オーバーロード~遥かなる頂を目指して~   作:作倉延世
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序章最終話 告白と覚悟と

 

 あのお方に惹かれるようになったのはいつからだろうか、

 

 

 

 

 モモンガが最初の会合を終えて20時間、ナザリック地下大墳墓は喧噪にまみれていた。それも当然といえる。なんせ現在進行形でおこっている異変とそれに対応するためそれぞれにの役割を果たさんと走ることは許されないので、可能な限りの早歩きで行き交う。皮肉にもその光景は彼らの主がかつて生を謳歌していた世界でよく見られたものと同じであった。もっともそこで見られたのは老若男女関係なくスーツをきた人間であったのが、ここでは歩くたびに金属音を鳴らす骸骨姿のオールドガーターであったり、羽音をまき散らしながら飛行している虫だったり、無重力空間にいるみたいに何の動作も行わず浮遊している悪魔、はてはカタツムリのように地面をはしるスライムだったりと多種多様な魔物たちであるという点。

 そしてもうひとつ決定的に違う点があるそれは彼らの表情だろう。といってもそのほとんどがよみとれるか怪しいものであるが。前の世界の人間たちはみな暗い顔をしていた。老人も若者も関係なく未来どころか明日にさえ希望を持つことができなず、ただ日々を生きるためだけに働いていた。対してナザリックの僕たちは立場、種族関係なく喜びに満ち溢れていた。彼らは誇らしかった。偉大なる御方の為に働けることが、役割を与えられたことが、今胸に抱く感情としては不適切かもしれない。それでも内からあふれる感情を止めたいと思うものはいなかった。

 

 

 守護者統括アルベドは現在新たに与えられた部屋にて執務にとりかかっていた。

本来であれば、ギルド「アインズ・ウール・ゴウン」42番目のメンバーの部屋になる予定だったらしいこの部屋をいただくことは恐れ多くはじめは辞退したが、主はそれを許してはくれず「これもナザリックのひいては私の為になることだ」なんて言われてしまえば、断ることすら不敬にあたる。あれから数度の打ち合わせと会合を繰り返して、すでに決まっていたことも含め見直すべきところが多数見つかり再度調整をおこなっていた

 

 「これで警備のほうはひとまず終了といったところね、第8階層に関して連絡はいきわたっているのかしら?」

 

 (はぁ!立ち入り禁止と聞いております)

 

 「そう、なら問題ないわね」

 

今、彼女の前にいるのはオールドガーターの上位種たるナザリック・オールドガーター達だ。レベルにして18、階層守護者たちのレベルが100であることを考えれば尖兵クラスがいいところではあるが今は少しでも戦力が必要な時である。彼らにはこれから10体1組として総数300組になってもらい第9階層のロイヤルスイート、第1~第3階層の墳墓を中心としてナザリック全体の巡回警備にあたってもらう予定である。もし万が一侵入者が居た場合にはすぐにこちらに連絡がいくようになっている。といっても各階層、領域守護者達で手が空いている者も全力で警備にあたって居るため、中途半端な戦力では5分と生存は不可能であろう。そして本来彼らは休息を一切必要としない身だが、主からの要望で各階層要所で待機という名目でインターバルをとってもらうこととなっている。これに関しては、臣下一同不眠不休で仕えることを望んだのだが、「お前たちが働き詰めでは私はいつ休めばいいのかな?」の一言で休息時間と休日を盛り込む事が決定した。主が体を休める分には気にはならないが、心優しき主はナザリックに所属する者すべてが休息をとることを望まれた。曰く「私はできる限りお前たちと共にあり、対等な関係でありたいのだ」と

 

 (ずるいお方)

 

そう言われてしまえば、自分たちは従うしかないのだ。

 

 「何かあれば」

 

 (はぁ!直ちに2名伝令に走らせます)

 

「よろしい。行きなさい」

 

 (はぁ!守護者統括たるアルベド様。偉大なるナザリックの平穏は我らが全力をもってお守りする所存!)

 

ナザリックの変化にもいくつかあったが、その中でも目立つのはこれだろう。いわゆる自動的にわき出る三〇レベルまでのNPC(より地位の低い僕たち)との意思疎通がある程度できるようになったということといっても彼らが発するのは声ではなく唸り声だったり、鳴き声だったり、何かしらこすれるような音でしかないものもいたが、感覚的に言いたいことが分かるようになったのだ。(その事自体を素直に喜ぶことはできないものの)それと彼らの知能がある程度向上したことだろう。以前まであれば、簡単な命令、突撃、殲滅、などしか受け付けずその後は対象が倒れるか、自分が倒れるかまで愚直に任務を完遂するまで動き続ける。しかし今はある程度複雑な命令を加えることも可能となっている例えば「侵入者と遭遇した場合、直ちに撃退しろ、ただし、HPが5割をきれば、情報の持ち帰りを優先して撤退に努めよ」といったある程度状況の変化に合わせることができるのは大きい、何よりコミュニケーションをとれるようになったことのほうが喜ばしいと主はおっしゃっており、できるだけ彼らの被害をおさえる方向も考えなくてはなと語っていたのを思い出し、口元が緩む。本当にどこまでも優しいお方だ。自分たちはかの方の為ならば命を散らすことすら惜しくないのにかの方はそれを良しとせずおっしゃった。その身を大事にしろと。

 

 「守護者統括たるアルベド様。只今よろしいでしょうか?」

 

戸をノックする音と時間差で届くこちらの様子をうかがう声、おそらく一般メイドであろう。

 

 (少し大げさね)

 

先ほどのガーターたちもだが、少しばかし役職というものにとらわれすぎているきらいがある。個人的には単に「アルベド様」だけで十分なのだが。少なくとも彼女たちは自分達と同じく至高の方々に創造された身なのだから上下関係というのもあってないようなもの、なんだったら呼び捨てでも気にはならないかもしれない。

 

 (それも不敬にあたる)

 

今の自分たちもとい僕たちの立ち位置も至高の方々が「そうあれ」と望まれてのこと、それを無視する行動はもちろんのこと疑問を抱くことも万死に値するであろう。それでもある程度は砕けた関係を築きたいと考えている。何故なら、それも主の意向のようなものであると理解することができるのだから。もっとも彼女の今の心情を当の本人が聞けば、「俺に対してもそのようにふるまってほしいんだけど」と嘆息まじりに愚痴をこぼすことを彼女は知らない。

 

 「入室を許可します」

 

 「失礼します」

 

事務的なやりとりと共に部屋にはいるメイド、その仕草はドアの開け方から閉め方、その際の足運び、視線の高さと動かし方など、どれをとっても栄えあるナザリックに仕えるものとして標準を満たすものだ。ただし彼女らのいう標準と一般的な一級品がほぼ同じであるという恐ろしい事実があるわけだが、

 

 「あなたは確か、シクススだったかしら」

 

 「はい、わたしのような者まで覚えてくださり幸栄でございます」

 

 「統括という立場に立つ以上、当たり前のことよ」

 

 「ですが、それでも喜びを申し上げたく思います」

 

 「謙遜もほどほどにしなさい、あまりに過ぎればあなたを創造してくださった御方に対してあまりに不敬よ」

 

 「はい、畏まりました」

 

 「それで、あなたの用件は何かしら?」

 

 「こちらでございます」 

 

 渡された書類を受け取り、軽く目を通す。そこに書かれてあったのは、至高の主たるモモンガの周囲に関する案件であった。現在主のそばには護衛と世話係を兼ねてプレアデスたちが交代でついている。しかし、いつまでもそれでいい訳がなく、今目の前にあるのは、新たに身辺警護に身の周りの世話係をどうするかというその第1案をまとめたものである。警護は隠密活動と単純な力(レベル)を考慮して八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を5体、影の悪魔(シャドウ・デーモン)を10体、可能であれば、さらに死の騎士(デス・ナイト)を1体〈完全不可知化〉(パーフェクト・アンノウアブル)をかけた状態でつけたいというもの。たしかに()()()()の事を考えれば、護衛という名目上当然のことであるが、残念なことに現在の戦力にいないため、どうしても現実味のない話になってしまう。それでもこうして書かれているのは、きっと主にあるスキルを使用してもらうことを期待してのものだろう。考案者がデミウルゴスであることからもそのことが読み取れる。もっとも、次の案件も含めて、一度主に確認と了承を得ることになるだろうが、かの御方に関することを勝手に決める訳にはいかない。

 次に確認するのは、世話係について、考案者はペストーニャ・S・ワンコ、犬の頭を持つメイド長だ。その内容は、一般メイド41人から1人ずつ交代制で1日主の身の周りの手伝いをする役割を作るというものであった。これは一般メイド一同の願いであり、その企画を採用することによるメリットがこれでもかという位に書き込まれており、その内容を見る限り()の助言も受けたのだろう。それだけの熱意と誠意を垣間見ることができるものであり、そしてそれは今回彼女たちの代表としてきているシクススも同じようで、いつもより、その瞳に気合があるように見える。

 

 「いかがでございましょうか?」

 

不安を感じながらも決して考えを捻じ曲げる気はないという固い意志が混じった言葉、それはナザリックに仕えるものとしてとても好ましい姿勢ではあるが、

 

 「ええ、悪くはないわ。警護に世話係、改めてモモンガ様に進言するとしましょう」

 

正直、羨ましい。それがアルベドの駆け引きなしの素直な気持ちだ。間に40日という合間があることをさしひいても、丸1日あのお方のすぐそばに仕えるのは魅力的なことだ。

 

 (もしかしたら)

 

夜の生活などもお手伝いするのかしらと、モモンガが聞けば「骨だけなのにどうしろと?」という事間違いなしのことを夢想して、やがてその顔は歪んでいき、本人の意識の外でその端整な口元から液体が滴り落ちる

 

 「あの?アルベド様?」

 

もうシクススの顔に先ほどまでの気概はない。そこにあるのは、飢えた獅子を目前にしておびえるウサギそのものであった。その様子にようやく自分がどんな顔をしていたのか自覚した守護者統括は我に返る。

 

 「ごめんなさい。見苦しい所をみせてしまったわね」

 

 「いえ、お気になさらず・・・・・ただ、」

 

 「ただ?」

 

 「モモンガ様には見せないほうがよろしいかと」

 

怯えながらも必死に懇願する顔、先ほどみせたのとは真逆のものだが、それもこちらを気遣ってのこととしっかり解るので特に咎めるつもりはない。

 

 「わたしの為を思ってでしょう。そんなに怯える必要はないわ」

 

その言葉でようやくシクススの緊張がとけたところで、頭に声が響く。伝言(メッセージ)だ。

 

 『アルベド、私だ、今大丈夫か?』

 

聞き間違えるはずのない声、遠距離恋愛中の彼氏が久々に電話をかけてくれたことに対する喜びを感じながら応じる

 

 「ええ、問題などあるはずがありませんモモンガ様」

 

その名前を聞いて先ほどまで緩めていた姿勢を再び正すメイド

 

 『そうか、この後時間はあるか?少し話がしたい』

 

 「ええ、あなた様の為でしたら、時間などいくらでもつくりましょう」

 

 『そうか・・・・では今からいう所に指定の時間に来てくれ』

 

しばし、やり取りを行い伝言(メッセージ)を終了する

 

 「あの、それでモモンガ様はなんと?」

 

やはり仕える主のことは気になるらしい

 

 「ええ、大切な話があるから後で霊廟前にくるようにと」

 

とたんシクススは目を輝かせ、顔の前で両手を握りしめる。楽しみにしていた朝ドラの新展開を視聴した顔だ。

 

 「それは、おめでとうございます!」

 

単にアルベドの機嫌とりという訳でなく、心から祝福しているのは、迷いなく紡がれた言葉が証明していた。

 

 「あら、別にそういう話という訳ではないのよ?」

 

 「ですが、その可能性は高いと思います。この前のこともございますし」

 

 「ほんとうに耳が広いのね、あなた達」

 

シクススが言っているのは異変がおきた時にあったあの出来事であろう。その時のことを思い出し愛しむように自信の額をなでる。

 

 「それにしても、何の迷いもなくわたしを推すのね」

 

 「それは、もちろん。アルベド様が、モモンガ様を想っていらっしゃったのは私どもの間では有名な話ですから」

 

 「あら、でもそういう話だったらシャルティアにもあるんじゃないの?」

 

 「ええ、わたしはアルベド様が相応しいと思っているのですが、仲間内ではシャルティア様を推している者もいまして、その・・・・・・・・・・・その話をするといつも口論になってしまい。恥ずかしい話ですけど」

 

苦笑しながらそのときの様子を話すシクスス。モモンガの妃に誰が相応しいかという論争は彼女たち一般メイドの楽しみであり、火種でもあった。アルベドを推すものの意見としては「主と共にある姿を想像すれば、アルベド様のほうが似合う」「我らがシモベの頂点に立ち、至高の方々をまとめていらっしゃるモモンガ様をささえている姿を見れば当然の事」というもの対してシャルティアを推すものの意見は「同じアンデッドであるシャルティア様のほうがふさわしい」「()()()()()()()を行い、玉座より最も離れたところで健気に役目を努めている彼女こそ妃にふさわしい」というものであった。また話には出さないが、数年後には第6階層守護者のアウラ様にも可能性があるという新勢力も現れ、中々に混迷を極めていた。

 

 「ふふ、あなた達にもそんな可愛いところがあるのね」

 

 「いえ、本当に申し訳なくて」

 

 「別にいいのよ、彼女に負けるつもりはこれっぽちもないのですから」

 

恋敵に対する勝利を確信した力強い宣言をうけシクススも笑っていた

 

 「まあ、どのような話であってもモモンガ様に会うのであればそれなりの準備をしなくてはね」

 

ここまで休みなく働いた彼女の服は汚れ、髪も先が乱れ、肌もわずかに汗ばんでいる

 

 「湯浴みと着替え、それに化粧の用意をしなくてはね」

 

 「及ばずながら、お力添えします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一人でナザリック地下大墳墓(わたしたち)を守るために奔走していた姿を感じた時からだろうか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さてアルベドにも伝えたし、俺のほうでも準備をしなくちゃな」

 

誰にも聞こえることがないように静かにささやくように出た言葉。

 

 現在、モモンガがいるのは第9階層内の自室だ。出入口にはプレアデスの一人であるナーベラル・ガンマが控えている。職業、種族、髪色、髪型、肌色、身に着けているものなど全員異なり、そこに特色が出る彼女たち(プレアデス)であり、ナーベラルは黒髪、黒目にポニーテールといった恐らく以前自分がいた世界の標準的な女性像に近い存在であった。最も彼女の容姿は整っており、向こうであれば間違いなくその手のスカウトがとびついてくるだろう。

 さて、準備といってもそんなにやることはない。まずは、

 

 (見た目だな)

 

姿見にうつるのはローブをまとった骸骨姿の魔法詠唱者(マジック・キャスター)。ギルド、アインズ・ウール・ゴウンのマスターであり、ナザリック地下大墳墓とそこに住まうNPCたちを創造した至高の41人のまとめ役であり、現在は唯一残ったプレイヤーだ。さすがにこの格好で出歩くのは目立つ。これからやろうとしていることを考えれば、あまりNPC達に目撃されるわけにはいかない。パンドラズ・アクターが想像以上にほかの者たちに絡んでしまったのは、予想外だったが、十分修正が効く範囲だろう。

 

 「〈上位道具創造〉(クリエイト・グレーター・アイテム)

 

全身を全身鎧(フルプレート)が包む、漆黒に輝き、金の模様が入った品だ。遠目に見れば、すぐに自分とは気付かれまい。次に、

 

 (これだな)

 

ドレスルームからデータ量を参考にいくつか適当なものを見繕って空間に放り込む。

 

 必要なものは全部そろった。部屋を出るため歩けば当然のようにナーベラルは付き従おうとする。

 

 「私は一人で」

 

 「御身おひとりではなにかあったときに私たちが盾となって死ぬことができません」

 

 (何でそこまで)

 

自分はそこまでされるほど立派な人間ではない、モモンガとしては彼女たち(NPC)たちには、自由に生きて、自分を大切にしてほしいと願うばかりだ。ほぼ無意識的に彼女の頭に手を置く。

 

 「簡単に死ぬなんて言葉を使ってくれるな。悲しくなるだろう。私にとっては、お前たちの()()こそが大切なのだ」

 

陽だまりを錯覚させるような暖かい言葉をかけられ、頭頂部をその手に優しく包まれナーベラルの頬はほんのりと朱にそまっていく、モモンガはそれに気づくことなく彼女の頭をなでながら続ける

 

 「それに今回は極秘に行いたいことがあり、これからデミウルゴスを始めとした者たちと会って来るだけだ。なにも危ないことはない」

 

胸を襲う痛み、きっとこれは良心からくるものだろう。これからやることの展開しだいでは、かつての友の娘、今は()()()()()()()()()()()彼女とこうして会話をすることもないだろう。それでも感づかれるわけにいかない。

 

 「だから、私を信じてはくれないだろうか?」

 

 「か・・・・畏まりました。そのように言われては御身を信じるしかありません」

 

多少まごつきながらも彼女は了承してくれた。わずかに「・・・ずるい・・・」という声もするが、それも当然である。今の自分は彼女たちの絶対の主人でありその言葉を疑うなんて立場上できる訳ないのだから。多少の罪悪感が残る。それでも、なんとか納得してもらえたことだろう。こうしてモモンガは一人、目的の場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それともかつてこの地にいらっしゃったほかの至高の方々と楽しそうに歓談しているその姿を見た時からだろうか、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 約束の場所に向かうと、その場にいた3人の内2人が振り返る。その目は「ようやく来ましたか」と言いたげであった。やはり色々な準備が時間をとってしまっていたらしい。

 

 落胆している自分がいる。その可能性が低いことは何よりも自分自身が分かっていた。それでも期待していたのは確かであり、同時に今の自分を用意する為に力を貸してくれたメイドに多少申し訳なく思う。この面子が呼ばれたということは、

 

 「アルベドも来たか、これで全員だな」

 

 自分たちの頂点であり、最愛の主はいつものローブ姿ではなく、全身鎧(フルプレート)に身を包んだ姿だ。いつもの姿もその偉大な貫録を感じ愛しいが、今の姿も凛々しさを感じる事ができ素晴らしく、一瞬アルベドは御伽噺で騎士の手により魔王から助けられる姫君になったような気分を味わい。翼をわずかにはためかせる。惚れた者の弱みか、贔屓目か、どのような姿であっても魅力的な方だと改めて認識する。

 

 

 「さて、早速で悪いが少し付き合ってくれ、アルベド、デミウルゴスは自力で飛べたな。パンドラズ・アクターは」

 

 「問題ありません!我が創造主!飛行(フライ)は使えます!」

 

 「そうか・・・・では行くとしよう」

 

以前までの彼ならば、「偉大なる創造主」といっていたのが、主の必死の懇願により、なんとか少しは縮める事に成功したようだ。その様を思うと主を労わらずにいられない。

 

 (モモンガ様)

 

 そして主とパンドラズ・アクターは飛行(フライ)を、自身は腰に生えた翼を、デミウルゴスは蛙を彷彿とさせる頭と蝙蝠を連想させる翼をもつ半悪魔形態となり、空へと飛び立つ。

 

 空は澄んでおり、星々の輝きが大地を白や青で照らしていた。アルベド自身はその光景になんとも思わないが、主が何やら感慨深く眺め時折、「ブルー・プラネットさん」と呟いている姿は胸にくるものがあった。そう主は時々、本当に悲しそうな顔をされる。あくまでそういう気がするというものだが、何とかおささえできないかと自分の無力差がどうしようもなく腹立たしい。

 

 やがて主はこちらに向き直りその兜をとる。久方ぶりに拝見するその顔に体のあちこちが熱くなるが、今はそれに浸る訳にはいかない。

 

 「まずはこれを渡しておく」

 

わたされたのは何の変哲もない剣であったが、魔力量だけはしっかりしたものであった。この場に集まった面子を考えれば、いささかの疑問を感じるが、主のやることを疑ってはいけない。

 

 「はじめに言っておく、この武器は()()()()()()()()()()ものだ」

 

なぜそのような事を言うのか、まったく理解ができない。それは、ほかの二人も同じらしく特にデミウルゴス、彼にしては珍しく苛立っているようだった。間違いなく主の考えを汲み取ることができない自身の不甲斐なさに対してだろう。それは自分も同じだ。

 

 少しばかりの沈黙がたち、主もようやく何かを決心したのか口を開く、

 

 「まず最初にお前たちの認識を確かめなくてはな、人間の事をどう思う?」

 

 「下等な生物です」

 

 「何の価値もありません」

 

 「特に興味ありません!」

 

なぜ今更そのようなことを聞くのだろうか、人間なんて弱く、脆く、愚かで恩義を忘れるくせに恨みだけは一生忘れることなく、何の存在意義を持つことなく、慢性的に時間を浪費するどうしようもない存在だ。かつて栄えあるナザリックに攻め込んだこともいまだ許せるものではない。

 

 それを聞いた主は顎に手をあて考えこむ。

 

 「それも間違いではないかもな、さて、お前たちがどう思っているかはよく分かった。その上で言わせてもらおう。人間にも様々なものがおり、以前ナザリックを襲ったような愚か者もいれば、何のメリットもないのに他人を助けるお人よしもいるとな」

 

 「はあ?それで我が創造主よ、いったい何をおっしゃりたいのでしょうか?」

 

ついに我慢できなくなったのか、パンドラズ・アクターが身振り手振り加えながら主に問う。本来であれば極刑ものであるが、今はそれがありがたい。彼のことは苦手であるが、今のこの瞬間だけは感謝する。

 

 「ああ、前置きがながくなってしまったな。さてどこから話したものか」

 

ついに今回の非公式の集まりの本題が聞けるとあって、3人とも息をのむ。

 

 「まず最初に私は、いや、()()()は、元・・・・・・・・人間だ」

 

 「は?」「な」「え」

 

何をいわれたのか、ナザリック最高峰の頭脳をもつ彼女たちは珍しくその思考を鈍らせ、剣を握る手に力が入る。

 

 そこから語られた話は完全に自分たちにとって未知の世界の話であった。かつて自分たちがいた世界YGGDRASIL(ユグドラシル)、それとは別に《リアル》なる世界があり、至高の方々はそこから姿を《アバター》なるものに作り替えやってきていたのだと、そして、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンを結成してナザリック地下大墳墓を、自分たちを想像したという。

 主によれば、《リアル》は愚かな人間どもによって、大気汚染、水質汚染等で破壊されてしまっているということ、そして人々は豊かな新世界を求めてYGGDRASIL(ユグドラシル)をつくったということ、しかしそれでも完璧な世界には程遠く永遠の維持は困難で、至高の方々も一人、また一人と《リアル》へと帰還したということ、あの日、主が自分に口づけをしてくれたあの日、それはYGGDRASIL(ユグドラシル)という世界が終わる日なのであったと、本来、自分たちはあの時を最後に消滅をしていたということ、モモンガ自体はそのあと、ほかの方々同様に《リアル》に帰還する予定であったこと。しかし帰還は叶わず《リアル》でもなく、YGGDRASIL(ユグドラシル)でもない第3の世界であるこの世界にナザリックごと飛ばされてしまったこと。そこからさきは、自分たちもしっている通りであるとのこと。確かにすぐ心の整理はまとまらない程の話であった。しかし、事ここに至っても主の考えは理解できなかった。

 

 「申し訳ございません、モモンガ様。それで、いったい何だというのでしょうか?」

 

これで失望されても無力な自分が悪いのだと無理やり納得するしかなかった。

 

 「お前たちは、私に対して怒りはないのか?」

 

崩れ落ちそうな声であった。それより、主はなんといった?

 

 「な、何故そのように思われるのですか?」

 

それこそありえない。なぜ自分が、自分たちが主に対して怒りを感じなければいけないのか

 

 「わたしは、お前たちを見捨てようとしたんだぞ?」

 

 「しかし、モモンガ様は現にわたしどもを見捨てなかったではないですか」

 

 「それはただの結果論だ!!本当なら俺は、俺は」

 

それははじめてみる主の姿。激しく取り乱し、支配者というより、癇癪をおこした子供のそれだった。

 

 「それだけではない。私はお前たちが思っているほどの者ではない」

 

そんなことはないと叫びたがったが、反応が早かったのはデミウルゴスだった。

 

 「何をおっしゃいますかモモンガ様!そんなことは」

 

 「では、なぜほかの者たちはYGGDRASIL(ユグドラシル)を去った!」

 

 「それは、私どもの力不足かと」

 

激しい絶望のオーラを感じその顔に恐怖を浮かべながらもデミウルゴスは必死にくらいつく

 

 「違うんだよ、私が・・・・・・・俺が本当にお前たちの信じている絶対の支配者であれば、彼らが去ることもなかったはずだ。あの時だって」

 

 「ですが、かの方々が戻っていらっしゃる可能性や、もしかしたらこの世界のどこかにモモンガ様と同じように転移されている可能性だって、現にあの時、ヘロヘロ様だっていらっしゃったではないですか?」

 

それがまずかったのか、より一層強まる死というべき絶望の威圧感

 

 「その可能性はない、何故なら・・・・・・おそらくだが、今の私は()()()()()()()が混ざったようなモノだからな」

 

 今日何度目になるかわからない衝撃、それはモモンガ自身、半信半疑であったが、今それは確信に変わっていた。彼を襲うのは大切なものを捨ててしまった後悔と、人間を下等生物としてみている彼らにそれはもう残酷に殺されるかもしれないという恐怖が何倍にも膨れ上がった感情。

 それが41人分の感情(モノ)であることをモモンガは理解していた。そんな様を見せられればアルベドも覚悟を決めるしかなかった。はずれてほしいと願う自分の想定がくることを

 

 「最後にモモンガ様は何をわたしたちに望んでいらっしゃるのですか?」

 

 「私を殺してほしい」

 

それは何よりも恐ろしいことであり、なんとしても止めねばならぬことだ。

 

 「私が死んだあとは、パンドラズ・アクター、お前に私の影武者を頼みたい。そして期間は、そうだな、2年がいいだろう、そしてその時がくれば今日の事を皆に話してほしい。それまでは、ナザリックを頼みたい。これまでのやり取りで確信した。お前たち3人であれば、この未知の世界でも皆を率いてやっていけるだろう」

 

望んでいないのに勝手に話を進める主

 

 「お待ちくださいモモンガ様!わたしどもは決してそのようなことを望んでおりません!」

 

なんとしても思いとどまっていただかなければ

 

 「だが、そうしなくては、私は私を、()()()を許すことができない」

 

 「ですが、わたしどもは、いえ、()()()はあなた様を愛しております!」

 

それは策としては最低の、普段の彼女であれば決して選ばなかった手段、情に訴えかけるというもの。しかし

 

 「ああ、あの(キス)のことか、あれだって、私の罪でしかない」

 

 「それはどういうことでございましょうか?」

 

 「私はお前を、ダブラさんの設定を汚してしまったのだ。そして()()()なお前のこと、口づけ(あれ)を私の本気だと勘違いさせてしまったのだろう」

 

 その言葉を聞いた時、アルベドの中で何かが、膨れ、破裂した。

 

 「ふざけないでください!」

 

 それは初めて彼女が主に抱く、あってはならない感情。たとえ、支配者たるモモンガでもこの気持ちを否定するのは許せないし、なにより我慢ならない。

 

 「わたしはずっとあなた様をみて、感じていました!至高の方々と楽し気にされている姿も!至高の方々が帰還され、そのたびにあなた様が人知れず心を痛めていたことも!御身一人でナザリック(わたしたち)を守るために懸命に尽くされていたことも!」

 

 「・・・・・・・・・」

 

主も初めて見る光景に虚を突かれたらしい。彼女は止まらない

 

 「その間、わたしは何もできなかった!あなた様が悲しんでいるのを知りながら、何も!」

 

 「・・・・・アルベド・・・・」

 

 「それでもあなた様はわたしたちを見捨てなかった。設定?そんなのは関係ありません。女として惚れるには十分すぎる理由です」

 

設定、それはあくまで至高の存在がそうあれと定めただけであり、それだけが自分たちのすべてではない。

 

 「統括殿」

 

 「アルベド、君は」

 

彼女の熱弁に押されているのは何も主だけではない。気付けば、デミウルゴス、パンドラズ・アクターも聞き入っていた。

 

 「そして、今回の異変、不敬だと分かりながらもわたしは嬉しかったのです。ようやくあなた様の為に全身全霊をもって挑むことができると。それなのにあんまりではありませんか!そのあなた様がここから去りたいとおっしゃるのは!・・・・・・・あまりにも、ひどいではないですか」

 

 「アルベド・・・・・お前・・・・・・泣いて・・・・」

 

彼女の頬を今見えている夜空よりも澄んだ涙が走る。やがてその手にもった剣の切っ先を己のど元に向け、

 

 「わたしは、何よりもモモンガ様に居てほしい、ナザリックのすべてよりもあなた様が必要なのです・・・・・・・それが叶わぬというならば、わたしもあなた様を追うまでです!」

 

 「待て!アルベド!」

 

彼女を命を絶たんとしていた剣を漆黒の手が止める。これは本来、彼らの能力を考えれば、()()()()()()()()()()であるが、

 

 「アルベド、考え直してはくれないか、お前たちを守る為にこれまでやってきたのに、これでは意味がない」

 

 「ではモモンガ様も考え直してください」

 

 「それは」

 

 「もしも死ぬというのであれば、その後に改めてわたしも命を絶つまでです」

 

 「それは絶対か?」

 

 「絶対です」

 

 本当に自分はずるくてひどい女だとアルベドは自覚するしかなかった。()()()()()かの主はそうするしかないのだと解っていたのだから。

 

 「だが、私はまた失敗するかもしれない」

 

 「及ばずながら、私どもが補佐します」

 

言葉をかえしたのはデミウルゴスであった。

 

 「ほかの者たちは、シャルティアやコキュートス達は私を許さないかもしれないぞ?」

 

 「それこそありえません我が創造主!仮にそうだったとしてもここにいる私たちは最後まであなた様についてゆきます」

 

パンドラズ・アクターも渾身の演技をきめる主演男優の如き、宣言する。アルベドもデミウルゴスもこれでもかという位、頭をふっている。

 

 「・・・・・・・・・・そうか」

 

化粧も髪もぐしゃぐしゃにしたアルベドがみている。

 

 「モモンガ様なにとぞ、モモンガ様?」

 

ただ、何も考えずに衝動的に彼女を抱きしめる。彼女は顔を赤らめるもすぐに剣を手放し、こたえるように手をまわしてくる。もう二度とはなすつもりはないと言わんばかりに、

 

 (そうか)

 

自分は嬉しかったのだろう、恐らく生涯ではじめて言われた「愛している」「あなたが必要」という言葉が、なにより、自分の事をそこまで思ってくれいる相手には生きてほしいんだと、強く願う。

 

 

 

 

 

 漆黒の鎧をみにまとった骸骨と純白のドレスをみにまとった悪魔は、スーツと軍服を着た者たちが優しく見守る中、しばしの間、抱き合っていた。

 

 

 

 

 

 「ありがとう。アルベド、デミウルゴス、パンドラズ・アクター」

 

やがて落ち着きを取り戻す、しかし抱擁は続けたまま、今はこの温もりを手放したくない。

 

 「もうバカなことは言わない。お前たちとこれかも共にあると『アインズ・ウール・ゴウン』の名において誓うとしよう」

 

 「その言葉、信じますね」

 

 「ありがとうございます偉大なる御方よ」

 

 「おお、我が創造主よ!」

 

 「それで、これからどうするべきだと思う?」

 

 「「「それは御身の望まれるがままがよろしいかと」」」

 

 「私はすごく()()()()なんだが」

 

 「「「それでもです」」」

 

そうかえされ、モモンガは愚考する、かつての世界とこの世界を見て、「ナザリックを守る」という理念からかけ離れたあることを

 

 「理想郷、楽園をつくりたい」

 

 「楽園、でございますか?」

 

 「そうだデミウルゴス、私がかつていた世界のことはさっき説明したな?」

 

 「はい、愚かな人間どもが同種同士でも激しく争い、壊したのだと」

 

 「ああ、そうだ、だからこそこの世界では、そう、ナザリックのようにありとあらゆる種族が手を取り合い、協力してより良い世界を作っていきたい、なんてまだこの世界にどのような種族がいるのか、どれほどの強者がいるかわからないのにな」

 

 やや、苦笑まじりに伝えるその声に完全ではなくとも元気を取り戻したのだと感じ、デミウルゴスの顔には喜色がうかぶ

 

 「モモンガ様であれば、可能かと、そして私どもナザリックが配下一同、全力でお力添えさせていただきます」

 

 「まだ許してもらえると決まった訳ではないがな」

 

 「私たちが全力で説得しますとも我が創造主!」

 

 「ああ、ありがとう、それとそうだな、モモンガか」

 

 「モモンガ様?」

見上げてくるアルベドの顔がただまぶしい。

 

 「それと私は名を変えようと思う。そうだな、うん、『アインズ・ウール・ゴウン』そう名のろう、といってもまだ不確定事項だがな、もしも叶った時はアインズと呼んでくれ」

 

 「「「畏まりましたアインズ様」」」

 

まだ不確定だというのに、おもわず無い頬がゆるむ

 

 「それとデミウルゴス、最初に確認しておかなければならないことがある」

 

 「人間の扱いでございますね」

 

 「ああ、話が早くて助かる。ナザリックのため、楽園作りのため、これから()()()()()()()()()()()()()かもしれない。だが、」

 

 「もちろん、個体それぞれを検証して()()()()()()()を選択させていただきます」

 

 「ああ、本当に優秀で助かるよ。ありがとう」

 

 「もったいなきお言葉」

 

 アインズはふと右腕をはなし、アルベドの頭をなでる。彼女の顔は幸せに満ちた女性そのものであった。そしてその手を不意に先ほどから自分たちを照らしていた月のような惑星をつかもうとするようにのばす

 

 「目指してみようか、はるか頂上を」

 

これからやることはきっと大変なことだろう。それでも彼女たちと共にあれば、

 

 「遥かなる頂を目指して」

 

 

 

序章  完

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつからだろうか、あの方に惹かれるようになったのは、いやもうどうでもいいか

 

 

  何故ならその方はこれから先を自分達と共に歩んでくれると誓ってくれたのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回から本当にオリキャラマシマシやります。タグ詐欺ではないです。







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