オーバーロード~遥かなる頂を目指して~ 作:作倉延世
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(・・・・・あれ? )
気付けばモモンガは現実世界の自分の部屋ではなく玉座に座ったままであった。
(どういうことだ?)
時計をみればとっくに日付は変わっており、確かに終了時間を過ぎていた。
(もしかして)
サーバーダウンが延期になった可能性も考えたが、それであれば必ず運営から何かしら連絡があるはずだ。こういったトラブルをおこして何もしなければそれこそユーザーたちからの怒りを買うだろう正直この手のゲームのユーザーは民度が高いとは言えない。ネットは炎上確実だろう。もちろん自分もそこそこ文句は言わねばならない、これ以上の滞在は明日に響く。とにかく行動を起こさねば、しかし
(・・・どうして・・・)
コンソールを開こうとしても何もでない。慌ててしまい両手を意味なくふってしまう
(・・・それなら・・・)
GMコールならばと思ったが、それも駄目だった
「どういうこだ!」
感情任せに叫んでしまう。しかしモモンガにはそうしなければ、精神の均衡を保てる自信はなかった。何よりこの訳の分からない状況に自分一人だけという環境が彼を更に追い詰めたのかもしれない。
「どうかなさいましたか?モモンガ様」
そんな彼をすくったのは澄んだ女性の声、モモンガが顔をあげるとそこには、動かないはずの『アルベド』が首をかしげていた。モモンガが抱いたのは安堵ではなく恐怖、作り物であるはずのNPCが生きているかのように自分に問いかけてくる。それでもかろうじて取り乱さずに済んだのは彼女から殺意はおろか、敵意もなく純粋に自分を案じているということが分かったからだろう。
「GMコールが利かないらしい」
迷子の子供がたまたま通りがかった大人にすがりつくような声だったが、それでも彼女は真摯に応えてくれた
「・・・・お許しを、無知なわたしではGMコールなるものに対して答えを出すことができません」
やや申し訳なさそうにする彼女を見て、モモンガはさらなる事実に驚愕する
(会話ができている。いやそれだけではなく)
アルベドの表情だ、明らかに動いていた。ポリゴンでできたデータの塊に筋肉特有の自然な動きなんてできるはずがないのだ。それだけではない気付けば自分の顎が動いている感覚も自覚できた。これもありえないことである。
(ここは現実なのか?)
それこそありえないと思うが、ではこの状況をどう説明するというのか。しかし悩んでいても始まらないもしも自分の想像通りであれば、
「セバス、メイドたちよ前へ!」
『はぁ!』
セバスにプレアデスたちも以前なら絶対できないであろう動きで跪き、モモンガは更に確信を深める。そうなってくると自然と次にやるべきことが頭に思い浮かんでくるかつてダンジョン攻略において後方指揮をとった経験が多少は役にたっているようだ。
「時間がないので、簡潔に言うぞよく聞け」
その言葉にその場にいる者たちの姿勢がより引き締まったように感じモモンガは続ける
「現在ナザリックは原因不明のある状況に巻き込まれているらしい」
驚愕の表情をうかべる完璧なる従者たちの顔をみて多少は肩の荷が下りた気がした。自分だけではないという思いがあったのかもしれない。それでもまだまだ恐怖のほうがだいぶあるが、けっしてそれらを顔に出すわけにはいかない。この時ばかりは自分の一見骸骨な姿に感謝だ
「セバスよお前はプレアデスから一人を連れナザリックの周辺を探れ、もし知的生命がいれば友好的にここに連れてこい。その際相手の要望はすべて聞いても構わない。範囲は半径1K、戦闘は自衛のみ認め、もし戦闘になるようであれば撤退を最優先とする」
「畏まりました」
「プレアデス達はセバスについていく1人を除いて9階層に上がり8階層からの侵入者がいないか警戒にあたれ」
「畏まりました」
「理解したのならばすぐ行動にうつれ」
『承知いたしました我が主よ!』
完璧にそろった動きでおのおの活動に取り掛かるプレアデス達、それを見てやはり未知に対する恐怖が最初にきてしまい彼らに対する罪悪感とそれでもその事を口にすれば、失望をかうのではという恐れがモモンガを襲っていた。
「わたしはいかがいたしましょうか?」
アルベドが問いかけてくる。彼女に残ってもらったのにはもちろん理由があるそれもできれば彼女と二人きりのほうが都合がいい
「アルベドよ私の元へこい」
「畏まりました」
命令に従い眼前にやってきた彼女をみて改めてその美貌に心が揺れるこの体に心臓はないはずなのに激しく振動しているのを感じてしまう。
「もっと近くによれ」
可能な限り彼女を自身に近づけるやがて互いの衣服がこすれあう距離まで迫る。心なしか彼女の顔が赤い気がするが、下手に指摘してトラブルになっても今のモモンガに解決する自信はない。それでもかけなければならない言葉がある
「今からお前の腕を調べる。構わないか?」
はっきりいってセクハラ案件だろうなあとモモンガは思う。実際こんな事をすれば、よくて職場を首、悪くて刑務所直行だ。現にアルベドも顔を先ほどよりも赤らめている。うん最低だな俺、
「あの、それは構わないのですが、いえ、むしろうれしいのですが、よろしいのですか?モモンガ様の言葉によれば、現在ナザリックは原因不明の状態にあると」
「ああ、これも重要なことなのだ謝ってすむ話ではないが最初に謝らせてほしい」
頭を下げようとして
「そんな!モモンガ様が謝ることなんてなに一つございません。わたしの存在はすべてあなた様の為にあります。遠慮も謝罪もひつようありません!何なりとご自由に」
アルベドの輪としてそれでいて譲歩も妥協も許さないという宣言にモモンガは気圧されながらもありがたく感じていた。ここまで言う彼女をこれ以上疑うのはよくない何より彼女や先ほどの者たちもかつての仲間たちが作った存在だ。ある程度は信頼してもいいかもしれない、まだ言葉にするつもりはないけど。
「分かった、触るぞ」
「はい」
可能であれば、現実でちゃんと恋人を作ってしたかったが、今更いってもしかたない。彼女の腕のある所にすっかり肉がなくなった自分の指をそえる。感じるのは生命の鼓動、
(やはり、脈がある)
それはつまり彼女がもうデータ上の人形ではなく生きた存在であることの証明でもあるが、まだ運営の存在をあきらめきれないモモンガは彼女とそのその創造主に気持ちだけ謝り、
「!!!!!」
その額に口づけをかわす。アルベドは顔をトマトのように真っ赤にさせ取り乱す
「モモンガ様!何を!」
アルベドは気が気ではないかのようだが、それはモモンガも同様である今の行為で分かってしまったからかつての
(ここは完全にどこか別の世界なのか)
ただどうしようもない事実と戻るはずのない過去を思い、一人悲しみに暮れるのであった。
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