に成功はしたのですが・・・」
「どうしたんだ?話してみろ?」
「人間を殺めてしまいました」
先ほどからデミウルゴスを襲っていた憎悪の視線が殺意に塗り替わる。当たり前だ、至高の存在、大切な恩人であるアインズの望みは人間の救済にあること、そして、その際の基準。つまり救うべき哀れなる者か、蹂躙する愚か者か、どうするか決めるのは主がすることだ。もちろん例外だっている。あのニグンという男のように、その主に攻撃をしかけた人間であったり、ベリュースなる主を不快にさせた人間などだ。しかし、それ以外の人間は現状放置が彼らの暗黙の了解というもの、だというのに、こいつは殺したというのだ。それだけではない、今や、絶対の支配者である主が元は人間であったことは、周知の事実、それを知ったうえで殺したとあれば、皆、疑わざるをえない。デミウルゴスがアインズに対して、反意をもっているのではないか?と、
「お待ちくださいアインズ様!」
「私どもからも話があります」
「此度の件、デミウルゴス様だけの責任ではありません!」
不敬にも声をあげたのは、彼の部下である、ブラックスーツを着た者と茨を体に巻き付けた者、キラという名称の織布を身にまとった者であった。
「ヴェルフガノン!グリム・ローズ!ラスカレイド!立場というものを弁えなさい!」
当然のごとく上がる統括の言葉と、彼らにも視線が向けられる。それでも彼らは戻るつもりがないらしい。みれば、残りの七罪たちも立ち上がり、アインズに必死の視線を送っていて、その瞳には嘆願の色があった。
(部下に慕われているな、デミウルゴス)
これは、アインズにとって喜ばしいこと、ただし、まだことの真実をデミウルゴスから聞けていない。
「皆、落ち着け、まだデミウルゴスの話が途中だ。お前たちもそんな顔をするな、彼は私にとって、必要な存在だ」
その言葉にデミウルゴスはこんな時だというのに打ち震える。なんと優しき方かと、そして悔やまれる、自分は何でもっとうまくできなかったのかと、
「さて、続きを聞こうか?話してくれるな?デミウルゴス」
「かしこまりました。アインズ様」
それからデミウルゴスの報告は続く、まずは、アインズの命令でとらえたベリュースから『至宝』の存在を知ったということ、その際にデミウルゴスはこれを見越してアインズはこの者をとらえるよう指示をだされたのだと、説明して、周囲から「お~さすがアインズ様」と歓声が上がるが、当然アインズにそのつもりはなかった。単に、あの男が姉妹に関わる機会を完全に奪っておきたかった。こういう時、親を殺した犯人は、子供の前に引きずりだすのではなく、その存在そのものを忘れさせることが一番のケアになる。
(そうですよね、やまいこさん)
アインズとしてはそれだけのつもりであったし、デミウルゴスにしてもその部分は理解していたらしい。でもまさか、あんな男がそんな重要そうな情報を持っていたとは驚きであると同時に心配になってきた。
(そんなセキュリティがばがばで大丈夫なのか法国は?)
デミウルゴスの勘違いに関しては今はおいておこう。それよりも話を聞くほうが先だ。デミウルゴスは続ける、至宝の存在とそのありかについて、2つの内、1つはその場所が遠く、時間が足りないが、このナザリックが転移してきた地の近くにある『トブの大森林』であれば、調べることもできると確信をもち、そして、その許可をアインズに求めたということ、
(ああ、あの時か)
アインズにも心当たりがあった。というか、そんな大きな話が絡んでいたのかと、驚くばかりである。もちろん表情には出さないけど。そして、許可をもらい、アインズの提案に従い七罪真徒をつれ、現地に赴き、同じように訪れていた、スレイン法国の別動隊と鉢合わせ、交渉、いや懇願の末、譲ってもらったという。これには再び驚かされた。あのデミウルゴスが人間に頭を下げたという。それは七罪の証言からも真実であるらしく、ほかの者たちも驚愕の、特にセバスは信じられないものを見る目を彼に向けていた。
(俺の為にそこまで)
アインズはただ、うれしかった。彼は自分なんか目でもない、頭脳をもち、そして人間なんてくだらない存在であることはあの会談のやり取りで聞いていた。本来彼であれば、力づくでその至宝を彼らから奪うことができたはず。だというのに、無駄な血を流したくないという自分のワガママの為に、屈辱的ともいえる行動をした彼に、感謝とこれからもっと力になってもらいたいという思い。何より、彼の幸福が、望みが何であるか聞いて、叶えてやりたいと思う。
(俺は幸せ者だな)
だからこそ何があったのか、なぜ犠牲者がでたのか、聞かなければならない。それは彼の主人である自分の果たすべき責任だ。報告はいよいよ核心にせまる。その時、法国の部隊は手を引いてくれたそうだが、まったく関係ない第3者が現れ、力ずくで至宝を奪おうとしたということ。こちらの言葉に耳を傾けず、やむなく彼のスキル、「支配の呪言」で拘束しようとしたところ、そこからは墳墓一の頭脳を持つ彼でも驚かされたらしい。なんとその人物は即座に自らの舌を噛みちぎり、自決したという。
(何だそれは?)
「つまり、殺めたというのはその1名ということか?」
「さようでございます」
つまり、相手が自殺した訳か、それを聞いたとき、アインズは
「はっはっはっはっはっはっは!!!!!!!」
笑っていた。その姿に皆、困惑する
「アインズ様?」
「はは、気にするなアルベド、さてデミウルゴスよ」
その言葉に彼は再び、その身をかためる
「よくやった。満点ではないが、十分だ」
「は?」
「お前は人を殺してはいないさ」
「しかし、アインズ様」
デミウルゴスもまた主の優しさに甘える訳にいかないと己を律する、最前はその者の自決をとめ、無力化することであったのだから。しかし、それはアインズにとってはどうでもいい事である。んなもん自殺したそいつが悪い、デミウルゴスは罪の意識を感じる必要はないのだ。しかし、それではこの男は納得しまい。
「それを言ったら、私は衝動に任せて3人殺しているのだが?」
「ですが、」
「デミウルゴス」
それこそ、穏やかに語り、優しく彼へと視線を向ける。
「お前は気にすることはない」
「かしこまりました」
「皆もこの件について、これ以上デミウルゴスを責めるようなことは不問とする」
「「「「かしこまりました。アインズ様!!!」」」」
さて、話は終わりだ。そんなイカレ野郎のことなんてほっといて、次だ、次だと、アインズは話をすすめる。
「では本題に入ろう、今回お前が手に入れたというのはその至宝か?」
「はい、ですが、もうひとつあります」
「先ほどの人間の遺品か?」
「その通りでございますが、」
「気にするな、せっかくだ、こっちで有効に使わせてもらおうではないか」
「寛大なお言葉感謝します」
そうして、デミウルゴスがアインズに献上したのは2つのアイテム、何かの種らしき粒と、指輪であった。こうして彼が持ち込んだものがナザリックへと変化をもたらすのであった。
???の指輪
(ふむ、見たところ植物の種と魔法の指輪といったところか)
種に関してはあとで第6階層でためしてみるとしよう。まずは、
「デミウルゴスよ、その指輪を渡してくれるか?」
「かしこまりました」
そうして手渡された指輪をみる、特に何の変哲もない指輪、宝石がついているわけでもなく、かといって、表面に文字を刻んでいるわけでもなく、ほんとうになんの変哲もない金の指輪であるが、あのデミウルゴスが関心をよせる以上ただのアクセサリーということはありえまい。アインズはこの場で実験することを決める。
「よし、せっかくだ。ここで試してみるとしようか」
「アインズ様、それは危険かと思います」
「それでも、これ以上の機会もそうそうあるまい」
それは本音半分、本当はこの未知を試してみたいという好奇心からだ。忘れがちだが、彼は支配者の前にあの
「かしこまりました。しかし、十分にお気をつけください」
「ありがとうアルベド、お前のその優しさに感謝しよう」
「い、いえ、もったいなきお言葉、それに当然のことであります。・・・・・・愛しきアインズ様」
「ああ、ありがとう」
彼女は時折、こうして自分への愛を呟いてくる。それをきいて、なんとか痛む胃をおさえながら。アインズは皆に振り返る。
「皆、よく聞け、これから私はこの指輪の実験をおこなう。まあ、これを指にはめてみるだけだが、そして、もしも私に何かあれば、以降、アルベドの指示に従い、《楽園計画》を遂行せよ」
「「「「かしこまりました。アインズ様」」」」
その声にいつもの覇気はないものの皆、一定の理解は得られたらしい。まあ、この謎の指輪も大したものではないと思うが。
(さて、)
意を決して左手の人差し指に指輪をはめる。アインズを光が包み、骨だけの体に何かまとわりつく感覚が駆け巡る。しかし、恐怖感はなく、不思議な高揚感をアインズは感じていた。まるで、思い出すようであった。楽しかったあの日々を、
(特に変化はないな)
それが結果ではあるものの、周りの反応は違った。
「ア、アインズ様」
アルベドは顔を真っ赤にして両手で覆うと思うと、湯気を出して、倒れてしまった。
「アルベド!どうしたんだ!大丈夫か!」
急いで、彼女の元に駆け寄り、ゆすり起こそうとするが、
「おやめください。アインズ様、それ以上さわられると、死んでしまいます」
彼女は何を言っている?と、そこでアインズは彼女へ向けた己の手に気付く、そのいろが白でなくて、肌色であることを。その指の先に確かに爪があることを。
(まさか、)
次に自分の頬をなでる。感じるのは指紋で、頬肉を押していると感じる独特の弾力。そして目の前の臣下たちの様子を改めて確認する。目を輝かせている者、真っ赤になっている者、感嘆の声をあげる者、様々であった。
「ああ、なんと、凛々しき御姿か、アインズ様~」
「ソレガ、アインズ様ノ真ノ姿デゴザイマスカ」
「「かっこいいです!アインズ様ぁ!」」
「アインズ様、こちらをどうぞご覧ください」
デミウルゴスがもってきたのは、何の効果も持たない。ただの姿見、そしてそこに移っているのは。
(本当に、そうなんだな)
間違いなく、《リアル》におけるアインズ、もといモモンガのアバターを操っていたであろう人物
鈴木悟
そのものであった。
結果として、その指輪の正体は『人化の指輪』であることが判明した。それからいろいろ、その指輪をいじって、調べてみたところ、一度変わったら、二度と元に戻れないということはなく、特定のポイントを爪でひっかくようになでることで、アンデッドと人間の姿を自在に変えることができた。そしていまだ、倒れたまま起きないアルベドを一般メイドたちに任せて、実験の場所をコロッセオにうつし、いろいろ試してみたところ、驚くべきことに、人間のときでもモモンガとして習得した魔法やスキルが使用可能だということ。身体能力なども引き継がれているということ。その上で、飲食、睡眠が可能な体であり、おそらく生殖機能もあることであろう。
(これはすごいな)
これをうまく使えば、もっとこの世界のことを知ることができる。一番は、食事事情の調査か、できる者に任せてもいいが、自分でやるのが、一番であるのも確かだ。今思いついたのはそれくらいだが、もっと活用法はあるはずだ。
そうなると、次に気になるのは
(一体、何者だったんだ?)
この指輪の元の持ち主であろう、自殺した人間に興味がいく。試して分かった。別にこれはアンデッドに関わらずほかの亜人種などで試しても「人化」できることであろうこと。しかし、それはつまり、人間以外がもって初めて意味をなす。その人間は何でもっていたのか?単にこの効果を知らず。本当にアクセサリーとして、つけていたのかもしれない。何にしても当の本人が死んでいるのであればもう真実を知る機会は、ない。蘇生をおこなえば、分かるかもしれないが、そこまでする必要もないだろう。今はそんなことよりもやることはたくさんある。アインズはせっかくなのだからと、その姿のまま、次の目的地へと向かうのであった。
墳墓にもたらされたもの
人間の姿となった支配者は第6階層の中心ともいうべき場所へと足を運んでいた。今、ともにいるのは、デミウルゴスにパンドラズ・アクターの二人に、この階層の守護者である双子たちだ。
「さて、次の実験を始める前に、今一度確認しなくてはならない。アウラ、マーレ、本当にこの地にこの得体の知れない種子を植えて問題はないか?」
「何をおっしゃいますかアインズ様!あたしたちに遠慮なんて気にする必要はありません!」
「そ、そうですよ。お姉ちゃんの言うとうりです。それで、アインズ様のお役に立てるなら」
下手をすれば、この階層を破壊しなくてはならないというのに。優しい子たちだ。アインズは我が子を愛しむようにその頭に手をおいて、なでてやる。アンデッドだった時とちがい、2人の金糸のごとく輝く髪の質感に、ほのかな熱、温かみのあるさわり心地のいい頭の感触をよりダイレクトにその手に感じていた。その何ともいえない気持ちよさが、よりなでる手に力を入れる。双子の顔から階層守護者としての威厳は完全になくなり、そこにあるのは、ただ、親に愛されて幸福を感じる子供のものであった。
「ありがとう、感謝しよう」
「う、うぅ」
「えへへ」
「パンドラズ・アクター、緊急時には頼むぞ」
「お任せ下さい!我が創造主!」
言動のたび、大げさなポーズをとってみせる彼にアインズのないはずの肺が圧迫され、痛くなる感触を感じるが。今はそれに構っている暇はない。
「デミウルゴスよ、この辺りでやるとしようか」
「ええ、それがよろしいかと、」
ここまでそれを運んできた彼から、今回の主役たる謎の種子を受け取る。
(さて、どうなるかな?)
マーレに適当に穴をあけてもらい、その中心に種をおき、再び土をかけ、少し水をかけてもらう。もし、これが何の変哲もないただの植物の種であれば、芽をだすのに、それなりの時間を要するだろう。しかし、デミウルゴスの、あるいは法国の見立て通りその種が至宝、何かしらのマジックアイテムだというのであれば、すぐに変化があるはずだ。そしてそれは、すぐにおこった。芽を出したと思うと、あっというまに成長する木、まるで、そのてのビデオの早送り映像をみているようだ。そして、ほとんど時間をかけずに成長したその大樹をみて、
「・・・・・・・・・・・」
「あの、アインズ様?、・・・・・・・・・!アインズ様、泣いてらっしゃるんですか?」
アウラが驚きの声をあげる。そう、支配者は涙を流していた。なんでもないと、周りの者に仕草で伝える。
(そうか、そうだったんだな、これは)
アインズの胸をしめるのは、もう戻ることない過去を思っての哀愁。初めて
世界樹ユグドラシル
ということである。やがて、大樹は実をならした。その見た目は普通の樹の実ではなくて、いわゆる水晶のようであった。見間違えるはずがない。データクリスタルそのものである。おそらくは、ユグドラシルという名のこの大樹の効果は、
「溢れる無限の
それは、とても大きいことであった。みたところ、クリスタルは先ほどから、雨のように降り続けている。なったと思ったらすぐに落ちて来る。やがて、大樹の根本はクリスタルの山ができていた。調べてみたところ、それはゲーム時代と変わらず、アイテム作成に使えることがわかり、さらにうまくやれば、まったく新しいアイテムを作れる可能性があることが分かった。まあ、そう確信するにいたったのは、アインズが元の世界で何度か見たことがある実にしょうもないものができたからだけど。何にしてもその意味は大きい。
「デミウルゴスよ、本当によくやった。これでスクロール等の消費アイテムや、必要なアイテムを造ることができる」
それは、資源の残量を気にすることなく計画を進めることができるだろう。そしてナザリックの状態を確認したところ、その運用にコストはまったく必要ないらしく、何の変哲もないのが、何よりでかい。
「ありがたき、お言葉、しかしながら、これは偉大なるアインズ様に対する世界が送られし祝福であるかと」
「ははは、それはそうかもしれんな」
ふと思い出すのは、エモット姉妹の勘違いであった。
「時にデミウルゴス」
「何でございましょう?」
「この世界に神、あるいは、それに近い存在はいると思うか?」
その話を持ち出した瞬間、デミウルゴスの顔に喜色が浮かんだような気がする。
「いたとしても、それらはすべてアインズ様の前に跪くべき存在であるかと」
自然に最上位たる存在に喧嘩を吹っ掛ける悪魔に、アインズもまた内心笑っていた。彼らの自分に対する評価がどれだけ高いのか知ったような気がする。そして、案外、それが、彼の望みかもしれない。
(そうだな、そうだよな)
自分がやっているのは、この世界に新たな世界を造ること、それこそ、常識も伝統もすべて破壊するかもしれない。そうなったとき、もしもこの世界をつくったもの達がいれば、面白くは思わないだろう。話あいですめばいいが、そうなる可能性は限りなく低い気もする。これも自分が目指す頂の途上だろう。
「ああ、お前の言う通りだ。必要があれば、私は神を名乗るとしようか」
「おお、アインズ様」
「だからこそ、これからも頼むぞ。お前の英知と手腕は、私にはないものだからな」
「何をおっしゃいますか、アインズ様。すべてはあなた様の描く盤上の出来事にすぎないのでしょう」
「ははは、それもそうかもしれないな」
きっと彼なりの冗談であると同時に自分に対する称賛なのであろう。もちろんアインズとて、ふざけて神になるといったわけではない。自分の目的、ワガママで始まった。世界を巻き込む計画、すでに一つの国を対象として、盛大に宣言してしまっている。で、あるならば、これも一つの責任であろう。神を目指すのも、また
その言葉をうけて、悪魔はその微笑みに無意識ながら力を入れていた。
さらなる変化
「我が創造主よ!これをご覧ください!」
第6階層での実験のすべてを終えて、一度その場で解散した後、アインズは第9階層にパンドラズ・アクターと共に、赴いていた。そしてそこでアインズが目にしたものは、
(これは?なんでこんなところに?)
それは、まぎれもなく、かつてアインズがいや、鈴木悟が《リアル》で目にしていたもの。すなわち、現実世界の書物であったり、趣向品を始めとした。様々な物品であった。手にとってみてみれば、間違いなく、版権だったり、著作権に引っ掛かるようなものばかり、それが、宝物殿を彷彿とさせるように、第9階層の一室にあふれていた。まさかと思うが、これもあの世界樹の影響であろうか?そして、
(至宝の正体は世界級アイテムなのか?)
デミウルゴスの得た情報によれば、全部で4つあり、そのうち2つ、ありかがわかり、回収部隊を向かわせていたということ、そして、1つは、デミウルゴスが獲得した。もう一つは法国が獲得したとみて、いいだろう。では後2つあるはずだ。それはどうするべきか?アインズの収集魂がレアものはなにがなんでも手に入れたいとその胸に欲求を叫ぶが、
(そんなことをしている暇はない)
そう、今は大事な計画の遂行中、その為の行動を優先すべしだ。ただあの樹の効果が凄まじいものではあることも確認している。気には止めておくべきか、ふと、目に付いたのはカードケース
「トランプか」
それは、ゲーマーであれば、いやそうでなくても、知らないものがいない有名なカードゲーム。思えば、ここまで根を張り詰めすぎていたかもしれない。
「パンドラズ・アクターよ、これから少し、これで遊んでみないか?」
「おお!我が創造主よ!そのようなお戯れに私を呼んで下さるとは、光栄の至りでございます」
「そう、大げさになるな、これのルールはしっているか?」
「分かりません!創造主よ!」
「ああ、やっぱりな、では私が教えるとしよう。まずは、ババ抜きか?」
2人でできなくもない。しかし、どうせやるならもっと人数がいたほうがいいかもしれない。しかし、皆忙しく、働きまわっているはず。ここは、アインズは何故かため息をつきたくなるも
(たまには、親子2人というのもいいかもな)
言動こそ痛々しくあるも、こいつも自分のワガママに付き合ってくれているのだ。たまには遊ぶのもいいだろう。そんな親心で始めたカードゲームであったが、
数分後
「パンドラズ・アクター!、お前、強すぎだろう!」
「しかしながら、創造主よ!手加減は不要と!」
「始めた瞬間、静かになるのはやめろ!なんだその姿勢は!」
「私なりに本気で創造主と戯れる為でございます!」
「それはお前ではないだろ!それに何だ!少しインチキではないか!」
「何がでございますか?」
「その顔だよ!その顔!ドッペルゲンガーのその顔!ポーカーフェイスも糞もないだろ!」
「それを言いだしたら、創造主は骸骨なので、いい勝負になるのでは?」
「俺はいいんだよ!何だお前、チートすぎるだろ!」
「お褒めに頂、幸せでございます」
「よかったな!それはそうともう一回勝負だ。次は負けん!絶対勝ち越してやる!」
「望むところでございます創造主よ!」
おもいのほか熱中している支配者がいた。
「がらにもなく楽しんだな」
ようやく胸の高揚がおさまり、アインズは一度、自室に戻る予定であった。これからやることは多い。そして、楽園作りの為、参考になる資料はどういう訳か、たくさん来たわけだし、あのユグドラシルを使えば、材料にも困らない。なにより、一時的でもナザリックの運営費用をどう稼ぐか考えなくていいのは助かる。そして、自分なりに思いついたことがある。今はまだ誰にもいえないが、その為にも作業場をつくらなくてはならない。
「ん?ソリュシャンではないか、???、どうしたんだその格好は?」
「これはアインズ様、これはアルベド様方の指示でございます」
「アルベドたちが?」
プレアデスの一人であるソリュシャン・イプシロンが身にまとっていのは戦闘用の改造メイド服ではなくて、一般メイドが着ているものと何ら変わらないものであった。その理由も聞かせてもらった。現在、アルベド、イブ・リムスを中心に王国の調査、その方法を様々な方向から検討しており、現在彼女がしているのは、その一つに、アンダーカバーを作って潜入するというもの。潜入といっては、大げさに聞こえるが、ようは、人間のふりをして、現地人としてなじむことからやるらしい。それと現在の彼女の服装がどう関係しているかといえば、彼女の能力をかってのことだった。ソリュシャンは異業種が多いナザリックの中でも、比較的、人に化けるのに何ら苦労はしない。さらに所有している職業の関係上、彼女はそういった仕事にむいているとさえいえる。その際、彼女には普段通り『メイド』として、参加してもらうこと。これは、イブ・リムス曰く「できるだけ普段と変わらない人物づくりのほうが、高い精度と結果をだせる」というものであった。確かにこの世界にも貴族だとか、豪商などが、使用人として執事やメイドを使っているという話は聞いている。そしてその際、あの改造服では目立つわけなので、今のうちに有る程度普通のメイド服に慣れておけという指示だったという。
(それにしても)
「さすがソリュシャンだな、何を着ても似合うな」
つい、口にでていた。実際普段の彼女と違う姿は文字通り、どこか西洋の家柄につかえる一流のメイドであった。その言葉をうけたソリュシャンはやや動揺しそうになるもなんとかそれを顔に出さず。
「さすがは至高成るアインズ様、世辞も一流という陳腐な言葉で表現できないほどとは」
それは今の彼女ができる限りの照れ隠しであったのだろう。しかし、そんな心情をまったくさっすることができないアインズは
「別にお世辞というわけではない。本当にきれいだ。その一言しかでてこないさ。今のお前をみていたらな」
本人としては子をほめる親の気持ち、いつか嫁にいくのであれば、きっと自分は泣くだろうと考え、そして、最後にあった友人の顔を思い浮かべ
(絶対この子を幸せにしますから見ていてくださいヘロヘロさん)
決意を新たにしている訳だけど
(そんなことをいわれては、・・・ふふ、これはナーベラルの気持ちが分かるというものね)
双子のように仲がいい姉妹と違い、明確に自分の心の変化を自覚している従者がいて、つまりは、無自覚に騒動の種をばらまく支配者がいるのであった。
ある夫婦の語らい
ウィリニタスは気味の悪い赤ん坊の人形を持ち、その扉を開けた。視界にはゆりかごを揺らしている黒髪の女性がいた。彼は今すぐにでも抱きしめたい衝動をなんとかおさえながら次の変化をまつ。
「ちがうちがうちがうちがう」
ああ、いつ聞いても川のせせらぎを思わせるような綺麗な声だ。
「わたしのこわたしのこわたしのこわたしのこぉお!!!」
彼女はなんとユーモラスな女性なんだろうつくづく可愛らしい。ついで壁や床に現れた
「おまえおまえおまえおまえ、こどもをこどもをこどもをこどもをさらったなさらったなさらったなさらったなぁあああ!」
鋏を手に疾走する妻に
「あなたの子供はここですよ」
人形を差し出す
「おおおお!」
その人形をゆりかごに戻し、
「よく来てくれました愛しき夫よ」
「ええ、来ましたよ愛する妻」
抱きしめて筋肉むきだしのほうをなでてやり、その唇のない口にキスをする。夫婦の挨拶としてはだいぶ初歩的な部類に入ると思う。
「そう、あの娘がね」
「ええ、伝えたのですよ」
「それで?アインズ様の答えは?」
「まだ、としか、」
「そう」
異変が起きてからここに訪れるのはこれが初で、それまであったことを話してやる。彼女も妹の恋心を普段のやり取りから察していたので、そこは気になるらしい。
「それにしても、そんな事がね」
話はそれから、主が行う計画のこと、その為にナザリックが動いていること、その為、もしかしたら、彼女にもここを出てもらう必要があるかもしれないことと伝える。主に頼まれていたのはその伝言であった。
「ええ、アインズ様の命令であれば聞くわ、それにしても」
彼女は何か言いよどんでいるようであった。
「あの娘は、スピネルは元気かしら、それにあの子だって、」
「二グレド、あの娘も君の妹なのだろう?そんな言い方は」
そう、彼女の妹は2人いる訳だが
「私はあの娘が嫌い、あれは私たちとはまったく違う創造をされた者、いつか絶対ナザリックに災厄をもたらすわ」
「大丈夫ですよ、アインズ様と僕がそんなことにならないよう尽力するから」
「でも」
「信じてください、あなたの夫を」
ウィリニタスとて、もう一人の義妹であるルベドのことは知っているし彼女が危惧していることはある程度理解はしているつもりだ。それでも、
「あのこをそんなに嫌わないでください。そこはアルベドも同じことをいうと思うよ」
姉妹には仲良く笑ってほしいと思う。妻が末妹を避けているのもすべてはナザリックをおもってのものだと知っているから
「ええ、あなたに、統括たるあの娘がいうのであれば、わたしからは何も言わない。それにあなたのほうは大丈夫なの?」
「なにがですか?」
「だって、あなたにとって、人間は」
彼女の口に指を添えてやる
「ええ、確かに今でも人間を視界におさめただけで、強い吐き気に襲われますよ。それでも、」
「それでも?」
「こうして、あなたに気遣いの言葉をもらうだけでどうでもよくなる程小さいものだ、それにアインズ様には返しきれない恩義があるからね、もちろんそれだけではないけど、あの方のため、これからも尽くすだけだよ」
最後まで自分たちを見捨てなかった主の為ならば、本当にささいなことだ。妻もそれを聞いて安心したらしい。
「改めて、ルベドのこと、それに、あの子のこと、アインズ様にお伺いをたてなくては」
「ええ、それはあなたにお願いするわ。それで、」
「はは、まだここにいますから、そんな顔をしないでください」
本当に愛おしいと思う。彼女と出会えたこと、至高の方々、その41人に感謝しなくてはと、改めて彼は、主への忠誠を確かめるのであった。
微笑む悪魔と堕落する武人
デミウルゴスは第6階層でアインズと別れたあと、ユグドラシルから出たデータクリスタルをもって
「デミウルゴス、少シ良イカ」
「ええ、構いませよ、コキュートス」
入ってきたのは、親友たる昆虫の王であった。最近、彼に軍隊の運用など様々な相談をもちかけられるので今回もその類だろうか、
「今回は何のようですか?また例の件ですか」
「イヤ、今日来タノハ、デミウルゴス、オマエト話ヲスル為ダ」
「??、話とは?」
いつもと違う親友の様子にデミウルゴスもまた、話が長くなりそうだと、改めて紅茶をいれなおす。それをカップにいれ、一つを彼に渡してやる
「さて、それでは聞こうか?話とは?」
「オマエガヤロウトシテイル事ダ」
さすが武人というべきか、余計なことは言わずに直球できた。本当に自分がやろうとしていることは主の役にたつのか、主が望まれることか?ということであろう。
「ふふ、それについては大丈夫ですよアインズ様も認めてくれましたから」
そう、主は必要があれば、神を名乗るといってくれた。やはり、自分の見立てに間違いはないと、喜ばしく思うと同時にもっと精進せねばと思う。
「ソレニツイテハヨク分カッタ、ガ、他ノ事ハドウナノダ?ソレハアインズ様ノ望ムコトナノカ?」
彼の言葉が冷気と共に放たれる。部屋の温度は急激に落ちていく。確かに自分がやろうとしていることのもう一つは主の意に沿わないかもしれない。それでも心境の変化というものはいつかある可能性もある。なにより、それが叶った時には、
「コキュートス、君はアインズ様のお世継ぎ達にも忠誠を誓い、仕えたいとは思わないか?」
それは悪魔の誘い、瞬時にコキュートスの脳裏を駆け巡るのは、甘美なる夢、主の子供を背に乗せ、馬となって、戯れている光景、「じいや~」と呼んでくれる幼き、主の子供とそれを笑って受け入れている自分がいて、やがて、成長したその子に剣の指南をしたり、その下について戦場を駆ける自分を想像して。
「分カッタ、オマエヲ信ジルトシヨウ。デミウルゴス」
「信用してくれて何よりだよコキュートス」
己が欲望に敗れ、悪魔に加担することを決めてしまう武人がそこにいた。
戦士長の新たな試練
ガゼフ・ストロノーフは自らの騎乗する馬を何とか
「がはぁ!」
やはりそんな奇行うまくいくはずがない。
「無理ですよ戦士長殿」
副長が呆れたように声をかけるもガゼフは諦めるつもりはない。何故こんなことになったのかと副長は嘆く、事の発端はカルネ村での一件が終わり、アインズ・ウール・ゴウンなる人物と別れるときに言われた一言、
『聞いた話ですと、ストロノーフ殿は馬を眠ったまま操る術をもっているとのこと、機会があれば、見せていただきたいものです』
どこからそんな話を聞いたのだと驚くが、心当たりがない訳でもなかった。ここ最近の睡眠不足と、それに伴って、あれを貴族に見られたのかもしれない。そして、嫌がらせの一環で、そんな噂をながしたのだろう。それを聞いた旅人のゴウンが誤解したのだろう。
「やはり、説明をすべきでしょう」
「俺にはそんなことできん」
「何故ですか?こんなバカげた芸当」
「男の意地というものだ」
ガゼフはあの時、確かにあの魔法詠唱者が期待の眼差しを自分にむけていたように感じたのだ。ならば、その期待に応えねばならないのが男というものではないだろうか?こうして戦士長はある意味奇怪な芸を身につけるため、奮闘するのであった。
ある神官の懺悔
「どうして、」
食べたものがすべて、胃を逆流して、口からでてしまう。ここ最近ずっとだ。それだけではない。日々、だんだん体が衰弱していくようであった。手足に力は入らず、めまいも酷かった。
「どうしてですか、アインズ・ウール・ゴウン様!」
自分は確かにかの御方の言うとうりにした。なのに、なんで、どうして、
「お許しください。おゆるしください、おゆるshikudasai、」
結局のところ彼を襲っているのは単なるストレス性障害というものであるが、ある恐怖を味わってしまった、彼にそれに気づく余裕はない。
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「おーいって、おいおい~」
奇妙な呼びかけに目が覚める。どうやらだいぶ長く眠っていたらしい。たいしてうまくもない空気をすって、周りの状況を確認する。移動中の馬車の中であった。
「何だよ?一体?」
「その左手だいじょうぶか~」
腕に力をいれれば、左手、唯一残った親指が芋虫のように蠢く、どこか他人ごとであった。
「まあ、なんとかなるだろ、俺、右利きだし」
「そうか~」
実際その通りであるし、別に命なんて大した価値もない。
「それより~さ~」
「何だよ?」
「あれ~ひつようだったのか~?ただの鏡じゃねええか~」
ああ、あれか、確かに大変ではあったが、
「クライアントの指示だ。何か意味はあるだろ」
あれが何なのかさっぱりであるものの連中が無駄な事をするとは思えない。
「次はどこだっけ~」
「エ・ランテルだろ?あとは現地についてからだ」
次回から第2章はいります。よければ、同時投稿の人物紹介もどうぞ。