オーバーロード~遥かなる頂を目指して~ 作:作倉延世
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エンリ・エモットは暗い水の底に沈んでいくように感じていた。何も見えず、何も聞こえず、ああ、自分は死んだんだなと。だとしたらやらねばならないことがある。
(ネム、どこにいるの?)
手をなにもない空間?水中?そのどちらともいえないかもしれないところに伸ばして妹をさがずきっとどこかにいるはずだ。
(???)
何かが自分を包んだような気がした。見えないはずの視界に明確に光が差し込んだような感覚、そこにひかれるようにういていく体。そして、
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
必死に姉に抱きつき、もどってきてくれと懇願する姿はアインズに幼き日を思い出させていた。しかし、その時と今では明確にして絶対なる違いがある。あの時は自分は何の力も持たない子供であり、かといって助けてくれる人などもいなくてただ目の前の現実を受け入れる努力をするしかなかった。前者に関しては目の前で泣き続ける幼女も同じだ。しかし後者は違う、自分のときと違って、ここに彼女たちを助けたいと
「少し、いいか?」
もう少しまともな、子供を気遣ったかけ方はなかったのかと思うが、彼はリアルにおいて生涯孤独の身、仕事先への対応などはともかく、こんな時にかける言葉など持ち合わせているはずがない。そして当然ともいうべきか妹のほうは、そんなアインズを振り返って、光をなくした瞳にさらに闇がかかる。それは当然のこと、アンデッドに声をかけられれば逃げないと死しかない。それが、この世界における認識、ネムも姉であるエンリも昔から父母や村の大人たちに言われたことであった。しかし、当の本人にしてみれば、
(あちゃ~怖がらせちゃったよ。そりゃそうだよな。せめて『いいかい』と優しさを前面に出すべきだった)
人間とは主観で生きる生き物であり、自分を客観視するというのはなかなか難しい。かくして己の姿が他人からどう見えているのかまったく考えることもなくなんとかこどもをなだめようと思案させる支配者がそこにいた。
「君の姉を助けることができるかもしれないんだ」
無理だ。なんてやればいいのかまったくわからない。ここは直球勝負だ。
「・・・・・・・・・して?」
「ん?何だ?」
「どうして?お姉ちゃんを助けるの?」
はぁ!?何を言っているんだこの娘は?姉に助かってほしくないのか?もちろんネムだって、姉がいつも通りになるならそれに越したことはない。しかし今、目の前にいるのは生者を憎む死者なのだ。思い出すのは、つい最近、近所にすんでいたおじいさんがしてくれた話『悪魔は願いの見返りになにを望むかはまったくわからない。その者自身の命かもしれないし、お金か、あるいは、一生分の食糧を求めたこともある』という話だ。このアンデッドが何を求めているかわからない以上、簡単に答える訳にはいかない。例えば、このアンデッドは姉のことを気に入っていて、助けたうえで自分の手の届かない所に連れて行ってしまうかもしれない。ネムがそう考えたのは、姉に読んでもらった昔話『姫君を魔界に連れ去った魔王と姫を助けるためそこに飛び込んでいった勇者』という、それこそこの世界でありふれた物語を聞いていたからかもしれない。それでは意味がない。姉自身の生存を優先するのであれば、妹として最低だ。しかし彼女にそこまで求めるのは酷というもの。まだ幼い彼女には姉が必要なのだ。そして葛藤の末、ようやく絞り出したのが、なぜ死者のあなたが生者の姉を助ける?という素朴な疑問だったわけだが、当然アインズはそんな彼女の心内の葛藤を知ることも察することもできず、ただ困惑するばかり。
「姉に生きてほしくないのか?」
やや苛立ちを募らせて続く言葉はネムをさらに混乱させるだけであった。なんで?このアンデッドが人の生存を願うのだろうか?どうして?何故?
「何で?」
「何がだ?」
「なんで?アンデッドなのに?」
「あ」
その一言がアインズに間抜けな一文字を言葉として吐き出させていた。そして、これまでの周りの反応。助けに来たのに感謝の言葉一つないこの娘に、異様に怯えた表情の騎士達、彼らに自分がどう見えたのかようやく実感したアインズは取り乱す。
「ああ!すまん!私がうっかりしていた!これには事情があってだな!」
無様に両手を振りながら言い訳を並べる恐ろしい存在であるはずのアインズの慌てぶりに僅かながらネムの目に力が入る。彼女にとって、魔王とはいつも不気味に笑い、余裕な顔で人を殺したり悪さをする。そんな存在だ。目の前にいる存在は、アンデッドではあるのだろうが、分かるはずのない顔がなぜか崩れているように見えて、
「・・・・・・・」
「何だ?何で笑っているんだ?ああ、こんな時ホントどうしたらいいのか分らん!」
笑っている?自分が?もしかしたらこの人は信用してもいいのかもとネムは結論をだした。
「お願いします。姉を、助けてください」
両手を下腹部の前で綺麗に重ね、直角に曲げられた上半身と下げられた頭。
それは生まれて10年ほどしか生きていない彼女の急激な成長を垣間見た瞬間、両親や姉がみれば感動のあまり、うれし涙をながした光景。しかし今この場にいるのは、それどころではない男が一人、
「笑った。ああ、これは正解なのか?間違いなのか?誰か教えてくれよ、・・・・って?・・・・何、助けてください?」
すっかり支配者としてのロールプレイを忘れ、素の一般人に戻っていたアインズはその言葉でようやく調子を取り戻す。
「私は恐るべきアンデッドなのだぞ?なぜ信じられる?」
今更過ぎる演技にネムは笑うことなく真剣に答える。
「おじさんは、悪い人にみえないから」
おじさん、という言葉にやや傷つきながらもアインズは目の前の少女から化け物でありながら、なんとか信頼を得られたのだと確信する。元よりそのつもりで来たのだ。
「分かった。では様子をみるとしよう」
すっかり、白く、そして周囲を真っ赤に染めた元凶である少女の姉を起こし、あまり動かさずにその口元に指をあてがう、空気の流れを微弱ながらも感じてかろうじて生きているのだとわかって安心する。
(よかった。これなら
もし現地人がこのアインズの言葉を聞けば、顔を真っ青にするだろう。こんな血だらけなのに下級ですますのかと、しかしながらかつて彼がいた世界(正し現実味のないゲーム)ではもっとひどいけがだってあるのだ。それこそ四肢を失ったり、目や耳を失ったり、内臓がごっそりなくなるということもありえた。そして、そういった欠損部分を瞬時に再生させるポーションもあることを考えれば、出血はひどくても、怪我が背中に集中しているエンリはまだ恵まれているように思える。顎をやさしく支えてやって、その口に真っ赤な液体を流し込んでやる。やがて、彼女は目を開ける
朦朧としていた意識が急激にさえて来る。目をあければ、まだ景色は揺れていながらも自分を見ている2人分の視線を感じる相変わらず泣いてばかりの妹に骸骨の姿がみえた。しかし彼女に不安と恐怖はまるでなかった。何故だろう?いや、答えはすぐに出た。自分は間違いなく死んだはずだ。それが、こうしていられるのと、それを行った目の前の人ならざる何者か、そんなの答えは決まっているではないか、
「アインズ様、守護者統括アルベド只今参上いたしました」
まさにエンリに薬を飲ませたタイミング、
「・・・・・・・・・・ま」
ほぼ同時というべきタイミングで彼女も声を発する
「お姉ちゃん!」
「大丈夫か?気分はどうだ?」
飛びつく妹に気遣う支配者、彼女は何かいいかけたが、なんだろう。この姿のことをなんと説明しようか?
「あなたは、神様 なんですね」
「はぁ?」
妹といい、この姉妹は一言めで自分を驚かしてくる。うん、今度は動揺するものか、
「そっか、おじさんは神様だったんだね!」
姉の言葉に目を輝かせ、先ほどと違った視線を送って来る妹に、
「さすがアインズ様、その気高き御心で哀れなる娘たちをすくったのでございますね」
兜越しでも彼女の歓喜の表情がみてとれるが、これは祝福すべきことか?否だ!勘違いは正さねばならない。彼女たちの間違った認識が後々面倒ごとを引き起こす気がしてならない。
「違うぞアルベド、説明をしよう」
「ああ、神よ」
「神様~!」
「さすがわたしの愛するアインズ様でございます」
「ああ、待て!アルベド!そんな顔で私を見るな!お前は勘違いをしている!」
「ですが、この騒ぎは?」
彼女の声から感じるのは戸惑いと困惑、
この時エンリがおこした勘違い、その原因は人の意識というものが大きく作用した。あの時、彼女自身は死んだと認識していたが、それは間違い。アインズの見立て通りかすかに息がある状態、ゲームで例えるならば、総HP10のキャラがいたとして、その残量が残り1という状態。そこからポーションを使って再び10にしたわけだけど、それはあくまで痛みの実体験がないゲームの話、現実で残り体力もとい生命力1割なんてなれば、体は生存活動を続けるため、意識を手放す。結果、先ほどの彼女のように正しく自身の状態を認識できずまるで死んだように感じる訳だ。そして傷をすべて治す薬の存在に人外たるアインズの存在でその勘違いという名の方程式は完成する。客観的にみれば、薬をもちいて怪我人を治療した。しかし主観的にみれば、死の淵からの生還、そして目の前にはそれを可能にする人ではない存在がエンリの間違った思考を終着駅へと導く。
なわけであるが、アインズにそこまで察する時間も考察する時間もなく、
「頼むから説明させてくれ!」
叫ぶしかなかった。ナザリックの支配者として彼らに誇れるよう変わる決意をした彼であるが、変わるには時間がまだいるようだ。
アインズが
「本当に良かったでありんす」
「アインズ様ノ想定ヲ超エル事ハナカッタトイウコトカ」
「ええ、その通りでございましょう」
口々に安心したと言い合い、
「ああ、それにしても人間を蹂躙する様はさすが私の愛しき人」
「正二、ナザリック最強二相応シキ方ダ」
次々にあがる賛美の声、そしてそれに賛同する者たちの「アインズ様万歳!アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」という声が響く。それは彼とて同じ気持ちだ。ほんの少し前、ここで交わした主とのやりとりを思い出す。一体あの時主は何を気にしていたのだろうか?夫婦仲であれば、問題ない。月に数度会う機会をかの方々より賜り、そして彼女と会うたびその愛情を確かめ合っている。抱擁にキスはもちろん。まだ義妹達に話すのは早すぎるようなことまで駆使してやってきている。自分一人の勝手な勘違いではない。ちゃんと彼女の声もしっかり聞いて、その上で自分たちの関係を認識しているのだから。それでも、
(やはり、月に数度では寂しいものです)
かといって、主にそれを請うのはあまりに不敬だ。今の状況でも満足している自分がいることも確かな話であるしきっと主のこと自分などでは想像もつかないようなことを心配しているのだろう。それよりも気にすべきことがある。
「シャルティア様、よろしいでしょうか?」
「ん?ああ、ウィリニタス。何でありんしょう?」
「何故アインズ様のおつきがその人数でありましょうか?」
そう、本来アインズに付き従う人数は世話役、護衛含めて15人と少しになるはずだったのが、気付けば30人以上、それも今のナザリックでは貴重な戦力たる階層守護者が2人もついている事実、そしてそれだけのことをする理由があるのかという問いかけ、
「まさかと思いますが、アインズ様の言葉を疑ってる訳ではないのですよね?」
主がこの世を去ろうとしたことはナザリックの者すべてがしっている事実、義理妹たちの必死の懇願もあり、なんとか思いとどまってもらったものの。シモベ達の中には、いつかお隠れになるつもりではと、不安を消せないでいる者たちが少なくないことを知っている。だからこそ、普段以上の護衛を用意して、外敵はもちろん主自身の監視をしているのではないかという疑惑。主とは、仕えるべき自分たちの存在意義そのもの。それを失うかもしれないという恐怖心は自分にもよくわかる。その上で彼自身の考えを言うのであれば、やはり不敬だ。確かに主の喪失は恐ろしいことではあるが、かといって、主の言葉を信じないのは、それ以下の行為にあたる。もしも、嘘をつけば、たとえ自分よりもよほど上位種たる守護者たちでも見抜けるだろう。それは能力でも技術でもなく単にそれだけ彼らを見てきた経験からくるものであるが、これ以上に頼りになるものはなかなかない。しかしながら彼女の答えは彼のまったく予期せぬものであった。
「それこそまさかでありんす。私どもがアインズ様についていたのは、かのお方に笑ってもらうためでありんすから」
「はあ、笑っていただたく?」
突然なにを言いだすのか、失礼なことだと承知の上で思うが、正直この吸血鬼の少女はあまり頭が回るほうではなく、彼女の言葉もまるで理解ができそうにない。念のため周りを見てみれば、セバスにコキュートス、プレアデス、七罪たちにほかの者たちも同じように頭をたてにふっている。どうやら彼女だけが発している狂言ではない模様だ。
「申し訳ございません。まったく要領をえないのですが」
「文字通りの意味でありんす。ここにいる者の大半は《渾身のネタ》を仕込んでこの場にいんす」
??????????????????
はっきりいって、斜め上、いや下だろう理由にウィリニタスはしばらく言葉を失う。といってもその表情に動揺はでておらず、むしろ純粋に疑問を浮かべた彼の表情をみて吸血鬼は上機嫌に続ける。
「ふふふ分からないというのであれば、実際に見てもらいんしょうか!」
そんなに自信があるのだろうか?先ほどから思考が追い付かないこれでもあの3人に負けないくらいには頭が回るはずなのに。シャルティアは得意げに空間に手を入れるとなにやらやたら弾力のある球状のモノを2つとりだしそれを服の中にしまい込むその際に普段つけている詰め物をとりだして、入れ替えるように空間に放り込む。
「さあ、見てもらいんす!」
彼女は自信満々な表情でその胸に両手をあてる。胸元から飛び出す2つの球体、豊満が平原に変わる。彼女は表情をやや青ざめ渾身の言葉を紡ぐ
「ああ!私の胸がとんでいってしまいました!なんたることかぁ!」
その顔は一見自信に満ち溢れているが、そこは長い付き合い、その中に一欠けらの憐憫を感じて、
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「すみませんがシャルティア様、その、悲しくはありませんか?」
思わずでてしまった。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁん!!」
彼女はうずくまり号泣を始めてしまう。分かってはいたことだ。創造主にそうあれと作られたがゆえに女性としては未成熟ともいうべき姿の彼女、もちろんその事に不満はないが、これもそうあれと造られたからか、体つきに関してはややコンプレックスを抱いているのを。それを前面にだしたこのネタなるものの意味合いは
「いわゆる、《自虐ネタ》とう奴でございんす」
泣きながらも説明を行う彼女
「これで、アインズ様が笑って、その御心の傷をすこしでも癒せればと、」
方向性は思いっきし遭難まっしぐらであるがそれでも愛する御方の為と献身的に尽くそうとする姿にはさすが義妹の恋敵だと称賛したいが、悲しいかな致命的な穴がある。
「僭越ながら申し上げますシャルティア様。そのようなものでは、優しきアインズ様は決して笑うことはないかと」
そうかの主は慈悲の塊、こんな自爆上等なものをかの方が喜ぶはずがない。それは薄々本人も気づいていたらしくさらにふさぎ込む が、
「私は駄目でありんしたが、ほかの者たちのネタであれば」
「お任せをシャルティア様、必ずやかの支配者を爆笑の渦に
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
出てきたのは、《七罪真徒》を束ねる役目を任せられているグリム・ローズと7人中単純な腕力であれば、階層守護者にも引けをとらないガデレッサであった。
(この2人ですか)
改めて目の前の人物を観察してみる。グリム・ローズ、大きな布を二つに折り合わせその見事な形に仕上げたドレープを身に着けたシャルティア以上に白い肌を持つ男。その腕や足のいたるところを茨が巻き付いており、その棘が衣服を多少切り裂き、生者よりも意識はなく歩き続ける死者を思わせる。最大の特徴はそのかお、右の眼球はなくただただ暗い眼窩と左目もその視線はあらぬ方向を向いており、この男は本当に生きているのかと何度も問いかけくなる。しかし、彼の事情を知れば少しは理解できるかもしれない。ガデレッサ、グリムと異なり、身に着けるのは辛うじて、ズボンになっている布を下半身にまとっている。その手には棍棒が握られている。頭には包帯、こめかみより外側耳の上から生えているネジが今にも動き出すということはなく、錆びついたその様と僅かに腐っているそのあたりが、何の理由もなくさしてあるものであることを語っていた。この2人の能力はある程度把握しているし、その性格も分かっているつもりであったが、改めて観察をしなおす必要がありそうだ。
「それで?お二方は何を?」
「よくぞ聞いてくださいました統括補佐殿」
「!!!!!!!!!!」
「『我らが最高のエンターテインメントをお見せいたしましょう!』と申しています」
何故かガデレッサは普通の声を発すことができない。そんな彼の言葉にならない声を正しく翻訳できるのは、このグリムとコキュートス、それにあと数人ばかしであったはずだ。グリムはまず自分の衣服の間に手をいれるとまた取り出すその手にはスプーンが握られていた。それをガデレッサに手渡す。
「ではご覧に入れましょう」
宝物殿の領域守護者をまねるようにガデレッサを指し示すグリム、大男は手に持ったスプーンをへし折る。
「世にも奇妙な超能力でございます」
「腕力でへし折っただけではないですか」
何なんだろうこれは、まさかこれで主に笑ってもらえると本当に思っているのだろうか?だが、彼らはとまらない。
「それでしたらこれでいかがでございましょうか」
指をならす音がしたと思ったら、グリムの体が崩れる。頭、腕、胴体、足と部分ごとに人形のパーツを外すみたいにバラバラになる。続いて、ガデレッサがどこから持ち出したのか十字架を取り出し、グリムは菌糸をもちいてその十字架にぶら下がるように浮いて、
「等身大、操り人形でございます」
一見、バラバラの四肢を糸でつないで十字架で吊り下げるその様子は確かにそれに見えないこともないのだが、
「それは、面白いのでしょうか?」
ウィリニタスに芸事の知識もセンスもない訳だが、それでもこれは違うと言える自信がある。しかし2人はめげることなく
「ええ、盛大に滑ったところで本命といきましょう。ユリ殿、ルプスレギナ殿頼みます」
「!!!!!!!!!」
丸投げしやがった。その後は普段の彼女らのやり取りと変わらない漫才やセバスのやたら五月蠅いオーバーアクション芸と続き、一般メイドたちの人体切断マジック、マスターガーター達のみせる複雑な組体操、とつづいて。コキュートスが続いてなにかしようとして、
「もう結構です」
本来であれば許されるものではないものの彼のその憂いに満ちた表情がその場に居た者すべてに悟らせた。これは失敗だと
「これでは、駄目なのでしょうか?」
一同を代表してユリが問いかける。ウィリニタスとて、できることなら称賛したい。主も喜びになると、しかしそれを許す訳にもいかず
「おそらく、アインズ様に喜んで頂けるレベルではないかと、」
それが彼の偽らず本音だ。そもそも主を想っての行動は好ましくあるもののこれは完全に方向を間違えている。もっとほかにやれること、できることはあるはずだ。そして、何より
「誰の発案ですか?」
こんな馬鹿げたことを始めた元凶を探さねばならない。震えながらも挙げられる手
「私でありんす」
やっぱりあなたでしたかと、声に出さず落胆する。いや、咎めるべきは彼女だけではない。
「誰に助言をもらいましたか」
それは普段の彼が絶対にだすことない雰囲気と、下手をすれば一瞬で悪夢に引きずり込むであろうその姿勢が、本来負けるはずがない彼女に少しばかしの恐れを抱かせる。
「デミウルゴス」
叱られ、しょげた子供のように人名をあげる。それは聞いた本人にしても意外過ぎる人物であった。
「デミウルゴス、様が?」
つい、以前のように呼び捨てにしかけて、急いで修正する。
「私がどうかしましたか?」
次いで聞こえた本人の声、みれば、入り口から彼が入室してくる姿が見える。ひとまずはすべての説明と、ついでに彼にも自分が見たものを見てもらう。そして数分後。
「認めるしかありませんね。至高の41人に創造された我々でも、できることとできないことがあると」
認めましたよこの悪魔、まあ悪魔なのは自分もなのだが、
「デミウルゴス様、あなたはナザリック最高の頭脳を持つお方、その言動に少し注意していただけると嬉しいのですが」
「それは、本当に申し訳ないことをしましたよ。中々悪い話ではないと思ったのですがね」
「デミウルゴス様がかの御方を案じて様々な策を用意しているのは知っていますが今回はさすがに問題があるかと」
「そうですね、ほかの策をこうじるとしましょう。それから個人的なことになるけどね、敬語はやめてくれないかい?あと様も外してほしいのだけれどね」
「それこそ無理かと思います。今はあなたの方が立場は上なのですから」
「しかし、後輩としては先輩たるウィリニタス様を敬わないわけにいかないので」
「そういうことなら、私の義妹の恋路が成就するよう素直に協力してはくれませんか?」
「それだけは、承知しかねますね」
はてさて、本当にこの男は何を考えているのだろう?どうにもとらえどころがなくて苦手だ。しかしながら、今回のやり取りは無駄にならない。少なくともかの御方にシモベたる自分たちの醜態をさらさずに済みそうだ。最後に、先ほどから何やら唸っている吸血鬼に向き直る。
「シャルティア様、よろしいでしょうか?」
彼女の悩みも葛藤も分かっている。本来であればあまり気乗りしないが、かの主の身を護るすべをそろえるほうが優先だ。
「な、なんでありんしょうか?」
泣き出しそうな表情をしている。このままでは愛する御方に何もできないという悲しみに暮れた乙女の顔。
「シャルティア様、あなた様は高い能力をお持ちです」
まずは事実をあげる。本来の彼女のポテンシャルはこんなものではない。ただ使い方を知らないだけ
「その上でアインズ様のお役にたてるほかの方法を考えましょう」
「でも、どうすれば?」
大丈夫、彼女の心はおれていない。
「大丈夫です。できることから覚えていきましょう。及ばずながら私も、イブ・リムスにプラネリアも力を貸します」
最も付き合いの長いもの達の名をあげながら、やや不敬ながらもそのその肩に手を置きながら優しく語りかける
「私でも、アインズ様のお役に、たてる?」
「ええ、きっと」
本来であれば、傲慢で自分に非はなく完璧であると自負してやまない彼女がここまで追い詰められたのは、かつての敗北、そして急激に距離を縮めた恋敵の存在が大きいのかもしれない。吸血鬼は亀の歩みを連想させるようゆっくりではあるが、確実に前へ進み始める。
なお余談であるが、この時彼女たちが披露した宴会芸の存在を知った主は顔に出すことはなかったが、大変興味をそそられ見たいが、支配者としてはふさわしくないと葛藤したという。
ようやく、エモット姉妹に人ではないが、神でもないこと。先ほどの行為も蘇生ではなくて、治療だということを納得してもらい。改めてアルベドとこれからについて軽く打ち合わせを行い次の行動に移る。まず行うのは―中位アンデッド作成
「私の声がわかるか?」
(はい、理解できますとも我が創造主)
片膝をつき、剣を地に突き立てるその姿は王に忠誠を誓う騎士そのものであった。その光景に姉妹はさらに感動をその胸に抱く、やはりこの御方は神ではないかと、人づてだが聞いたことがあるのだ。すべての生を司る死の神がいたと、不死の軍勢を率いた支配者がいたと。それはある国のある陰謀、失礼かの国に言わせれば、ある使命の為に必要だという情報操作の一環だったわけだが、彼女たちはそれを知らない。よって、目の前にいる人物こそがその神ではないかと期待半分疑り半分で見守る。
「そうか、ではこれからの事を命ずる。この村を救う。そこに倒れている騎士と同じ格好をしている者たちを無力化、難しれば討伐、それも無理なら即座に撤退をしろ。早口になってしまったが、理解できたか?」
(問題ありません我が主よ)
「ではすぐ行動に移れ」
(かしこまりました)
雄たけびを上げながら疾走するデス・ナイト。その姿はもはやアインズの知る
生命拒否の繭《アンティライフ・コクーン》
矢守りの障壁《ウォール・オブ・プロテクションフロムアローズ》
姉妹を包むように展開する光のドームにかすかに変わる空気の流れ。
「生物を通さない壁、それに射撃攻撃をある程度抑える魔法をかけた。そこにいれば、安全なはずだ」
「ありがとうございます!」
「それと、そうだなこれを渡しておこう」
姉妹のすぐ近くに2つの角笛を放り込んでやる。
「それを使えば、お前に従うモンスターが現れるはずだ。あとは、」
念には念をと残りの死体を使い、さらに2体デス・ナイトを召喚する。命令をしようとしてアインズは一つの壁にぶち当たる。
(区別は、個体名はつけるべきだろうか?)
しかし、自分に名づけのセンスはなく、時間もない。
「お前はデス・ナイト弐号、お前はデス・ナイト参号だ。分かったか?」
(ははぁ!吾輩はニゴウであります!)
(自分はサンゴウであります)
「よし、では命令を与える。弐号、お前はこの姉妹を護れ。もし対処に困ることがあればすぐ私に知らせろ。参号、お前は私たちの護衛につけ。最初にいっておく、有事の際は私よりもアルベドを優先して護れ」
((かしこまりました))
「アインズ様!」
アルベドが悲痛な声をあげるが、それが彼の望み。もし彼女に何かあれば、それこそ耐えられないだろうし、その時自分がどういった行動をするか予測もできない。抗議をあげる彼女を手のひらを向ける動作で黙らせて。アインズは歩き出す。村にむかうためだ。その時エンリが声をあげる。
「お願いします!図々しいとは思いますがあなたしか頼れる人がいないんです!どうかお父さんとお母さんを助けてください!」
その声を聴いてアインズの心を痛みが襲う。
「分かった。生きていれば助けよう」
軽々しく果たされる事がないとわかっている約束をする。そんな彼の心境を知らないエモット姉妹は揃って頭を下げる。
「アインズ様、よろしいのでしょうか?」
歩き出して、姉妹たちが見えなくなったところでアルベドは口を開く、彼女も知っているらしい。いや、察したというべきか。
「ああ、そうだな」
後ろめたさと無力感で返す声に力が入らない
「正直に申し上げます。あの姉妹はどうでもいいですが、アインズ様がその御心を痛めるのは我慢できません。それに先ほどの命令にもわたしは納得していません」
それはほかの何をおいても自分を優先するという彼女の基本姿勢であり、曲げるつもりのない信念だということを感じとれてアインズは思わず彼女の頭に手を置く。頬を染めるアルベド。
「ありがとうアルベド。どこまでも私を思っていてくれて。たださっきの件は私なりの考えがあってのことだし、それから忘れないでほしいのはお前が私を大切に考えているのと同じくらい、いや、それ以上に私にとってお前が大事な存在であるということだ」
「ア、アインズ様!そのようなことをおっしゃられては」
「だから納得はしないでも理解はしてくれないか?」
その間も彼女の頭をなで続ける、(兜越しであるが)ほぼ無意識の行動と紡がれる言葉。愛する男にこういわれては女として
「く、かしこまりました」
というしかないのである。
響くは咆哮と金属が人体をうち、中の繊維をめちゃくちゃにしているであろう打撃音。
ロンデス・ディ・グランプは今にも殺されるという恐怖となぜこの状況になっても己が信ずる神は来てくれないのだと理不尽さを感じていた。自分たちは村人を適当に間引きながら中央の広場へと追い込んでいた。そこからできるだけ、対象の力をそぐであろう人選を行い。あとは皆殺しにするつもりであった。そんなときに飛んできたのは一人の仲間であるエリオン、倒れたまま動けないでいる所を見ると。両足を折られたらしい。そして現れたのは、凶悪なフランベルジェにタワーシールドを両手に装備したまさに死の騎士ともいうべき存在。そこからはほぼ一方的な展開が続いた。なんとか踏み込んだと思えば吹き飛ばされ、打ちどころが悪ければそのまま動けなくなってしまう。逃げようと隙をついて走り出せば、一瞬で距離をつめられ、再び吹き飛ばされる。そうしてなんども飛ばされているうちにまるで複数の騎士に包囲されているように錯覚する。それほどに人とかけ離れた動きであったのだ。そして何より恐怖を感じるのは、こちらをまったく殺そうとせずにただ痛めつけるだけということだった。現に自力で立つこともできない怪我人は続出しているのに。死者は一人も出ていないのだ。それがより一層恐怖を掻き立てる。しかし何とか突破口を見つけねばならない。こんな事態なのに、隊長であるベリュースは癇癪をおこした子供と変わらない様子でわめいていた。
「お前らぁ!あれを何とかしろ!俺はここで死ぬわけにはいかない!この後だって」
情欲任せに娘を襲い、父親に反撃をうければ助けを求め、助けたらまるで八つ当たりのように相手を殺し、来るのが遅いと怒声をとばす。そんな男だ。しかし、それにケチをつけている暇というものはない。今は生き残る為にあがくべきだ。ロンデスは覚悟を決めると騎士に向かって突撃をおこなう。腕の震えを何とか抑えて、予備の短剣を騎士の顔めがけて投擲、もちろんこれで殺せるとは、いやかすりもしないだろう。でもそれでいい、ほんの一瞬でもアイツの視線をそらすことができれば。そのわずかな時を最大限活用して距離をつめる。そして渾身の横なぎを騎士に放つ、それは彼の人生において最高の一撃しかし、
「ぐはぁ!」
それでも騎士にはおよばず盾で殴りとばされ、元の位置まできれいな放物線を描きながら落下して背中を強打する。強烈な痛みが遅れてくるが、それ以外にロンデスは今受けた攻撃に感じることがあった。それはこの極限の状態で急速に磨かれた彼の戦士としての感だ。
(これは・・・怒り・・・・なのか?)
そうこれまで、この騎士は自分たちを苦しめ、痛みをあたえ、その様を楽しんでいるものとばかりだと思っていた。それが今の一撃をあびて感じたのは激しい憤怒、それも誰かを思っての強いものであった。
そう、彼、デス・ナイトことデス・ナイト壱号は憤りを感じていた。何なんだこいつらはと、彼はアインズに生み出された際に、主の心の傷を知った。そして、次に主からの命令の意味を考えた。撤退すら視野に入れるとはそれ程の相手かと、せめて重要な情報は手に入れなくてはと、最初の騎士に狙いを定め、突撃した。
軽い、驚くほど軽かったのだ。無力化といわれていたため、極力抑えて、武器をふるったつもりだ。それでも簡単に吹き飛ぶ軽さ、いやいや、もしかしたら、こいつが特別なのであって、ほかは違うのかもしれないと戦闘を継続して、はや3分、彼は唖然とした。そして確信した。こいつらはナザリックの脅威でもなんでもないと、そうだと認識した途端、胸のそこから熱がこみあげてくるの強く自覚した。何なんだこいつらは?と、この程度の力しか持たない者共が、あの優しき主の気持ちを傷つけたのかと、いますぐ皆殺しにしてやりたいという衝動を何とか抑えて、主の命を忠実にはたす。しかし、可能な限り、自分なりにできることをする。主の命は「無力化」それ以外は何も言われていないことはないが、この状況なら変わることもないだろう。殺しさえ、つまり命さえあればその方法は任せてもらっていいはずだ。で、あるならば、
(最大限の痛みと恐怖を味わってもらうぞぉ!人間どもがぁ!)
彼の虐殺ともいえない、が、決して生ぬるくもない暴力の嵐がロンデス達を襲う
「ふむ、デス・ナイト壱号はしっかりと仕事をこなしているようだな」
「さすがアインズ様が御創りし、アンデッドは優秀でございますね」
森を歩きながら、アインズ達は村へと向かっていた。2人の後ろ、ややアルベドよりに参号も控えている。アインズは思案するように指を顎にあてる。先ほどの姉妹からこの世界にも魔法というものがあるのは聞いている。そして今、村での戦況をみてこの世界の戦闘力水準というものがそこまで高くないと結論付ける。そうなると、計画遂行の為にこれからのナザリックの方針というモノも決まってくる。
「殺すことはなかったかもな」
力を見せつけ、降伏を進めることもできたかもしれない。それでも、衝動的に彼らを殺したのはエモット姉妹のこともあれば、アインズ自身の問題でもあった。
「いえ、そのようなことはないかと思います」
「ほう、それは何故そう思うのか聞かせてくれるか?アルベドよ」
「どのみちこの世界においてのわたしたちの力がいか程のものか調べる必要はありましたから。むしろわたしどもが率先して行うべきことをアインズ様が自ら行ってくださったということ、あの者共の死をアインズ様が気に病む必要は雨粒ほどもございません」
「はっはっは、私が元人間だということを気遣ってくれて感謝するよ」
「いえ、これ位は、守護者統括として、愛する女として当然のことです」
それをいわれるとおさまったはずの胃痛がぶり返しそうだ。話をそらそう。
「さて、これからどうしようか?」
「アインズ様でしたら、すでにどうするか決めていらっしゃるのでは?」
「ははは、お前にはかなわないな」
そう、アインズとて、ここからの方向は決めてある。迷っているのは、今壱号が対処している騎士たちの扱いだ。全員ナザリックに送って、情報収集にあてるべきか、それとも逃がして彼らの所属する国に対するメッセンジャーにするかということである。カルネ村については村人たちしだいだが、ある程度の方向性は定まっている。
(まあ、今すぐ決める必要もないか)
まずはその騎士達、そして村人たちと話をする必要がある。それから決めてもいいだろう。
「さて、間もなくだな」
「
言葉と共に静止する騎士、広場にいたもの達、殺す側であった騎士達、殺される側であった村人たち関係なく視線が声の主に集中する。
そこにいたのはローブをまとい、奇妙な仮面をつけた
「ふむ、何人か倒れたまま動かないな」
死んでいるわけではないが、足が使いものにならなくなった者達や気絶した者達だ。仮面の人物は少し首をかしげ一通り自分たちを見た後、やがて騎士に向き直り、
「デス・ナイト壱号よ、これでは少しやり過ぎだ」
やや咎めるように声をかける。それを受けてあれほど恐ろしかったはずの死の騎士が一瞬気落ちしたようなきがした。
(申し訳ありません、我が主よ。この命をもって償いましょう)
「そこまでする必要はない、お前は役目を果たしたのだからな」
(ありがとうございます。慈悲深き主よ)
「これでは少し不便だな。壱号よ、お前からみてこの者たちの中で最も気骨がある者は誰だ?」
その質問は騎士にとっては中々に難しいものであったらしく、しばし頭を抱えたように見せた後、その視線が自分を見たような気がした。それで仮面の人物は察したらしく、目の前まで歩いてくる
「お前の名前は何という?」
「ロンデス・ディ・グランプといいます」
名乗らないという選択肢はそもそも存在しない。
「そうか、このままでは話もできない。これで怪我人の治療をしろ」
そういって、その人物は真っ赤な液体が入った瓶を10本ほど手渡してくる。ロンデスですら両手を広げないと受け取るのに難儀するそれをどうやって片手で握っていたのかは疑問だが、聞いている時間はない。
「これは?何でしょうか?」
できる限り丁寧に話すことを心掛ける。もしここで、この人物の機嫌そこねれば、先ほどの騎士の剣が自分の首をはねることだろう。
「
その声にはやや棘があり、心なしか女戦士や騎士たちから殺意が溢れてくるようだ。
「い、いえ!申し訳ありません。見慣れないものでしたので」
いい訳ともとれる必死の弁解であったが、仮面の人物は
「見慣れない、か、やはりそうなのか」
何か得心したらしく何やら考えこんでいる。これを好機とロンデスは走り出す。足を折られた者達には自分で、気を失った者達は何とかゆすり起こして怪我がひどい者の口に薬を流し込む。やがて、治療が終わり、仮面の人物の前に整列する。ベリュース隊長はさらっと最後列にいこうとしたが、立場上前に出るべきだと、数人がかりで最前列に連れて行った。
「アインズ様、愚か者たちの準備ができたようです」
聞こえるのはとても澄んだ声でその兜の下は相当の美人であることは明白であった。そして、声をかけられた人物は
「ああ、そうか、では始めるとしよう」
「お前たちは何者だ?今回のこの行動の目的は?嘘は通じないと思え」
質問という名の尋問、本来であれば隊長が答えるべきではあるが、アイツはまだ足を震えさせていた。
「自分たちはスレイン法国所属の特殊部隊であります」
その言葉に村人たちから驚きの声が上がる。その様子に仮面の人物は
「ふむ、その驚きよう、何か事情があるようだな?」
その視線の対象が自分たちから村人たちへと移る。恐怖の表情を浮かべる者たちが続出する
「ああ、安心してくれ、あなた方には何もしないさ。ほかならぬ皆さんを助けに来たのだからな」
それは自分たちは何かされるということなのだろうが。その言葉でひとまずは大丈夫だと安堵の雰囲気が広がり、村長らしき人物が一歩前に出て来る。
「先ほどの驚きの理由を教えてくれるか?」
本当に何も知らないのだろうか?だとすればこの人物は何者だろうか?
「あの者らが身に着けているのは帝国の装備でございます」
「ほう、身分を偽っていたということか」
脂汗が頬をつたう、間違いなく自分たちの命運がさらに削られたと感じる。
「まあ、今はいい、それで?そこまでしてお前たちは何を行うつもりだった?」
「王国戦士長ガゼフ・ストロノーフをおびき出すためでした」
「王国戦士長?」
まさかそんなことも知らないのかと目の前の人物の世間知らずぶりが激しいものだと感じた。その後も質問にはロンデスが答え続けた。王国の辺境の村々を襲い、適当な人数をわざと放置することで救援にくるであろう戦士長の部隊の力をそぐこと。その上で、本隊が彼の討伐を行うこと。今回の作戦の目的は王国一の戦士を殺すことで結果的に王国の国力を落とすこと。それはすべて、ひいては人類全体を護るためだという故国の状況や、この世界には人間より優れた種族がたくさんいること。その為には王国が邪魔であることなどすべてはいていた。神に対する信仰心なんてすでに吹き飛んでいる。
その間、
「なるほどな、そういうことか」
と、仮面の人物は頷いていた。やがて、
「十分だ。情報の提供に感謝するよ」
ようやく自分は解放されたらしい。心から脱力してしまう。
「そうだ、最後に聞いておきたいことがある」
仮面の人物は隊長に向き直る。この状況でも震えているベリュースをみて、ロンデスはもし生還が叶うならば異動を願うと決意する。
「三つ編みとおさげの姉妹は知っているか?その姉妹の父を殺したのはお前か?」
それは自分も見た光景であるためよく覚えているなんせその姉を襲ったのがベリュース隊長なのだから。問われた本人は震え続け、やがて絞り出すように
「ち、違います。自分ではありません」
「そうか、よくわかった」
いったいこの人物の目的は何だろうか?もしかしたら、生きて帰れるかもしれないとロンデスは小指ほどの希望をなんとか抱くことができた。
(こいつは、もうどうでもいいな)
それが、アインズの本心であった。もしも正直に罪を認めるならば、ある程度の慈悲も考えないでもなかったが、それよりも
(それにしてもだいぶ情報が手に入った)
少なくとも人間の国を3つ知ることができた。まずはこの村の所属する王国、そしてそこを襲った法国、最後に彼らが今回の罪をなすりつけようとした帝国とこれはかなりの収穫だ。何よりもアインズの関心を最もひいたのは王国戦士長の存在であった。ロンデスの話によれば、この状況でも、間違いなく村を救うため、行動しているのだという例え、それが自分を殺す為に用意された策略であってもだ。それは、自分にとっては尊敬できる人物。憧れもする人物だ。
(なんとか、コンタクトはとれないだろうか?)
是非とも計画の協力者になってもらいたいという気持ちがある。そして現在の各国に対するアインズのイメージはまず法国に関しては最悪といってもよかった。人類守護を掲げながら、村人たちを惨殺するという矛盾した今回の作戦もそうだが、何よりもそれほど素晴らしい人物を殺そうとする神経が分からない。そこまでの人物なら何とか話し合いで決着をつけるべきではないか、
それは結局のところ一般人である、アインズの思考であった。国家間というものは彼が考えるよりもずっと複雑なのである。
次に王国、戦士長の存在は魅力的だが、それでも何かしらの問題を抱えているのは、今回の件でも明らかであった。
(まずは王国関連から、いってみるか?)
そして、帝国だが、現状ではほとんど情報がない。せいぜいそこの軍の装備ぐらいか、ならこれからの方針はきまりだ。今回の最後の仕上げもしなくては、この場にいる騎士達は24人であった。
「ロンデス、それから、そうだな、お前と、お前と、」
適当に8人選ぶ。隊長は選択肢にない。
「今呼んだ者達はここに残れ、王国に引き渡す。後の者どもは好きに散れ」
選ばれた者達は絶望を顔にうつして、残りの者たちはそれこそ蜘蛛のこをちらすように団体行動もくそもないその逃走ぶりに、アインズはこれなら大丈夫かと、2体のデス・ナイト達に監視を、アルベドに村人の相手をしてもらい
「デミウルゴス、私だ」
『これはアインズ様、いかがいたしましたか?』
「こちらの状況は?」
『概ね把握しております』
「そうか、では命ずる。今散ったもの達の中から適当に8人選んでナザリックに招待してやれ情報源としようか」
『かしこまりました。その際、あのベリュースなるものを最優先目標とすることでよろしいでしょうか?』
ああ、本当に俺の気持ちを理解してくれているんだと確かな満足感があった。
「ああ、頼む、本当にお前の優秀さにはいつも助かる」
『勿体なきお言葉、では行動に移ります』
やがて、今回の作戦の本隊たる陽光聖典の元に酷く取り乱した兵士たちが何かから逃げるように合流した。その顔は恐怖に染まっており、途中何人かとはぐれたとのことであった。
目の前は真っ暗だ。どういうことか、自分はなんとかあの場から逃げれたはずだとベリュースは声を出そうとするが、声は出ない。どうやら猿ぐつわをかまされているらしい。そのうえ、目隠しに、両手、両足も拘束されているらしい。
(どういうことだ?)
「おや、目が覚めたようだね」
聞こえるのは男の声、
「本当にかの御方は、アインズ様は寛大であらせられる」
その声は喜びに満ちていた。
「ナザリックの者たちにとっては、人間など、玩具か食料でしかない」
誰に説明しているのか、男は続ける。
「『楽園計画』は必ず成功させなくてはならない。その為に人間に対する認識を変えようとそれこそナザリックの者すべてが尽力している。その上でこのような者共を用意してくださるとは、皆喜んでいますよ」
「本当ねぇ~流石はお優しきアインズ様ねえん」
続いて聞こえたのは濁った声、人ともいえないその声に再び股間が熱くなってくる。もちろん恐怖で、
「ええ、ですから私たちはすこしでもアインズ様の役に立たなくてはならない。ニューロニスト、あとは頼みましたよ」
「はあい、任せてちょうだいん。ベルちゃんも手伝ってねえん」
「モッチのロンですって、ペインキルさん」
この世界においてはじめてナザリックの地を踏んだ者たちを待ち受けるのは果たして、
予定だと、次は王国戦士長、その次は陽光聖典の話をして、第1章終了予定です。